概要
トーン・ポリシング(Tone Policing)とは、社会的課題の議論の場において、声を上げた相手に対し、主張の内容よりも相手の話し方、態度、付随する感情を批判することで論点のすり替えによって相手の発言を封じようとする手法。
ほぼ直訳で「話し方警察」とも呼ばれる。
声高に主張する相手に対して冷静な態度で対応するよう諭すだけならいいが、いつの間にか発言者の話し方や態度にばかり矛先が移り「怒らないで主張してほしい」「感情的になっている」と、『相手の話し方』について悪い印象操作を行い、声を上げた人の意見や内容が無視されるように誘導するのである。
対して「自分は冷静で理知的である」「落ち着いて話しましょうよ」と正論でマウントを取る。
トーン・ポリシングの実態は、自分の外面を良くして相手には「暴力的」「口汚い」「怒らないと話せない」「感情論に走っている」などといった悪いイメージを植え付け、主張する側の熱意や悲痛な叫びを矮小化するのが目的である。
冷静な議論は必要だが、「自分は冷静である」「相手は感情論に走っている」というレッテル貼りを行うのは、議論の内容ではなく印象操作で有利な地位に立とうとする口達者な人間の手法であるから注意しなくてはならない。
問題点
- 問題を提議する発言者の態度を問題視することで、問題をすり替える。何の解決にもならない。
- 発言者の話し方を「感情的だ」「攻撃的だ」とレッテル貼りすることで、「自分は冷静で理知的だ」と印象操作する。
- 感情表現と共に主張を訴える方法を認めないことで、被害を受けている人が、悲しみ、苦しみ、怒りといった感情や体験を他者と共有する手段を妨げる。
- 「話し合いは冷静であるべきだ」「合理的であるべきだ」というような議論のあり方を社会的強者の立場にある人々が決め、苦しみを訴えようとする社会的弱者に自分達に都合がいいルールを押し付けることになる。
対処法
現実的な問題としても「正しいことを言っていても声を荒げている人」の意見にはマイナスイメージがあるので、耳を傾けられにくい。トーン・ポリシングは話術であり、イメージ戦略であることをまず理解する必要がある。社会的課題について声を上げる人物は「聞いてもらえる努力」をしなければ口達者な人物には負けてしまうのもまた社会の現実であることを理解しなくてはならない。
裁判であれば、裁判長は声を荒げる人物に静粛にするよう命じたり、時には退廷命令を下すことが出来る。日本には存在しないが、国によっては法廷侮辱罪により裁判中の暴言が罪となる。
それを踏まえて、「主張の内容の良し悪し」を発信者も受け手も吟味する必要がある。
トーン・ポリシングに肯定的な意見
「どのような理由があっても罵声や怒声で人を追い詰める事はモラハラであり言葉の暴力だから許されることではない」と、トーン・ポリシングに対する肯定的な意見もある。
…とは言え、このような主張が認められるのはハラスメント被害者だけであり、少なくとも不祥事を起こした加害者側の企業の責任者が同じような主張をすれば炎上は免れないであろう。
逆トーン・ポリシング
また、被害者側が冷静な議論をしているのに「そこはもっと感情的に被害者らしく振る舞わないと相手に理解されないよ」と感情的に訴えることを勧めるのは「逆トーン・ポリシング」と言う。
被害者の人が一見冷静に見えても内心でははらわたが煮え繰り返っているかもしれない。それなのに「もっと感情的に振る舞わないと伝わらないよ」などと言われるのははっきり言って余計なお世話でしかない。注意しよう。
関連タグ
ノイジー・マイノリティ:使う側の立場によってはトーン・ポリシングによるレッテル貼りになりかねない言葉。