概要
ЦНИИТОЧМАШは、ソ連時代に設立された、銃火器や火砲、自走砲といった砲兵システム、個人用装具、弾薬などの研究、設計開発、製造を行うロシア連邦の企業である。この名前はЦентральный Научно-Исследовательский Институт ТОЧного МАШиностроенияの頭文字を取ったものであり、日本語では「精密工学中央研究所」などと訳される。ラテン・アルファベットに置き換えるとTsNIITOChMAShとなる。
歴史
ЦНИИТОЧМАШの前身となった組織は第二次大戦中の1944年に設立された小型武器・砲・航空兵器研究所НИИСПВАである。その後何度か改組を繰り返し、1961年に現在の名前になった。ソ連崩壊後は一時民間企業となるが、現在ではロシア連邦の軍需産業国営企業体Rostec傘下に収まる国営企業(合資会社)となっている。
トレードマーク
1993年9月2日にロシア連邦において商標出願されたのが、最初の丸っこいトレードマークである。ミミズクがモチーフとなっており、現在の経営体制に変わってから採用された二代目のシュッとしたトレードマークも同様である。なぜミミズクなのか、理由は明らかにされていない。デビュー……もとい、初めて使用されたのは1995年10月25日である。
かわいい。
業務内容
先述した通り、小火器と弾薬、その周辺機器の研究と設計製造が主な活動である。また研究所内の開発だけではなく、外国製を含む他社製小火器の性能試験も行っている。これらはほとんどが、ロシア連邦軍などの小火器制式トライアルのために実施されている。例えば内務省、連邦保安庁向けに調達されているグロック17の購入可否を判断する性能試験は、ЦНИИТОЧМАШによって行われたと見られる。
ЦНИИТОЧМАШで設計された小火器は、1980年以前ではAK-47やその改良型AKM、AK-74に代わる試作小銃など、連邦軍向けの汎用火器が主であるが、近年ではPSS消音拳銃やAPS水中銃に代表される特殊用途の小火器や、VSSヴィントレス消音狙撃銃、SR1自動拳銃、SR2短機関銃のような特殊部隊向けの小火器が主要なラインナップになっている。
弾薬は上記に挙げた軍用火器の弾薬は勿論のこと、射撃競技用の.22LR弾ブランド「オリンプ」を展開している。ЦНИИТОЧМАШ製.22LR弾は、オリンピックや世界選手権でロシアに数多くのメダルを齎した。
その他の機器は、個人携行対空ミサイルから通信機材まで対応する輸送用ケースから射撃シミュレーター、照準システム、自走砲まで取り揃えている。個人用の防護装備システムも設計しており、ロシア版フューチャーソルジャー計画とも言えるラトニク計画も、装備品の設計から火器の性能試験までЦНИИТОЧМАШが絡んでいる。
ЦНИИТОЧМАШが設計したもの
知名度のあるもの
- АПС/APS水中銃
言わずと知れた水中銃。世界初の水中自動小銃であり、自動小銃型の水中銃開発に成功しているのは今のところロシアだけである。
- ПСС/PSS消音拳銃
ピストンを介して弾頭を射出し、燃焼ガスを密封することで発射音を静粛化した特殊弾薬を用いる消音拳銃。最近改良型が発表された。
- ВСС/VSS狙撃銃
専用亜音速弾を用いる消音狙撃銃。突撃銃型としたASヴァルとともに、現在でも対テロ作戦に従事している。
知名度は低いけど代表作
- СР/SRシリーズ
「特殊設計」という名前の通り、特殊部隊向けに開発された小火器群。対ボディアーマー性能に優れるSR1自動拳銃と、その相棒であるSR2短機関銃、ASヴァルを原型としたSR3、長距離精度に優れるSR4狙撃銃が展開されている。
- КС-23/KS-23
23mm口径の特殊小銃という名前だが、その実態は様々な弾薬を発射できる多目的発射機である。ウィンチェスターM1200を参考にしたポンプアクション方式の機関部に対空機関砲から流用した銃身を装備し、射程と命中精度に優れているという。催涙ガス弾からエンジンを破壊せしめる対車両弾、閃光弾、散弾、ゴム弾などを発射することが出来るが、あまりの大口径故に40メートルという長大な安全距離(これ以内でゴム弾を命中させると死傷する!)が設定されている。
試作品
- АО-63
「コラ画像が蔓延」「あまりに情報がない」「情報がなさすぎて架空銃扱い」などという扱いを受けてきた二連銃身の自動小銃。ところが2017年5月、遂に現物が公開され、その上分解して中身まで見せてくれるというあまりの大盤振る舞いに一部界隈が熱狂したり、アレをナニしたりしなかったりとか……。アバカン計画で提出された試作銃の一挺。コラ画像や某映画のモックアップとは裏腹に、銃身は水平配置であった。
- АО-31
元々はAKMに代わる自動小銃として設計されていたが、7番目のモデル(AO-31-7)で突如としてケースレス弾仕様に生まれ変わった。どうやら肝心の弾薬は完成しなかったようである。
- АО-27
AKMの強烈な反動を克服すべく設計された。古めかしい銃床が目を引くが、目玉はフレシェット弾の採用である。フレシェット弾は弾が軽いため反動を抑えることが出来たが、軽すぎて弾道が安定しなかった。
- 80.002
何だこの名前。由来は誰も知らないが、銃の素性を考えると暗号名のようなものに近かったのかもしれない。アメリカでもSPIW計画などで研究されていた、自動小銃と擲弾発射器を組み合わせた複合火器である。OICWの祖先と考えていただけると解りやすいだろう。80.002も例に漏れず小銃と擲弾発射器を一体化しているが、高度に一体化したせいでなんと遊底まで一体化。小銃と擲弾どちらかの弾倉しか装着できない上、空薬莢は装着してない方の弾倉挿入口から排出されるという超省力設計。
他にもたくさんあるので、興味が湧いたら調べてみてね!
呼称について
ЦНИИТОЧМАШのロシア語発音を無理矢理日本語に書き出してみると、「つにーとちまっし」「つにーとちまし」といった風になる。しかし、日本語圏では「デジニトクマッシ」という表記が一般化している。初出は不明だが、恐らくラテン転写のTsNIITOChMAShをローマ字読みした表現だとみられる。
ロシア語ではЦを単体では「ツェー」と発音する。Цをラテン転写するとTsというように二文字に分解してしまうのだが、これを一音ずつ読んだことで、上記のような表記が生まれたのだろう。本記事では、記事名をロシア語表記にしたため、よりロシア語に近い発音を読み仮名とした。
関連イラスト
ЦНИИТОЧМАШ、ЦНИИТОЧМАШ製品に関するイラストを紹介してください。
表記揺れ
TsNIITOChMASh……ラテン・アルファベット表記
ツニートチマッシ……ロシア語表記の音読み
デジニトクマッシ……日本語圏で普及している表記