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「極寒の地に住むものあり。何びとも息できぬ場所にて息するものあり。こののち、『彼』は人間の島や街に現れ、白き死なる風をもたらすなり、『彼』の棲みかにてまどろめる風を」

─預言者リスの言葉

概要

ゾウアザラシほどもある巨大な蛆虫に似た異形の邪神

その面貌は不気味であり、円盤のような顔の端から端にかけて舌の無い青白い色のが開いており、鼻腔の間に寄り合った二つの眼窩からは常に目玉の形をした血の色の球体がしたたり落ち、彼が身を置く台座の床に赤紫色の石筍のように堆積している。

また、新月の間は休眠状態になるという生態を持つ。

ルリム・シャイコースは世界の古さを越えた千古の存在で、遥か昔から何度も地上に到来していたとされる。

魔術において全知全能ともいえる力を持ち、熟達の魔術師ですらまともな反撃もできずにイーリディーム(後述)に肉体を変容させられいる。

彼が乗るの要塞イイーキルスは、港一つをゆうに越える規模をもつ大氷山である。

自ら青白いを放ち、の流れに逆らって航行。イイーキルスが放つ冷光は万物を瞬時に凍結せしめる死の光で、海から沿岸地帯はおろか内陸にまで到達する射程距離を備え、海上で犠牲になった船舶はイイーキルスに取り込まれ土台として同化させられる。

また、イイーキルスによって凍結させられた生物は大理石のように白化し、時間の経過やで熱せられても崩壊、溶融することなく凍りついた姿のまま極寒の冷気を放ち続ける。

ルリム・シャイコースの存在は『エイボンの書』に記されている。

イイーキルスに乗って北限を越えた向こうの空間、極地の深淵から地球に到来したとされる。

地上の北方に位置するハイパーボリア大陸を手始めに、イイーキルスで航行していく途中の土地や都市すべてを極寒の冷気で荒廃させる。

その一方、偉大な魔術師のみを酷烈な寒気と希薄なエーテルが支配する環境に耐性のあるイーリディーム(冷たきもの)に変え、イイーキルスに乗せていった。

ルリム・シャイコースの侵攻の前にハイパーボリアの人間はまるで対抗できず、全てのものが冷気によって滅ぼされていった。

しかし中部ハイパーボリアの東部の海において、突如としてイイーキルスが黒い液体に覆われて崩れ落ち、一晩をおいて完全に消滅したとされる。

登場作品

初出作品はクラーク・アシュトン・スミスの「白蛆の襲来(The Coming of the White Worm)」。

ハイパーボリア大陸北部の港町に住む魔術師エヴァグが数々の凶兆を見た後、ルリム・シャイコースによって屋敷ごとイイーキルスに招き入れられる。

イイーキルス内には先達にあたる7人の魔術師が居て、彼らに導かれてエヴァグはルリム・シャイコースに謁見し、半ば強制的に7つの儀式と3つの疎外の誓いを行わされて信奉者になる。

魔術師たちはルリム・シャイコースに選ばれたことを誇って現状に満足していたが、エヴァグはほぼ奴隷状態の身の上と滅ぼされていく都市を目の当たりにして反発を募らせていった。

エヴァグのルリム・シャイコースへの3日ごとの礼拝が3度目を数えたころ、魔術師が1人いなくなっていることに気づいた。それから礼拝のたびに魔術師は1人ずつ姿を消し、ついにエヴァグを残すのみとなった。

エヴァグが礼拝のためにルリム・シャイコースの座す間へ入ったところ、新月に差し掛かった時期であったため彼は眠り込んでいた。

主が眠ったまま礼拝を行うことが忍ばれたエヴァグが声をかけたところ、いなくなったはずの魔術師たちの声がした。

エヴァグは彼らからルリム・シャイコースは餌食を求めて魔術師を選別したこと、休眠の間だけ犠牲者は意識を取り戻すこと、休眠している時のみルリム・シャイコースを殺しえること等を数々のおぞましい事実ともに伝えられた。

全てを聞いたエヴァグはルリム・シャイコースの脇腹にを突き立てて殺害することに成功するが、直後に脇腹の傷から溢れ出した黒い液体に押し流され、イイーキルスの崩落と共に命を落とした。

かの神を殺した者は例外なく死ぬことを教えられ、それでも剣を手にした男の最期であった。

以上のことがエイボンによって呼び出されたエヴァグの亡霊が語った話の全容──というのが本作である。

登場から末路までが一作品で語られたルリム・シャイコースだが、同作が1941年に発表されてから時代が下って1980年、リン・カーターの「極地からの光(The Light from the Pole)」において再び日の目を見ることになる。

同作はエヴァグと同門の魔術師ファラジンが主人公の作品だが、「白蛆の襲来」とほぼ同じ構成の書き出しと構成となっている。

ファラジンは度重なる凶兆と突如現れた氷山による寒波の中で打開策を探るうちに、大陸各地に大被害をもたらしたルリム・シャイコースすら従僕として扱う旧支配者、極地の主の存在アフーム=ザーを見出すのである。

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