シトロエンDS
でえす
※DSは1967年を境にフロントデザインが大きく変わっている。左が2灯ヘッドライトの前期型、右が異形4灯ヘッドライトの後期型。
シトロエン社(フランス)が1955年から1975年まで販売した前輪駆動の大型セダン。
その特異なデザインと独創的なメカニズムから、お披露目となった1955年パリ・サロンでは「異次元の自動車」、「宇宙船」などと評され、公開1日目で12,000件のオーダーを受けた。
「20世紀の名車ランキング」第3位。その名称はPSAグループ(現ステランティス)の上級ブランド「DSオートモビル」に引き継がれた。
1938年、シトロエン社で前輪駆動の大型セダン「トラクシオン・アバン」後継車の開発が始まった(コードネーム:VGD)。
VGDは「安全性」「居住性」「接地性能」「空力性能」の追求をコンセプトとし、アンドレ・ルフェーブル技師が主任設計士としてこれにあたった。
斬新な内容を盛り込んだため開発は難航し、第二次世界大戦勃発による中断を挟み、開発開始から17年を経た1955年、ようやく「シトロエンDS」として日の目を見た。
DSは、1955年の時点において想像を絶する先進性を備えた自動車だった。ルフェーブル技師が元航空技師だったこともあって徹底的な空気抵抗低減が図られ、空力重心を後部においた流線型、ボディ下面にまで及ぶフラッシュサーフェイス化、前輪を広く後輪を狭くしたトレッド、グリルレスのフロントデザイン、窓枠のないサッシュレスドア、長大なホイールベースなどにより個性的な外見を獲得している。
空気抵抗を極限まで減らす為に、ステアリングが必要無い後輪は外装パネルに覆われており、タイヤ交換に際してはサイドパネルを外す必要があった。
ボディ
トラクシオン・アバンのモノコック構造とは異なり、サイド・シルとクロス・メンバーを主体とするフロア・パネルにスケルトンが溶接され、表面にボディ・パネルを張り付ける、スケルトン構造となっている。ボディ自体が応力を負担しないため、ピラーが細く窓は大きい。低重心化のためボンネットにはアルミ合金、ルーフにはFRPが使用され、大型セダンながら部材の使い分けにより車体重量は1.2t程度に抑えられていた。
足回り
ハイドロニューマチック・システムを採用した全輪独立懸架である。圧縮ガスがバネを、油圧シリンダーがショックアブソーバー及び車体支持を担い、パワーステアリングやブレーキアシスト、オートマチック・トランスミッション、車高調整も制御するハイドロニューマチック・システムはDSの最大の特徴となっている。
内装
直立したサイドウィンドウと立ち気味のフロントガラス、長大なホイールベース、前輪駆動でフロアトンネルが無い事などもあって、車内は広い。内装の材質として、発売当時に一般的でなかったプラスチックやビニールを多用している。デザインは白や赤など大胆な色使いを多用したモダンなもので、チープに見せない工夫がなされている。1本スポーク支持のステアリングにはセンタリングアシスト機構が採用された。座席は非常に柔らかくソファーのように快適で、足元もゆったりとしている。ブレーキペダルは無く、丸いバルブを踏むようになっていた。
エンジン
戦前のトラクシオン・アバン11CVから流用した直列4気筒1,911cc(70馬力)エンジンの取り柄は信頼性だけだったが、不足のない動力性能を示した。
ヘッドライト
1967年に固定式の2灯ヘッドライトから、ガラスカバー付きの4灯式コンビネーションライトとなった。後期型のヘッドライト外側2灯はサスペンションに通じたリンクで吊られ、車体の挙動に連動して常に水平を保ち、内側2灯はステアリングに連動して左右に動き、常に進行方向を照らすようになっている。
車体が大きくアンダーパワーなDSはモータースポーツとは無縁に思えるが、軽量な車体と小回りの利くハンドリング、ハイドロニューマチックの強力な接地性能もあり、'50~'70年代にかけラリー・フィールドで活躍した。
1959年:モンテカルロ・ラリーでポール・コルテローニが優勝
1963年:モンテカルロ・ラリーでワークス・チームが総合2位
1964年:アクロポリス・ラリーでワークス・チームが総合2位
1966年:モンテカルロ・ラリーでワークス・チームが総合優勝
1969年:モロッコ・ラリーでワークス・チームが1~3位を独占