解説
メカニックデザイナーの永野護によって考案・ネーミングされた、ロボットの内部構造の形式。
基本的には「ロボットの自重を支持し、且つモーターや動力炉、エネルギーを送り込むためのジェネレーターや動力パイプといった必要最低限だがそれ単体のみで人型機械として自律行動可能な駆動機構を内蔵する独立した内骨格に装甲・スラスターモジュールなどの”外装品”を被せる(貼り付ける)」という構造形式を指し、1984年のTVアニメ『重戦機エルガイム』にて初めて登場した。
「骨組みに外装を被せてロボットを構成する」というもの以前は、70年代の図解文化というロボットの筒状などの外装に合わせて内部メカを描くというものが講談社やテレビマガジンなどに存在はしており、内部構造は外側のデザインに辻褄を合わせるといういわゆる後付け設定で設定されているものであった。
ムーバブルフレームは予め最低単位となる内部フレームを想定、或いは前提としてからロボットをデザインするため、関節可動域を計算・検討して装甲やパーツ同士が干渉しないようなデザインを考えることができる。
永野はこの構造概念を基に二重関節やサスペンション機構を組み込み、「二次元の嘘」に頼ることなく人間と同様の関節可動域で画面上で動かすことができるデザインと「関節の動きに連動する細かく分割された装甲」や「装甲の隙間から見えるダンパーや動力ピストンなどの内部機構」といった緻密で合理的なディテールを持ったヘビーメタルを発表し、それまでアニメーションさせるとデッサンやデザインの破綻も多く、ディテールも記号的であった日本の創作物における巨大ロボットのメカニックデザインに多大なる影響を及ぼした(ついでにアニメーターの作画の負担も増大した)。
まだまだ関節可動域に制約の多かった当時のロボットのプラモデルの中で、エルガイムのプラモデルはかなり自由に無理なく様々なポーズをとることが出来たことは有名な話である。
『エルガイム』の後、『機動戦士Ζガンダム』以降のガンダムシリーズや『機甲戦記ドラグナー』などのサンライズ制作のリアルロボットアニメにも設定として輸入され、やがてムーバブルフレームの「装甲と内骨格を分割する」というアイディアはロボットのデザインにおける一般的な構造概念の一つとして普及していった。
なお、たまに散見されるガンダムシリーズにおける「ムーバルフレーム」という表記は間違いである(英語表記の「Movable Frame」から、そのような読みをしない事は明らか)。
一時期、ホビージャパン誌上において、この違いが混同され使用され続けていたことにより混乱を招いていたが、近年はガンダム系書籍やホビー類の説明書等において、この誤表現はほぼ見られなくなった。
ただし、『重戦機エルガイム』の場合は資料によってはヘビーメタルのフレームをその様にカナ表記、発音するようにしている場合があり、これは英語としては正しくないものの、実際に設定名として存在している。
重戦機エルガイム
ヘビーメタルのフレーム構造。
機体の骨格をフレームによって構成し運動性の向上をはかる目的で採用された。また、規格を共通させることによって生産性を高める役割も持っている。
ガンダムシリーズ
機動戦士Ζガンダムで登場した、モビルスーツ(MS)のフレーム構造。
一年戦争時のMS(第一世代MS)は装甲そのものを機体を支える外骨格とするモノコック・セミモノコック構造によって構成されていたため、各関節稼動部の可動範囲や強度に問題が発生していた。
そこで新たに駆動系を集約した内骨格を形成し、各種電子機器の配線や動力パイプを人間の筋肉や血管に見立てて配置、装甲は外装として内骨格に装着する形式にしたのが本構造である。
この構造の採用によって前述の問題を解決しただけではなく、メンテナンス性や実体弾兵器に対する防御力が格段に向上(一例を挙げると本構造が本格的に導入されたガンダムMk-Ⅱは、従来既存の装甲材を採用しながらもバズーカの直撃にも耐え得る堅牢な機体となっている)、より複雑で繊細な機構を搭載することが可能となり、新たに可変MSや可変MAを設計することができるようになった。
また、本来ならば内骨格形成によって機体重量は増加するはずだが、後にガンダリウムγといった新素材の普及や技術更新によって軽量化にも成功している。
グリプス戦役及び第一次ネオ・ジオン抗争以降、宇宙世紀102年にサナリィのフォーミュラ計画が発動するまでの間に登場したMSのほぼ全部がこの構造を採用している(ただしアクシズのガザシリーズ(ブロック構造)やアッシマー(ドラムフレーム)などの例外も多数存在する)。
その後、宇宙世紀100年代初頭までのMSの多機能化・高火力化に伴う搭載機器の増加により、今度はムーバブルフレームの構造的・物理的限界によってMSの大型化が問題になる。
そこで大幅な軽量化とダウンサイジングのために、サイコフレームの製造技術を応用する形で装甲やフレーム材そのものに電子デバイスの機能を付与する『マルチプル・コンストラクション・アーマー』がフォーミュラ計画で実用化され、これ以降のMSの構造はエンジンを外付けしたりフレーム材の一部を装甲と兼用にしたりするセミモノコック構造とムーバブルフレームの中間の形態が主流となっていく。
なおムーバブルフレーム開発以前に開発されたRX-78(ガンダム)も元々はモノコック構造だったが、MG発表以降は初期作品を除きどの機体にも内部フレームが設定されることとなり、以降のシリーズではガンダムはムーバブルフレームとは別の内部フレームに外装を被せた機体ということにされてしまった。
一応肩アーマーやニーガードのフレームを第一外装と見なすことでセミモノコック構造であるという苦し紛れな解釈で矛盾を解消しようとしているが…RGシリーズではすべてがフレーム前提と化し組むのも難儀する不安定な製品になっている。
余談
あくまでも「モビルスーツと言うトンデモ兵器」を描くために作られた設定であるため、必ずしも現実のロボット工学に適っている訳ではない
戦車や飛行機で考えれば、外装に強度・剛性を負担させないというのは構造上むしろ無駄であり、フレームの分だけ内容積を食われてしまう。
……とは言え、もしも巨大人型兵器と言う非現実的な兵器が存在するとすれば、頻繁な予備部品との交換や、四肢の形状変更を含めた大幅なハードウェア・アップデートを行いやすい大きなメリットもあるため、ムーバブル・フレームも一概に実用性が低いという訳ではないかもしれない...。てか一応プラモの話だがムーバブルフレームの登場で可動範囲が広がった事が前述のエルガイムのプラモで証明されている。
とはいうものの、バンダイ・サンライズ系作品は現在に至るまで頑なにフレーム構造に固執するために、構造を共通する機体はシルエットが似通ってしまう・可変機では外装を強度部材に使わないため変形パターンもどれも似通ったものになり相対的に強度も低くなってしまう(トランスフォーマーと比較すれば一目瞭然)など弊害が顕著である。ことに、2013年に発売されたバンダイ製1/72完全変形バルキリーの完成度が非常に低かったのは、外装に負担させるモノコック構造への経験値が低かったゆえであろう。イマイ時代からの技術の継承がとうに失われている。以後のマクロス製品ではもう既に完全に手におえないと判断したのか組み換え変形へと退化する体たらく。
また、対義誤的に扱われる「モノコック構造」の概念などを今一理解できていない者が多いが、簡単に言えば現実の乗用車やこの手のロボット・SFメカ系でも中身ががらんどうな「輸送機」や同じロボットでも中は空間だらけの「トランスフォーマー」や「バルキリー」などの類が典型的な「モノコック構造機体」と言える。
生物で例えると、
・人などの哺乳類の骨格に、筋肉や血管・神経を這わせて内蔵を組み込んだものが「ムーバブルフレーム」で、その上に皮膚や服、鎧を着せた状態がMS形態になる。
・昆虫などの殻が組み合わさって動く「ガワ」に内蔵や筋肉を組み込んだもので、例えると「さまようよろい」状態が「モノコック」のMS形態。
と考えると分かりやすい。
…まぁ、七面倒臭いことを云わずとも完全可変ガンプラのZガンダムあたりとTF航空機型を実際に変形させ比較していただければ、変形前提のものとしてどっちが取り扱いが容易かつ合理的だろうかすぐに解る。
関連タグ
機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズに登場する内部骨格規格の一種。
宇宙世紀を除いたアナザーガンダムとしては珍しく、登場するMSの全てが「何かしらの内部骨格を有する」設定を明確化している
コトブキヤからリリースされているプラモデル・フレームアームズを構成する内部骨格。
フレーム単体で稼働できる作業用重機として開発された設定を持ち、構造部材に駆動部品やジェネレータを配置しているなど共通点も多い。