「戦火が広がればその分憎しみは増すぞ。どこまで行こうと言うのかね君達は」
CV:秋元羊介
人物
ラクス・クラインの父親で、初代プラント最高評議会議長だったが、作中中盤に行われた議長選挙にてパトリック・ザラに敗れ議長の座を明け渡している。
パトリックと共にザフト創設の中心となったが、コーディネイターの持つ出生率低下を目の当たりにし、その優生思想に疑問を持つ。
そして、「自然交配による出生率が低下しているコーディネイターは『進化した新たな種』などではなく、今後ナチュラルと交雑を続けることで『ナチュラルへの回帰を迎える』べき」との結論に至り、シーゲルは『ナチュラル回帰』への布石として中立地帯である南米の密林地帯にて、ハーフコーディネイターの隠れ里を設け、サーペントテールに護衛させていた。
そのような「命は生まれいづるものだ。作り出すものではない!」とする持論は、コーディネイター至上主義者であるパトリックからは「そんな概念、価値観こそがもはや時代遅れと知られよ!人は進む、常により良き明日を求めてな」と否定され、「そればかりが幸福か!?」と言い返すと意見が対立していた。
尚、この対立はヴィア・ヒビキとユーレン・ヒビキ(アル・ダ・フラガ)のものと重なる部分がある。
来歴
C.E.69年まで
C.E.22年
スカンジナビア王国にて極秘裏※にコーディネイターとして誕生する。
※C.E.16年にコーディネイター問題を論ずる国際遺伝子資源開発会議が行われ「人類の遺伝子改変に関する議定書」が採択されたため、公的には人間の遺伝子の操作が一切禁止されていた。
しかし、一部の富裕層は秘密裏に我が子をコーディネイターにしていた。
C.E.38年
ジョージ・グレンが新型の『天秤型コロニー構想(後のプラント)』を発表・建造開始した際に、彼を師としてその建造業務に従事する。
そんな中C.E.43年に以降、公私を共にする関係を築くパトリックと出会う。
尚、この建造に対して多額の出資を行った大西洋連邦・ユーラシア連邦・東アジア共和国がプラントの理事国(代表は大西洋連邦)となり、後に地球連合の主要国となった。
C.E.50年
食料の生産を厳重に禁止されていた上に、活発化する反コーディネイターテロに対して自治権を持たず、非武装が徹底されていたために対抗手段を持たないプラントの現状を打開するために、パトリックと共に政治結社「黄道同盟」を結成し、自治権と貿易自主権の獲得を訴える。
しかし、理事国の目に留まって行動を圧殺されたため、一時的に地下に潜る事態となった。
C.E.55年
妻との間に第1子であるラクス・クラインを授かる(2月5日)。
C.E.57年
C.E.53年から始まったプラント運営を行うプラント最高評議会の議員に、パトリックと共に選出される。また、黄道同盟の活動も行い、シンパも増やしていく。
C.E.63年
プラントのエネルギー生産部門がブルーコスモスのテロによって破壊された際に、理事国側がエネルギー輸出を強制したのも重なり、プラントが深刻なエネルギー不足に陥り、それを批判するためにプラント技術者が行ったサボタージュを理事国がモビルアーマー艦隊で威嚇する一連の事案に際し、パトリックと共に筆頭となり理事国からの独立を目指すグループを結成し、水面下で活動を開始する。
C.E.68年
プラントの最高評議会議長に選出される。
秘密裏に非理事国と取引し、プラントと両国間にて食料輸入および工業製品の輸出を取り決めた。
しかし、それが理事国の逆鱗に触れ『議長解任と議会解体』に加え『プラントの自治権完全放棄』を要求され、それにプラント全体として反発するも、その制裁として食料輸入を制限される。
この制裁は過激であり、南アメリカから食料輸入を行おうとしたプラント籍の貨物船団が、理事国側に撃沈される事件まで引き起こした(マンデンブロー事件)。
C.E.69年
マンデンブロー事件を受けて、パトリックが政治結社だったザフトを軍事組織に再編成しているのを尻目に、プラントでの食料生産を開始しユニウス市の7~10区を穀物生産プラントに改装した。
当然ながら理事国側の逆鱗に触れ、「実力を行使してもこれを排除する」制裁勧告を受ける。
理事国側は勧告通り、モビルアーマー部隊で威嚇行動に出るが、C.E.63年から進めていたモビルスーツ研究が実を結んだジンの活躍により、宙域に駐留していた理事国の宇宙軍の排除に成功する。
この結果を受けて今までの要求を拡大し、『完全自治権の獲得および対等貿易』を理事国側に要求した。更に『翌年の1月1日までに回答が得られない場合は、地球への資源輸出を停止する』とまで付け加えた。
C.E.70年
回答を受けるための理事会がブルーコスモスのテロ(背後に理事国の影あり)で破算となり(「未開理事会」)、その代わりに国連事務総長の呼びかけにより開かれた「月面会議」に出席するも、シャトルの故障により遅刻する。
しかし、会議の場であるコペルニクスにて爆弾テロが起こり、参加予定だった理事国の代表者と国連事務総長、国連首脳陣が挙って死亡する緊急事態となり、結果的に難を逃れる(2月5日)。
理事国代表の大西洋連邦は「このテロ行為をプラント側によるもの」だと非難しているが、上記の流れから分かるようにプラント側優位に進んでいる状況下で、月面会議が破算して困るのは理事国側であり(プラント側はこの会議で『物資輸出を条件に独立』を取り付ければ良かった)、これをネタに反コーディネイター・反プラントを煽ったに過ぎない。
しかし、この事件により大西洋連邦主導で地球連合が設立され、2月14日の『血のバレンタイン』に繋がっていく……。
血のバレンタインから4日後、その国葬にて「黒衣(喪服)の独立宣言」と「地球連合への徹底抗戦」を明言する。
同時に「連合非参加国には優先的に物資を提供する」と勧告し、理事国との経済格差から軋轢を生んでいた、非プラント理事国である大洋州連合と南アメリカ合衆国がこの勧告を承諾した(シーゲル議長による積極的中立勧告)。
食料不足解消のため早急に地球上に軍事拠点を確保する必要があったにもかかわらず、その足掛かりとして展開した『第1次ビクトリア攻防戦』が失敗したのを受けて、「地上における軍事拠点の確保」「宇宙港やマスドライバー基地の制圧による地球連合軍の地上封じ込め」「核兵器、核分裂エネルギーの供給抑止となるニュートロンジャマー散布」の3つの柱からなる赤道封鎖作戦『オペレーション・ウロボロス』を可決する(3月15日)。
尚、これは最高評議会議長としての可決でありシーゲルの独断ではない。また、この際に強硬派は「核報復」を提案しており、それを抑えるための妥協案であったと考えられる。
その結果として、4月1日に『オペレーション・ウロボロス』が実施され、地球連合各国はニュートロンジャマーによる深刻なエネルギー危機に陥り、その窮乏から餓死者も続出した。
一節には約10億人とも推測される被害者を出したとも(尚、この「被害者」が単なる餓死者なのか、エネルギー危機により何らかの不利益を被った者全員なのかは不明)。このエネルギー危機は『エイプリル・フール・クライシス』と呼ばれている。
一方、連合の軍人であるチャンドラ二世が「でも、核ミサイルがドバドバ飛び交うよりはいいんじゃないの~? あのユニウス7への核攻撃の後、核で報復されてたら、今頃地球ないぜ?」と評している様子から、連合軍人からでさえ「『核報復』に比べたら有情な制裁だった」と認識されている。
そもそもの話、双方が核兵器を保有している場合、どちらかが核を使った時点で核戦争が始まる。
尚、非連合・反連合国はプラントからの物資・エネルギー提供により顕著な被害を受けておらず、オーブ連合首長国のような元から原子力発電以外の発電手段手段に頼っていた国も被害を受けていない。
そのため、これらの国では反プラント・反コーディネイター思想はそこまでなく、特に親プラント国家である大洋州連合はザフトにカーペンタリアを貸し出している。更に、一部の企業は利益優先で思想や感情を割り切っており、ユーラシア連邦のアクタイオン・インダストリー社はザフトの次世代主力コンペティションに機体を提出している(尚、この機体が後のドラグーンシステムに繋がり、連合に対しても大損害をもたらした)。
開戦から半年後、戦況の硬直状態の打破と戦争の落としどころを求め、マルキオ導師の伝手で地球連合事務総長・オルバーニと秘密会談を行うが交渉が決裂する(10月22日)。
C.E.71年(『SEED』本編)
以前からコーディネイターの展望についてパトリックと意見が割れていたが、2月22日行われたプラント評議会にて「『オペレーション・ウロボロス』の強化」が決議されたのを契機に、両雄の意見対立が表面化する。
その後、4月1日にプラント最高評議会にて議長選挙が行われ、パトリックが当選したため議長の座から退く。
この時、パトリックが強硬路線を明示したと共に『オペレーション・ウロボロス』の強化策として『オペレーション・スピットブレイク』を議会に提出・即日可決の横暴を行ったのに見切りをつけ、シーゲルは評議会議員そのものも辞し、自由条約黄道同盟も離党、組織の制服である青服も紫服も着なくなった。
1度だけオブザーバーとして茶色の背広姿で評議会に姿を見せたシーゲルは、「技術によるコーディネイター存続」を標榜し強硬になっていくパトリックを諌めたが、その後は完全にザフトおよび最高評議会と袂を分かっている。
評議会議員辞職後は前議長だった伝手などを使い、プラント最高評議会に「オルバーニの譲歩案」を提出しようとしたマルキオ導師の仲介役を務めた他、サーペントテールを監視役としてニュートロンジャマーキャンセラーの限定的な利用による地球のエネルギー危機解決も画策していた(前者は最高評議会に却下され、後者は先に高効率な太陽光発電が普及したため、実を結ばなかった)。
また、評議会議員を辞職したためラクスと共に庭でティータイムを楽しむ時間的余裕が生まれており、その折にマルキオ導師が運んできたキラ・ヤマトと対面し、同じテーブルを囲んでいる。
ラクスによるフリーダム強奪事件(5月5日)の際には、その1週間後に状況証拠から「政敵の謀略」と断定したパトリックの指示により、シーゲルは『国家反逆罪』で指名手配され(加えて、クルーゼが行った「『スピットブレイク』の情報漏洩」も勝手に容疑として加えられた)、約1か月間ほどプラント内で逃亡を続けていたが、ザラ派の特殊部隊に潜伏先を発見された上に一斉射撃を受けて殺害された……。
この件についてはラクスの独断のように見えるが、作中で語られたように『フリーダムの強奪』そのものが以前から念入りに練られていた計画であり、ザフトの最高機密を知った上である程度関与出来る立場にある人間が必須である事情から、深く関与していた可能性が極めて高い。
シーゲル自身、評議会議員そのものも辞している事情からも、日に日に過激化していくザラ派を脅威に思っており、1機でも多くファーストステージシリーズ(及びエターナルやミーティア)をザラ派に渡らせないようにすべく、状況によっては強奪も視野に入れていた可能性も高い。実際、処分予定であった最高機密であるドレッドノート(ニュートロンジャマーキャンセラー)の横流しも秘密裏に行っている。
C.E.75(FREEDOM)
シーゲル個人は既に死亡しているが、娘のラクスの思わぬ真実が発覚した。
キラの実母であるヴィア・ヒビキと同じ考えの発言をしていたが、ラクスの真実を考慮すると、これらを見知った故に『生命の創造』そのものに否定的な帰結に至ったからこその発言とも考えられる。
また、あるシーンではクライン夫妻とキラの養父母であるヤマト夫妻が、アウラ・マハ・ハイバルのもとから赤子たちを抱えて逃げるように去るカットが描かれている点から、アウラの危険思想の一端に感づいていたのは確かである。
そうなると、シーゲルは「ラクスにはいずれ結ばれる予定の相手が既にいるのを知りながら、彼女をアスランと政略結婚をさせようとしていた」という奇妙な事実が浮かび上がる。
これもクライン夫妻が、本作の黒幕に加担しないための措置だったのか、あるいはザラ夫妻との間に何らかの取り決めがあったのか。いずれにせよ関係者一同が没したため、真相は闇の中になっている。
余談
様々な誇張や誤解について
シーゲルはよく
「どこが穏健派なの?」
「戦争の元凶なのでは?」
「核攻撃よりもよっぽど被害を出しているのでは?」
と酷評する層もあるが、上記の来歴を見てもらえれば分かるように、専守防衛と交渉を軸に最小限の犠牲で『プラントの独立とプラント在住者の安全確保』を目指しており、和平ないし停戦による戦争の早期決着に向けて行動していた姿勢からも、間違いなく穏健派である。
色々取り上げられる『オペレーション・ウロボロス』にしても「食料確保」「攻撃抑止」「国民感情の鎮静化」「エネルギー貿易の下地作り」と、当時のプラントにとって必要不可欠だった検案を実行したに過ぎず、穏健派・過激派は関係ない。あくまでやらなければならない事案に対して躊躇が無く、またプラントのために譲れない一線を持っていただけに過ぎない。
「地球全土であらゆる核分裂反応を停止させるニュートロンジャマーで10億人殺した」のもほぼデマである。設定ではあくまで「被害者」としか記載されておらず、それが全て死亡(餓死者)かどうかは明言されていない。
例えば「戦争の被害者が1万人」とあっても、その1万人全てが戦死者とは限らない(戦争で仕事や家を失っても被害者である)のと同じである。実際、ニュートロンジャマーによるエネルギー危機が起こったのは、地球各国ではなく地球連合各国であり、その地球連合各国の総人口が75億人である事実から、被害者を全て餓死者とするには7.5人に1人=13.3%は流石に死に過ぎており(毛沢東が引き起こした中華人民共和国大飢饉でも餓死者は最大に見積もって100人に8人=8%である)、餓死も含めて深刻な被害を被った人々の総数と解釈するのが妥当である。
現実でもそうであるが原子力発電は多くの利権が関わっており、被害者のほとんどは経済的被害者であると思われる。
それに加え、ザラ派たちが推進していた核報復をニュートロンジャマーの投下の代わりに行っていた場合、仮に報復自体の犠牲者がニュートロンジャマーより少なかったとしても、そこから核戦争が始まって10億人以上の犠牲者がでていたことは確実であるため、タカ派の核報復を防いだだけでも穏健派として十分評価できる仕事をしている。
見通しも決して甘かったわけでもなく、国家(厳密にはまだ地域共同体)の代表として『プラントの独立とプラント在住者の生命を最優先』とし、その場その場で(プラント的には)ほぼベストないし必須な選択を採り続けてはいた。更にはコーディネイターの限界を一早く察して、秘密裏に現実的な解決案の布石も打っていた。しかし、置かれていた状況そのものがほぼ詰んでいたのに加え、連合やザラ派が予想以上に感情的で過激かつ短慮であったために想定が狂わされる事態が多々あり、結果として起こそうとした計画が殆ど上手くいかなかった不憫なキャラと評価出来る。
血のバレンタインの直接的要因となった未開理事会からの月面会議(コペルニクスの悲劇)はその顕著な例であり、死んだ要因も半分は娘が意中の相手の意志を汲んで強奪計画を前倒ししたためなので尚更である(その後のクライン派の動き的に、フリーダムの強奪はエターナルの強奪と同時に行い、その足でプラントを離れる予定だった可能性が高い)。
総じて、良くも悪くもプラント建造から携わった者として、プラントとコーディネイターの未来を第一に考えて行動し、『血のバレンタイン』があろうと反ナチュラルに傾かずに凶弾に倒れるまで首尾一貫し続けた愛国者であった。
中の人
演者の秋元羊介氏は過去に『機動武闘伝Gガンダム』で東方不敗を演じた事で有名。
SEED収録の打ち上げで『東方不敗』と書かれたシャツを着用して来たらしい。
なお、シーゲルの設定年齢も東方不敗と同じ49歳。
シーゲルの隠れ家
物語終盤にシーゲルが居場所を突き止められ銃殺された隠れ家は『機動戦士ガンダム0080』に登場したアルフレッド・イズルハの実家とデザイン面で酷似している。