ブルース・アッシュビー
ぶるーすあっしゅびー
「帝国軍に告ぐ。お前たちを叩きのめした人物はブルース・アッシュビーだ。次に叩きのめす人物はブルース・アッシュビーだ。忘れずにいてもらおう」
声優:風間杜夫
自由惑星同盟の軍人であり、同盟史上最大の英雄とされる人物。ただし、本編開始時点ではすでに故人であり、外伝にのみ登場する。
宇宙歴710年生まれ(本編第一話は宇宙歴796年)。登場時は大将で、同盟軍宇宙艦隊司令長官。
座乗艦はハードラック。
730年に同盟軍士官学校を卒業して以来、同期生共々に破竹の勢いで手柄を立て続け出世街道を上り詰めていった。あらゆる会戦で帝国軍相手に圧勝を収め、若き英雄として市民から賞賛を浴びた。
745年、第二次ティアマト会戦で帝国軍に壊滅的な打撃を与えるも、戦闘終了直後に流れ弾が旗艦に被弾した事で戦死した。享年35歳。存命であれば同盟史上最年少で元帥に昇進するはずであった。
英気みなぎる自信家で、実績能力も申し分ない上に外見も美男子であり、「生まれながらにして人の上に立つ風格がある」とヤン・ウェンリーは分析している。ただし人格的には少なからず問題があり、彼に対する批判の声も存在している。
リン・パオ元帥同様、女性関係が派手で、2度結婚しどちらも離婚している。また上官に対しても遠慮と言うものが無く、佐官時代には上官から「今までの武勲が自分の実力のみで、運ではないと言うのか?」と問われた事に対して
「無論、私にも不可能なことがあります。貴方以上の失敗をすることです」
と平然と言い返す等の態度を取るため、上層部や同僚から敵対心を持たれることも珍しくは無かったという。
また、幕僚を全員同期生で固め、功績を盾に不要不急の作戦計画をゴリ押しするなど、政治家からは軍閥化の傾向があると警戒されていた。
帝国軍に対しては、戦いに勝つたびに挑発的な通信を送っていたため、帝国側にもその勇名は知れ渡り、「ブルース・アッシュビーなる叛徒どもの巨魁」という文言が当時の帝国の資料に残っている。
当時の帝国軍軍務尚書ケルトリング元帥は、2人の息子をアッシュビーとの戦いで亡くしており、病床にあっても「アッシュビーを倒せ!アッシュビーを倒せ!」と言い遺して憤死したほどに、帝国軍においては畏怖と憎悪の対象となっていた。
幕僚はアッシュビーの士官学校の同期生で固められており、卒業年度から「730年マフィア」と呼ばれていた。
最期の会戦である第二次ティアマト会戦時も、以下の様な陣営で固められていた。
宇宙艦隊総参謀長アルフレッド・ローザス中将
第4艦隊司令官フレデリック・ジャスパー中将
第5艦隊司令官ウォリス・ウォーリック中将
第8艦隊司令官ファン・チューリン中将
第9艦隊司令官ヴィットリオ・ディ・ベルディーニ中将
第11艦隊司令官ジョン・ドリンカー・コープ中将
以上、6名の艦隊指揮官で構成されていた。
いずれも優れた軍人であることに変わりは無く、存命中または死後に元帥か大将にまで昇進している。だがアッシュビー亡き後の人生は大半が不遇であり、また早逝の傾向があった。
外伝において存命だったのは、アルフレッド・ローザスのみである。彼が後年記した回想録はノンフィクションの大賞を受賞し、730年マフィアとその時代を知るうえで重要な史料となっている。
730年マフィアの面々とは良くも悪くも団結力があった。しかし、時間が進むにつれて戦友達との間に次第にすきま風が吹くようになり、第二次ティアマト会戦ではコープの反発を皮切りに修復不可能な軋轢を生んでしまう。
だがそんな面々の中で、取り分け人間的にも信頼を置いていたのがローザス提督である。他の提督達(コープ、ウォーリック、ジャスパーが躊躇な例)とは不仲ぶりが露呈されていたが、彼に対してのみは露骨な態度を取ったりしなかったばかりか、長年にわたり総参謀長として常に脇に置き、私生活でのトラブルでも彼を頼りにしていた(第一夫人アデレードとの離婚調停のオブザーバー役を頼んでいた)。
指揮官としての能力(戦術家としての能力)は疑いなく天才であった。しかし、傍から見れば不透明な情報源の中で的確な判断を下しているなど、もはや神業としか思えない手腕で艦隊を指揮し、そして勝利を掴むことが多かった。
これに対し、幕僚陣かつ戦友で固められた730年マフィアの面々とは、しばし批難や毒舌の応酬が見られたと言う。特にアッシュビー最期の会戦である第2次ティアマト会戦では、この理由の不明確な指揮が原因で730年マフィアの面々とは修復不可能なレベルの軋轢が生じてしまった。
後年、ヤン・ウェンリー少佐が調査したところでは、アッシュビーは帝国の亡命者であるジークマイスター提督と秘密裏に手を組んでおり、この亡命提督が帝国内部に築いていた地下組織の情報を入手して、会戦の勝利に貢献していたという結論を導き出したのである。
勿論、これはアッシュビーの名声を落とすものではなく、むしろ玉石混交の情報から有用なものだけを見極め活用できたということであり、彼が有する分析能力が如何に優れているかを証明している。さらにローザス提督の言うところでは、作戦の行動タイミングを見事なほどに掌握している点を踏まえて「時間の女神が、アッシュビーに降りていた」という評価を下している。
ただ、これらはあくまでヤンの推測にすぎず、明確な証拠はないままこのエピソードは終了している。
因みにアッシュビーの戦績は、まさに常勝無敗であったが、それらはいずれも局地戦での勝利にすぎず、同盟と帝国の力関係を変えるほどのものではなかったという。そしてアッシュビーは、実はイゼルローン回廊に要塞を建設して、防衛戦を有利にするという構想を持っていた。
ところが彼自身は艦隊決戦の魔力に取りつかれてしまっており、結局は多大な予算と時間を掛けるよりも艦隊戦力に回した方が良い、という優先順位の判断から艦隊決戦に注力することになった。彼のこの構想は後年イゼルローン要塞として帝国側の手で実現し、同盟は一気に不利な立場に追いやられることになる。
帝国が要塞建設に踏み切ったのは、アッシュビーに与えられた損害が甚大であったためであり、アッシュビーの構想が、アッシュビーの功績により、敵側の手で結実したというのは歴史の皮肉としか言いようがない。
しかし力関係自体は変わってないものの、第二次ティアマト会戦での帝国軍の敗北は「軍務省にとって涙すべき40分間」と言われるほどの人的損害を受けそれまで貴族子弟中心であったのが、平民にも将官の門戸が開かれるようになる。これはごく一部の最下級貴族と平民中心で構成されたラインハルト・フォン・ローエングラムの主要提督らが出現するキッカケとなり、後にゴールデンバウム王朝に幕を下ろしたのを考えれば、ゴールデンバウム王朝が終焉した遠因もある意味アッシュビーにあるといえるかもしれない。
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