イワナの怪
いわなのかい
イワナの怪とは、1974年発行の「日本の民話3 福島篇(未来社)」という本に南会津の話として収録された「いわなの怪」、及びそれに類話した話を参考にして制作されたアニメまんが日本昔ばなしの第41話68回目に放送された、「イワナの怪」のことを指す。
後に放送された「鰻沢」も類似の話であった。
楽をして儲けるために根流し(ね ながし)漁と通称される漁法を計画した木こり達が、それを注意する僧侶の警告を無視して根流しを強行した結果、因果応報的な結末(詳しくは後述)を受けるストーリーとなっている。しかしアニメ版では過激すぎると判断されたためかしっかり描かれておらず、分かりにくいオチになっている。
妖怪「岩魚坊主」が登場する話として、細部の異なるものは福島県周辺以外の日本各所でも確認されている。基本的には前述の原作「日本の民話3」に忠実だが若干変更されている部分が存在する。同じく「根流し漁」も会津地方限定の風習では無く、世界各地で紀元前の昔から続いてきた漁法である。
どうじゃ?酷いことじゃろう?
ある夏に南会津の山奥を流れる水無川の(増水時には水が流れるが、通常は伏流水になるなどして地表を水が流れない川のこと)上流で、四人の木こり達が木を伐っていたが、暑さが続き仕事に疲れた彼らは、楽をして儲けるために明日は仕事を休んで根流し(『根』と呼ばれる魚を仮死状態にさせる天然物の神経毒を作ってそれを川に流し込む漁法)で岩魚(イワナ)を捕る計画を立てる。
さっそくその晩、木の根や葉っぱを鍋で煮て、「根」を作っていた時の事、山奥にもかかわらず何処からとも無く一人の僧侶が現れ、木こり達の鍋を見て「それは根じゃな?」と尋ねてくる。根流しの計画を知ると「日々の糧に魚を少々捕ることは構わぬ。しかし根流しはいかん」「川に毒を流せば小魚まで死んでしまう、人間の子供が殺されると思ってみい。むごい事はやめなされ」と説教を始めた。木こり達は突然現れたこの僧侶を気味悪く思い、とりあえず持っていたキビ団子をご馳走して宥めつつ、頭領の木こりが「坊さんの言う通り根流しは止めよう」と仲間たちを説得すると、満足したのか去っていった。
しかし木こりたちはその場を収めるために芝居をうっただけで、根流しを止めるつもりはさらさらなく、翌朝すぐに沢山の根を川に流し大量のイワナを獲り始めた。大漁に気を良くした彼らはもっと大きな魚を捕ろうと上流の「底無しの淵」と呼ばれる、普段は皆が近寄らないような場所にまで到達し、勢い任せに残った根を桶ごと淵へ投げ込むと、並みのイワナのみならず見た事もないほど巨大なイワナが白い腹を見せて浮かび上がってきた。
その夜、浮かれた木こり達が昨夜の僧侶を罵りながら祝杯の肴にするために巨大イワナの腹を割いてみると、ポロポロと見たことのあるキビ団子が転がり出てきた。昨夜の僧侶はこのイワナが化けていたのだ、と彼らが察したとたん、根流しの中止を提案する芝居をした木こりの頭領はバッタリと倒れて動かなくなり、それを見た他の者たちは恐怖にかられてその場を逃げ出すのだった。やがて谷川の水はきれいに戻り、魚も住めるようになったが、この不思議な話はいまも人々に語り継がれている。
岩魚坊主
CV:常田富士男
坊さんに化けて木こり達に根流しをやめる様に警告した、「底無しの淵」の主と呼ばれる大イワナ。正体を隠すためか顔の殆どを立帽子で隠しており不気味に輝く目の光としゃがれた声が特徴。ヌシとして長年生き続けたからか人語や人間社会を理解し、人間の姿に化けて手足を生やし陸上も歩けるような妖怪の力がある。
ただし顔は変えられないのか上記の通り立帽子で隠し、食事の時にも口に食べ物を投げ込んで食事する(肉食魚のイワナは歯を持つが、飲み込んだ獲物を逃がさない為の機能なので口内で咀嚼しない)。
木こり達の非道な行いを警告する魚類の鑑だが、荒くれでアウトロー風の木こり達に親子愛や社会性に訴える例え話で説得を試みる、それを不気味に思った木こり達が勧めてきたきび団子を警戒する素振りもなく貰う、彼らの適当なウソをすぐ信じて何の担保も無しに引き返すなど、野生動物故か「悪」に対する免疫が無いようである。
「やめなされ……やめなされ……惨い殺生はやめなされ」など数多くの名言も特徴。
最後は木こり達の深く汚い欲望により仲間もろとも根流しで死亡してしまうが、祟りで木こりたちを恐怖へ陥れる。
赤い半纏の木こり
木こり達のリーダー的存在(頭領)で、熊のように屈強な体格とアゴヒゲが特徴のワイルドな山男。根流しで楽してガッポリ儲けることを仲間に提案しイワナ坊主の警告を無視、数多くのイワナを大量殺戮した。根流しは川の水が少ない時期でないと効き目が薄く(流水量が多いと流されてしまう)日照りで川の水量の減っている時に根流しを決行しようとするなど、漁の知識や山での生活の経験が豊富な様子。
原典では割かれた大イワナの胃の中のきび団子が発した毒気によって死ぬという因果応報的な最期を迎えており、アニメ版もナレーションや台詞などで明言はされていないが、呻き声を上げた彼が直後、人体構造的にあり得ない姿勢で崩れ落ちる、という描写によって男の死を暗示している模様。
CVはイワナ坊主と同じ常田富士男氏。
- 根流しすればよお、酒もたっぷり飲めるしよ
- 根流しとは、川の中に毒のようなもの(毒とは言わない)をまいて、浮いた魚を獲るという方法じゃった。連中は小屋へ帰ると早速根を作る作業を始めた。山の木を伐り葉っぱと皮を焼き、灰でグツグツと煮ると根が出来るのじゃった。
- 根流しするとよ、魚がみんな白い腹見せてよ、プカプカ浮くんだから面白えよな
- んだともよ。根は淵に流すに決まっとるっぺ。根を流せばよ、面倒な事は何にもいらね。一発でドカーンと獲れてしまうだよ。えぇ!?
- わしは、お前さんたちが食べる分や、餌につられた魚をとやかく言っとるんじゃない。じゃがのう…じゃが!川に毒を流せば小魚まで死んでしまう。人間の子供が殺されると思ってみい。惨いことじゃろうが!?
- やめなされ……やめなされ……惨い殺生はやめなされ
- もう一息だぁ、残りの根を全部ぶち込むぞ!
元になっている民話では木こりたちは祟りにあって死んでしまったり、正気を失ってしまうというオチが付く場合もある。
なお、これ以外にも「まんが日本昔ばなし」にイワナ→ウナギ、坊主→女にキャラクターが置き換えられた「鰻沢」というエピソードや、「ふるさと再生日本の昔話」で放送されたほぼ同内容の「ものいう魚」等もある。
過激な例では女の姿を取った牛鬼が警告にやってくるが、結局従わずに根流し漁をして、人々が逆に皆殺しにされる…というようなものもある。
いずれせよ、これらの寓話全でむやみに根流しをしてはいけない(戒め)という強いメッセージ性が込められているという点は共通している。