概要
国民に広く敬愛され、前人未到の業績をあげた人に内閣総理大臣の決定により贈られる表彰のこと。1977年に当時の福田赳夫首相(内閣総理大臣)が、本塁打世界記録を達成したプロ野球の王貞治選手(当時)を称えるために創設した。
創設以前は、佐藤栄作首相が創設した「内閣総理大臣顕彰」があり、現在は国民栄誉賞に次ぐ表彰と位置づけられている。受賞者には表彰状と楯、記念品または金一封が贈呈される。
歴代受賞者
人物 | 職業 | 受賞年 | 備考 |
---|---|---|---|
王貞治 | プロ野球選手 | 1977年 | 国民栄誉賞第一号 |
古賀政男 | 作曲家 | 1978年 | 没後受賞 |
長谷川一夫 | 俳優 | 1984年 | 没後受賞 |
植村直己 | 冒険家 | 1984年 | 没後受賞 |
山下泰裕 | 柔道選手 | 1984年 | ロサンゼルス五輪金メダリスト |
衣笠祥雄 | プロ野球選手 | 1987年 | |
美空ひばり | 歌手 | 1989年 | 没後受賞 |
千代の富士 | 力士 | 1989年 | |
藤山一郎 | 歌手 | 1992年 | |
長谷川町子 | 漫画家 | 1992年 | サザエさん作者 没後受賞 |
服部良一 | 作曲家 | 1993年 | 没後受賞 |
渥美清 | 俳優 | 1996年 | 没後受賞 |
吉田正 | 作曲家 | 1998年 | 没後受賞 |
黒澤明 | 映画監督 | 1998年 | 没後受賞 |
高橋尚子 | 陸上選手 | 2000年 | 初の女性アスリート受賞者 |
遠藤実 | 作曲家 | 2009年 | 没後受賞 |
森光子 | 女優 | 2009年 | |
森繁久彌 | 俳優 | 2009年 | 没後受賞 |
なでしこジャパン | 女子サッカー日本代表 | 2011年 | 初の団体での受賞 |
吉田沙保里 | レスリング選手 | 2012年 | 世界大会13連覇の偉業達成 |
大鵬 | 力士 | 2013年 | 昭和の大横綱 没後受賞 |
長嶋茂雄・松井秀喜 | 元プロ野球選手 | 2013年 | 初の同時受賞 |
伊調馨 | レスリング選手 | 2016年 | 女子選手初の五輪4連覇 |
羽生善治 | 将棋棋士 | 2018年 | 史上初の永世七冠達成 |
井山裕太 | 囲碁棋士 | 2018年 | 史上初の年間グランドスラム達成 |
羽生結弦 | フィギュアスケート選手 | 2018年 | 日本人初の冬季五輪連覇 |
概要
歴代受賞者は、いずれも歴史的な功績を残した人物であり受賞に相応しい。めったに受賞者が出ないことによる希少価値もある。
ただ歴代受賞者の12人が没後に受賞していることから、「何故、生前に授与しないのか?」という声は常にある。かといって生前の若いうちに授与の声がかかると今度は「若すぎる」という声もあがるため、どうしても没後、あるいは一線を退いた引退後ということになりやすい。
明確な選考基準はなく、その時の情勢や内閣の判断、総理の主観などによって決められる。このため授与の声がかかるかどうかは、その時々の情勢と運とタイミングが重要な顕彰。また時の政権に明確に批判的な立場をとっている人物の場合、概ね授与は見送られる。
このため「政治利用目的」「政権の話題づくり」という批判が毎回上がるのも通例となっている。しかし国民栄誉賞を授与したことで時の政権の人気が上がったという実例は、実際には過去一度もない。逆に上記のなでしこジャパン受賞の際は当時の民主党政権(菅直人)の人気が低下したが、もともと支持率低下の最中だっただけで、国民栄誉賞との因果関係は全く無い。
傾向
受賞者はアスリートと大衆音楽の作曲家が多い。スポーツ分野の受賞者が多いのは、もともと王貞治を顕彰する目的で創設された賞であるためだが、作曲家以外の文化人の受賞が少ないことには疑問の声が多い。特に漫画・アニメ分野の受賞者は長谷川町子だけだが、藤子・F・不二雄や手塚治虫を差し置いての受賞には疑問を呈する意見も多い。スポーツ選手や作曲家でも野村忠宏、伊福部昭、川上哲治など、歴代受賞者を見ると受賞してしかるべき人気・功績を残した人物が授与されていない。
またアスリートでも、柔道や水泳や体操など、創設当時より日本のお家芸と呼ばれてきた競技(歴史的に常にメダル獲得が期待されているスポーツ)は受賞基準がどんどん厳しくなっている模様。
受賞が困難な例
受賞してしかるべき人気・功績を残した人物でも、小室哲哉のように本人に逮捕歴があったり、谷亮子のように親族に逮捕歴があったり、暴力団関係者との繋がりがハッキリしていると見送られる傾向にある。
共産党と文化人
特に高畑勲や山田洋次のように支持政党が共産党であると明言していたり、実際に活動を行っていたり、吉永小百合のように左派的な言動が目立つ人物も、この「国民栄誉賞」の受賞は非常に難しい。手塚治虫、井上ひさし、松本清張、永六輔、大江健三郎など、作家は共産党支持者が多く、この点が文化人の受賞が難しい所以となっている。
高倉健の場合は、没後速安倍晋三が「授与の検討に入った」と発表したのだが、最終的に識者の賛同を得られなかったのは上述の山田洋次ら左派との親交が深かったためと言われる。
ちなみに
基本的には日本人が授与対象と思われているが、初代受賞者の王貞治氏は中華民国籍である。また若いうちに授与の声がかかると「若すぎる」という批判が上がるが、もともとはこの王貞治を特別に顕彰したいが「年齢が若すぎるため相応しい賞がなかった」という理由から創設された賞である。
本人および遺族の意向で辞退した人物が何人かいる。福本豊、古関裕而などがいる。イチローは授与の声がかかっているが、いずれも「現役である」ことを理由に受賞を3度にわたり拒否している。福本氏も「そんなモンもろうたら、居酒屋にも気安く行けへんし、立ちションも気安くできへんから、(もらうのを)やめておくわ!」という理由で拒否した。