描き下ろし本格推理
今明かされる
〝迷路館殺人事件〟衝撃の真相!?
1.綾辻行人の推理小説。館シリーズ第3作目。
2.館シリーズに登場する推理作家・鹿谷門実のデビュー作。
概要
館シリーズ第3作。
その名の通り廊下が迷路になっているという狂気の館。
構造は異なるもののゲームでフルポリゴンで再現された際には作者からして「こんな館には住みたくない」「各部屋にトイレを付けておいてよかった」と攻略本で語ったほど。
作中作の形式を取っており、鹿谷門実作の『迷路館の殺人』には目次やあとがきは当然ながら、扉や奥付まで用意された念の入り用。
そのため、新装改訂版を含め2度の文庫化がされているものの、作中の『迷路館の殺人』同様に新書判である、親本で読むのが一番雰囲気が出るかもしれない。
作家が小説に見立てて殺害される関係から、作中作の中にも小説が登場するため作中作中作、その中に作中作形式のものもあるため、作中作中作中作という、虚実入り乱れる、タイトル通りの迷路の中に放り込まれたような気分にもなるだろう。
色々ネタバレされる危険が高い、というか検索サジェストでまでネタバレされるため、読む前にタイトル名で検索する事すら辞めたほうがよい作品でもあり、シリーズを発表順に読むことが推奨される理由の一つでもある。
あらすじ
1.
風邪をひいた島田が鹿谷門実から送られた『迷路館の殺人』を読む。
2.
推理作家の巨匠・宮垣葉太郎の還暦パーティーに招かれた4人の推理作家、評論家、編集者、そして島田潔。
しかし、時間になっても宮垣は現れず、代わりに秘書の井野が宮垣が自殺した事を告げ、遺言となるテープの内容を公開する。
それは
4人の作家に対し、宮垣の遺産の相続権を賭けて
『“迷路館”を舞台とした、自分が被害者となる殺人事件をテーマとした推理小説』
を執筆せよ。
というものだった。
編集者、評論家、そして島田潔はマニア代表としての審査員の役割を果たすために招かれたのだった。
驚愕しながらも、多額の遺産の為に作家たちは各々執筆を始める。
だが彼らは次々に小説の見立てどおりに殺されていく……
登場人物
1.
- 島田(しまだ)
九州の寺の息子。風邪をこじらせて寝込んでいた所、鹿谷門実から送られた『迷路館の殺人』を読む。読み終えた後、納得のいかない部分を本人に直接訊きに行く。
- 鹿谷門実(ししや かどみ)
デビュー仕立ての推理作家。迷路館にて体験した異常な出来事を『迷路館の殺人』という一種の再現小説として発表する。
2.
迷路館の各部屋はギリシャ神話から取られている。最後に記すのは各人の部屋名である。
- 宮垣 葉太郎(みやがき ようたろう)
推理作家。60歳。迷路館の主人。戦後間もない1948年に21歳の若さで『瞑想する詩人の家』にてデビューし、以来、推理小説界を席巻してきた推理作家界の重鎮。中でも長編『華麗なる没落の為に』は推理小説三大奇書に並び称される日本推理小説史上の金字塔として絶賛を浴びる。
自らが実名で活動してきたこともあってか筆名否定論者であり、筆名を名乗っている弟子たちにも現実世界では実名で呼び合うようにと言い付けている。宇田山から妻が妊娠していると聞かされただけで眉をひそめる程の子供嫌い。
鹿谷著の『迷路館』は登場人物の大半は仮名とされているため、『時計館の殺人』でも「迷路館に住んでいたあの先生」のように名前では呼ばれなかったが『暗黒館の殺人』文庫版にて実際の名前は「宮垣杳太郎」とされ、本作でも新装改訂版にて付加された。
書斎は《Minoss》(ミノス)
- 清村 淳一(きよむら じゅんいち)
推理作家。30歳。デビュー前は「暗色天幕」(あんしょくてんと)という小さな劇団に所属していた。エイプリルフールにちなんだ悪趣味なイタズラをしかけたように、一見すると好青年だが、一筋縄では行かない性格。まどかとは元夫婦。
自室のワープロに残された『闇の中の毒牙』に見立てられ、《Medeia》(メディア)にてニコチンで毒殺される。
部屋は《Theseus》(テセウス)
- 須崎 昌輔(すざき しょうすけ)
推理作家。41歳。中世ヨーロッパを舞台にした本格ミステリを得意とする。作家としての実力は編集者である宇多山も認めるほど高いが、非常に遅筆で編集者からは敬遠されがちである。同性愛者で、最近は林のことを口説いていた。
応接間《Minotauros》(ミノタウロス)にて、『ミノタウロスの首』に見立てられて殺害されるが、小説と異なり中途半端に首を切られ、それを覆うように剥製の牛の首が置かれている。
《Talos》(タロス)
- 舟丘 まどか(ふなおか まどか)
推理作家。30歳。デビュー当時は若くて美人の女流新人作家として注目されたが、その後は伸び悩みの状態が続く。清村とは元夫婦。
他の作家が自分の書いた作品に見立てられて殺害された事から、ならば自分は書かなければいいのではないかと考えるが……。
《Ikaros》(イカロス)
- 林 宏也(はやし ひろや)
推理作家。宮垣の弟子の中では最年少の27歳。気が弱い。
迷路館内では宮垣の意向で筆名を会話の中でも使わない事を厳命されているため、作家たちは本名でしか呼ばれないが、唯一作中作形式の『ガラス張りの伝言』内にて彼の筆名が堀之内和宏である事が明かされている。
《Aigeus》(アイゲウス)
- 鮫嶋 智生(さめじま ともお)
評論家。38歳。9歳になる息子・洋児がいるが、生まれつき重度の知的障害を抱え身体もあまり丈夫ではない。新人文学賞の評論部門で宮垣の絶賛を受け、評論家としてデビューした。評論家になる前は高校の数学教師をしていた。
《Pasiphae》(パシパエ)
- 宇多山 英幸(うたやま ひでゆき)
大手出版社「稀譚(きたん)社」の編集者。宮垣の担当であり、その作品のファンでもある。40歳。大変なお酒好き。
『黒猫館の殺人』にも彼と思しき編集者が登場する。
《Poseidon》(ポセイドン)
モデルは講談社の編集者であった宇山日出臣。
- 宇多山 桂子(うたやま けいこ)
英幸の妻。33歳。夫のことを“宇多山さん”と呼ぶ。現在妊娠中。医大卒で、耳鼻咽喉科に医師として勤めていたが、患者との人間関係に悩み辞めた。
《Dionysos》(ディオニュソス)
- 井野 満男(いの みつお)
宮垣の秘書。36歳。5日間迷路館外に出られない作家らに代わって買い物に行くはずだが、翌日から姿を見せなくなる。
《Europe》(エウロぺ)
- 角松 冨美(かどまつ ふみ)
迷路館の使用人。63歳。給料分の仕事をする以外にはあまり関心がない。新装改訂版では名前が「フミヱ」に変更されている。
《Polykaste》(ポリュカステ)
- 島田 潔(しまだ きよし)
37歳。推理小説マニア。中村青司の館を見たくて迷路館へ向かっていたところ、宮垣と知り合う。十角館や水車館など青司の館で起きた事件に関与した話題で気に入られ、今回「推理小説マニア代表」としてパーティーに招かれる縁となった。
《Kokalos》(コカロス)
- 黒江 辰夫(くろえ たつお)
宮垣と深い付き合いの先生で、彼が肺がんを患っていたと皆に告げる。
以下ネタバレ注意
僕だって、エイプリル・フールには一つぐらい嘘をついてみたいじゃありませんか
1の続き。
- 島田勉(しまだ つとむ)
冒頭で『迷路館の殺人』を読んでいた島田。島田家長兄。犯罪心理学者。『迷路館』内で島田潔は長男は行方知れずと言っていたが、それは彼の嘘であった。
- 鹿谷門実
島田潔。鹿谷門実著の『迷路館の殺人』あとがきに作品中の人物名などについて大半に仮名が用いられているとありながら、過去2作に登場した、読者のよく知る島田潔そのまんまの人物が島田潔という名で登場するのは、要するに島田本人が執筆していたからである。
なお、鹿谷門実=島田潔は後の作品は当然ながら多くの場所でネタバレとか気にされることもなく語られるため、先に正体を知ってる人ほど逆に「なんで島田(鹿谷)が鹿谷から自分の書いた本をもらってるんだ?」と混乱する事もあるだろう。
- 内田直行(うちだ なおゆき)
鹿谷門実著の『迷路館の殺人』奥付に記された発行者。
その正体はこれまた我々読者のよく知る人物である。
『ナイトメア・プロジェクトYAKATA』での迷路館
原作と同様の推理作家殺害事件が発生した後日談……
のように一見見えるが、原作では未完成状態のものだった各作品が完成した本になっており、宮垣の代表作『華麗なる没落の為に』が幻の遺作となって多くの編集者が追い求めて集結しているため、パラレルワールドの関係にある。
また、原作では4人の筆名は林以外明かされなかったが、こちらでは作家名が登場し、作品名を元に対応させると次のようになる。
清村淳一:神谷光俊『闇の中の毒牙』
須崎昌輔:小城魚太郎『ミノタウロスの首』
船岡まどか:三船まどか『奇形の翼』
林宏哉:堀之内和宏『ガラス張りの伝言』
登場モンスターは神話や伝説の怪物。BGMは「彫像」「妄執」がイメージ。
ボスとしてドグラ&マグラ、キョムという三大奇書をモチーフとしたモンスターが現れるが、残りの『黒死館殺人事件』は難しかったのか登場しない。代わりにその作者の小栗虫太郎を意識したのか、先述の小城魚太郎という筆名が登場する。
概要にも記したようにRPGで迷路館という、まさに悪夢のダンジョンであるが、恐ろしいことに1階層増えている。
モンスターとの戦闘があるのは1階層分だけなのは幸いというかなんというか……。
進行不能になるバグが2つもあるマジモンの呪いの館でもあり、十角館からバグで飛べるのもここと、なにかと困った館である。
原作同様宇多山が酒好きとして描かれ、酩酊した状態で登場するのだが、なんと『迷路館』で言及されていた芋虫状態のポリゴンまで用意されている破格の待遇。
ハッキリ言って、ものすごくキモい。
余談
- 作中、島田が折り紙作品・五本指の悪魔を披露し、『時計館』では『迷路館』を読んだその考案者から七本指の悪魔の折り方を教わった、と語る場面があるが、これは前川淳氏の事。実際に綾辻氏との間でかわされたやり取りである。
- 新書判表紙のスライドに描かれた鹿谷門実著の『迷路館の殺人』であるが、よく見ると作者名が鹿谷門美になってしまっている。
- 清村がかつて所属していたという劇団「暗色天幕」は同作者の『霧越邸殺人事件』に登場する。作中で清村について触れられ、彼の筆名である神谷光俊とデビュー作『吸血の森』が話題に上る。ちなみに作品の発表は『霧越邸』の方が後であるが、事件の発生は『霧越邸』(86年11月)→『迷路館』(87年4月)の順番である。