概要
色域とは、色を扱う装置などにおいて、その対象が扱える色の種類を、人間が視覚で感じることのできる色と比べて、範囲として示したものである。
色域が広い、ということは彩度が高い色を扱えることを指す。(濃い、ドギツイ色が出せる)
一般的に電子的な表示装置(ディスプレイ)の色表示特性とその標準規格において使われる概念である。
色域の不一致
現代のコンピューターとディスプレイの通信では各画素のRGB値を相対値で(%で)送っているので、「赤チャンネル100%」と指令されるとディスプレイは自身が出せる最大彩度の赤を出そうとする。しかし、もし再生している映像がディスプレイの色域とは違う色域で制作されていた場合、制作者の意図していない色が表示されることとなる。
この現象は高色域とsRGBなど標準色域が混在している現在ではよく発生する。
また、古いビデオ映像やゲーム機などを現代のディスプレイに繋いだ時などにも僅かだが発生する。
こういった不具合を改善するために、動画ファイルや画像ファイルにはその作品の作成時に使った色域が「メタデータ」として埋め込まれており、コンピューターのOSやインターネットブラウザなどがその情報をもとに色を変換して、制作者が意図した正しい色で表示する「CMS (Color Management System)」が使われている。
色域の例
現在の世界標準であるRec.709やsRGBより広い色域は「WCG (Wide Color Gamut)」と呼ばれる。
- NTSC 1953 アメリカでカラーテレビ放送が始まった際に定められた色域。映画のフィルムに負けないように強い彩度に対応しており、現代で標準的なRec.709よりも色域が広い。 しかしこの色域に対応したブラウン管は画面が暗かったり残像が出たりしたため、そのうち家電メーカーは明るさや残像を改善した彩度の低い独自の色域を採用しはじめた。
- SMPTE C (SMPTE 170M, NTSC 1987) 家電メーカーごとにバラバラになった色域を正すために、実用的なブラウン管の性能を元に作られた色域。Rec.709の元になっている。
- EBU Tech. 3213 欧州のテレビで用いられた色域。SMPTE Cとほぼ同じだが、RGB原色の位置が微妙に異なる。 何故か日本のテレビ業界も1990年代から10年ほど使用しており、業界標準とされたSONYのブラウン管はこの色域で表示していた。
- NTSC-J 正式名称ではなく便宜上の名称で、日本のテレビ業界で慣習的に使用されていた特殊な色域。RGBの位置はSMPTE CかEBU。 そして白色点と呼ばれる「RGB信号のレベルが全てMAXになったときに画面に表示される白色の位置」が9300kとなっている。(この数字は白色の種類を示す色温度というもの) 基本的に欧米の白色点は6500kだったので、日本で作られた映像を欧米のテレビや現代のディスプレイに写すと妙に青白くなる。(ある同じ景色を6500kのカメラと6500kのテレビ、9300kのカメラと9300kのテレビで写した場合、テレビに表示される色は同一である。あくまでテレビと映像を取り違えると青白くなるだけである。) 困ったことに日本で作られた作品でも白色点はバラバラであり、6500kのカメラを使用した作品も存在したりと混乱をきたしている。 2000年代以降は後述のRec.709(6500k)に切り替えらえれたが、それでも9500k設定のカメラで撮影したり、家庭用テレビの設定が9300kに設定してあったりと混乱が続いている。
- Rec.709 「ITU-R Recommendation BT.709」という文章で標準化されている色域で、高精細度テレビで使用されている。1990年代に標準化されたもので、当時のブラウン管で普及していた色域をほぼそのまま採用して今に至っている。BT.709とも呼ぶ。
- sRGB コンピューター向けディスプレイの業界標準 Rec.709の流用
- CMYK プリンターの業界標準 sRGBでは表示できない彩度の強い色を含んでいるため、標準的なディスプレイではプリント時の仕上がりを確認できない。
- AdobeRGB プリンターによる印刷の仕上がりをディスプレイ上で確認するために作られた。DTPで使われる。
- DCI-P3 美しい映像のために、sRGBより彩度の高い色を扱えるようにした色域。デジタル映画で使われる。
- Rec.2020 さらに美しい映像のために、RGBで表現できる最大の範囲に広がる大範囲の色域。超高精細度テレビジョンで使われる。「ITU-R Recommendation BT.2020」で標準化されており、BT.2020とも呼ばれる。 この色域を完璧にカバーした表示装置は実現が難しいとされている。