概要
基本的には静岡県の方言である「ずら」を主な語彙とするが、アクセントは中輪東京式であり、第一音を強く言う。否定する際は「…ない」ではなく「…ん」という独特の言葉である。
禁止の言葉は「ちょ」や命令表現の後に、終助詞「し」を付ける。「○○しろし」「○○しちょし」は「○○しなさい」という意味となる。
言葉とそのニュアンスが標準語とはかなりかけ離れており、たとえば「あなた、こちらに来てください」を甲州弁でいうと「おまんこっちんこうし」と文章の中に放送禁止用語が2つも入ったりする。そのため、初めて甲州弁を聞いた人は驚くことが多い。また、全体的に発音が高圧的と捉えがちで、普通に甲州弁を話しているつもりが相手からすると怒っている、または乱暴と感じる人も多い。
人気最下位の影響
このように首都圏では特異な性質を持つ甲州弁であるが、これが災いしてか方言ランキングでは常に最下位の状況が続いている。理由として東京に隣接している立地から東京方面から山梨へ移住または観光へ行きやすいが、現地で会話が通じないうえ概要の通り卑猥や乱暴と捉えられがちで嫌悪感を抱き、甲州弁を敬遠するというケースが多い。逆に山梨から東京方面へ移住する人が会話にならないという理由から、孤立しがちになることもある。
20世紀頃までは一部を除き特に問題になることはなかったが、21世紀になるとインターネットによる情報の詳細化や秘密のケンミンSHOWをはじめとしたご当地をネタに番組にした番組が増え、その中で方言ランキングでは常に最下位となり、それに注目した番組側が甲州弁を話題にするようになる。また、秘密のケンミンSHOWに出演していた山梨県出身の某芸能人が甲州弁について自虐的な態度をとったり、月曜から夜ふかしでは「ブサイクな方言ワースト1」として特集されたうえで「放送上完全アウトだが、あくまで甲州弁です」と紹介されてしまったため、甲州弁が笑いや卑猥のネタとして広まってしまった。
このように甲州弁は周りからよろしくないイメージがついているため、県外へ転出した人は甲州弁から標準語への矯正から始めることがあり、山梨へ帰省しても甲州弁を話したがらないという人が多い。また県内でもテレビやネットの影響で甲州弁の悪いイメージが広まってしまい、若者層を中心に甲州弁を敬遠する人が増えている。一方で老年層を中心に甲州弁に誇りを持っている人もおり、メディアやネットで甲州弁論争がしばし発生する状況になっている。
山梨県内でも甲州弁を使う人は限定的?
「甲州弁は山梨県民全体が使う」と思われているが、実は県内でも純粋な甲州弁を喋る人は甲府盆地とその周辺のみである。たとえば富士吉田市をはじめとする富士五湖周辺は西関東方言に近い郡内弁となり、甲州弁とは異なる方言を使う。また、静岡県に隣接する地域は駿河弁、長野県に隣接する地域は中信方言が混ざっていたりする。特異な例として早川町の奈良田地区では奈良田方言というのがある。これは8世紀に孝謙天皇が湯治のため一時的に住んでいたため独自のニュアンスが生まれたとされ、発音が甲州弁のものとはかなり異なってくる。
このように地域によって方言がバラバラであることから、同じ地域に長年住む人同士でも言葉が通じなかったり、時には親が甲州弁で子が郡内弁という有様で、親子間ですら話が通用しないという状況である。近年では先述のように甲州弁に嫌悪感を抱く県民が増えているため、この傾向が一層強まっている。
対応と啓発
上記のような扱いを受けている甲州弁であるが、甲府盆地とその周辺ではいまだこの言葉を使う人は多く、またマイナスイメージを危惧した識者を中心に甲州弁を大切にしようという試みが行われている。
たとえばショッピングセンターでのショーや不定期で山梨放送にて番組が放送されているご当地ヒーロー「甲州戦記サクライザー」は会話がすべて甲州弁となっており、啓発的な意味合いもある。また、LINEでは甲州弁関連のスタンプも発売されており、甲州弁での会話ができるようになっている。
興味がある人は試しに使ってみてはいかがだろうか。
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高森奈津美:素になると甲州弁になる。