概要
中華人民共和国において一般使用される簡体字(※1)に対して、古くから中国語そのほかで使用されてきた漢字の字体を指す。
※1 従来の漢字を簡略化した字体。俗字としては古くから使用されたものも含むが、大幅な省略も含む。正字としては1960年代に制定。シンガポールやマレーシアでも使用される。
概要
この字体は繁體漢字、正體漢字、老字、傳統字とも呼ばれる。日本における旧字体に近い。字形の各部位が意味を成しており美しく伝統を重んじた字体であるため支持者は多いが、画数が多く書きにくい点が難点とされる。
そのため中華民国で「臺灣」を日本の新字体に倣って「台湾」と略記するように、繁体字圏においても、日常生活では簡略化された字体の使用も散見される。
この字体は簡体字や日本で用いられる新字体よりも整理されていない面がある。画数が多く、地域によって異体字の扱いが異なったり、字体に細かい異同が見られたりする。
他の漢字の文字に対して
簡体字と日本における新字体は、双方簡略化された字体である。とはいえ程度の違いから後者の方が形としては近く、繁体字使用者にとって理解し易い。
例えば漢字文化圏(※2)では、中華人民共和国の学生は日本語を学習する際に「書体」の違いで苦労するのに対し、台湾の学生は比較的楽に習得する傾向にある。
ただし、大陸出身者でも、高等教育・書道・台湾や香港経由のTVや映画や音楽といった娯楽媒体を通して、書けずとも繁体字を理解できるという者は一定数存在する。
※2 ベトナムでは、漢字文化圏とはいえ現在はフランス植民地時代に普及したアルファベットを用いる正書法のクォック・グー(漢字では「國語」)を使用するものが大半である。以前はチュノムという独自の漢字を使用していたが、現状理解する国民は限られている。
また韓国においては、現代はハングル表記のみが用いられるため漢字を理解する者は極少数である。世代差も大きく、ハングル専用か漢字混用かで論争が続いているが、己の名前の漢字を理解できても書けない者が多い。なお韓国での正式な漢字は繁体字だが、1970年代頃までは漢字が日常で使われていたことから日本の新字体も代用字で使われていた。
余談
この文字は日本のshift-jisなどに対応した掲示板(たとえば2ch等)に貼っても大部分が旧字体フォントで表示され文字化けは少ないので、少し工夫すれば何とか読めるという利点もある。
ただし、近年においては国内の電子掲示板も普通に多国語対応(Unicode)のものが増えてきたようだ。
正字や字体の基準を記すものと考えられている康煕字典(清朝の康熙帝の勅撰により今までの文献を総まとめした漢字字典の決定版とされる書籍)はあくまで字義や字音を調べるためのものであり、詳細で大変貴重なものには変わりないが、一般的に常用されていなかった字体も含まれ、単純な誤りもある。康煕字典体は全ての規範というわけではない。
漫画単行本や映像ソフトの販売地域、ゲームの配信地域などでは同じ繁体字を使用する台湾・香港・マカオ(澳門)をまとめて「繁体字圏」と称することがある。
「台港󠄁澳」ないし中華人民共和国特別行政区の香港とマカオをまとめて「港󠄁」に集約した「台港󠄁」、また大陸側から自国側を優先した順序の「港󠄁澳台」も同じ意味であるが、台湾と香港・マカオのどちらを優先するかが大陸と台湾の政治問題(いわゆる「両岸問題」)を想起させるのを避けるための中立的な呼称としての側面を有している。
書体のセットにおいても台湾版と香港版に細分化されていることが多く、源ノ角ゴシックや源ノ明朝、あるいはWindowsのMingLIUなどではそれぞれのバージョンが存在する。