藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』の有名なエピソードの1つ。
初出は小学館『小学五年生』1975年11月号で、その後にてんとう虫コミックス第10巻や藤子不二雄ランド版第5巻、藤子・F・不二雄大全集版第4巻、小学館コロコロ文庫「しずか編」、My First BIG(コンビニ版)「思いっきり大爆笑!!」編、ぴっかぴかコミックス第14集、学習漫画「ドラえもん科学ワールド・からだと生命の不思議」「学年別ドラえもん名作選 五年生」など何度も再録されている。また、電子書籍限定のデジタルカラー版第10巻ではフルカラー版が読める。
あらすじ
しずかちゃんが浮かない顔でドラえもんとのび太を訪ね、直前に起きたアクシデントについて話し始める。自宅でくつろいでいた彼女がピーナッツの投げ食いをしていたところ、母親の指輪から外れた時価50万円のオパールを誤って飲み込んでしまったのだと言う。のび太はノコギリで体を切断してすぐくっつけるテープがひみつ道具に無いかと提案し、しずかは恐怖の余り逃げ出そうとする。どうにかしずかを引き留めたドラえもんは、瞬間移動潜水艦をスモールライトで小さくしてしずかの体の中からオパールを回収すると言う別案を提示した。しずかはこの案に対しても「なんだかばっちい感じ」と消極的だったが、ドラえもんとのび太からは「他に方法がある?」と反論され、仕方なくこの案を受け入れることにする。
ドラえもんとのび太が乗り込んだ潜水艦をスモールライトで縮小したしずかはすぐさまそれを飲み込み、オパールの回収が終わるまで仰向けで安静にしているよう指示された。潜水艦が(22世紀の時点から見れば)旧式のため、体を動かすと外からの衝撃で故障してしまうかも知れないのだと言う。しずかの胃の中に到着したドラえもんとのび太は胃液溜まりに彼女が投げ食いしたピーナッツのかけらが浮かぶ様子を実況してみせたが、しずかが怒って体を起こしたため胃の中の潜水艦を激しい衝撃が襲う。2人から「動いちゃだめだってば!」と注意されたしずかが申し訳なさそうに態勢を仰向けに戻した直後、潜水艦は誤飲したオパールを発見して無事に回収した。
潜水艦にはワープ機能があり、ドラえもんがジャンプボタンを押すとしずかの胃の中から野比家の浴槽へ転送される。ところが、既に潜水艦が自分の体の中からワープで脱出したことに気付いていないしずかは掃除のためのび太の部屋に入ろうとしたのび太のママに「訳があって寝たままで失礼します」と挨拶してやり過ごすところだった。のび太のママが怪訝な表情をしながらも「どうぞごゆっくり」と1階へ降りた後、しずかはオパールが見つかったか自分の胃の中にいるはずの2人へ何度も呼び掛ける。自室の外からその様子を見て面白がり、悪戯心を起こしたドラえもんとのび太はそのまましずかをからかうことにした。
潜水艦が故障したと言うドラえもんとのび太の声でビクッとしたしずかは、2人がいつまでも自分の体の中から脱出できないのではないかと不安になるが、ドラえもんとのび太はうろたえるしずかを相手に畳みかけて「このまま行けば食べ物と一緒に流されて小腸から大腸へ……明日あたり出られると思うんだけど」と続ける。しずかが「そんなの絶対にいや!」と泣き叫んだところで、ドラえもんとのび太は「冗談だよ」と言いながら回収したオパールを渡そうとするが、激怒したしずかはその場にあった物を手当たり次第に2人へ投げつけた。すると、投げられたインク瓶がのび太の口の中にストライクで入ってしまったので、ドラえもんは再び潜水艦に乗り込み、今度はのび太の体の中へ瓶を回収しに行くことになってしまう。
解説
全体のページ数は9ページ(雑誌初出時は8ページで、てんとう虫コミックスと藤子不二雄ランド収録時にそれぞれページ数調整のためコマが描き足されている)と少ないながらも濃厚なフェティシズムを感じさせることで評価が高い一編。
藤子・F・不二雄は映画『ミクロの決死圏』を知り、自分が先に同じアイデアを思い付いていたため悔しがったと言われているが、その『ミクロの決死圏』も手塚治虫の読み切り『38度線上の怪物』を流用したアニメ『鉄腕アトム』(初代)の第88話「細菌部隊」からインスパイアを受けて作られたものだと言うのは有名なエピソードである。
『ドラえもん』はスモールライトやビッグライトの存在もありサイズフェチを語るうえでは外せない作品とされているが、その中でも「たとえ胃の中、水の中」は入手の容易さも手伝って被食シチュエーションの聖典的な存在となっている。
アニメ版
当エピソードを原作にこれまで4回アニメ化されている。内訳は大山のぶ代主演版(大山ドラ)と水田わさび主演版(わさドラ)でそれぞれ2回ずつ。
1979年版
1979年9月7日放送(当時10分の帯番組、30分枠では1980年2月17日のAパートで再放送)。最初のアニメ化で、タイトルは「たとえ胃の中水の中」(原作タイトルにあった読点が無い)。DVD「ドラえもんコレクション」第6巻および「TVシリーズ名作コレクション ひみつ道具のおはなし」に収録されている。
原作との相違点は以下の通り。
- 初期のアニメ化なので、しずかののび太に対する二人称が原作の旧設定に準じて「のび太くん」。
- しずかが水を飲み、食道の中で潜水艦が激流に巻き込まれる場面がある。
- 胃の中でオパールを回収する時に使用した潜水艦のアームが原作では金属製なのに対し、吸盤の付いたチューブ状になっている。
- のび太とドラえもんが脱出した後にしずかをからかう場面で小腸から大腸へ潜水艦が押し流されるイメージ図とトイレのカット(中身は映っていない)が挿入される。
- 怒ったしずかがのび太の口の中に放り込んだ異物がインク瓶でなく消しゴムに。
2002年版
2002年3月28日放送、Aパート。大山ドラ23年ぶり2回目のアニメ化。1980年版のセルフリメイクで、タイトルは「しずかちゃん、大ピンチ!」。4本中で原作からの改変幅が最も大きい。また、このエピソードのみDVDなどの映像ソフト化やネット配信が行われていないが、CSのテレ朝チャンネルで再放送されたことはある。
- しずかが誤飲したものがオパールでなく「海外旅行が当たる赤いドロップ」になった(胃の中で溶けてしまうのでは?)。
- しずかがのび太の部屋で安静にしている場面にのび太のママだけでなく、ジャイアンとスネ夫も訪ねて来るがどうにかごまかして乗り切る。
- しずかがドラえもんとのび太に騙されたことを知って怒り、手当たり次第に物を投げ付けるが原作と異なりのび太の口内に異物がストライクすることは無く、泣きながら部屋を飛び出すだけになっている。
2006年版
2006年5月12日放送、Aパート。わさドラ1回目、通算3回目のアニメ化。前回の放送から4年しか経っていないが、原作においても傑作エピソードとして評価が高いことから放送前年のリニューアルを挟んで比較的早期にリメイクが実現した。タイトルは「しずかちゃんを探検!? たとえ胃の中、水の中」で、公式「ドラえもんチャンネル」の配信あり。DVDでは「キャストが選ぶひみつ道具セレクション しずかちゃん・ジャイアン・スネ夫編」および「TV版 NEWドラえもんプレミアムコレクション ひみつ道具スペシャル IN編」に収録されている。
2002年版と異なり概ね原作に忠実な展開だが、以下のような描写の追加や変更がある。
- 潜水艦に低空を浮遊する機能が追加された。これにより、水の無い空間でも飛行が可能になっている。
- 「縮小状態ののび太たちにはこう聞こえる」と言う意図で、しずかの声に低音のエフェクトが掛けられている場面がある。
- 操縦ミスで気管に迷い込んだり、鼻の穴に入り込んで鼻毛を刺激してしまいくしゃみで吐き出される場面が追加されている。
- ラストでしずかが怒ってのび太の口の中に放り込む誤飲物がインク瓶でなく、胃の中から苦労して回収して来たばかりのオパールになっている。
2022年版
2022年7月16日放送、Bパート(予定)。わさドラ16年ぶり2回目、通算4回目のアニメ化でタイトルは原作エピソードと一字一句変わらず副題等も付かない「たとえ胃の中、水の中」。
番外(?)
実は3回目と4回目のアニメ化のちょうど中間に当たる2014年の年末スペシャルで放送された「宇宙戦艦のび太を襲う」では原作の同名エピソードからの大幅な改変により、のび太のくしゃみでしずかの体内にミクロサイズの異星人が侵入してしまったのでのび太とドラえもんが風邪のような症状で寝込むしずかの口から胃の中へ入り、宇宙戦艦に空気砲で穴を開けて胃液の洪水で侵略者を壊滅させると言う展開になっている。
そのため、2022年版は「たとえ胃の中、水の中」のアニメ化としては16年ぶり4回目だが、しずかちゃんの胃の中に入るのは8年ぶり5回目(わさドラ限定では3回目)と言うことになる。