概要
綴りはInnsmouth。
日本語訳としてインスマスあるいは、インスマウスがあり、インスムースという発音もある。
ラヴクラフトの1936年の著作『インスマスを覆う影(The Shadow Over Innsmouth)』の舞台となった架空の港町。
1928年に破壊されるまでダゴン秘密教団と深きものの拠点のひとつに数えられた。
マサチューセッツ州エセックス郡にある港町であり以後も様々な作品で言及される。
クトゥルフ神話のアイコンとしても機能しており、この町について言及することで作品がクトゥルフ神話と関わりがあることを示す手法が黎明期から現在までよく使われる。
解説
マニューゼット川の河口にあり、周囲を湿地に囲まれている。
南のアーカム(ラヴクラフトの創作)から北のニューベリーポート(実在する街)に至る街道上にある。またキングスポート(架空)やイスプッチ(実在)へ向かう街道がインスマスから伸びている。ニューベリーポートへは、バスで1時間の距離にある。
鉄道が廃止され、バスだけがインスマスに通じるアクセス方法である。
かつて栄えたが今は、寂れて陰鬱な空気がただよっている。
異常なほど磯臭く、滞在しているだけで気分が悪くなってくる。またインスマス面と呼ばれる謎の皮膚病が流行し、住民は顔が青白い。
訪ねた人が帰ってこないなど物騒な噂がつきものの不気味な町であり、どうしても訪れなければならなくなった場合でも早々に用事を済ませて立ち去るべきである。
街の中心を流れるマニューゼット川の南岸には、ほとんど人が住んでいない。街の中心地であるタウンスクエアは、南岸にあるが多くの住民は、北岸に住んでいる。
フェデラルストリートが街の中心を南北に走っている。これがアーカム・ニューベリーポートを繋ぐ街道で東西を走るチャーチストリートと交差する場所にダゴン秘密教団のニューチャーチグリーンが北岸にある。
このため北岸は、危険だと噂されている。
1643年に街の建設が始まり、漁業と中国・インドとの貿易で栄えた。
マニューゼット川の北岸に残る古い高級住宅地がその名残である。
1775年のアメリカ独立戦争前後には、マニューゼット川を利用した工業、造船業が興る。
しかし1812年に米英戦争が起こるとアメリカ海軍の寄港地として繁盛するも船乗りの多くがイギリス海軍の艦船を攻撃して命を落とし交易や漁業が落ち込む。
オーベッド・マーシュ船長がポリネシア人にガラス細工を運び、代わりに黄金を得て金の精錬工場を経営する。川の北岸に工業地帯が作られ、周辺の工業の中心地になるまで栄える。
しかし1846年に謎の伝染病が発生し、住民の大半が一夜で死亡する。
1861年の南北戦争で漁場が荒廃し、大型船も寄港しなくなる。
1920年代には衰退して約300~400人ほどが住んでいるとされる。
ダゴン秘密教団
元は、ポリネシアの島民が信仰していたがオーベット・マーシュがインスマスに持ち込んだ。
教団の開祖であるオーベット・マーシュ船長は、コロンビア、ヘティー、スマトラ・クイーンの3隻の船を所蔵する貿易商人で不景気だったインスマスにおいて意欲旺盛な商人であり米英戦争の最中でも活動していた。
彼は、ポリネシアのカナカイ族とガラス細工と黄金を交換して財を成した。彼らは、深きものと契約し、黄金や魚、長寿を得ていた。
ところが1838年、交易していたカナカイ族たちが他の部族によって虐殺される。
オーベットは、カナカイ族から儀式のやり方を教わっていたので深きものと呼ばれる海に住む怪物に服従する契約を悪魔の岩礁で結ぶ。
これがダゴン秘密教団の起こりであり、マーシュ家の幹部船員だったウェイト家、ギルマン家、エリオット家が街を牛耳るようになる。
インスマスでは、バプテスト教会やフリーメーソンなどが信仰されていたが次第にダゴン秘密教団に入信していった。
しかし1846年に反対する住民らがマーシュ船長や教団幹部を拘束。深きものどもが船長らを救出するために海から上がってくると住民を虐殺する。
虐殺は、疫病が原因にすり替えられ、生き残った住民もダゴン秘密教団に入信させられた。
1927年7月16日に『インスマスの影』の主人公が警察に訴えて当局による手入れが開始される。
1928年、インスマスの捜査は襲撃で締めくくられる。連邦政府の捜査官がダイナマイトで無人の建物の多くを爆破し、ダゴン秘密教団を解散させインスマスの住人の大半を陸軍刑務所に収監した。
また悪魔の岩礁の沖で何かに向けて魚雷が発射されたらしい。魚雷でなければ対処出来ない何かがあったのだろうか。
クトゥルフ教団
ダゴン秘密教団と『クトゥルフの呼び声』に登場したクトゥルフ教団は、全く接点のない別の組織である。
これは、共にクトゥルフに仕える眷属だがクトゥルフの敵から存在を隠すためとされる。
インスマス面
インスマスの住民の身体的特徴。
よくある間違いだが「インスマス」は、この港町の名前であって「深きもの」の別名ではない。
青白い肌、頭髪が薄くなり、まぶたが厚ぼったくなり瞬きをしなくなり、首がたるんで大きな皺が出来る。ガニ股になりカエルのようにぴょこぴょこ飛び跳ねて歩くようになる。
こうした特徴的で醜い外見が外部から「インスマス面」などと囁かれて蔑まれている。
また海や水辺を好むようになる。あるいは、一種の夢を見るようになると言われる。
インスマス特有の奇病、風土病と噂されているがこれらは、深きものとの混血で生じる現象であり、20代から兆候が表れる。身体の変化には個人差があり、精神的なショックが原因で急速に身体の変化が進むとも言われている。
最終的には、海に入って深きものと同じ生活を始めるようになる。
マーシュ家をはじめとし、インスマスの富豪の家では、子女を街の外に送り出している。
このため徐々に深きものとの混血は、インスマスの外にも広がり始めている。
ロケーション
- ニューチャーチグリーン
ダゴン秘密教団の会館で街の北岸にある。
元は、フリーメーソンの会館を買い取ったもの。
オーベットの子孫、バーナード・マーシュがカーテン付きの自動車に乗り、出入りしているのが目撃される。
- ギルマンハウス
『インスマスの影』で主人公が泊まった宿。
南岸のタウンスクエアに面した一角にある4階建てのペンキが禿げかけた建物。
街で唯一の宿泊施設だが、お世辞にもいい宿とは言えない。
- タウンスクエア
18世紀ごろにオールドスクエアに代わって市民会館を移した街の広場。
フェデラルストリートに面しており、アーカム・ニューベリーポート間のバスが停車する。
ギルマンハウス、最初の全国チェーン食料品店、ドラッグストア、陰気なレストラン、漁業問屋のオフィス、マーシュ精錬所のオフィスなど他12の商店が立ち並ぶ。
- マーシュ精錬所
マニューゼット川の北岸、タウンスクエアの反対側にあるオールドスクエアに面した貧弱な古い建物。
滝を利用した水力で工業の中心地となり、1920年代に入っても街で唯一、栄えている場所。
- アダムスストリート
教団幹部、街の富裕層が住んでいる街の北西部。
マーシュ家の屋敷もここにあるとされる。
- 悪魔の岩礁
インスマスから半マイル沖にあるという岩礁。
ここでオーベットは、深きものと契約した。
- イハ=ンスレイ
インスマスの沖にあるという深きものたちの海底都市。
1928年に地上のインスマスが破壊された後も健在で何万年も生きた深きものたちが住んでいる。
- 廃駅
インスマスの西の外れにある。ここから廃線が湿地帯を突っ切って走っている。
『インスマスの影』で主人公が気を失った場所。
その他
ラヴクラフトがインスマスを創作し、後の作品で蔭洲升(いんすます)、インボカ(Imboca:ボカとはスペイン語で「口(マウス)」)などの架空の街がオマージュで作られた。
ちなみに『インスマスを覆う影』にて語られる事件の後、観光客向けの港町として復興していることがラヴクラフトの手紙によって明らかにされている。
関連タグ
DAGON(映画)…インスマスを題材にしたホラー映画。