「ルバート・クログレイ。
‥‥お見知り置きを。」
解説
『大逆転裁判』第5話の登場人物。27歳。
容姿
マッシロなスーツとシルクハットに身を包み、洋杖(ステッキ)を携え、絵に描いたような“英国紳士”と評されるほどのリッパな身なりをしている。
性格
口調は丁寧だが慇懃無礼な人物であり、周囲をやや見下すような態度の他、会話の際に周囲のカンに障る優雅な動きで気取ったポーズをとる癖がある。
職業
シティ区担当の電信局に勤める電気通信士であり、法務省の通信機の設置や点検の協力の他、政府の通信班との通信技術の打合せへの参加‥‥等、優秀な技師として高い立場にいる模様。
活躍
初登場時は“エッグ・ベネディクト”という偽名で、ベーカー街にあるハッチの質屋でスリの少女・ジーナ・レストレードと質草の“外套(コート)”の所有権をめぐって、その場に居合わせた成歩堂龍ノ介らを巻き込んで騒ぎを起こす。
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ネタバレ
以下、第5話ネタバレ
第5話の真犯人であり、第3話の被告人コゼニー・メグンダルを死に追いやった黒幕。
- 過去
彼のかつての名はルバート・ミルバートン。
第3話の被害者“三度焼きのモルター”ことモルター・ミルバートンの息子であり、幼い頃に両親が離婚した際に『クログレイ』になったという。
少年時代の頃は悪友のティンピラー兄弟とつるんで色々と悪さをする一方で、貧しい生活が死ぬほどイヤでそこから抜けだしたいと考えていた。下町を飛び出して10年、必死に勉強して念願の豊かな生活を手に入れてもなお、昔の下町の暮らしのユメにうなされ、そんな悪夢を消し去ってしまえるほどのカネを欲していたという。
- “取り引き”
カネを欲していたクログレイはやがてコゼニー・メグンダルの“悪魔の囁き”‥‥自分の立場を悪用して政府の《打電》の記録を盗み出して売るという“取り引き”に手を出してしまう。
《自鳴琴(オルゴール)》職人の弟子だった父をだまして記録を《自鳴琴》に偽装させる、情報を2枚の“円盤(ディスク)”に分割して複数回に分けた“取り引き”を行う‥‥等、考えられるかぎりの用心を重ねて《情報》を売り、大金を獲得していった。
しかし、父はその“取り引き”の異常さに気づいてしまい、自分なりのスジを通すべく、息子に代わって直接“取り引き”に出向いた際に殺害され、帰らぬ人となってしまった。
これがいわゆる、第3話の乗合馬車の事件である。
殺害理由については、メグンダルが金の支払いを渋ったためと予想している。
クログレイは父がメグンダルに殺されたと直感し、彼への《復讐》を決意。彼の裁判終了後、カネで雇ったゴロツキを差し向けて計画を実行。クログレイは父のカタキをとり、悪魔の《命運》はこうして断ち切られることとなった。
- 第5話
メグンダルの死後、メグンダルとの“取り引き”の痕跡を隠すべく、ハッチの質屋にある記録の一部‥‥2枚の“円盤”の回収を試みる。
1枚は上述の質草の“外套”のポケットの中に入っており、“外套”ごと“円盤”の強奪を図っていたが、最終的に騒ぎを聞いて駆けつけた警察によって押収されてしまった。
一方《倫敦警視庁》では、記録の盗難にメグンダルが関与していることを嗅ぎ付けて、彼の《遺品》の“回収”にまわっており、今度は警察より先にもう1枚の《自鳴琴》の“円盤”を回収すべく、その日の深夜、ティンピラー兄弟に大金を握らせ、彼らとともに質屋に侵入する。
しかし、目的の“円盤”を発見した際に、店の異変に気付いて質屋の倉庫から出てきたハッチと遭遇。ハッチが持っていた拳銃の銃弾が左腕を掠めるとほぼ同時に、自身が持っていた拳銃を反射的に発砲してしまい、不幸にもハッチの背中に銃弾が命中してしまった。目的の“円盤”を手に入れたものの、恐ろしくなったクログレイはティンピラー兄弟を現場に残した状態で質屋から逃走した。
- 法廷
ハッチ殺害の容疑で起訴された被告人、ジーナ・レストレードの裁判にて、事件発生時に現場に居た可能性により、法廷に引きずり出されてしまう。
自身の《極秘通信》記録盗難事件の関与の可能性やティンピラー兄弟の証言により、しぶしぶ現場にいた事実のみを認め、被告人の犯行を目撃した決定的証人として罪を逃れようとする。
しかし、御琴羽寿沙都の《置きみやげ》‥‥自身の罪を覚悟の上で残した証拠により、クログレイが“ウソ”の目撃証言をしていたことが立証され、さらに、その虚偽の《証言》のために、記録盗難事件の捜査をしていたトバイアス・グレグソン刑事との間で、クログレイ自身が持っている記録の一部‥‥1枚の“円盤”と引き換えに捜査上の《情報》を聞くという“取り引き”が証言台でこっそり行われていたことが明らかとなる。こうして言い逃れが出来なくなったクログレイは、“取り引き”を明かしたグレグソンに怒りをぶつけ、うなだれながらすべての罪を認めて自白した。
殺人を犯し、カネのチカラで事実をネジ曲げたメグンダルを“悪魔”と呼んでいたクログレイであったが、バロック・バンジークスはまったく同じことした彼自身もまたメグンダルと同じ“悪魔”となってしまったと語っている。
が、彼は決して人の心を持たない悪魔ではないと考えられる。むしろ、金の亡者ならば父の死を含めた一連の事件は起こらなかった。
それが窺えるのは父とのやり取り。この時、「金を受け渡しの条件として仕事を手伝うこと」が出されたわけだが、これはモルター氏から提案されている。字面だけで捉えれば、これは金が欲しい人間に対してその受け渡しを握っている側が口にすべき条件であり、モルター氏から出す条件では決してない。さらに、クログレイは自分から報酬の2割もの大金を提示したと考えられる。クログレイにしてみれば断れば父の関与という色々な意味で危険な事態を防ぎ大金を独り占めできるにも拘らず、結局この条件を受け入れている。つまり、そこまでしてでも父親に借金を全額返済しても楽に生活できるほどの金を渡したかったということになる。金の亡者には決して不可能な選択である。
そうすると、メグンダルとモルター氏の乗合馬車でのやり取りも想像がつく。モルター氏にしてみれば、貧乏や離婚などの境遇を強いてしまった中で努力を重ねて優秀な電気通信士になった息子が10年ぶりに訪れてきて、自分ですら忘れかけていたオルゴールの腕前を覚えており、何のメリットもない条件を受けてまで大金を渡そうとしてきたのである。息子からの愛情を感じたとしても決して不思議ではない。おそらくは、そんな自慢の息子の解放をメグンダルにディスクの交換条件として提示した結果、争いに発展したのだろう。メグンダルがいくら大金を提示しようと確かな親子の愛情を買うことなどできず、メグンダルにはそれが理解できないのだから。
加えて言うなら、売却先を失い自分の首を絞める要素しかない(実際自分の首を絞めることになった)ディスクを破壊することもなくキープしていたり散々ポカをしまくったティンピラー兄弟に文句こそ言えど怒るそぶりもなく牢屋の中で仲良くポーズを決めたりしている辺り、元々仲間意識が非常に強い人物だと考えられる。もしかしたら、かねてから彼を苛んでいた貧乏の悪夢は、父を苦境に残してしまっている内なる後悔や懸念が表出したのかもしれない。
なお、グレグソン刑事の奔走も空しく極秘情報の一部が流出してしまい、そこから大日本帝国と大英帝国の陰謀の一部が明らかとなるのだが、それはまた別の話である。
ちなみに、真犯人でありラスボスでもありながらエンディングに登場したのはシリーズ通しても彼が唯一である。