概要
フルネームはラムザン・アフマドヴィチ・カディロフ(チェチェン語表記КъадиргӀеран Ахьмад-Хьаьжин Рамзан )。
1976年10月5日に、ソビエト連邦当時のチェチェン・イングーシ自治ソビエト社会主義共和国ツェントロイ村に生まれる。
父は政治家でイスラム聖職者のアフマド・カディロフ。父がチェチェンの大統領に就任し、彼はその側近として働いた。
2004年に父が暗殺され、当時まだ30歳未満ですぐに大統領にはなれなかったため副首相、首相を経由し2007年2月15日、チェチェン共和国第3代大統領に就任。その後「大統領はロシアに1人だけ」ということで役職名を「首長」(Глава)と変更した。
ウラジーミル・プーチンに忠実であり、ウクライナ侵攻においても後述するカディロフツィをウクライナに派遣した。
中央政府への絶対的忠誠と独立阻止を引き換えに、莫大な補助金供出とチェチェン共和国内でのフリーハンド的支配を認められており、チェンチェン共和国内においては事実上の藩王的存在として振舞っている。
カディロフは敬虔なスーフィズムイスラム教徒であり、同性愛者などLGBTへの苛烈な弾圧でも知られる。これについてカディロフは「チェチェンにそのような者は存在しない。いたら、我々の純血を守るためにカナダにでも送ってくれ」と発言している。
人物
大の目立ちたがりであり、InstagramやTelegramなどのSNSを用いて盛んに自分の生活ぶりや私見を述べるライブ配信などを積極的に投稿したり、PVにもしょっちゅう出演している。また、スポーツファン特にMMAファンで、チェチェン及びダゲスタンの格闘家にとっては重要なタニマチであることを誇示し、しばしば彼らと交流する様子をメディアに提供している。
こうしたマッチョなアピールとは裏腹になかなかのヘタレ。ウクライナ侵攻では首都キエフのすぐそばにいるとアピールしておきながら、ウクライナ人記者の初歩的なフィッシングに引っかかって実際はチェチェン国内にいることが暴露されたりしている。
2023年、腎不全などにより健康状態が急激に悪化したと報じられ、一時は死亡説が出ていた(現在は歩ける程度には回復した模様)。
カディロフツィ
父アフマドから引き継いだ彼の私兵組織。意味はそのまま「カディロフの従者達」。正式名称は「ロシア連邦英雄アフマド・カジ・カディロフにちなんで名付けられた第141特殊自動車化連隊」
2万人以上の規模があると言われ、法的にはロシア国家親衛隊に属するが、前述のとおりチェチェン国内では私兵として振舞っている。
カディロフツィはその残虐さで有名であり、チェチェン共和国内でも反対派の拷問や処刑なを行なっていると報じられており、ロシア国内でも反プーチン派への暗殺関与疑惑が指摘されている。
粗暴で容赦のなさで知られる一方、軍事組織としての評価は低い。中にはSWATに相当するスペツナズなど高度な訓練を受けた者もいるが、それ以外の多くはアフマドに寝返った元ゲリラや無理矢理徴兵された者で、また、戦車など軍用重兵器も国家親衛隊ゆえ渡されていない。そのため、基本的には治安維持が専門の重装歩兵にすぎない。
ウクライナ侵攻に際しては開戦初期に無用な突撃を繰り返してウクライナ軍に大損害を被ったり、略奪品を手にはしゃぐ様子を無思慮にSNSに挙げる、戦闘をしているとするシーンでも雑な銃器の扱いや敵兵の攻撃が確認ができないものが多いことから、戦いそっちのけで自分たちを誇示するTiktok軍団と揶揄する向きもあり、味方のロシア軍からも煙たがられているという報道が複数なされている。
また、ウクライナ軍からもロシア正規軍やワグネルと比べ低く見られているようで、「弱いくせに装備は良い」ので、前線に出てきた際は装備品の鹵獲を目的とした積極的な攻撃対象となっているらしい。
こうした芳しくない評価は、しばしばワグネルと対比されることがある。しかし、ロシア全土の刑務所から囚人をリクルートして一気に兵員を補充し、危険な作戦行動をたやすく行えるワグネルと違い、カディロフツィはあくまでも人口150万の小国チェチェンを支配するカディロフの私兵である。そのため兵士を無碍に扱うと、カディロフの支配体制が揺らぐ可能性があるため兵達を大切に扱う必要があるという事情を抱えている。