白い雪、黒い炭、真っ赤な嘘。
概要
SCP-2616-JPとは、日本のシェアード・ワールド「SCP財団日本支部」に登録されているオブジェクトの一つ。
メタタイトルは「雪中送炭」。オブジェクトクラスはSafe。
タイトルの雪中送炭とは、雪の中で寒い思いをしている人に暖の元となる炭を送ることであり、そこから「困っている人に救いの手を差し伸べる」という意味となった言葉である。
その名の通りこのSCiPは一般的なオブジェクトとは異なり大きな危険性もない珍しいものとなっている。
このオブジェクトは長野、静岡県に跨がる南アルプスの小河内岳にある山小屋である。SCPによくあることだがいつ建てられたかや誰が所有しているかの情報は何一つない。
内装はかなり質素であり、木の床やテーブル、石造りの暖炉とそれを使うための薪やバーナー、火かき棒といった必要最低限のものしか揃っておらず、当然電化製品もない。
そして異常性は2cmの積雪があり、誰も積雪した地面を見ていないことが前提で暖炉に燃料を入れ点火することで発生する。異常性が発現すると、十分な酸素がない状態でも燃料は燃焼し、室内は適温に保たれる。またこの際燃焼産物として二酸化炭素のみが発生する。
そして燃料が燃え尽きると入口のドアがノックされる。このノックはドアを開けるまで続き、ドアを開けると燃料に使ったものが新品の状態でドアの横に置かれている。その後、正面玄関に続く雪道に足跡が出現し、積雪していない地面まで到達すると消失する。またこの際足跡を残したと思われる実体は見つかっていない。
要するにこのオブジェクトは「暖炉に燃料を入れそれが燃え尽きるとそれと同じものを誰かが持ってきてくれる」というもの。特に害もなく、山小屋としては有用な異常性のため財団は収容することなく冬季にこの山小屋に通じる道を封鎖し万が一迷い込んだ人がいたときは機動部隊が救出、保護しインタビューを行った後記憶処理を施して開放するというプロトコルを取っている。
補遺
2014年の2月、機動部隊がSCP-2616-JPに滞在していた2名の遭難者を保護した。
二人は森川氏、山村氏と名乗り、大学の登山サークルの先輩、後輩にあたると語った。どうやら先輩の森川氏が真冬の山を鍛えさせたいと山村氏を誘い小河内岳に来たようだが、数日前から大雪警報が出されていたにもかかわらず登ったことや山村氏のミスもあってか遭難してしまったらしい。
発見時森川氏は恐慌状態に陥っていたが、話によると薪を使い切ってしまった際にノックがあったのでドアを開くと新しい薪が置かれていたためとても不気味に思ったことが理由らしい。
確かに普通の人からすれば急にノックされドアを開けると新しい燃料が置かれており、更に誰が置いたかはわからないといった状況に陥ったとしたら怖いに決まっている。
一方で山村氏は呑気なもので、部屋が温まるとすぐに眠ってしまいノックを聞いていなかった。起きたときには玄関のところに転がっていたと言うが、これは換気が悪く一酸化炭素が出てしまい危険を感じた外に引きずり出したためと森川氏は語った。危うく二度と目覚めない眠りにつくところだったことから山村氏は「命の恩人だ」と森川氏に感謝をしていた。
…だが、この記事を読んでいる人の中には気づいた人がいたかもしれない。森川氏の話には、一つ決定的な矛盾が存在している。
注目してほしいのは山村氏が外に引きずり出した経緯で、森川氏が「一酸化炭素が発生した」と言っていたこと。
そんなはずはない。だってこの暖炉は酸素が十分でなくともよく燃えるし、燃料を燃やしても二酸化炭素しか出ない。
更に山村氏は「起きたときには玄関に転がっていた」と語っていた。
もうわかった人も多いだろう。森川氏は、山村氏を暖炉で燃やしたのである。
そもそも山村氏は登山初心者であり、冬山に慣れていない彼をわざわざ大雪警報が出ている中連れて行くのもおかしな話である。彼は当初は雪山の事故で山村氏を凍死させようとしていたものの、たまたまSCP-2616-JPの山小屋を見つけてしまったため入ることになってしまったのだ。(ちなみに、森川氏が山村氏を殺害する目的で山に連れて行ったことは作者であるBenjaminChong氏によって明言されている)
山小屋内で森川氏は山村氏を殺害した後、確実に殺害する、もしくは証拠隠滅のためその死体を暖炉に焚べた。
だがここで予想外のことが起きる。SCP-2616-JPの異常性によって、生きている山村氏が玄関前に置かれていたのだ。
恐慌状態になるのも無理はない。自分が殺したと思った人物が生きている状態で戻ってきたのだから。その後森川氏は「一酸化炭素が発生したため山村氏を外に引きずり出した」と嘘をつき、自らの罪を隠蔽したのだ。
現在財団では上記の矛盾から森川氏と山村氏の監視を続けている。
余談
この作品は嘘をテーマとした「嘘のコンテスト」に出品され、見事その気づくとゾッとする内容から優勝を果たした。
対抗はコックス君。
CC BY-SA3.0に基づく表示
by BenjaminChong