「努力しているから足手纏いでいる事を許してくれだと? 自分勝手な奴め! やはり君は真の仲間ではない!」
「ふ、ふふっ、一体どのような使命を果たそうとしているのかは分かりませんが、この賢者アレスなくして魔王討伐はありえないのですよ勇者ルーティ!」
解説
CV:八代拓
勇者であるルーティ・ラグナソンのパーティーに所属する『賢者』の加護を持った術師の男で、パーティー内では主人公のギデオン・ラグナソンに次いで古株であった。
能力面には優れているのに反し、人格面に関してはかなりの問題点があり、ギデオンをパーティーから追放処分にした張本人。
この自らの行いが、ギデオンに運命の転機をもたらすが…。
人物
「賢者」の加護を持つ、銀髪と左目のモノクルが特徴的である術師の美青年。
術師としての能力や頭脳は優れ、王都でも女性からの人気が高かった反面、神経質で強烈なまでにプライドが高い上に、自惚れや功名心、上昇志向、自己顕示欲、承認欲求が常軌を逸するまでに強い野心家で、没落した実家の侯爵家であるスロア家の再興を目指している。
普段の言動も慇懃無礼な上に振る舞いも自己中心的で、仲間を始めとする他人のミスに関して厳しく責めるのに対し、自分の失態は絶対に認めないばかりか、常にそれを自分以外の他人のせいにして自己保身を図ろうとする無責任さや不誠実ぶりから、勇者パーティーメンバーのほぼ全員から信頼されず、嫌悪されてしまっている。
また、冷静沈着なインテリを気取っているものの、本質的には沸点の低い激情家。「賢者」としての挫折を経験した事が無かった事も重なって、精神的余裕が無くなると冷静な判断力を無くすどころか軽率な行動に出てしまったり、ヒステリックになりがちとなる。更にそれがエスカレートすると、他人に攻撃的になったり物を壊す等といった形で八つ当たりする下劣さを見せる事もある等、加護の名である「賢者」の様な柔軟性や聡明さは微塵も感じられなくなる。
ルーティに対しては、絶対的な信奉と忠誠を誓っているものの、それはあくまでも彼女が「勇者であるから」に過ぎず、本心ではギデオンを除く勇者パーティーのメンバー達と同様に、勇者としての威圧的なオーラを放つ彼女を恐れており(下手すると、勇者パーティーのメンバーで最も恐れていたとも言えるが、同時に自らが「賢者」である事にも甘えており、自らの恐れを「気のせい」として目を逸らし、状況をかなり「甘く」見ていた)自らの野望の為に「賢者」として「勇者」を導く事しか考えていない事から、ルーティが本心から望んでいる物(勇者なんて辞めてしまいたい、兄・ギデオンと平穏な暮らしがしたい等)については関心が無い以前に気付いてすらいない。
それ故に、ルーティが最も大切な存在にしているギデオンの事を平然と侮蔑し続けた事で、彼女からも常に無表情ながら反感や嫌悪感を抱かれ続けている。そして自身がルーティに馴れ馴れしく接する光景をギデオンに見られた結果、それに気付いた彼女によって「加護」よりも「人間」としての衝動が優先される形で殺されかけるまでに至ったが、「勇者」の加護によって抑えられた結果、すぐに彼女に「癒しの手」で治癒される事になり、事無きを得ている。
ギデオンを追放した後も、自身の言っている事が「嘘」であるのを早々に見破られており、八つ裂きにしてやりたいと思われる程の殺意まで抱かれていたのだが、自身が彼女に悪意を見せない事から「勇者」の加護によって抑えられ、殺される事も拒絶される事も無く命拾いしている。
そしてルーティによるこれらの「拒絶したくても加護のために拒絶できない」という状況を、自らの歪みきった精神的視野と価値観ゆえに自分に都合良く解釈し「勇者様(ルーティ)は自分に好意を抱いている! だって彼女は『勇者』で私は『賢者』だから!」と、盛大に我田引水の上でダイナミック誤解している。正直、殺されかけた事も「ギデオンがいなくなった事で動転しただけで、ただの気の迷い」「勇者の力が強すぎて加減を間違えただけ」くらいにしか考えていなかった。
かつて勇者と共に魔王を打倒したスロア侯爵家の次男として、「賢者」の加護を持って生を受けているのだが、スロア家の4代前の当主(高祖父)は自らの保身と利益のみを追求する身勝手な人物で、領地を狙う隣国の甘言に乗る形で祖国に反逆。国王の暗殺を目論み、更には外国に国土を売り渡す契約を行った売国奴にまで堕ちたが、反乱は失敗に終わっている。当然当主本人と一族の大半は処刑となり、他の家に留学し反乱に直接関わっていなかった曾祖父のみが助命と家督の相続を許されたが、一族の国家反逆罪により土地も名誉も財産も没収されて家名だけが残る顛末となり、スロア家が没落してしまった事実は、プライドの高いアレスにとって生まれながらの屈辱であった。
問題面の多い性格は、幼少期より既に片鱗を見せ始めており、「賢者」の加護を持って生まれた事を祝福してくれた父の事を下位である「戦士」の加護しか持てなかったというだけで「無能」と見下し、嫁いだ2人の姉達の事は「お金だけはある家の息子に箔をつける為だけに結婚(ばいきゃく)された」と見なす等、家族全員に対して侮蔑的な感情しか抱かなかった。
なお次男と言うからにはスロア家の長男である兄がいたのだが、この兄は「騎兵」の加護の持ち主であり、バハムート騎士団に小姓として所属していた(上述した先祖の行為のせいで貴族として騎士教育を受けて騎士として入団するキャリアルートに進路を取れなかった)のだが下っぱゆえに騎士団という組織では加護を活かせず、盗賊の討伐任務中、上司となる老騎士の槍持ちを務めていた最中に乱戦時の流れ矢の犠牲となって命を落とした。この過去から実は兄の加護を考えず適切な活躍の場を与えずむざむざ無駄に殺したバハムート騎士団や、騎士という存在そのものを嫌っていた可能性もある。
更に「賢者」の加護に持ち合わせていたスキルである「鑑定」によって他人の加護やスキルを好き勝手に覗いていた事で、この世には「何事もキビキビと動き自信に満ちた人間」と「モタモタと仕事をしミスも多く陰気な顔した人間」の二通りの人間がいると悟り、加護の望む生き方に従うことが幸福への道という歪んだ確信を得るに至ってしまっている。
『真の仲間』の世界観では、一般的とまでは言わないものの、生まれながら備えている加護や才能を何よりも尊ぶ『加護優先主義』が、上級層や知識層には普及して支持を得ている価値観となっている。だが、アレスの場合は完全に度が過ぎるレベルでその主義に傾倒しているだけでなく、当人の人格やそれまで必死に築き上げた成果を何一つ認めず、それらを度外視し「鑑定」のスキルで割り出した加護のみで人間をランク付けして評価するという一種の選民思想にまで昇華させてしまい、これがアレスの人間性における最も致命的な「欠点」となってしまっている。
ギデオンの推測では、アレスにとっての「真の仲間」とは、自らの加護の役割を全う出来る者である「加護の奴隷」とされており、実際にアレスは…
- 「勇者」のルーティは世界に必要とされる素晴らしい加護の持ち主でレアスキルもたくさん持っているために尊敬でき下には決して置けない。
- ルーティの兄で、彼女にとって大事な家族でもある「導き手」のギデオンは、変な加護でつまらないスキルしか持ってないから奴隷扱いにして見下しても良い。
- ダナンは馬鹿で加護の「武闘家」も大した事無いが、加護の役割は全う出来る為、パーティーとして使ってやっても構わない。
といった形で、共に戦うパーティーの仲間の事さえも加護だけで価値を決めようとする傾向があり、ギデオンに至っては最終的に「戦力外」を建前に追放している。
更に後に判明した事であるが、勇者であるルーティを見たのを機に、アレスは「家名の再興」をただの通過点と見なすようになっている。最も賢い者として勇者を導き、共に戦い、そして魔王亡き後、不合理な世界を正すこと。全ての人間に加護に相応しい生き方(=自身の兄のような自身の加護を活用できない境遇の人間を無くす)を与えること。世界を管理しデミスの意思を体現すること。総括すれば、世界の全てを統べる帝王になるという、ある意味では魔王と同等かそれ以上の危険思想に取り付かれるまでに至っている。
しかし、人望のあるギデオンを追放し、逆に人望の無い自らがパーティーのリーダーに納まった事で一気に馬脚を現してしまう事になり、失態に次ぐ失態を繰り返し、その事を省みなかった結果、一年もしない内にパーティーの仲間であったヤランドララやダナン・ラボーからは愛想を尽かされた上で去られてしまい、遂には勇者のルーティや自らが「手駒」として雇ったティセ・ガーランドにまでも離反され(ティセの場合はルーティが半ば無理矢理、自身に付き合わせたと言えるが)、パーティは実質的に崩壊。半ば自暴自棄に近い形となったアレスは、遂に越えてはいけない一線を越えてしまう。
ただし、悲劇的結末といっても、仲間からの人望や信頼の厚さを考慮せずにギデオンを追放に追いやった短慮な行動が原因となった点を考えれば、その結末は自業自得かつ因果応報であるのは否定出来ず、賢者のスキルに隠されていた承認欲求の増幅を差し引いても、元から才能でしか人の価値を見出せない傲慢な価値観やギデオン追放後に失態や墓穴掘りを繰り返す学習能力の無さといった「賢者」とは程遠い暗愚さを鑑みれば、同情の余地は無いと言わざるを得ないだろう。
「真の仲間」では無かったのも、「足手まとい」だったのも、追放したギデオンではなく、自分と自分のような加護の奴隷以外の人間をだれ一人も認められなかったアレス自身だったのである。
魔王軍のアスラデーモンであるシサンダンは、賢者の魔力の高さは上級デーモンですら太刀打ち出来ないほどで流石は世界最高峰の賢者というべきだと感心すると共に「加護は知識や判断力を与えてくれない。それがこの男の悲劇だろうな。」とアレスの悲劇的結末の要因となる性格を分析した。
劇中の様相
「勇者」の加護を持つルーティが王都に来た際、「賢者」の加護を持ちスロア家の再興を目指していたアレスは、ギデオンに次ぐ形の古株として勇者パーティーに加わった。
当初こそ、深刻な諍いが生じる事無く勇者パーティーの冒険を進め、アレスはギデオンを一方的に嫌いながらも何度も共に死線を潜り抜けつつ、互いに助け合っていた。しかし、ある意味で当時においてギデオンの凄さを最も理解していたアレスは、次第に彼が加護の恩恵やスキルが無くても自身以上の聡明さを発揮し、いつの間にか勇者パーティーのリーダーにまで上り詰めた事実に、嫉妬を覚えたのと同時に、自らの「加護の奴隷である事が最良の幸せである」というアイデンティティを奪い兼ねない存在として恐れる様になっていく。
ギデオンがいたら、「賢者」ではいられない。
ルーティから信頼される事も、仲間から頼られる事もない。
既にこの時点で、「賢者」にあるべき聡明さと柔軟さを持っていなかったアレスは、自分にとって障害にしかならないギデオンを追い出して自らがパーティーのリーダーになるというエゴに取り憑かれる様になる。
そして四天王の一人である土のデズモンドとの戦いにて、まともに戦えないばかりか当人に全く相手にされなかった事に力不足を痛感し始めていたギデオンの心の隙を突く形で、ギデオンの損失によって生じる弊害についてロクに考慮しないまま、容赦の無い正論で批判した上で「戦力外」の通告と追放を独断で言い渡し、更には持っている装備品全てまでも没収する等、容赦の無い処分を下した(なお、ギデオンがアレスに没収された各種装備は、のちにルーティがアレスから没収保護し、兄との再会のために保管していた)。
実際、勇者の兄である上に、ノンキャリアで世界最高峰の騎士団であるバハムート騎士団の副団長になったギデオンが死んだ事になれば、彼を高く評価していた大国アヴァロニア王国を始めとする各国の騎士団、しかもギデオンを「我らがノンキャリの星、騎士の中の騎士」と慕って団を支え現場で戦っている、各団の小姓・従士・下級騎士たちの士気は大幅に低下し、更にはギデオンがこれまで培ってきた人脈も活用出来なくなり、兵站の確保や交渉も大きく滞るわけだが、アレスは自らが持つ騎士や騎士団への軽蔑心から、このデメリットを軽く見ていた。特にギデオンが行っていた各国や各部族への交渉や調整などは「勇者の威光で脅しつければいい、従わないなら神敵とみなし、攻めこんで抑え付ければいい」として時間の無駄とすら考え、とても苦々しく思っていた。
あまつさえギデオンを追放する事で、のちのちにはこれを騎士団の名誉を貶めて解体に至らしめるか、あるいは騎士団を魔王軍の戦いの最前線に放り込み勇者と自分を守るための「人肉の盾」にして全滅させるか、それらを各国の騎士団に実行させるための「弱みのネタ」のひとつにしようとすら考えていたフシもある。
ギデオンの追放後、アレスは去っていくギデオンと交わした約束通り「ギデオンは単独で魔王軍の様子を探って行った結果、消息不明になった」という事にして、自らが勇者パーティーのリーダーの座を得る。
だが、ギデオンを良く理解しアレスが彼を毛嫌いしている事実も知っていたヤランドララからはすぐさま「嘘」と見抜かれてしまい、更には「邪魔者のギデオンを殺したのではないか」と疑われ(凶悪なモンスターの徘徊している場所で、身包み剝がすも同然の仕打ちを行い、わずかな路銀と銅の剣だけを押し付けて追い出すのは、実質的に「死ね」と言っているのと同じ暴挙である為、ヤランドララの指摘も間違いでは無い)、ダナンからも詰め寄られた結果、自己保身の為にギデオンとの約束を破る形で「戦いを恐れて逃げた」という苦し紛れな嘘を吐く(まぁ、騎士団を貶めるネタにしようとしていたあたり、最初から用意していた論でありアレス的には「少々、予定が早まった」くらいの認識だったろう。実際は少々どころの話ではないが)。
しかし、それもあからさまな嘘であると見抜いたヤランドララからは完全に愛想を尽かされてしまい、ギデオンを探そうとした彼女に三行半を突きつけられた上で去られてしまう。
その後、ギデオンやヤランドララの「一時的な穴埋め」として、暗殺者ギルドに所属していた「アサシン」の加護を持つティセと契約し、勇者パーティへと加入。何とか風の四天王の打倒には成功し、先代魔王の遺跡に存在する兵器の捜索を行っていたが、この頃には度重なる失態を繰り返しており、かつてギデオンに担当させていた兵站の確保や交渉の代行を自分から言い出していながらまともに出来なかった事から、ダナンやテオドラからも不満を抱かれる様になっていた。
しかし、その事に対し反省を見せないばかりか、失敗の責任を交渉相手であった砂漠の民に押し付け、返って憤慨するダナンを軽視する様な態度まで見せた結果、これまで我慢していたダナンからも愛想を尽かされ、彼はギデオンを探しに去って行き、アレスの組織運営はどんどんボロが出始める。
更に先代魔王の遺跡で遺産となる飛空艇を発見した後に、「勇者の元へ行きたい」という願いで契約したコントラクトデーモンに連れられて来たゾルタンの冒険者であるアルベールを捕らえるが、コントラクトデーモンから「悪魔の加護の薬」とその効果(加護のレベルを下げる)について聞かされたルーティが、兄・ギデオンを探しに行く為にそれを服用。悪魔の加護の薬を増産する為に、ティセを強引に連れていく形で、勇者の証である「オリハルコンの護符」を捨てた上で飛空艇に乗って去られてしまう。
これによって勇者パーティーは、実質的に完全崩壊してしまう事になり、尚且つアレスは、「人は加護に従って生きるべき」という自らの思想の否定を、他ならぬ自分自身で証明してしまう事になった。
パーティ崩壊後
パーティの崩壊後、自身の不手際の数々を尚も認めたくないプライドと焦燥感から、次第に精神の均衡を崩し始めていき、正常な判断力はおろか、狂気染みた言動や凶相、ヒステリックな振る舞いが目立つ様になっていく。
そして、コントラクトデーモンと「勇者の元に行きたい」という契約をしていたアルベールの血を利用する形でルーティの追跡をテオドラと共に行うアレスは、彼女のいるゾルタンにまで辿り着く(テオドラが同行したのは、ルーティに勇者として復帰して欲しいという願いもあったが、今アレスの元を去ってしまえば、アルベールが半ば正気を失っている彼に殺されかねないと危惧したからでもある)。
しかし、停泊先にてダナンに扮したアスラデーモンのシサンダンが現れ、この街にギデオンがロガーウィアの王女であったリットと共同生活している事実を聞かされるのだが、それを聞いたアレスは、ルーティが自分達の元を去ったのはギデオンがこの街にいるのを知って会いに行く為だと邪推(鑑定能力を初対面の人にしか使わないというアレスのいい加減な性格でシサンダンの正体を見抜けなかった)。全ての元凶がギデオンだと見なすまでになってしまう(更にアレスは、自分から追い出したにもかかわらずギデオンが一人だけのうのうと平和に逃げて王族との結婚を目論んでいると見なす等、もはやギデオンに対する無茶苦茶と言える逆恨みを見せており、話題を出したシサンダンですらも内心呆れさせている)。そして、ギデオンが「レッド」の偽名で経営していた「レッドアンドリッド薬草店」に不法侵入すると、腹癒せも同然でギデオンとリットの築き上げた思い出である店内の商品や備品を徹底的に破壊し回る最低の暴挙にまで出ている。
流石に【火術士の加護】を持つディルのように薬草店に放火しようとまではしなかったのでそこは【賢者の加護】がアレスに最低限の品性を保たせる為に仕事?したのだろう。
その後、飛空艇に結界を張ったり山の中を歩き回る形で時間を浪費した末に(結果的にギデオンに先を越されている)、古代エルフの遺跡にまで辿り着いてようやくルーティを見つけ出すが、既に彼女からは「勇者」としての自分しか見ていない事実を見抜かれていた為に、決別を言い渡されてしまう事になり、逆上してギデオンに魔法で攻撃した結果、剣で刺される形で拒絶されてしまう事になった。
「急所は外した。あなたの魔法なら治療できるでしょ。でもこれが私の答え。私の大切な人を傷つけたあなたに剣を突き立てるのに、私はなんの躊躇もない。もしお兄ちゃんが深手を負っていたら、多分私はあなたを殺していた」
「私は勇者ではなくルーティだから。もうあなたを助けることはないわ」
自らの野望の要であった「勇者」であったルーティに完全に見捨てられて絶望に陥る中、アスラデーモンとしての正体を現したシサンダンに唆されたアレスは、ルーティの勇者の加護の衝動を強化させるべく、遂に後戻りの許されない一線を越えてしまう事になった末、よりにもよって本作屈指の「とるにたらぬ小悪党」であった錬金術師のゴドウィンによって偽善者だと看破された上で「正義はおろか悪の風上にもおけぬ、悪を称する事すらも許されぬ外道」(アレスを「悪」などと呼ぶ事こそ、この世界に在るあらゆる「悪」に対してすら失礼な事)とまで渇破される。そして「自らの持つ悪党の矜持に懸けて、この男(アレス)を許すことはできない」としてレッドの味方となり対峙したゴドウィンと、彼に力を貸したティセとうげうげさんとの連携によって隙を作らされた挙げ句、その隙を突かれる形でレッド達に殺された。
加護『賢者』
「勇者」と同様に最高位とされる加護。
術師としては上級デーモンでも太刀打ちできない程の強大な魔力による恩恵を得る事の出来る反面、加護の保持者に承認欲求の衝動を抱かせるという、聡明さの求められる「賢者」としては致命的かつ矛盾したデメリットを持つ(一般的な賢者は、承認欲求や自己顕示欲と言った我欲とはほぼ無縁と言ってもおかしくはない)。
また「賢者」として「勇者」の腹心である事を求める衝動を擁し、最終的には(「勇者」が異性であるなら)その配偶者として結ばれ、後世に血族を遺そうとする欲求を加護の衝動として生じる可能性も示唆されている。アレスが勇者ルーティに見捨てられたストーカーのように執着した原因のきっかけでもある(本作の世界観においては、過去代の「勇者」と「賢者」は高確率で結ばれ、その血筋を後世に遺している)。
一方、生じる事になる承認欲求の強さや勇者との関係を望む願望は、保持者の心の在り方次第によって変動する。
実際にレッド自身、パーティーが崩壊してしまった本当の原因は信頼関係が無かった事であって、自分がアレスと信頼関係を結べていれば実際に起きたところまで問題がこじれる事はなかったかもしれないと振り返っている。
尤も、賢者の衝動によってプライドが肥大して唯でさえ毛嫌いされているだけでなく、自分以外の人間の価値観を一切認めず、気に入らない者には徹底的に不寛容になれる誠実さの欠片も無い没落貴族のアレスが、レッドを含む他者と本当に信頼関係を結べるかは微妙と言わざるを得ない。
また、加護はそれぞれ生まれ持った物である反面、それによって当人の人格が決まる訳では無い為、アレスが劇中で見せた狂気染みた承認欲求やルーティへの執着を見せたのも、元から彼の持っていた「加護の恩恵を至上としそれ以外に関しては一切度外視する傲慢な価値観や選民思想」が起因になっていたとも言えるもので、一概に加護の衝動のみで説明できるものではない(もっとも加護の衝動そのものが原因のひとつである事は疑いようもないのだが)。