概要
本作は「週刊少年サンデー」2017年20号から2022年21号まで連載。作者は栗山ミヅキ。
正式なタイトルは「保安官エヴァンスの嘘 DEAD OR LOVE」。
「モテたい」という願望しか頭にない保安官が、恋路のために悪戦苦闘しまくるギャグ漫画である。
ハードボイルドな西部劇の世界観を丹念に描きながら、それとは真っ向反対の親近感溢れる駄目駄目なキャラクター達が俗っぽい願望の赴くままに右往左往するギャップが独特な空気感を演出しており、ある意味「怪作」と言って差し支えない内容である。
「週刊少年サンデー」2019年21・22合併号にて連載100話を達成。
物語の舞台は架空の西部であり、地名は日本の地名を英訳したモノが使われている。登場人物の名前には西部劇に携わった監督や俳優の名前が引用されている。例えば、作中の舞台は「サウザンドリーフ州」だが、これは千葉のそれぞれの漢字を英語に直訳したものである。
ストーリー
強き者が掟であった頃、西の荒野のどこかで…全ての犯罪者が最も恐れる保安官がいた。彼の名はエルモア・エヴァンス。
「モテたい」。その思いを幼少時から持ち、磨いた銃の腕前は超一流。だが彼は、未だに恋人いない歴イコール年齢。その事実はひた隠し、西部の荒くれ者たちと渡り合いながら、保安官エヴァンスは今日もカッコつける…
「愛?興味がないな」。最強ガンマンのウエスタン・コメディー!!(公式サイトより)
主要人物
- エルモア・エヴァンス
全ての犯罪者が恐れる凄腕の保安官(シェリフ)。
「ガンマンはイケてる。この世の真理だ…」と言う父親の言葉を信じ、モテたい一心で少年の頃から努力を続け、名の知れたガンマンとなったエヴァンスだが、彼は未だに恋人いない歴=年齢だった…。
実は作中ではそこそこモテてはいるのだが、女性の前でカッコつけすぎるため、空回りし続けてしまう。
「西部一のガンマン」の異名に相応しい早撃ち(クイックドロウ)は、リボルバーによる連射で悪党六人の銃を瞬時に弾き飛ばし、列車強盗団を一人で返り討ちにするという超人の域に達している。更には馬術やロープ(捕縛)術においても超一流と、その実力は確か……なのだが、「モテたい」という行動原理のためだけに「いのちをだいじに」の封印プレイを自らに課しているかのような生き様を見せる。
知名度が高く、街の人にも信頼されているため、女性のファンも存在する。また作中では依頼などを通して、エヴァンスを気に入る女性も出てくるが、タイミングが合わずに出会いをフイにする事が多い。モテる実力も資格も十分あるのに、肝心なところで何時もチャンスを駄目にしてしまう悲しいナイスガイである。そのため、モテる男を見るとひがみ根性がむき出しになることも……。
本質的には純朴かつ善良な青年であり、時折こぼす本音や下心抜きでとった行動の方がカッコいいことも多い。
- エヴァンスの父
フルネームは「カート・エヴァンス」
直接の登場回数は少ないが、エヴァンスの回想という形でほぼ毎回登場する。ダンディズム溢れる外見で、かなりモテていたようである(?)。
エヴァンスに数々のモテる秘訣を伝授し、(かなり主観の入った)カッコイイ男の生き様をたたき込んだ。その言動は(ある意味)真理を突いているが、聞き様によってはかなりゲスい。加えて『母さんの用意していた夕食を「いらん」と言った時、怖かったんだぞ』など、人間としての器にも若干疑問符が付く。ある意味エヴァンスの人生を狂わせた存在だが、エヴァンスからは人生の師として尊敬されている。
エヴァンスが独り立ちする直前に放浪の旅に出ており、『名無しのカート』という、名乗りたいのか名乗りたくないのか訳のわからない異名を方々に轟かせている。
ちなみに旅の理由は「放浪のガンマンがカッコいいから」というアホくさいもので、旅の途中で年甲斐もなく若い女性に声をかけている。だが、その“ついで”に様々な難事件を解決してきており、『決闘500戦無敗』といった凄まじいまでの逸話が賞金稼ぎ達の間に広まる程。
『無双出来る実力を伴ったアホ』という、ある意味もっとも厄介な部類の人間。
……でも、ある意味“西部の平和”に誰よりも貢献してるんだよなぁ、このオッサン……。
なお、妻(つまりエヴァンスの母)はめっちゃ普通に健在であり、カートは結婚記念日には欠かさず家に帰っている。
過去に一度、記念日を忘れてしまったためにブチ切れられて、ガッツリ恐怖の記憶を刻まれたから。
- テッド・ホール
保安官助手。西部最強の保安官であるエヴァンスに憧れる。まだまだ未熟な面が多く、足を引っ張る事もしばしば。発砲するシーンはないため銃の腕は未知数。エヴァンスを信奉するあまり、無自覚にトラブルを持ち込んだり話を厄介な方向に広げてしまうことも。
一方で、異様に推理力が高く、何の手がかりもない状態で落とし物がオークレイのものだと見抜いたり、果ては金庫の暗証番号すら解いてしまうほど。
- フィービー・オークレイ
女賞金稼ぎ(バウンティハンター)。射撃の腕前は超一流で天才少女として名を馳せていたが、かつて大会でエヴァンスに敗北し、以来何かとエヴァンスに張り合い、つきまとう。
しかし彼女は恋愛経験の無い『モンスター生娘』のため、その感情がライバル心によるものか、恋心によるものか、ファン心理なのかが自分でもイマイチわかっていない模様。ただ、物語が進むにつれ、その恋心にはかなり自覚的になっている。
ガンナーとしての実力は、エヴァンスには一歩劣るもののやはり「超一流」レベルで、相当数の賞金首を生け捕りにしてきている。……が、やや自信過剰で調子に乗りやすい所があり、「ガンガンいこうぜ」に固定しっぱなしな場面もしばしば。
根っこの部分では正義感と義侠心に溢れた心優しい女性であり、彼女に信頼を置く同性の友人も多い。
準レギュラー
- アビー・アーブ
連邦保安官助手を務める美女。賞金首と間違われたとある要人の警護をエヴァンスに依頼する。
愛想がなく真面目で威圧感があり、一見するとかなりクール。しかし、その実は不器用で、握手をしようとすれば手汗を気にし、相手から距離を取られれば体臭を気にし、普段から怒っていると勘違いされやすい自分の目つきを気にし、とかなり気にしすぎ・考えすぎな性格。
再登場した時は占いにあっさり騙されかけ、開運グッズを購入していた。
また、かなりの酒乱かつ酒好き。酒を飲むと、市長の頭をパシパシと撫でるなど、異様にだらしなくなる。さらに、記憶も消える事が多い。
要人の警護として別途雇っていたカートに『報酬としてデート』を要求されており、内心ビジネスパートナー以上の感情を持ちつつある。ただ、その時のデートでも酒を飲んだらしく、カートはその時のデートについて聞かれると、珍しく口ごもる。
- ルーベン・ウェイン
隣村のマークフラッグを管轄する隻眼の保安官。助手時代のエヴァンスの上司であり、保安官の師匠。
見栄っ張りでとにかく人からちやほやされたいおじさんであり、自慢の部下だったエヴァンスの名前を方々で出している。
ただし、当のエヴァンスからすれば父カートの美学の真反対にいる人物であるため、反面教師とされてしまっている。
ガンマンとしては二丁拳銃使いであり、無法者7人を一人で圧倒するなど、決して口や見栄だけではない腕を持っているが、弟子のエヴァンスには既に抜かされており、フィービーにも『無駄な動きが多い』とバッサリやられてしまった。
- マシュー・ジェイムズ
本作の舞台であるサウザンドリーフ州に隣接するケープボール州の元自警団員で賞金首。
爽やかなイケメンで、性格も真面目で正義漢溢れるため、女性に大変モテる。そのため、エヴァンスからは内心非常に嫉妬されている。
追われる身となったのも自警団内で横行していた私刑を止めようとしたためと、本人は清廉潔白。
ただし、鼻持ちならない女性ファンを侍らせがちであり(本人に自覚なし)、そのファンたちは大抵エヴァンスに無礼な態度を取る。ファンのせいで意図せずして『ムキになったら負け』な状況を作るため、エヴァンスにとってある意味で厄介な相手。
オークレイが取り逃がした数少ない賞金首であり、元同僚の自警団200人からも逃げ延びるなど相応の実力の持ち主。
しかし、銃の腕前はエヴァンスには遠く及ばず、西部一の称号をかけて決闘を申し込むもあっさり負けた。
決闘に敗れて以降はエヴァンスに一目置いており、自身がいた自警団が絡む可能性のある事件には協力を要請している(なお、マシューが賞金首なのはケープボール州での話であり、管轄違いのエヴァンスには捕まえる理由はない)。
- メリッサ・レイン
”デイリー・サンデー”の新聞記者。真面目でしっかりものに見えて実は結構なドジっ子。
エヴァンスの密着取材を申し込み、その過程で彼に好意を持つが、昔テッドの前でエヴァンスが張った『人気女優のミランダ・ケリーとの関係を匂わせる』という見栄がテッドの口の軽さと相まって誤解となり、更にエヴァンスが(苦し紛れで)放った一言で意図せず記者として未熟であると自覚したため、彼への思いを諦める。ちなみにこの時点ではオークレイは未登場であり、エヴァンスはメリッサへのアプローチのための指輪まで買っていたが、これも『ミランダ・ケリーに送るもの』と勘違いされてしまった。
その後再登場した時もばっちりこの勘違いを引きずっていた。再会したエヴァンスが誘拐された銀行家の娘マティ・ブリッジスを逃がすために、マティとオークレイと合わせて偽装家族を演じている真っ最中だったため、『最低の不倫男』と勘違いしてしまい、余計事態をややこしくしてしまった。
- ノーナ・ファニング
牧場で働く娘。当初はエヴァンスのファンと思われていたが実は助手のテッドのファン(恐らくエヴァンスには興味がない)。
基本的にエヴァンスには聞こえない小声で話すため、作中での台詞は現在の所一度もない。
嘘を見抜くことができ、見栄とかっこつけの塊であるエヴァンスや意地っ張りなオークレイにとっては天敵とも言える存在。
実際エヴァンスに対してはその見栄に気づいてるらしく、あざ笑ったりコケにした態度を取ることが多いが、一方でオークレイの恋路は素直に応援している。ある意味読者に近い立ち位置のキャラクターである。
テッドとは非常に親し気で保安官事務所にもよく遊びに来ており、『テッドと付き合っているのか』という問いを明確には否定しなかった。なお、後の話で、テッドと交際していると明言された。
- エド・ウィリアムス
賞金稼ぎ(バウンティーハンター)。常に冷静で頭が切れ、ガンナーとしても一流。更に『生死を問わずと書かれている懸賞首は必ず殺す』という信条を持ち、目的のためなら手段を選ばない冷酷な人物。ただし、保安官に自首した場合は見逃している。
何かしらの理由があって権力者側を嫌い、巨悪を追っているらしき描写があり、上記の信条と合わせて一種のダークヒーロー的な側面を持っている。
ーーのだが、この作品で一人だけ『真面目にハードボイルドをやっている』ため、エヴァンスと絡むと碌な目に遭っていない。
- マクスウェル・クエイド
保安官助手見習い。陽気で軽薄な若者。モテたいという理由で保安官を目指しており、テッドからは呆れられているが、エヴァンスからは内心共感されている。ただし、その『女性にモテたい』という願望をまるで隠さないため、エヴァンスからは『流派が違う』と認識されている。はっきり言って、実力はあまり無い。