SCP-1739
もうつかわないらっぷとっぷ
オブジェクトクラスはKeter(危険または収容不能)。
SCP-1739は財団のそれまで使われていなかったあるセクターの中に突然現れた、DELL社製のラップトップ(ノートパソコン)である。見た目はただのパソコンだが、まず異常な点として破壊することができない。
SCP-1739には3つのウィンドウがある。
一つ目のウィンドウには「gofetch.exe」(Go fetchはとってこいという意味)と名前があり、UNIX形式で2004/1/1/ 01:18からその時までの間の時間を入力すると、その人間が消失する。消えた者はどこに行ってしまうのだろうか?
二つ目のウィンドウはチャットに似ており、ユーザーにはBranchPrimeというハンドルネームが割り当てられ、一つ目のウィンドウの捜査を行った後、Isaacという言葉を変形したハンドルネームの対話相手が出て来る。
インタビューによれば、このIsaacという相手は、第一のウィンドウに入力した過去に飛ばされた人間であるらしい。時間移動装置?
さらなる調査で、彼らが飛ばされる過去はもといた世界によく似たパラレルワールドであることが判明している。次元を超えることもできるのだろうか。
三つ目のウィンドウは小屋に繋がれた犬のアニメーション。一連の操作を行うとアニメーションは女の人が犬の鎖を解いて画面の外にボールを投げて取って来させるものに変化する。これは何の意味か?
やがて、操作を行ってから3日~7か月が経過すると、第二のウィンドウの通信が途絶え、そのタイミングで第三のウィンドウの犬は画面の外から破れたボールをくわえて戻ってくる。女の人がその後犬をもとの通りに鎖に繋ぐ。
……???
これだけ読んでもよく分からないが、報告書の隠された部分を開くと真相が明らかになる。
このパソコンは時空間移動装置などではない。人間を過去に送ることで世界を分岐させて新しい世界を創る装置である(BranchPrime=主要な枝)。
さらに三つ目のウィンドウに登場する犬のアニメ。これは我々人間には理解できない存在の一種の比喩。
簡単に言えば、
世界を滅ぼす能力を持った何者か
えらいこっちゃ(゚д゚)
次に、異世界の過去に送られた人間に与えられるIsaac(イサク)というハンドルネーム。
イサクとは聖者アブラハムが神に捧げようとした自らの息子の名……生贄の名である。
恐らくこの”犬”として表現された何かは、長期間滅ぼせる世界が無いと暴走し、我々の住んでいるこの世界に攻めてくると思われる。
Isaacとの通信がいつも途中で切れてしまうのは、その時に彼らのいる世界が”犬”に滅ぼされてしまうから。”破れたボール”は滅ぼされた世界、その時に生み出された世界なのだ。
結論を言えば、このラップトップの正体は、怪物が我々の世界に近付かないようにするため、おとりとして別の世界を作りだす生贄製造機。滅ぼされるためだけに創られた世界は、長くて半年ほど、短ければ三日で住民もろとも怪物の餌食になってしまうのである。
そんなのってないよあんまりだよ。
なるほど、最初の部分だけでは危険性がよく分からないが、全て読んでみれば納得のKeter……いや、カノン次第ではApollyonのような特例クラスに分類されてもおかしくないレベルの代物である。
この記事の怖さは、世界を破壊する超存在そのものにあるのではない。
ラップトップによって分岐させられた世界は、破壊者がやってくるまでは、基本的にもとの世界と同じことが起こっていると思われる。
当然、当該世界の住人たちは、自分たちが生贄にされる世界にいるなどとは夢にも思わないだろう。
ならば、我々が今いるこの世界がイケニエでないと、どうして言い切れるのだろうか。
本当の恐怖
…え?まだその意味がわからないって?
では、このパソコンの受信者に振られるハンドルネームを、もう一度読み直してみよう。
「Branchprime」。直訳して、「主要な枝」であるのだ。決して、幹ではないのだ。
切り捨てられる可能性は、決してゼロではない。
そしてそれは前述したとおり、ラップトップの前に人間が現れるまでわからない。逆に言えば、ラップトップの前に人間が現れれば、この世界は分岐世界である事が確定し、長くて7ヶ月後、短くて3日後に「世界の破滅」が始まってしまう。もしも別の未来の誰かがこのラップトップを使ってしまったら、その時点でこの世界も破滅するのだ。
その「破壊者」が何なのかは分からない。だがいずれにせよ、「外部世界」からの攻撃であるのは確かだ。
財団になすすべはない。
なぜなら、今まで創造され、破壊されてきた分岐世界にもSCP財団がいて、我々の知る財団と全く同様の力を持っているからだ。その財団たちの力でも破壊が防げなかったのだから、こちらの世界の財団でもどうこう出来ることではない。
ラップトップの前に人間が現れることは、避けられない世界の滅亡を意味する。そして、それを知る財団にできることは、ラップトップのある収容センターに人の無許可の立ち入りを厳しく禁止し、ラップトップの前に誰か現れないか、厳しく監視することのみ。ラップトップの前に人が現れないことを祈りながら。
「収容セクター-██内にいかなる人物が自発的に出現した場合でも、即座にO5評議会に通知される」というのは、このことだったのだ。
これを重く見たO5評議会ラップトップを用いて被験者を過去へ送るあらゆる実験は禁じられているが、それでは「犬」が暴れ出す危険がつきまとう。まさに打つ手無し。
いつ起こるかもわからない「世界の破壊」を並行世界で引き起こすscp-1379。しかもその並行世界が、この世界かもしれない。
まさにどうあがいても絶望といったところである。