ユーゴスラビア紛争
ゆーごすらびあふんそう
20世紀末、東欧のユーゴスラビア社会主義連邦共和国にて発生した一連の内戦である。「ユーゴスラビア内戦」とも表記される。
前史
ユーゴスラヴィアはもともとクロアチア、スロベニア、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナの6つの共和国で構成され、しかもそこに5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2種類の文字が存在していた。
これを大統領のチトーが圧倒的なリーダーシップにより1つの国としてまとめていたが、彼が死去したことで民族や宗教間での対立が急激に沸騰していった。
連邦内で最大の多数派民族であったのはセルビア人だが、チトー体制のもとで多数派として振舞えないことの不満がセルビア人の多くに鬱積しており、チトーの死後、「セルビア人がその人口に見合うだけの利権を得るべきだ」という「セルビア至上主義」を唱える政治家が台頭する(後にセルビア大統領となるスロボダン・ミロシェヴィッチなどがその代表例)。これにクロアチア人などの他民族が猛反発し、逆にクロアチア至上主義を掲げる政治家(後にクロアチア大統領となるフラニョ・トゥジマンなどが代表例)も台頭するなど政治的悪循環が急速に拡大していく。更に冷戦の終結とソ連崩壊や国内の経済苦境などもそれを加速させることになった。
共産主義を掲げる東側陣営でありながら、政治的にはソ連の干渉を拒否し対立するという特殊な立場にあったユーゴスラビアではソ連の侵攻に備えて国民皆兵制をとり、民兵組織を充実させていたのだが、ソ連が崩壊して国内の対立が深まることで、この制度は「国民同士が武装化し対立勢力を攻撃し合う」という事態を容易にすることになり、悲惨な内戦の要因に転換するという皮肉な結果を招いた。
内戦勃発
1991年、スロベニア、クロアチア、マケドニアがユーゴスラビアからの独立を宣言すると、1992年にはボスニア・ヘルツェゴビナも独立を宣言。
このうちボスニア・ヘルツェゴビナでは、ムスリム(イスラム教徒)・クロアチア人・セルビア人が独立をめぐって激しく対立し、クロアチアとセルビアが武力干渉したこともあって「ボスニア内戦」と呼ばれる激しい内戦に陥った。
セルビア人は、自分たちが同じセルビア人が主導権を握るユーゴスラビア本国から切り離されてしまうことに反発し、本国からの軍事支援を得て武装。クロアチア人らを攻撃してセルビア人だけの国家にしてしまおうと民族浄化に乗り出し、他民族に対する大量虐殺を始めたのである。
一方、セルビアでは南部のコソボ自治州で人口の大多数を占めるアルバニア系住民がセルビアからの独立を求めたことで「コソボ問題」が発生。
セルビアのミロシェヴィッチ大統領がこれを弾圧すべく民族浄化を掲げ、アルバニア系住民に対する虐殺行為が行われた。これは国際社会の非難を集め、1999年にはNATO(北大西洋条約機構)軍によるセルビアへの大規模な空爆が行われた。しかしこの空爆は多くの一般人も巻き込み、多大な犠牲者を出した。
また、スロベニア独立時にも旧ユーゴスラビア軍との間で「十日間戦争」と呼ばれる武力衝突が起きたほか、クロアチア独立時にも人口の3分の1を占めるセルビア人住民が反発して独立推進派と武力衝突し、さらに旧ユーゴスラビア軍が介入したことで国際問題化、国連が平和維持軍を派遣する事態にもなった。
最終的に国連、EU、NATOも介入した末、2006年にモンテネグロが独立したことでユーゴスラビアは完全に解体された。ただしセルビアはコソボの独立宣言を2023年時点でも認めておらず、対立状態は未だに続いている。
最後に、ここでの解説はかなりマイルドな説明であり、上記の「民族浄化」を筆頭に胸糞悪くなるような要素が多々あるため、ユーゴスラビア紛争の詳細を調べる際はそれなりの覚悟を持って臨むことを強く推奨する。
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1993年サラエヴォ。ユーゴスラビア紛争のさなか、過激派セルビア民族主義勢力に包囲されたこの都市は、毎日のように降り注ぐ砲弾とスナイパーの銃弾に怯えながら生きていた。 セルビア人の少女ミルカはモスレム人の親友ファティマと暮らす。ふたりはともにフィギュアスケーターとして活動していたが、ファティマはセルビア人勢力の狙撃により片脚を喪っていた。彼女とともに平穏な日々を装い、時に隣に住む女性兵・アイシャに気圧されながら、ミルカは薄氷の上を歩むような不安に気付かないふりをする。 ある日ミルカが病院を訪れると、ボスニア警察と患者たちがセルビア人医師である父を巡って言い争う現場に遭遇する。そこから民族間の微妙な線引きを感じ取り、これまで多民族が共生していたサラエヴォの空気が壊れつつあることを理解するミルカ。 何もかもがひび割れてゆく。自分とファティマの関係も、もしかしたら。 その不安は、ファティマの書いた本が海外ジャーナリストに評価され出版されるという話になって最高潮に達する。そうなればファティマはスケーターとしての夢を忘れ、自分との唯一の繋がりすら失われるかもしれない。 話はとんとん拍子に進んでいき、出版プロモーションが執り行われることとなった。招待されたミルカはスナイパー通りの真ん中に立ち止まって思う。このまま自分の片脚を撃ってファティマと同じにするか――さもなくば殺してくれと。 一発の銃声が響き、しかしミルカの身体からは血の一滴も流れない。空虚な心のままプロモーションに向かい、盛況のなか幸せそうに笑うファティマへと、ミルカはただ拍手する。 その裏には女兵士アイシャの尽力があった。彼女はミルカと同じく民族間に生まれた亀裂に苦しんでいた。アイシャはミルカを狙っていたセルビア人狙撃手を撃ち、ミルカに自身の願いを託す。 94年。難民となって海外に渡った友人から一本のビデオテープが届く。ふたりの憧れたフィギュアスケーターが、ユーゴスラビアの内戦を想って踊る映像。それを見届けたファティマは一片の悔いない笑顔で拍手し、それによりミルカは彼女と自分の夢が死に、ファティマは新たな道を歩み出したことを知る。 ミルカは今や死体置き場となったかつてのスケートリンクに足を運び、死んだ夢の墓標を作ろうとする。だがその途上である女性に出会い、ミルカはファティマと分断を乗り越え、互いの夢を追いかけると誓うのだった。19,999文字pixiv小説作品