概要
トラソルテオトルは性欲と肉体的愛、それに伴う不浄と穢れを象徴する豊穣の地母神である。
元々はメキシコ湾沿岸部のワシュテカが起源の女神で、アステカによる同地の征服後にその神体系に組み込まれたとされる。
16世紀頃に作成された絵文書(コデックス)では鼻飾りをつけて口の周囲が黒く塗られ、二つの木綿の糸巻きを髪飾りにした姿で描かれ、また草の箒を持ったり生贄の生皮を着たりしている絵も存在する。
鼻飾りは月、木綿の糸巻きは家庭における女性の仕事を意味し、生贄の生皮は子宮からの新たな命の誕生を象徴するとされ、これらはトラソルテオトルの万物を生み育てる地母神としての性格を表すものである。このため、アステカの収穫祭オチュパニストリではトウモロコシの女神チコメコアトルや地母神テテオインナンと共に崇拝されていた。
その一方で、トラソルテオトルは「不浄の女神」の名が意味する様に不浄と穢れ、特に性行為や放蕩に起因する病気や悪徳と結びついた存在であり、転じてそれらを浄化・治療する力を持つと考えられていた(草の箒は浄化という役割を表す物)。
スペインがメキシコを征服したころに現地へ渡った修道士ディエゴ・ドゥランによると、トラソルテオトルに加護を求める者は女神の像の前で懺悔と瀉血をしたとされ、また懺悔の際には一度の破戒行為につき草を舌や陰茎に突き通す行為が伴ったという。
神に迫る力を持っていた隠者ヤプパンですら、トラソルテオトルの性的魅力には贖うことはできず、誘惑に屈した代償として神々に蠍に変えられてしまったという神話も伝わる。
黒く塗られた口という特徴的なイメージは、トラソルテオトルの別名であるトラエルクアニ(Tlaelquani、排泄物を食べる者)に起因する。トラエルクアニ(トラソルテオトル)は人間からテスカトリポカへの罪業の告白を橋渡しする代理人としての役割があり、黒く塗られた口はその行為の象徴である。また、アステカの主都テノチティトランの一般市民から義務として少女たちが集められていたが、その守護女神としてトラエルクアニが崇拝されていたという。この少女の招集の目的はアステカの戦士たちの狂信・士気の維持であり、彼女たちは定期的に戦士の兵舎に連れて行かれ、最期には人身供犠の儀礼で生贄にされたという。
女神転生シリーズのトラソルテオトル
アステカ風に装飾された洋式便器より生えているという、不浄を象徴化したインパクトあるデザインで登場。