概要
汽車のえほん(原題:The Railway Series)は、ソドー島で巻き起こる機関車のハプニングを収めた絵本である。
絵本の誕生経緯はウィルバート・オードリーが息子に聞かせた機関車の物語を妻のマーガレットが出版することを勧めたことがキッカケある。(詳しくは後述の歴史の項目を参照)
作品全体の主人公は定まっておらず、各巻・各話で主人公が異なるオムニバス形式で物語は進行する。
また時間軸は、蒸気機関車が現役なので固定かと思いきや、実は巻を進むごとに時間が進んでいる。
本作は子供向けの作品ではあるが、原作者のウィルバート・オードリーが筋金入りの鉄道好きだった事とリアル志向であったため、リアリティーが高い作品である。
本作の映像化作品はきかんしゃトーマスである。
歴史
誕生
時は1942年、世界は第二次世界大戦が真っ只中の頃である。
イギリスで牧師をするウィルバート・オードリーには幼い息子のクリストファーがいるが、元々病弱だったため、麻疹にかかってしまい寝込んでいた。
そんな息子を元気づけるためにウィルバートとその妻のマーガレットは様々な童話や詩を読み聞かせましたが、ネタが尽きてしまいます。しかし、クリストファーには飽きない詩がありました。それは、機関車の詩でした。
そこで、ウィルバートはその詩の一節を絵に起こしました。
その絵は、機関区にたくさんの機関車が並んだ絵でした。
その絵はただの機関車ではなく、顔が書かれた機関車で様々な表情をしていました。
その内の一つ機関車についてクリストファーは質問しました。
クリストファー『どうして彼は悲しそうな顔なの?』
ウィルバート『彼は年老いていて、長い間外に出ていないからさ』
察しの良い方はお気づきだろう。この機関車は麻疹で寝込んでいるクリストファーと照らし合わせた機関車だったのです。
クリストファーはさらに続けて質問します。
クリストファー『彼の名前は何なの?』
ウィルバート『彼の名前はエドワードさ』
こうしてエドワードというキャラクターと「エドワードのたのしい1日」という物語が誕生しました。
この話を気に入ったクリストファーは新たな物語を聞きたがり、ウィルバートの子供時代に見た貨物列車から「エドワードとゴードン」を、さらに「なさけないヘンリー」が創作されました。
この3つの物語は何度も聞かせるうちに、クリストファーから内容の変化による矛盾を指摘されるようになり、物語を書き残すようになります。
そんなクリストファーに読み聞かせるためだけに生まれた機関車の物語にウィルバートの妻マーガレットは、出版の可能性を見出していました。
マーガレットはウィルバートに言いました。
マーガレット『クリストファーに聞かせた物語を出版してみない?』
しかし、ウィルバートは当初ためらってしまいますが、マーガレットの説得により出版することに同意しました。
早速「エドワードのたのしい1日」「エドワードとゴードン」「なさけないヘンリー」の3本を草案として、様々な出版社に草案を送り、1943年9月に出版社の「Edmund Ward, Ltd. (エドモンド・ウォード社)」から条件付きで出版すると返事が返ってきました。
その返事とは、
閉じ込められたヘンリーを挽回させる話を作って欲しい
というものだった。
ウィルバートはその条件をのみ、『なかよしになった3だい』を加えた草案で出版の準備を整えました。
しかし、前述した通り、世界は第二次世界大戦の真っ只中で紙不足のために出版は延期されました。
1945年、ついにThe Three Railway Enginesが刊行されました。評価は成功といえ、続編を作ることになりました。
これがThe Railway Series誕生の流れである。
幕引き
The Railway SeriesはThe Three Railway Enginesの成功で幾多のアクシデントが起きつつも、20冊以上の続編が作られる程の人気な作品となっていました。
しかし、ウィルバートは作品作りに行き詰ってしまい、1972年に発刊された第26巻Tramway Enginesで幕を閉じることにしたのです。
父から子に受け継がれるバトン
The Railway Seriesに幕が引かれて11年後の1983年の事でした。
この年にトビーのモデル機が走るウィズベック・アンド・アップウェル路面鉄道の100周年イベントの際、クリストファーが執筆したある物語をウィルバートとマーガレットに見せました。
それは、機関車たちの新しい物語でした。
時はやや戻り、クリストファーがネーンバレー鉄道に訪れた時のことでした。
その鉄道で働く機関士から、ネーンバレー鉄道で起きた出来事をウィルバートに書いてもらえないかという提案を受けました。
しかし、前述した通りウィルバートは執筆活動から手を引いており、クリストファー自身が執筆することにして『Triple-Header』を書き上げたのでした。
クリストファーの息子、リチャードに見せた後に前述した100周年イベントを利用し、父・母にその物語をクリストファーに見せたのです。
2人は大絶賛し、ウィルバートは物語を出版社に持っていくことを勧め、勧められた通りに出版会社に投稿しました。
その会社は以前からThe Railway Seriesを出版していた「Kaye & Ward, Ltd.(ケイ・アンド・ワード社)」(Edmund Ward, Ltd. (エドモンド・ウォード社)と別会社が合併して誕生した会社)で放送を控えていたきかんしゃトーマスとのタイアップの見込みがあったため、The Railway Seriesの続編である第27巻Really Useful Enginesとして世に出ることになったのです。
しかし、問題が起きたのです。
「Kaye & Ward, Ltd.(ケイ・アンド・ワード社)」が「Heinemann(ハイネマン)」という大手出版社に買収され、その社長がThe Railway Seriesを毛嫌いしていたのです。
ですが、The Railway Seriesの担当だったローズマリー・デブナムの固執により続けることが出来たのでした。
暗雲立ち込めるThe Railway Series
1996年の事です。「Heinemann(ハイネマン)」の児童書籍の販売権を売却し始めたのです。
これが、The Railway Seriesに取って最悪の始まりでした。
1997年3月21日、最初の原作者であるウィルバートが亡くなりました。
1998年までにきかんしゃトーマスを製作するブリット・オールクロフト社にThe Railway Seriesの著作権が譲渡されました。
出版権に関しては『Egmont Publishing(エグモンド・ブックス)』へと移管した。
ここで少し、きかんしゃトーマスの製作に関する話を挟む。
この時、従来のきかんしゃトーマスは原作を使用する契約だったものをブリット・オールクロフト社が独自のオリジナルストーリーを製作する契約に変更した。
テレビシリーズは世界観、設定が原作と大きく異なり、視聴層である幼児の混乱が予想された。
そんなブリット・オールクロフト社が取った対応は原作層には衝撃的なものだった。
- The Railway Seriesの出版にはブリット・オールクロフト社の許可が必要になった。
- 視聴層の幼児たちの混乱を避けるため、バラ売りのThe Railway Seriesの流通をコントロールして品薄状態にする。
- 品薄にさせる代わりとして、大人向けに大判の全巻合本・高価な全巻BOXの流通の実施。
以上の対応はきかんしゃトーマスサイドのマーケティング的には成功したと言えるが、原作サイドに対してはひどい仕打ちだったと言えよう。
また、『Egmont Publishing(エグモンド・ブックス)』の新装版のThe Railway Seriesのデザインや構成は、あまりにもひどい出来でファンからは不評と散々だった。
努力と終焉
クリストファーは、この状況に対して何もしなかった訳ではなかった。
クリストファーは、『Sodor Enterprises(ソドーエンタープライス)』と言う企業を作り、Eastbourne Seriesを執筆していた。
2005年にはThe Railway Seriesの刊行60周年記念で、『SODOR Reading Between the Lines』と言うクリストファーによるThe Railway Seriesの見解・考察をまとめた本を執筆した。
同年、前年に『Egmont Publishing(エグモンド・ブックス)』によるウィルバート原作のThe Railway Seriesをオリジナル版で再発行を実施したことに対し、クリストファーは、クリストファー原作のThe Railway Seriesのオリジナル版再発行を『HIT社』・『Egmont Publishing(エグモンド・ブックス)』に求めたものの却下するという相変わらずの対応を受けます。
しかし、クリストファーは、諦めませんでした。
クリストファーは、あるキャンペーンを始めます。
『Get Thomas Back on Track(直訳:トーマスをもとの線路に戻そう)』というものでした。
イギリスの書店巡り、署名活動などが功を奏し、2006年にクリストファー原作のThe Railway Seriesのオリジナル版再発行が実施された。
2007年には、11年ぶりの新作『Thomas and Victoria』が発刊されました。
2011年7月、最後のThe Railway Seriesとして『Thomas and his Friends』が発刊され幕を閉じることになりました。
日本での歴史
さて日本でのThe Railway Seriesの歴史はどうだったのだろうか?
翻訳するきっかけとなったのは、本作を後に翻訳することになる桑原三郎がイギリスに在住中にThe Railway Seriesを本屋で偶然見つけて親子で呼んだことがキッカケだったという。
この編集は、桑原三郎の他に清水周裕も加わった2人で翻訳を務めている。また、京成電鉄取締役(のちに北総開発鉄道の社長)もやっていた黒岩源雄の鉄道用語監修が入っている。
出版はポプラ社から出版されている。
1973年11月からThe Railway Seriesは『汽車のえほん』として26巻まで発刊されていきました。
なお大きさは、イギリスのThe Railway Seriesよりも大きめの本となっている。
一時期は絶版が続き入手困難となっていました。
2005年、新装版がポプラ社から発刊されます。
大きさは旧日本版よりさらに大きい本となりました。
しかしこちらは、15巻までしか発刊されませんでした。
2010年12月、ミニ新装版がポプラ社から発刊されます。
大きさは、イギリスのThe Railway Seriesとほぼ同じサイズに小さくなりました。
発刊は26巻まで行われたうえ、バラ売りの他、26巻セット販売もされました。
2013年7月、日本版では初の全巻合本である『汽車のえほんコレクション』が発刊された。
収録は1巻から26巻となった絵本である。
とはいえ、実はクリストファー原作の27巻から42巻は未発刊のため、日本で楽しむのは難しいのが現状である。
クリストファー原作の日本語版の発刊を待ち遠しく感じるファンも多い。
しかし、2023年11月に日本での発刊50周年を記念して、27巻「ほんとうにやくにたつ機関車」が発刊され、ここで晴れてクリストファー原作の日本語版が読めるようになった。
作風
汽車のえほんの作風は概要に書いた通り、子供向けながらリアリティーが高く、鉄道用語がサラっと出てきたりしている。
またイギリスの鉄道事情が分かる風刺作品のような側面も持っていたため、イギリスの鉄道が分かる専門書と言う人がいるほどである。
故に子供だけでなく大人でも楽しめ、大人のファンがいるほどである。
子供に寄り添った作品作り
ウィルバート・オードリーは子供を大切にし、子供たちを見下すような書き方はしなかった。
また、出来上がった物語を子供たちに読み聞かせて反応を見て、笑ってもらえれば良し、反応が悪ければ書き直しを行っている。
また第4巻がんばれ機関車トーマスの収録話の『トーマスとバーティー』は子供たちから競争が不公平なものでバーティーには障害物が多くて勝てるものではないと言われ、地図を書いたりトーマスにも障害物がある事を教えて子供たちを納得させている。
世界観の作りこみ
汽車のえほんの舞台となるソドー島は当初は設定されていなかったが、物語を続けていく中で矛盾点を指摘する手紙が来るようになっていた。
そこでウィルバート・オードリーは矛盾を発生させないようにするために弟のジョージ・オードリーと共に島の言語や歴史と言った細かい設定まで作りこんだ舞台づくりを行った。
その作りこみは歴史を語るために1冊の本が出来るほどである。
時間軸の進行
汽車のえほんは1巻から42巻まで蒸気機関車が登場し続けているため、一見すると時間軸が止まっているように見えるが、実は時間軸は巻が進むごとに進んでいる。
以下はその例である。
- 1巻から42巻まで登場した太っちょの局長(トップハム・ハット卿)は、同じ太っちょの局長ではなく、初代・二代目・三代目の3人であり、初代の息子が二代目で、初代の孫が三代目である。
- インターシティー125のピップとエマという当時主力だったディーゼル高速列車が登場した。
実在した出来事の取入れ
汽車のえほんの原作者のウィルバート・オードリーは嘘を子供に教えるのは良くないと言う考えの持ち主で、作品で起きたトラブルは実際に起きた事故を元に作成されている。
また4大私鉄の大合併・イギリス国鉄の蒸気機関車全廃と言った出来事も作品に反映している。
実在の鉄道・車両の登場
作品内に登場した機関車の中には本当に実在する車両が登場したりする場合がある。
例えばステップニーは実在する保存鉄道のブルーベル鉄道所属でノース・ウェスタン鉄道の招待でやって来ている。
このように実在する保存鉄道を登場させる事は広告塔としての役割になり、保存鉄道の手助けにもなっている。
多様な鉄道用語
作品で登場する単語はガッツリと鉄道用語が使用され、発雷信号・加減弁・排出機と言った子供が普段の生活で覚えない単語が使用されている。
挿絵担当
汽車のえほんのイラストは、原作のウィルバートが絵が苦手だったため、別の人が担当することになりました。
その担当した人は、数々いて様々な出来事がありました。
The Railway Series1番目の絵師で、3だいの機関車を担当した。
絵は、柔らかいタッチが特徴。
リアリティーにこだわるウィルバートからは、がっかりされて降板した。
The Railway Series2番目の絵師で、機関車トーマスを担当した。
絵は、リアリティがあり、油絵の絵画のようであった。
リアリティーにこだわるウィルバートからは、高評価を受けたが、海軍の仕事で神経衰弱してしまったため、降板してしまった。
The Railway Series3番目の絵師で、3だいの機関車からちびっこ機関車パーシーを担当した。
絵は、鮮やかな画風で、風景がとても綺麗なのが特徴。
彼の親しみやすい画風は人気であった一方で、リアリティーにこだわるウィルバートからは機関車などのリアリティなどに問題があって不満を抱いていた。
ダルビーとウィルバートの仲はとても悪く、パーシーのイラストに対してウィルバートが、まるで赤線が入った芋虫みたいだと言われて、激怒したダルビーは降板した。
The Railway Series4番目の絵師で、8だいの機関車からゆうかんな機関車を担当した。
絵は、機関車の描写が良く、やや薄暗いポスターのような絵が特徴。
リアリティーにこだわるウィルバートからは、絶賛されていた。
しかし、眼疾患が原因で視力が低下してしまい、降板した。その後、その眼疾患が原因で62歳という若さで亡くなった。
The Railway Series5番目の絵師で、夫婦で担当した。がんばりやの機関車からわんぱく機関車を担当した。
絵は、リアリティーが高く、The Railway Seriesで一番画力が高いと言われる。
ウィルバートの評価は、良かった。
ウィルバート原作の挿絵を最後まで担当したが、クリストファー原作の時は親しみに掛けるという理由で、担当することはなかった。
The Railway Series6番目の絵師で、Really Useful EnginesからThomas and his Friendsを担当した。
絵は、レジナルド・ダルビーにリアリティーを足したような絵が特徴。
The Railway Seriesを読んでいた読者でもあった。
クリストファー原作の挿絵を最初から最後まで担当し、ウィルバートのThe Railway Seriesの番外編の挿絵も担当した。
キャラクター一覧
詳しくは、汽車のえほんのキャラクター一覧を参照。
汽車のえほんの刊行一覧
詳しくは、汽車のえほんの刊行一覧を参照。
映像化作品
汽車のえほんは3回映像化が計画された。その内の1つが『きかんしゃトーマス』である。
詳しくはきかんしゃトーマスの記事を参照。