『この犠牲により戦争が早期終結へ向かわんことを切に願う』
概要
地球連合軍が保有する大規模戦略兵器。
そのシステムは一言で言うならば超巨大な電子レンジともいうべきものであり、マイクロ波発生用装置である多数の大型パラボナアンテナを地下に敷き詰め、そこにマイクロ波を放射しその強度を増加させることで、周囲一帯にマイクロ波加熱を生じさせる。
元々は戦略兵器ではなく、レアメタルが混ざった氷を融解させる為の装置として月面のエンデュミオン・クレーターに設置されていた。
本編開始以前、月面を巡るグリマルディ戦線の敗色が濃厚になった時に連合軍がレアメタル採掘施設がザフトに渡らない様にこれを暴走・自爆させた結果、大損害を出したザフトが月から撤退したことが、サイクロプスの軍事転用の発端となった。
なおこの一件は直前の戦闘を含めて敵味方共に多くの死者を出し、その数少ない生き残りの一人がムウ・ラ・フラガであり、連合軍は味方をも巻き添えにした自爆同然の行動をした事実を隠蔽する意味合いも含めてムウの戦果を必要以上にに持ち上げ、多くの死者を出したグリマルディ戦役を生き残った英雄「エンデュミオンの鷹」という異名を持つエースパイロットに祭り上げた。
放射される凄まじいマイクロ波は、身体の大部分が水分と熱に弱いタンパク質で構成されている人間含む生物にとっては脅威であり、サイクロプスのマイクロ波を浴びると、有効範囲内にいる生物は、体内にある水分が急激に加熱・沸騰させられ焼死し、更に沸騰した水分は体内で水蒸気となり、やがて全身の皮膚を突き破って肉体を爆散させられる。
また、水分以外の物質もある程度は加熱される上、大気中の水蒸気からの輻射熱も発生する。
そのため、搭載している燃料や弾薬が加熱されて誘爆するため、モビルスーツや戦艦を始めとした兵器群や軍施設等も破壊する事が可能。
加えて、もちろん水蒸気爆発も爆発なので、当然それによる衝撃波や爆風も周辺に被害をもたらし、一度使っただけで周囲をクレーターに変えてしまう。
使用の為には司令官クラスの将校2名がある程度離れた場所から起動装置に鍵を差し込み、同時に回す必要がある。
その性質上動かすせないため能動的に攻撃で使用しようとしても、前提条件として敵軍を効果範囲内に誘い込む必要があるという欠点がある。
言ってしまえば巨大な自爆・地雷以外の使い方がないので、設置場所は敵軍が攻めてくるような重要拠点に絞られる上、重要拠点をがら空きにして待ち構えれば相手に罠があると言っているようなもので、怪しんだ敵軍に攻撃を躊躇される恐れもあるため、ある程度の守備兵の配置は必要であるが、当然そうすればサイクロプスに味方である守備兵も巻き込まれ、敵と共に壊滅してしまう。
総じて、戦略兵器としてはかなり扱い辛いリスキーな兵器と言える。
劇中での活躍
地球連合軍上層部が密かにアラスカにある基地に設置しており、ザフトの内通者であるラウ・ル・クルーゼがムルタ・アズラエル経由でリークしたオペレーション・スピットブレイクの全容を予め把握したため、ウィリアム・サザーランドを含めた将校たちは安全圏に逃げた上で、アークエンジェル隊をはじめとした切り捨ててもよい兵士たちを囮とし、充分にザフト兵をアラスカ基地に引き込んだ上で基地諸共自爆させようとした。
また囮となった艦隊には、司令部側はどんな通信が来ても「各自防衛線を維持しつつ臨機応変に応戦せよ」と同じメッセージだけが自動返信されるように設定され、「パナマ基地から援軍が来る」という嘘の情報を流しその場で留まらせるというかなり悪質な方法を取っていた。
アークエンジェル級二番艦「ドミニオン」がすでに建造されたこともあって用済みとなったアークエンジェルも、囮である「守備隊」として編成されていたが、偶然居合わせていたラウ・ル・クルーゼと共に、作戦の全貌を把握したムウが、放置されていたスピアヘッドで強引にアークエンジェルに着艦。
マリュー・ラミアスに状況と上層部の目論見を明かし、マリューは敵前逃亡に当たることを覚悟のうえで撤退を決断。
何も知らないザフトの猛攻によって周囲の僚艦は全滅し、アークエンジェルもブリッジの目の前にマシンガンを構えたジンが迫り撃沈寸前に追い込まれてしまう…
だが、間一髪の所で救援に現れたキラ・ヤマトのフリーダムガンダムの援護を受けて脱出に成功。
同時に、マリューから聞いた作戦の内容をキラがオープンチャンネルで、連合・ザフト問わず周囲のモビルスーツや軍艦に撤退を呼びかけた。
キラのその行動からフリーダムを「連合軍の新型」と勘違いしたイザーク・ジュールを始めとするザフト軍は、不信感を持って攻撃を仕掛けるも、フリーダムはメインカメラや脚部・武装を破壊するなどして応戦しながらもパイロットの命を奪おうとはせず、粘り強く必死に撤退を呼びかけたため、端からマリューの指示を受けた一部の連合軍艦が撤退を始めていたこともあり、ザフトのモビルスーツ・戦艦の一部も戦闘区域から離脱を選択。
結果として、効果範囲内の両軍が全滅することは避けられた。
しかし、キラの行動からその撤退勧告を「ブラフ」と受け取って無視した者や、脱出しようにも既に間に合わなかった者も両軍共に大勢おり、最終的に、サイクロプスによってアラスカ基地で殉職した者は連合軍・ザフトを含めてすさまじい数に上り、降下した複数のザフト兵と囮として使われた連合兵たち、特にザフトはこれにより投入戦力の80%を喪失するという大打撃を被り、後のパナマ基地攻略戦にも少なくない影響を及ぼす事となった。
すべてが収まった後、アラスカ基地の周辺は、ぽっかりと空いた巨大なクレーター以外、建物も生物もない死の大地へと変貌していた…。
影響
地球連合軍
当の地球連合はアラスカ基地壊滅を「ザフトの新兵器によるもの」という捏造された情報を発表。軍上層部が自らサイクロプスを使用した事も、差し当たりユーラシア連邦軍を捨て駒にして崩壊させた事も伏せた挙句、ザフトへの対抗心とコーディネイターへの敵対感情を滾らせるためのプロパガンダに利用したのは確かに冷酷非情ではあるが、先のグリマルディ戦役と同じく真実を発表するわけにもいかない以上、ある意味当然といえるかもしれない。
クルーゼの内通が無ければサイクロプスを使うこともなく、多くの高官共々制圧されていた可能性が高い。何故なら元々戦力差が明白だった上に今回のサイクロプス使用は連合軍高官達は事前に安全圏に逃亡でき、かつ、次の拠点を見繕う余裕があったため。
もし仮に自分たち諸共自爆する気概が連合軍高官にあったとしても、自爆して指揮官を失った連合軍は当然大混乱に陥る。
そうなると一気にザフトに趨勢が傾くため、(時期によって程度は異なれど本心ではナチュラルを全滅させたいパトリックの思惑に左右されずに)ザフト勝利の形で戦争終結に向かっていた可能性も結構ある。
これは仮に連合が降伏したとすればザフト内部でもそれを受け入れる者は多いだろうし、多くのプラント民にとってはなおさらであるため。
オペレーション・スピットブレイク自体は物語のかなり早い段階から名前が出ていたように、元々長い時間をかけて準備した緻密な作戦だったのだが、構想期間が長かった事が裏目に出てクルーゼがアズラエルに情報をリークしてしまう十分な余裕を与えてしまうこととなった。
- アークエンジェル隊
何とか逃げ切ったアークエンジェル隊は自分たちを切り捨てた連合軍に不信感を覚え、連合からの離脱を決断。オーブ連合首長国へと逃れることとなる。
なお、連合軍から抜けることをマリューが決定し、その決定を不服とする者はオーブで下船してよいと発表した際、元々軍属だった者も含む多くのクルーが残ったことについて、ムウは「サイクロプスの件が相当頭に来ていたのだろう」と評していた。
ちなみに、アークエンジェルがそのまま連合に戻った場合、命令を無視して敵前逃亡したとして重罰に処されていた可能性が高く、仮に下船したとしても、地球連合に復帰するクルーはおそらく出なかったと思われる。
- 転属命令組(ナタル、ムウ、フレイ)
サイクロプス発動前に転属命令を出されたムウとフレイ・アルスターはそれぞれ忘れ物を取りに行く際にサイクロプスの存在に気付いたのとアークエンジェルに戻るために転属命令を無視しようとしたが、ムウは上述通りAAに戻れたものの、フレイはサイクロプス使用を把握しながらもドサクサに紛れて基地に潜入したクルーゼによって攫われる展開にも繋がっている。
一方、サイクロプス発動前にそのまま軍の命令に従って逃がされたナタル・バジルールは、この件を知った時は動揺し、かつてのクルーを思って取り乱しつつも結局連合軍に残り、ドミニオンの艦長に抜擢されるものの、この時に抱いた連合軍上層部への疑念は彼女の胸に残り、彼女が最終的にドミニオンにオブザーバーとして乗り込んだムルタ・アズラエルをその暴挙から連合軍共々見限り、彼に反抗するきっかけとなった。
ザフト
ザフト側では敵・味方問わず無差別にサイクロプスに巻き込むこの自爆によって受けた大損害で兵たちに連合への報復心を植え付け、次に目標に定めたパナマ基地の攻略成功の際、電磁パルス兵器「グングニール」で無力化した地球軍兵士を、「ナチュラルの捕虜などいらん」とばかりに投降を許さずにしらみつぶしに虐殺する地獄絵図が展開されることとなった。
ただし、大量破壊兵器の使用禁止等といった戦時条約は連合・ザフト間では結ばれておらず、サイクロプス単体での行為は違反行為とは見なされにくい。むしろ、パナマ戦で投降した兵士への組織的な大量虐殺は捕虜の権利を定めた「コルシカ条約」に明確な違反へと繋がっており、地球連合の捕虜条約黙殺に関する格好の大義名分になった。
- イザーク・ジュール
イザークもザフトとして戦ったが、アラスカでフリーダムに助けられた事とパナマで自軍が生み出した惨状を見た事で、自分の顔に傷をつけたストライクガンダムへの復讐心に囚われていた自分を顧みる事に繋がった。
またクルーゼはサイクロプス発動前にイザークにアークエンジェル襲撃の命令を出していたことから、この時イザーク殺害も想定していたものと思われる(元々イザークは戦死する予定のキャラだったため、初期案が通っていたとしたらこのタイミングで戦死していたのかもしれない)。
- ザラ派・クライン派
理由はこれだけではないが、サイクロプスとオペレーション・スピットブレイクの失敗はパトリック・ザラの怒りが増した大きな原因にもなった。
彼はより過激な行動に出る様になり、スピットブレイクの情報漏洩の戦犯としてパトリック及びザラ派が真っ先に矛先を向けたのがクライン派であった。
直前にラクス・クラインによるフリーダムガンダム強奪事件があった事から、パトリックがスピットブレイクの情報漏れとフリーダム強奪とを混同し「クライン派は地球連合と繋がっている裏切り者」だと決めつけた陰謀論から来ているものだが、当然これらの出来事を起こした人物に繋がりなどはない。
しかも実際のフリーダムの目的はアークエンジェル組の救助が最優先であり、さらには逆にサイクロプスからザフトを守ろうとした側である。
そもそもスピットブレイクの「パナマ基地を攻めると通告しておきながらアラスカ本部を総攻撃する」という情報はクライン派さえ誰も知らず、クルーゼのような全容を知っている側を真っ先に疑うべきなのだが、それほどパトリックにとってクライン派の存在が邪魔だと囚われ続け視野が狭くなっていたのだろう。
やがてスピットブレイク失敗の怒りに燃えるザラ派は自らの陰謀論に飲まれるがままにシーゲル・クラインの暗殺やアイリーン・カナーバの拘束といった暴挙に走ってしまう。
そして、パトリックの暴走した憎しみは後のジェネシス使用につながり、最終的には自らの死にもつながってしまった。
見事に「敵味方問わず潰し合う破滅」を望むクルーゼの思惑通り事が進んでおり、ラクスとアスランは自分の父親をクルーゼに間接的に殺害されたとも言えるだろう。
その他の媒体
- 小説版
小説版によると直後の第三次ビクトリア攻防戦では、このパナマでのザフト側の大規模な違反行動が原因で、ビクトリア基地のザフト兵は投降が認められず、連合軍に虐殺されてしまった。
- 『X ASTRAY』
『X ASTRAY』でもこの一件は語られ、特務部隊Xのメリオル・ピスティスから、ユーラシア連邦が大西洋連邦を快く思わない理由として挙げられた。
このように、サイクロプスは良くも悪くも『機動戦士ガンダムSEED』の転換点となった。
他作品での扱い
スーパーロボット大戦シリーズではアークエンジェルはおろか、他作品の面々もサイクロプスを使用した連合に対して怒りを露にしていた。
特に『第3次スーパーロボット大戦α -終焉の銀河へ-』では他作品の軍人もサイクロプスで命を落としたが、その娘が味方に父親を殺されながらも連合を見限る事なく平和のために前向きに考えていた。しかし、一方では一部の者達がサイクロプスの件で連合および地球人類に対して(一時的に)不信感を募らせてしまっていた。
スーパーロボット大戦Wでは、地球に降下したラダムも巻き添えになっている。
余談
本放送時は夕方18時代の放送時にもかかわらず凄惨な描写で物議を醸したが、HDリマスター版では破裂するシーンが更にリアルになっており、よりトラウマ度が増している。
関連タグ
機動戦士ガンダムSEED 舞い降りる剣 みんなのトラウマ 捨て艦
ボンボン版Vガンダム:サイクロプスは爆弾をモビルスーツに見立てればまさにこの漫画で出てきた「電子レンジに入れられたダイナマイト」である。
ガリレオシリーズ:とあるエピソードにてマイクロ波を用いて殺害するシーンがあったが、こちらは出力が小さかったのか、死体は破裂していない。
名探偵コナン:こちらの特別編でもマイクロ波を用いた殺人事件があった。