本項では、イギリス海軍の航空母艦について解説する。第2次世界大戦期の同名の戦艦についてはクイーン・エリザベス級戦艦を参照のこと。
概要
イギリス海軍最新の空母であり、満載排水量65,000tを誇る、同海軍最大の軍艦である。ツイン・アイランド方式の艦橋の採用など、特徴的な設計が取り入れられている。なお、STOVL機専用であることから、軽空母として分類されることがある。...軽?
来歴
イギリスは全盛期に比べて多くの植民地を失ったが、未だに海外領土を有する島国であり、国連安保理の常任理事国でもある。故に、海外での紛争などに介入することも十分考えられる。このため、機動力に優れた空母戦力が必要であるとされた。一時は財政難から正規空母を全廃する憂き目にあったが、フォークランド紛争ではハリアーを搭載したインヴィンシブル級空母が活躍したこともあって、この認識が強まることになる。
しかしながら、イギリス海軍はインヴィンシブル級では能力が不足していると考え、より大型の空母を求めたのである。90年代後半、このような理由から将来空母(CVF; Future Aircraft Carrier)の研究が始まった...のまでは良かった。
ここから計画の迷走が起こる。当初F-35Bを搭載する予定であったCVFは、開発費低減のため、フランス新空母計画(PA2)との共同建造という幻想に手を伸ばしてしまう。だが、そもそもPA2は原子力のCATOBAR空母を目指していたにもかかわらず、CVFは通常動力型のSTOVL空母である。これでは上手くいくはずもない。あれほど運用思想の違いには注意しろと……
これに加え、英仏両国の思惑の違いから、結局共同建造は白紙撤回。時間を無駄にするのみに終わった。更に搭載機もF-35Bの開発遅延を理由としてF-35Cへ変更し、当時建造が始まっていたCVF改めクイーン・エリザベスもCATOBAR空母にすることとなったが、従来よりもコストがより高くつくことが判明。さらにF-35Cの開発も遅延する一方、F-35Bの方は初期作戦能力を得つつあった事から計画はまた振り出しに戻り、クイーン・エリザベスは、そのままSTOVL空母として建造されることになる。
このような喜劇さながらの混乱にもかかわらず、始まるまでが長く遠かった開発自体はそれなりに順調に進み、2017年には一番艦のクイーン・エリザベスが就役し、二番艦のプリンス・オブ・ウェールズも同年に命名式が執り行われた。
設計
空母という艦種を世に生み出したイギリスらしく、奇抜だがアイデアに溢れた設計である。まず目につくのはツイン・アイランドであろう。航海艦橋と航空管制艦橋の二つの艦橋が存在し、角度次第では非常に特異な艦容を見せる。しかし、形状を見ればステルス性に意を払っていることが分かるし、艦橋が二つあれば冗長性に優れるということも忘れてはならない。一つ一つが役割を持つことで、作業の混乱を避けることができるという恩恵もある。自動化も進んでおり、このクラスの軍艦としては乗員が非常に少ない。
なお、建造に際してはドック内で大型のブロック同士をスライドし、溶接するという方法も採られている。
- 機関
統合電気推進を採用したことで、機関配置も自由度が増した。(現時点では情報が断片的で、以下の記述には不正確さが残るかもしれないことを断っておく)モーターは推進軸の近くに設置され、補助発電機などは艦底部にあるようだが、主機関であるMT30と主発電機に関しては、何を思ったか、スポンソン(※)の中に設置されているという。煙路を小さくし、重量は軽減できるが、対艦ミサイルなどを被弾しやすい場所に主機関が設置されているという血迷ったかのような設計である。識者の間では「むしろ機関を防御構造とし格納庫を守ろうとしている」とも言われているが、それどこの戦車?まあ、裏を返せば魚雷程度の攻撃では動力の喪失は殆ど起こらないし、万が一の時は補助推進機関もある、ということなのだろうが、随分と割り切った設計である。
通常動力艦であるため煙突を持つ。シフト配置で前後に大きく離れた機関部からの排煙を無理にまとめることなく、前述のツイン・アイランドに沿うように前後に2本備えている。これにより煙路短縮、軽量化を達成している。
※スポンソン:船体から張り出した部分のこと。この場合は飛行甲板を支える張り出し。
- 船体
主船体は19の防水区画に区分されており、甲板間の高さは大きく取られている。弾薬庫は大きく自動化が進んでおり、艦底付近に置かれた。船体の動揺を抑えるためにフィン・スタビライザーも装備しているとのこと。商船のように中央部が平面的なのも特徴で、これは工程を単純化するためだという。そして、英空母の特徴として欠かせないのが、太り気味の船型であることだろう。全長から考えるに、水線長/幅の比は7に近い数値であると推測されるが、これは空母というよりむしろ戦艦に近い。喫水も決して小さくはないため、高速航行にはあまり向かないが艦の安定感は高いと思われる。出力の小ささもあって、最大速力は26ノットほどであるとされる。
- 航空艤装
飛行甲板は切り欠きが少なく、13,000㎡の広さを持つ。現在はアングルドデッキは持たないが両舷に大きな張り出しがあり、CATOBAR型への改装も視野に入れていたため、少しの改装でアングルドデッキも設置可能であるという(勿論アレスティングワイヤーやカタパルトなどの設置にコストがかかってしまうが)。航空機エレベーターは、かなり大型のものが右舷に二基装備されている。
- 兵装
最低限の自衛用火器のみを搭載している。ファランクスと対舟艇用の30mm機関砲を両舷に装備しているが、対艦ミサイル防御に対しては不安が残る。重量面の制約や、航空機の運用を最重要視すべきとしてこのような形に落ち着いたのかもしれないが、同世代の空母と比較してもかなり少ない武装である。
諸元
満載排水量 | 65,000t |
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全長 | 283.9m |
全幅 | 73m |
水線幅 | 38.8m |
喫水 | 11m |
出力 | 107,280馬力 |
速度 | 26ノット |
航続距離 | 7,000浬 |
同型艦
- クイーン・エリザベス HMS Queen Elizabeth
- プリンス・オブ・ウェールズ HMS Prince of Wales