連合軍の切り札
スーパーパーシング(Super Pershing)は、第二次世界大戦中のアメリカ陸軍が開発・運用した重戦車。正式な型番は『T26E4』。
アメリカ陸軍のWW2における実用戦車としては間違いなく最強格で、強力なドイツ戦車と互角以上に戦える高性能を有した。
なお、実戦投入されたのはT26E1試作1号車を原型に改造・再制定された『T26E4先行試作1号車』(T26E4 Pilot Prototype No.1)、これ1輌のみ。
以降、本記事ではこのT26E4先行試作1号車を便宜的に『T26E1改』と仮称する。
ドイツ戦車の恐怖
パンサー | キングタイガー |
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第二次世界大戦後期の1944年6月、米英を主力とする連合軍はノルマンディーに大規模上陸を敢行。
ここに、1940年以来の西部戦線における連合軍の快進撃が始まったが、その道を阻むドイツ軍の抵抗は決して生半可なものでは無かった。
中でも最も恐れられたのが、脅威の高性能を有するタイガーやパンサーなどのドイツ戦車。
米陸軍主力のM4シャーマン中戦車は火力・防御力のいずれにおいても圧倒され、時には大損害を被ることもあった。
これを受け、アメリカ陸軍は新型重戦車『T26E3』(後のM26パーシング)の実戦投入を決定。タイガー・パンサーと対等以上の性能を有するこの戦車の登場で、連合軍の戦車戦における不利は打開される...はずだった。
ドイツには既に、T26E3を超える第二次世界大戦最強の超兵器・キングタイガーが有ったのだ。
大改造・高初速90mm砲
T26E3 / M26パーシング | T26E1改 |
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1944年末、米陸軍は強力な高初速90mm砲『T15E1』をT26E1試作1号車へ搭載することを試み、ここにT26E1改が誕生した。
搭載にあたり大きな改造点となったのが、通常であれば砲塔内部に収容される砲の平衡装置が砲塔上面に2つ並んだ筒状の物体となっていること。
T15E1の大型で重い砲身とバランスを取るのに多くのカウンターウェイトが必要となったものの、砲塔内に収まり切らなかった結果としてこのような形に落ち着いたらしい。
- T15E1型73口径90mm砲の射貫装甲厚(傾斜角+0度の場合)
弾名 | 弾種 | 砲口初速 | 射貫装甲厚/距離 |
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T50 | 仮帽付被帽付徹甲弾(APCBC) | 975m/s | 235mm/9m,205mm/914m,180mm/1,828m |
T44 | 硬芯徹甲弾(APCR) | 1,140m/s | 373mm/9m,302mm/914m,241mm/1,828m |
1945年3月、高初速90mm砲を搭載するT26はT26E4に制定された。
これに加え、キングタイガーの存在とその高性能を把握した米陸軍は、試験段階にあったT26E1改を実用試験を兼ねて実戦投入することを決定。
戦車は船舶輸送で欧州大陸へ3月15日に到着し、ドイツ本土への進撃を強める第3機甲師団「スピアヘッド」がこれを受領。この後、前線の将兵らによって非公式に『スーパーパーシング』の名が与えられた。
実戦部隊はT26E1改の装甲がキングタイガーの砲火力に対して不足すると判断し、ドイツが放棄したパンサーからはぎ取った装甲板を増加装甲として正面の各部に取り付けて強化。
その外見はリアルフルアーマー仕様と化している。
実戦
T26E1改が投入された大戦末期は既にドイツ軍の弱体化も著しく、交戦回数は少なかった。
以下に列挙する内容は、T26E1改の砲手を務めたジョン・P・アーウィン(John P. Irwin)の証言および自叙伝『Another River, Another Town』に基づく。
- 1945年4月4日
射距離1,400mで戦車らしき装甲目標を1輌撃破。
これは独第507重戦車大隊のハンティングパンサーであった可能性が示唆されている。
- 1945年4月12日
4日と同様、未詳のドイツ戦車を1輌撃破。
- 1945年4月21日
ドイツのデッサウで発起した戦いの最中、キングタイガーと思しきドイツ戦車と近距離で交戦。
ドイツ戦車の放った砲弾1発はT26E1改に命中するも跳弾し、逆にT26E1改が放った砲弾2発もドイツ戦車に対して致命打とはならなかった。
そして、ドイツ戦車はT26E1改へと接近するべく瓦礫の山を乗り越え始め、T26E1改はその際に晒された車体下部をすかさず攻撃。
この砲弾は貫通、ドイツ戦車の車内弾薬庫に誘爆を引き起こし、その砲塔は吹き飛んだという。
キングタイガーの真偽
21日の戦闘に現れたドイツ戦車が本当にキングタイガーだったかどうかについては、かなり怪しいと言わざるを得ない。
というのも、デッサウの最近辺に配置されていたキングタイガーを擁するドイツのSS第502重戦車大隊の展開地点は該当地域から100km以上離れた地点で、また当時の連合軍ではあらゆるドイツ戦車がタイガーと誤認されることがあった。
もしこの逸話が事実であったとしても、そのドイツ戦車はキングタイガー以外のドイツ戦車、例えばIV号戦車やパンサーだったのではないか、というのが現行で最も妥当な推測となるだろう。
余談
- 『T26E1-1』
T26E1改の砲塔側面には『T26E1-1』と記されており、これがこの戦車の正式型番として扱われることがある。
ただし、アメリカ陸軍は正式型番にハイフンを用いないため、この表記は厳密には誤り。
- 戦後のT26E1改
特に保存のための措置が取られることはなく、ドイツのカッセルに設けられた戦車廃棄場に棄てられ、スクラップにされた。
- 量産化、しかし…
1945年、改良された高初速90mm砲『T15E2』を搭載するT26E4の量産型が実用化した。
大きすぎる平衡装置が小型化され砲塔内に収容されたことや、砲弾の占めるスペースを減らすために発射体と装薬を分けて装填する『分離装薬式』が採用されたことなどにより、その実用性は大きく向上している。
当初、この戦車は1,000輌の生産が想定されていたものの、終戦直後に軍需産業が一挙に停滞させられたことに伴い、量産は25輌を以て終了。
最後まで制式呼称が与えられることはなかった。
登場作品
T26E1改に相当する『T26E4 Super Pershing』と、T26E4に相当する改良が可能な『M26 Pershing』が登場。
前者は同格中戦車と比べて砲塔正面が硬くハルダウン向きで、後者は盛りに盛られた増加装甲で同格重戦車と同等の防御力を発揮する。
T26E1改に相当する車輌がアメリカのランクIV重戦車『T26E1-1』として登場。
史実再現により砲塔上面の平衡装置に砲昇降機としての判定があり、ここが破壊されると砲の昇降操作が不可となる。
参考URL
関連タグ
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