概要
『鬼平犯科帳』や『仕掛人・藤枝梅安』に並ぶ、池波正太郎の代表作の一つであり、テレビドラマや舞台、漫画など、数多くのメディア化が多種に渡って成されている。
ドラマ版では、加藤剛・山形勲主演版、中村又五郎主演版、藤田まこと主演版、北大路欣也主演版が制作発表されている。
あらすじ
「無外流」の老剣客、秋山小兵衛は、息子の秋山大治郎や、田沼意次の娘であり女剣客の佐々木三冬、御用聞きの弥七など、あらゆる人びととの縁を結び、生かしながら、様々な事件を解決していく。
登場人物
秋山小兵衛
無外流の達人として知られる老剣客。通称「大先生」。
小柄な体躯で一見して人の良い老人にしか見えないが、老いて尚その剣は冴え渡っている。
長きに渡って江戸で剣客として暮らしていたため、世の中の表も裏も熟知している。
早くに妻を亡くし男で一つで育てた息子・大治郎が武者修行の旅から帰ってきたのを機に道場を畳んで隠居し、鐘ヶ淵で気ままに生活している。
一方で生来の人の良さと好奇心、そして息子を思う気持ちから、様々な揉め事に介入していく。
「剣術をやめてからは女のほうが好きになった」ということで、後妻に親子ほど年の離れた娘おはるを迎えている。
秋山大治郎
小兵衛の息子でやはり無外流の達人。剣客としての第一歩を踏み出した若者。通称「若先生」。
剣の道を志したことで父のもとを離れて武者修行の旅をし、江戸に戻ってきて父から道場を与えられ独り立ちしたことから物語が始まる。
剣の腕は凄まじく強いが、まだ世の中の事を知らず、序盤は門弟もおらず、父に助けられることもしばしばだった。
しかしそうした剣客商売の中で経験を重ね、やがて父そっくりに機転を利かせたり、門弟も増えていくなど立派な剣客へと成長していく。
おはる
小兵衛が後添えとして結婚した若い娘。もとは彼の身の回りの世話をする奉公人で、農家の娘だった。
のんきで明るい性格だが小まめに小兵衛の世話を焼き、料理は上手く、夫婦の仲は睦まじい。
小兵衛を慕って家に通う三冬に嫉妬する面もあったが、小兵衛と祝言を上げてからは親しく会話をすることも増えた。
また漁師の叔父に仕込まれて船を漕ぐのも得意で、小兵衛が移動する際には彼女が船を操る事が多い。
大治郎からは「母上」と呼ばれており、恥ずかしがりながらもまんざらではない様子。
佐々木三冬
老中・田沼意次の隠し子であり、一刀流の達人として知られる女剣士。
その複雑な生い立ちから極めて潔癖な性格であり、老中として采配を振る父の行いを嫌い、男装して剣術に打ち込み続けていた。
しかしそのせいで揉め事に巻き込まれ、窮地を秋山小兵衛に救われたことで秋山親子と関わりを持つようになる。
当初は小兵衛への憧れを恋慕と勘違いしていたが、やがて大治郎へと恋心を抱くようになり、彼と結婚して夫婦となる。
四ツ谷の弥七
四谷・伝馬町を縄張りとする岡っ引きで、妻は武蔵屋という小料理屋を営んでいる。
土地の評判も良く地元では「四谷の親分」や「武蔵屋の親分」と呼ばれている。
かつて小兵衛の元で剣を学んでいた。
傘屋の徳次郎
四ツ谷の弥七の手下(てか)。
通称傘徳で、特技は尾行。
些細な事で人を殺めてしまった事があり、その現場に駆け付けた弥七が一目で気に入り「自分の下で働くなら罪を不問にする」という条件で罪を免ぜられ、その恩義から弥七の手下になったという過去がある。
解説
大成した後に隠居した清濁併せ呑む老剣客に見守られながら、その息子で剣腕は滅法立つが世の中のことを知らない若き剣客が成長していく姿を描く長編剣豪小説。
剣を生業とする二人は大名家にかかわる陰謀や、市井の細やかな揉め事、時には過去の因縁などに関わりながら剣を振るい、日々を生きていく。
池波正太郎お得意の人情味はもちろん、料理描写も素晴らしく、その他、他の作品では憎まれ役・悪役であったり、世間への悪名ばかりで出番そのものがなかったりする田沼意次公が清濁併せ呑む味のある大人物として描かれている数少ない時代劇でもある。
また、実写版も幾本か存在し、時代劇ファンに愛されている。
実際に池波正太郎が秋山小兵衛のモデルとした中村又五郎主演版も有名だが、特に藤田まこと演じる主人公の飄々とした人柄は、必殺仕事人の中村主水と並び「藤田まことのはまり役」と好評であった。
余談
また剣の腕も確かで女にモテる小兵衛は現在のライトノベル主人公に通づるものがあると称されることも。