説明
亡くなった者が生前に国家に対して多大な貢献をした場合などに行う葬儀。天皇の国葬は大喪の礼と呼ばれる。その際には各国の要人が参列するため、弔問外交が活発に行われる。
日本の国葬
日本で国葬が執り行われるようになったのは戦前の明治時代からで、最初に国葬の対象となった人物は岩倉具視である。
戦前の国葬令、ならびに皇室喪儀令において国葬の対象となるものが定められたが、これらは昭和22年に失効したとされる。明確に廃止されたプロセスは無いが、これ以降国葬が行われる機会は著しく減少した。
なお、戦前も天皇の他に皇族・旧元勲・陸海軍元帥・首相経験者のそれぞれ一部の者に限られ、事例はあまり多くない。国葬令・皇室喪儀令は大正天皇の死期が近づいた大正15年末に相次いで制定されたが、これ以前に行われた国葬の方が多い。
上述の理由から、最新の政府見解によれば、内閣府設置法第4条第3項第33号の「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関する規定」に国葬が含まれると解釈されている。
しかし国葬令の失効により国葬そのものを執り行う規定が消失したと解釈するものもおり、様々な事情から戦後に天皇・皇族以外で国葬となったのは吉田茂と2022年7月8日の銃撃事件により死去した安倍晋三の2名のみである。
ちなみに、佐藤栄作の葬儀は国民葬(正式には内閣・自民党・国民有志による合同葬)として行われた他、三木武夫の葬儀が内閣・衆議院合同葬として行われている。
それ以外の葬儀は時の内閣や所属政党による合同葬といった形がとられている。なお、衆議院・参議院の議長が在職のまま死去した時は、所属する院による議院葬が行われている。
法的には上記にも見られるように天皇・皇族の葬儀においては「喪」の字を使うことが多いが、一方でその本葬については「斂葬の儀」と「葬」の字が使用される。戦後の皇族の葬儀では貞明皇后・香淳皇后の葬儀は天皇と同じく「大喪儀」として執り行われたが、名目上は皇室の私的な葬儀としての扱いで、政府が関わったのは昭和天皇の大喪の礼(天皇の場合、私儀としての大喪儀と法的行事としての大喪の礼が連綿として行われる複雑な形式である)のみである。
内閣総理大臣経験者の葬儀
日本政府の関わる葬儀の中でも特徴的かつ圧倒的に多いのは内閣総理大臣経験者の葬儀である。
現在、生前の功績で正二位以上に叙せられた者に対して内閣・政党合同葬として行われている(遺言により内閣や党をあげての公葬を望まなかった海部俊樹・竹下登を除く)。
上述した内三木を除く三人がより格上の従一位に叙されているが、同じく従一位の中曽根の場合は正二位の首相と同じく内閣と自民党の合同葬として行われており、その時の政権の胸三寸で行われているとも言える。他方、従二位止まりの首相(概ね首相在任期間が一年未満の者)や叙位が成されていない者(栄典を断った宮澤喜一と、ロッキード事件の煽りで位階を授かっていない田中角栄)に対しては内閣が関与せず、生前の所属政党により党葬のみが行われている。
上記の葬儀に関する規定は、1980年の大平正芳の首相在任中死去に伴い概ね決定されたものとされる。これまでは吉田茂・佐藤栄作を除き基本的に党葬のみが行われてきたが、吉田の国葬、佐藤の国民葬を経て大平において同等以上の葬儀規模としながらも争議になりにくい形として内閣・党の合同葬の形をとったのが始まりである(佐藤の葬儀と比して、「国民有志」が入っていない)。
自民党以外の政党出身者は、この決まりが決定されて以降亡くなった首相経験者が羽田孜(在任64日、従二位)のみである(最終所属が自民党以外の者、一度離党したが出戻った者には海部がいるが、海部は生前の自らの意思で合同葬を辞退している)ため、内閣の関わる葬儀が自民党以外の政党で行われたことは2023年の時点で無い。
なお、党葬・合同葬・議院葬と国民葬・国葬を比較して、儀式の規模はその時々の対象者(と実際の葬儀の施行者(事実上の喪主))によって変わると言え、葬儀の種類によって決まるとは言えない。ただし予算の出処に差異があると言える。また、殆どの場合はこれらの公的葬儀の前に、家族を喪主とした私的葬が行われ、実際の死者の送り出しはこちらに拠るものが殆どである(いうなれば、国葬を筆頭にしたこれらの儀式は国をあげた「お別れの会」である)。
海外での国葬
君主国においては、国王(大公・スルタンなど)が国葬の対象となることが多い。反面国王以外の者を国葬とする例は海外でも事例が減少している。例えばイギリスでは、ウィンストン・チャーチル以降60年近くに渡り国葬を行った事例が無い(国王を含めれば、2022年に女王エリザベス2世が崩御したことで57年ぶりに行われた)。
英国ではこの他にセレモニアル・フューネラル(日本で準国葬・国民葬などと訳される)があるが、女王の夫エジンバラ公爵フィリップ等王室高位メンバーでもこの儀礼が選択されることが多い。このセレモニアル・フューネラルが王室以外に行われた例としてはマーガレット・サッチャー元首相などの事例がある。
共和国では大統領経験者は概ね国葬が行われる。そのため、君主国より国家元首の交代の多い共和国では比較的に見られる形式とは言える。
国の偉人・世界的著名人などを国葬にする例はフランスなど散見される。政治的意図を忌避して近年では殆どの国でこのような事例は減少しているが、例をあげればフランスのシャルル・アズナブール・ブラジルのアイルトン・セナ、アルゼンチンのディエゴ・マラドーナなどが国葬の対象となった。
総じて日本の国民栄誉賞に相当するような栄誉のように扱われる事例が無いとは言えないが、殆どの場合は特別な政府の首脳を送り出すための儀式というのが世界的傾向と言える。
関連項目
煉獄杏寿郎:2020年のNHK紅白歌合戦で炎(LiSA)が流れた際に煉獄杏寿郎のアニメ映像が背景で流れたことから国葬と呼ばれた。
ガルマ・ザビ、クロヴィス・ラ・ブリタニア:葬儀を国葬という名の国民の士気高揚に利用された。