パシフィック・サウスウエスト航空1771便墜落事故
かりふぉるにあじょうくうのさつじんき
クリスマス前の12月前半のある日。
USエアー傘下のパシフィック・サウスウエスト社が運航する1771便のパイロットたちは、クリスマス前のプレゼントについて談笑しながらも業務をきちんと運行しながらカリフォルニア上空を飛んでいた。
そして上空で乱気流を発見したパイロットたちは航路について航空管制官とうちあわせをする。
が、突然パイロットたちが機内で騒ぎが起こったことに気がつき「機内で銃撃が発生した模様!」と危急を報せてくる。あわてた管制官が応答したが当該機からの応答はそれ以降途絶えてしまう。
そして1771便はオビスポの岩肌の山腹に向けて機首を向けて真っ逆さまに墜落。目撃者から「まるで地面に突き立つ矢のようだった」と証言された当該機は5000G(重力の5000倍!)相当の力で地面に衝突。土壌は圧迫された瞬間に跳ね返り、機体の破片や紙片は炎に焼き尽くされる前に空中に飛散した。当然搭乗者も全員粉々になってしまった。
当件は管制官の証言から事故ではなく殺人事件だった可能性もありNTSBだけではなくFBIも調査に乗り出す。
そして墜落現場で粉々になった破片をくまなく捜索した結果、ぺちゃんこになったブラックボックスを発見。FR(フライトレコーダー)はテープが細切れになるほど破壊されていたが、CVR(コクピット・ボイス・レコーダー)は破損しながらも比較的原型をとどめており少々修復した時点で視聴が可能になった。
そして内容を視聴してみると・・・
「こちら1771便。乱気流があるので・・・」
ズドン!ズドン!
「わー!」「きゃー!」(数々の悲鳴)
「なんだ!?銃声か!?」
と、銃声とそれに伴う機内の突然の混乱に乗員が狼狽した直後ドアが開く音がして
「緊急事態です!(We have a problem!)」
「何が起こった!?(What kind of problem?)」
とCA(キャビンアテンダント)と思われる女性と機長のやりとりが記録され、更にその直後
ズドン!
「俺がその緊急事態さ!(I'm the problem!)」
ズドン!ズドン!
とCAを射殺した後コクピットに乗り込んできた不審な男が続いて機長と副操縦士を射殺したと思われる銃声が響き、しばらくして不気味な音とともにさらにもう一発銃声が響いてしばらくしたのちにテープが止まった。おそらくこの時に地面に衝突したのであろう。
これにより墜落の原因が何であれ(銃弾が仮にキャビンを貫いたとしても5~6発程度では墜落はしない。げんにリーブ・アリューシャン航空8便緊急着陸事故のように一部がさっくり切り裂かれてもなんとか操縦系統が生きていたおかげで全員が生還できた例がある。)機内で銃による殺人事件が起こったことが判明。本件が事故ではなく事件と判明したため、調査の主導はFBIに移りNTSBは構造知識から銃器を特定するなどのサポートに回ることになった。
FBIは殺人者やその動機を特定する一方で何故犯人が空港の保安検査場を突破できたのかを調査。
一方のNTSBは機体がなぜ急降下して地面に激突したのかをさらに調査する。
まず、当時の空港のチェックには穴があり、社員証があれば保安検査を受けず脇の通り道を経由して機内に入り込めることが判明。というわけで犯人がUSエアーに勤めていた人物に限定される。
NTSBのほうは粉々になった破片から犯行に使われた銃の捜索と粉々になっていたFRからの情報を得る作業に腐心。
磁気記録のヘッドに残っていた最後の数秒分のテープの切れ端を見つけて情報を聞き出すという執念で、犯人が操縦士たちを射殺した後に操縦かんを前に倒して急降下させたことを突き止める。
更に捜索の結果拳バラバラになったS&W M29という銃の引き金部分とそれに残っていた指を見つけた捜索班は、化学分析の結果犯人がデビッド・バークというUSエアーの元清掃員だと突き止めた。
もう一つ、墜落現場から貴重な手掛かりが見つかった。高速でぶつかったために火災が起こらなかったうえに軽かったために粉々にならずに済んだ犯人の手記である。
- 「やあ、レイ。俺たちがこんなふうに終わるなんて皮肉なもんだな。俺は家族のために寛大な措置を乞うたんだ。覚えてるか?だけど、少しも得られなかったし、きっとあんたもそうさ。(Hi Ray. I think it's sort of ironical that we end up like this. I asked for some leniency for my family. Remember? Well, I got none and you'll get none.)」
どうやらデビッドはレイという人物、正確にはレイモンド・トムソンという自分を解雇した元上司を恨んで、わざわざ彼が通勤のために搭乗する便を選んでチケットを買い解雇されたにもかかわらずまだ持っていた社員証でまんまと乗り込んだようだ。そして彼を射殺した挙句(最初の銃声はほぼ間違いなくこれ。44マグナムが貫通した座席の破片が見つかっておりその座席の近くがレイの座席であった)更に操縦士を射殺して機体をコントロール不可能にし、たまたま同便に乗客として搭乗しておりそれを立て直そうとした航空会社のチーフパイロットまでも射殺。42人もの人命を巻き込んで自分も命を絶った模様。
FBI曰く、「もしデビッド・バークが最後に拳銃で自殺したなら、威力の高いS&W M29の場合拳銃が手元から離れる。引き金と一緒に指が見つかったなら彼は自殺せず更に誰かを射殺したのだろう」とのこと。
ちなみに犯人のデビッド・バークは普段から麻薬の密売に手を出すなどどう見てもカタギとは言えない人生を送っていてFBIからマークされていた。
更にデビッドは勤務態度にも問題があり機内サービスの代金を69ドルも盗んだことをレイモンド・トムソンに知られて解雇されたとのこと。完全に自身の素行の悪さを棚上げにしての逆恨みによる犯行である。
事件の後、航空会社の職員が離職した際は「直ちに身分証を回収すること」を義務づける法案など、数本の連邦法が承認された。
また社員も保安検査を受けることが義務化された。
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全日空61便ハイジャック事件:こちらも怨念を抱いた乗客が保安検査をすり抜けて包丁を持ち込み、機長を殺害したのちに機体を操縦した事案。なおこの便にもデッドヘッドのパイロットが乗っていたが、凶器が刃物だったことや犯人を複数人で取り押さえたこともあって機長以外の乗員乗客は生還できた。