バロン(バリ島)
せいじゅうばろん
もしかして→神獣バロン
バロンは獅子、虎、猪、蛇などの姿をとるとされるが、多くの場合は赤い顔、ぎょろりと飛び出した目、白い体毛、黄金のたてがみ・髭・冠が特徴的な獅子の姿で表現される(下記の種類も参照)。
バロンは髭を水に浸すことで聖水を作り出し、常に魔女ランダとその眷族を見張っている。
ただし、古くは人を喰らう魔獣だったといわれ、悪霊を従える姿が描かれることもある。しかし、供物を捧げる事により人間の守護者として崇拝されるようになり、ランダを始めとする悪霊に立ち向かう聖獣へ立場を確立させた。
バロンが善、太陽、解毒、若さを象徴する精霊の王であるのに対し、ランダは悪、夜、病、老いを象徴する魔女である。バリでは善悪が均衡することで世界は存在しているとされ、両要素を意味するバロンとランダの戦いは永遠に決着がつかないという。
バロンにはいくつかの種類が存在する。
- バロン・アス
犬のバロン。村をうろつき、悪霊たちを気配や臭いで見分け、追い払う。
- バロン・バンカル
猪または豚のバロン。全身が黒・白・黄色・赤の、フサフサした体毛に覆われている。村から村へ渡り歩き、その間に人々に憑いた病魔を追い払う。
- バロン・マチャン
虎または獅子のバロン。下記バロン・ケケットの原型となっている。
- バロン・ケケット
上記全ての特性を有したバロン。全ての魔に対抗できる真なる力を持ち、一般的にバロンと言えば、このバロン・ケケットを差す(バロン・ダンスに登場するバロンも、このケケット)。
- シンガ・バロン
ジャワ島に伝わる、虎または獅子のバロン。頭にクジャクの羽根の冠を付けている。
1930年代には『マハーバーラタ』の物語の一節を取り上げた「バロン・ダンス」というバロンの舞踏劇が作られ、その中でバロンとランダの戦いの始まりが物語られている。
ある時、死神の生贄に捧げられる運命を負った王子・サドゥワがいた。王子は死神に呪いをかけられた母の手で木に縛り付けられたが、それを見て哀れに思ったシヴァが王子に不死の肉体を与え、死神の目論みを頓挫させることに成功する。
敗北を認めた死神は王子の手で殺されるがその魂は地上に残り、悪の化身ランダが生み出された。同時に王子も善の化身バロンになりランダに挑むが、両者の力は拮抗し終わることのない戦いを続けることになったという。
このバロン劇にはバリエーションがあり、概ねは同じだが、それぞれに細かい差異が存在する。
以下、バリエーション違い。
:死神は、魔女ランダ、もしくは魔女ランダの手下である乙女・カリカとされるもの。
:生贄にされるのは運命ではなく、カリカの魔力により従者や大臣が乱心したためという理由のもの。
:シヴァ神がサドゥワ王子に与えたのは、不死の肉体ではなく、「ランダに殺されない祝福」と「ランダと戦う力」というもの。
:サドゥワ王子が戦う死神が、ランダそのものである場合。ランダは戦いの末に討ち取られる(もしくはランダ自身が己の悪行を悔い、自分から討ち取られる)。この後で続けて、乙女カリカが襲い掛かる。
:カリカは猪や猛禽に変身した後、新たなランダに変身。サドゥワ王子もバロンに変身しこれと対決。最後に出現した僧侶により、ランダは追い払われる事で終劇となる。
この劇の劇中では、既に存在するランダが死に、新たなランダが生まれる事で、劇そのものが円環構造になっている。一つの劇の終りは、次なる劇の始まりに繋がっているのだ。
これは上述の、
『善悪が均衡することで世界は存在している』という思想を表現しており、両要素を意味するバロンとランダの戦いは、永遠に決着がつかないという事を、劇において表現していると言える。