曖昧さ回避
- 『ギリシャ神話』に登場する神。本項で解説。
- 『女神転生シリーズ』に登場するキャラクター。本項で解説。
- 『魔法使いと黒猫のウィズ』に登場するキャラクター。本項で解説。
- 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の外伝『ソード・オラトリア』に登場するキャラクター。⇒ディオニュソス(ダンまち)
『ギリシャ神話』のディオニュソス
長母音を略さなければ「ディオニューソス」。古代ギリシャ語:ΔΙΟΝΥΣΟΣ, ラテン語:Dionysus, 翻字:Dionysos, 『若い神』の意。ローマ神話では「バックス(Bacchus, 英語読みで『バッカス』)」と同一視される。この名は、ディオニュソスの別名の一つ「バッコス(ΒΑΚΧΟΣ, Bakkhos, 『騒々しい』の意)」のラテン語化である。
豊穣とワインと酩酊の他、ブドウ栽培・祝祭・狂気・同性愛・異性装・転生・演劇等の神ともされる。オリュンポス十二神に数えられる事もある。
なお、ディオニュソスが十二神に数えられる場合は、代りにヘスティアがハブられる事が多く、ヘスティアはディオニュソスに十二神の一柱の座を譲ったとする伝承も有る。
以前は「新しい神・遅れてきた神」と考えられていたが、紀元前1500~1100年頃のミケーネ文書が解読された結果、他のオリュンポスの神々と同程度に古い神と判明した。起源は不明だが、ギリシャ土着の神やトラキアの神が挙げられている。
アトリビュート(神の持物)は、テュルソス・蔦の冠・酒杯等。聖獣は、ライオン・虎・豹・ロバ・蛇等。聖なる植物は、ブドウ・蔦・シナモン等。
戦車を引く動物は二匹の豹で、戦車には師のシレノスが同乗している事もある。同行者にはパン・サテュロス・マイナス(熱狂的な女性信者。複数形はマイナデス。他の呼称にバッケー(複数形バッカイ)・テュイアス(複数形テュイアデス)等)等。
他、ディオニュソスの祭礼で上演されていた演劇が古代ギリシャ劇に発展した事、ドイツの哲学者ニーチェがギリシャ文化を「アポローン的/ディオニュソス的」という用語で解釈した事等が有名。
二度の誕生
セメレの死
一般的な神話では、ディオニュソスは主神ゼウスとテーバイ王女セメレの子とされる。
ディオニュソスを妊娠していたセメレは、嫉妬に駆られたヘラが化けた乳母に唆され、何でも願いを叶えると告げたゼウスに対して「神としての姿を見たい」と願ってしまう。神としての誓いを破れないゼウスはやむなく真の姿を見せ、その結果セメレは雷電を伴い顕現したゼウスに耐えられず、焼死してしまった。ゼウスはセメレの亡骸から月足らずのディオニュソスを救出し(救出はヘルメスに命じたとも)己の太腿に縫い込み、臨月までその身を預かった。
人間を母にもつディオニュソスが半神ではなく神とされるのは、二度目にゼウスから誕生した為と言われる。
ザグレウスの死
オルペウス教等の神話では、まず主神ゼウスとペルセポネ(デメテルとも)の間にザグレウスが生まれる。
嫉妬に駆られたヘラの策謀により、ティターン族の手でザグレウスは八裂きにされるが、アテナ(レアまたはデメテルとも)により心臓だけは保護された。ティターン達を斃したゼウスは、その心臓を飲み込んだとも、太腿に縫い込んだとも、或いは薬液にしてセメレに飲ませたとも云われる。
こうして、ディオニュソスはザグレウスの心臓を自身の心臓として生まれたとされる。
幼年期
ディオニュソスが生まれると、ゼウスはヘルメス(ペルセポネまたはレアとも)を通じ、オルコメノス王アタマスとその妻イノ(セメレーの姉妹)に女児として育てさせた。余談ではあるがこの夫婦が発端となって金羊裘、ひいては「アルゴナウタイ」の物語が始まっている。
しかし尚も浮気相手の子に対して怒りが収まらないヘラは二人を発狂させる。結果、息子のレアルコスとメリケルテースは殺され、イノは海に身を投げ、アタマスは王座から追放されてしまった。
ディオニュソスも狂わされ、その後各地を放浪する事となった。後に古き大地母神キュベレーに発狂の呪いを解かれたとも伝わる。
ゼウスは我が子を育てた恩義からイノを女神レウコテアーとし、メリケルテースは海神パライモーンとなった。このうちレウコテアーは『オデュッセイア』にも登場し、窮地に陥ったオデュッセウスに溺死を防ぐ魔法の衣を授けている。
別伝ではゼウスが一人残されたディオニュソスを羊に変え、ニサのニンフ達の元へと運んだ。ゼウスは後に彼女達をヒアデス星団とし、養育の恩に報いている。
流離と凱旋
一般的な神話では、ディオニュソスは最初にエジプトを彷徨い、プロテウス王に温かく迎えられた。
続いてシリアを通過し、橋を掛けてチグリスを渡り、ゼウスの遣わした虎に乗ってユーフラテスを越え、インドを五十年余り漂泊している。
こうした放浪の間、ディオニュソスと同行者達(パン・サテュロス・信者達)は、敵対する人々に神威を示し、信仰を広めていったとされる。
エドニア王リュクルゴス
トラキアでは、エドニア王リュクルゴスの迫害を受けた。
その報いとして、エドニアは不毛の地となり、リュクルゴスは発狂。自分の息子をブドウの木と間違えて殺してしまう(自分の脚を切断してしまったとも)。
リュクルゴスが正気に返ってもエドニアの地は回復せず、リュクルゴスが死ぬまで元に戻らないと告げられた住民達によって彼は馬裂きにされたという。
テーバイ王ペンテウス
故郷テーバイで、叔母達が母セメレーを中傷していると知り、怒ったディオニュソスは信徒を引き連れてテーバイを訪問。現地の女たちを狂乱させて信徒とし、山中で生活させていた。
ディオニュソスにとって従弟にあたるテーバイ王ペンテウスはこれを邪教と断じ、信仰を禁止して彼を捕らえようとした。この時連行された信者ヘカトールは、何故ディオニュソスを信奉するに至ったかを語る。
かつて船乗りだったヘカトールは、仲間と共にナクソス島に到着した折、品の良い少年と出会う。邪な心を起こした仲間は少年を奴隷として売り飛ばそうと船に乗せ出航したが、ただ一人ヘカトールは反対し、彼を親元に返すべきだと主張したがねじ伏せられてしまった。
すると俄かに船の帆に木蔦が絡まって葡萄が生い茂り、先に進む事は出来なくなった。聖獣を従えた神としての姿を見せたディオニュソスを前に、恐慌状態に陥った船乗り達は海に飛び込むがイルカに姿を変えられてしまう。神罰を免れたヘカトールはただちに船をナクソス島へと向け、以来信者として付き従っているという。
話を聞いたペンテウスは怒って彼を牢に入れて処刑しようとしたが、縛はひとりでに解けて牢は開き、ヘカトールは脱出を果たす。これはディオニュソスからの警告だったが、ペンテウスはただ怒り狂うばかりだった。
その後ディオニュソスはテーバイ中の女性達を帰依させ、邪教の有様を一目見ようと山中を訪れたペンテウスを殺させる。その信女達の中には、ペンテウスの母親もいたという(エウリピデスの悲劇『バッコスの信女』)。
ワインとイカリオス
アテナイに近いイカリアでイカリオスに厚遇されたディオニュソスは、返礼としてイカリオスに葡萄の栽培とワインの製法を教えた。イカリオスは完成したワインを羊飼い達に振舞ったが、初めて飲む酒に興奮した羊飼い達は、毒を盛られたと勘違いしてイカリオスを殺してしまう。彼を捜しにきた娘のエリゴネは、彼を見つけて悲嘆の余りに首を吊り、飼犬のマイラも死ぬ。
この事を知ったディオニュソスは怒り、アテナイの未婚女性達を狂気させてエリゴネの様に縊れさせた上、アテナイ人達がイカリオス父娘を祀るまで、彼等の間に疫病を流行らせた。
その後ディオニュソスは、イカリオスを牛飼い座、エリゴネを乙女座、マイラを子犬座にしたとも言われる。
セメレの神化
こうして世界中を放浪しつつ神性を確立した後、ディオニュソスは冥界の母親をオリュンポスに引き上げた。彼女は「テュオネ」と呼ばれる。
The Midas Touch
ディオニュソスは、泥酔して行方不明になっていた師シレノスを歓待していたミダス王に、お礼として「触れた物が全て黄金に変わるように」という王の願いを叶えてやる。
しかし、食物まで黄金に変わってしまう事に困り果てた王の再度の願いに、王にパクトロス川で身体を洗うように教え、その能力を川に移してやった。それ以降、パクトロス川では砂金が採れるようになったという。
この神話から、貨殖の才を "The Midas Touch" と呼ぶ。
ヘパイストスの帰還
実母のヘラに疎まれ天上から落とされていたヘパイストスは、天上に黄金の椅子を贈る。しかし、その椅子は罠であり、まんまと座ったヘラは身動きが取れなくなってしまう。困った神々がヘパイストスを説得しようとするが上手くいかず、最終的に、ディオニュソスが酒に酔わせてオリュンポスまで連れ帰ったという。これにより、ディオニュソスはようやくヘラと和解したという。
アリアドネ
アリアドネを参照。
フィクションにおけるディオニュソス
『女神転生シリーズ』のディオニュソス
『デビルサマナー ソウルハッカーズ』で仲魔として初登場。種族は「狂神」。
酩酊の神故か、サイケデリックなカラーリングが特徴。
『ペルソナ3』ではアルカナ「月」、『ペルソナ5』ではアルカナ「愚者」、『ペルソナ5ザ・ロイヤル」ではアルカナ「顧問官」のペルソナとして登場した。
「月」が充てがわれているのは酩酊を司る神格であることから(狂気(lunacy)の語源は月(luna))、「愚者」が充てがわれているのは放浪者としての逸話が由来であろうか。
『魔法使いと黒猫のウィズ』のディオニュソス
CV:井上和彦
イベントクエスト「ARES THE VANGUARD」に登場。本名はヴァッカリオ。
ルールに囚われないヒーローで構成された部隊「ヴァンガード」の隊長。朝から晩まで勤務中でも酒を飲む堕落した生活を送っているが、その正体は〈最強のヒーロー〉と呼ばれた「ディオニソスⅫ」。