潜水空母とは
潜水艦が第一次世界大戦で実用化されて以来、隠密性には優れるが偵察力や攻撃力に乏しい潜水艦に航空機を搭載してその弱点を補うことは世界各国で模索されていたが、日本以外で実用にこぎつけたのはフランス海軍のスルクフのみに留まる。
一方、日本海軍は潜水艦に航空機を搭載することに非常に熱心で、1931年に初めて伊51に航空機格納筒を搭載したのを皮切りに巡潜型といわれる潜水艦に水上偵察機を装備しつづけた(なお伊51は巡潜型ではなく海大型)。更にアメリカ本土攻撃のため、偵察機ではなく純粋な水上攻撃機である晴嵐を搭載すべく伊400およびこれを補う伊13型が建造された。
ただしどの例でも搭載機数は非常に少なかった。
スルクフや日本の巡潜型は水上観測機1機だけ(予備機も無し)、伊13型は水上攻撃機2機、伊400潜も水上攻撃機3機という搭載数がやっと(伊400型も当初2機の計画から大変な苦労を経て3機搭載に変更している)であり、とても「空母」などと名乗れるようなものではなかった。
またそもそも潜水艦と空母は相性が悪かった。
当時の潜水艦はどれも「ここぞというときに潜れる可潜艦」程度の潜航性能だったとはいえ、搭載機を発進・回収する際には必ず浮上せねばならない上に搭載機が戻ってくるまでは進路を変更することもままならず(つまり敵に発見されたとしても潜れない。多くの場合、その場を動かずに待った)、搭載機を増やせば増やすほど艦は巨大となり、潜水艦唯一にして最大の武器である隠密性を損なっていった。
そうまでして積み込んだ専用設計の特別機を、つい最近まで世界最大の通常動力潜水艦だった巨体をもってして搭載数3機である。
空母どころか巡洋艦とどっこいどっこいの搭載機のために潜水艦として相当無理をする必要性のある潜水空母は実用性に乏しく、夢の空母としての航空攻撃力を持つには至らなかった。
日本海軍は潜水艦の性能として敵水上戦闘艦への攻撃能力を重視していた。これは仮想敵である米軍の大艦隊が太平洋を進攻してくるのに対し、潜水艦で哨戒網を張り、敵の機先を制して奇襲攻撃をかけ、しかる後に航空機で叩く漸減作戦を方針としていたためである。
そのため日本は潜水艦に対して高い水上速力と偵察能力を求めた。複数の巡潜に水上機を搭載していたのはこのような理由からである。日本の潜水艦はどちらかというと潜水艦というよりも潜れる巡洋艦なのである。
なお、遣独潜水艦のエピソードから、よく日本の潜水艦は水中騒音に無頓着だったと言われがちであるが、日本の潜水艦は排水量や出力の点で英米艦に比べて数割増し、ドイツ艦とは倍ほども違うことは留意されるべきであろう(それでもうるさい艦はうるさかったらしいが)。ちなみにドイツでも潜水空母は計画されたが、建造されることはなかった。
戦果らしい戦果は伊25潜搭載の零式小型水上機が米本土オレゴン州の奇襲攻撃を敢行し森林火災を発生させた例のみ。ちなみにこれは現在までに軍用機が米本土爆撃に成功した唯一の例でもある。
大型潜水艦スルクフ
潜水艦としては空前絶後の20cm砲を搭載していたことから珍兵器の一つに数えられるフランス海軍の大型潜水艦スルクフは専用の水上機MB.411を搭載できた。スルクフについてはもっぱらその巨砲が注目されるため潜水空母と呼ばれることはあまりないが、世界初の航空機搭載潜水艦である。
スルクフ自体はその巨体を活かした航続力から船団護衛にそれなりに重宝されたものの、MB.411が実戦で役に立ったという例は知られておらず、自慢の主砲ともども無用の長物であった。
ドイツ軍の爆撃によりMB.411は1941年の暮れに損傷し、部品がないために修理に手間取り、母港に留め置かれたままとなった。スルクフは1942年に衝突事故で沈没し、母艦を失った水上機は放置されたまま朽ち果てていった。
「潜水空母」伊400型
日本海軍の伊400型(とこれを補う伊13型)は専用の特殊攻撃機「晴嵐」を搭載するために開発され、潜水空母と呼ばれることもある。伊400型は終戦間際に完成し敵泊地襲撃のため出撃したが、戦闘開始前に終戦を迎え、実戦を行うことなく廃棄処分された。
第二次大戦終結後
冷戦時代以降、潜水艦にミサイルを搭載することが可能になると潜水艦に有人航空機を搭載する意義は希薄となり、潜水空母が開発されることも無くなっている。
ミサイルの一種である巡航ミサイルは無人航空機の一種とも見られるため、ある意味では巡航ミサイル潜水艦は潜水空母といえるかもしれないが、ALCM(空中発射型巡航ミサイル)を搭載した爆撃機が空中空母と呼ばれないように、巡航ミサイルを発射可能だからといって潜水艦が潜水空母と呼ばれることはないだろう。
冷戦終結後、戦略型原子力潜水艦の存在意義の向上と弾道ミサイル等に使用するVLSの空きを利用し、無人航空機の発射管として利用する計画がロッキード・マーティン社とスカンク・ワークスにより進められていた。(潜水艦発射回収式多目的無人航空機、MPUAV)
発進から回収まで浮上を必要としないなど過去の潜水空母の問題点の解決はしていたが、それ以外の解決しなくてはならない問題は多く、実用化せずに計画は凍結された。
2013年にも同様の計画の実験が行われており、米海軍研究事務所(ONR)の研究により、魚雷発射管からの打ち上げに成功している。
架空、空想の潜水空母
ブラウザゲーム・艦隊これくしょん
前述の伊400の二番艦伊401の他、何名かの潜水艦娘が潜水空母に改造可能。
二次創作では空母娘がスクール水着を着用しているイラストに付けられたりしてる。
なお、海上自衛隊の帝国海軍空母の艦名を継承した潜水艦の艦これ風擬人化イラストに付けられることは少ない。(そういう運用してる訳ではないからだろうが)
紺碧の艦隊・旭日の艦隊
紺碧艦隊:『前世』の記憶を元に構築された「潜水艦隊決戦思考」により、大和型建造の予算を転用して作られた潜水艦隊。殆どの艦が何らかの航空機運用能力を持ち、規模こそ小さいもの航空機動艦隊としての機能を有している。
初期の編成は次の通り
- 特潜 伊601 富嶽号:紺碧艦隊初代旗艦。特殊水上攻撃機『雷洋』2機を搭載。
- 潜 伊500型:前世における伊400の後世版。水上戦闘爆撃機『春嵐』3機を搭載。全3隻。
- 潜補 伊700:補給潜水艦。電子水上偵察機「星電改」2機を搭載
なお全ての艦がワルター機関+ポンプ推進というチートスペックである。
- スレイブニル
後世ドイツ国が開発した奇襲用潜水空母。
鋼鉄の咆哮
- 超巨大潜水空母「ドレッドノート」
「鋼鉄の咆哮3 ウォーシップコマンダー」に登場する連合軍の超兵器であり、推定全長350m近くもある超巨大潜水空母。船体上部に可動式の飛行甲板を持ち、これを稼働させアングルドデッキのようにすることで固定翼機の運用が可能、ちなみにエレベーターは2基。ゲーム中では最大30部隊(機数で換算すると150機)もの航空機を搭載している。ドレッドノート自体も魚雷やVLSなどの武装の他、戦艦級に匹敵する重装甲も備えているため、通常潜水艦を遥かに上回る戦闘能力を持つ。
なおドレッドノートという名の超兵器は旧作から登場しており、以前は「超巨大潜水戦艦」という艦種であり航空機を扱う能力は無かった(その代わり45.7cm砲を装備している)。
鋼鉄の咆哮3限定ではあるが、プレイヤーも航空甲板を備えた潜水空母を設計することが可能。
エースコンバット
- シンファクシ:シンファクシ級潜水空母のネームシップで、「5」に登場する敵側(ユークトバニア連邦共和国)の巨大潜水空母。浮上時には対空機銃や対空ミサイルなどの対空防御兵器に加え、VTOL機の運用能力を持つが航空機運用能力はむしろおまけでしかなく、真の脅威はVLSから発射される「散弾ミサイル」。
- リムファクシ:シンファクシ級潜水空母の2番艦でシンファクシの姉妹艦。改良によって艦載機が無人化されており、潜行中であっても発艦してくる。
- シンファクシ級潜水艦:インフィニティに登場する。潜水艦扱いではあるがリムファクシ同様に無人機の射出が可能だが、浮上中しか射出できない。散弾ミサイルは弱体化している。
サブマリン707
- アポロノーム:双胴ならぬ三胴型空母だが、三隻に分離することで潜水が可能。艦底には通常型の潜水艦も格納されている。