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概要編集

 『ジャバウォック』とは、『鏡の国のアリス』に登場する詩である。

 全編、意味が解らないが、「英語の古語」のような響きを持つ言葉(一応、既知の言葉を2つ以上合せて作られている)で出来ており、英語圏の人が読むと、懐かしみを覚える構造となっている。

 内容は、読んだヒロインアリス・リデルさん設定年齢7歳6か月によれば、

「ともかく、誰かが何かを殺した」

 のだそうである。

 後述するように、第1聯は以前造っていたものの改訂版であり、またここで登場する造語、怪物は、『スナーク狩り』でも使いまわされている。

 詩は一応韻を踏む、4行で構成、等、詩の技術、文法の知識に則っている。


原詩編集


Twas brillig, and the slithy toves

Did gyre and gimble in the wabe;

All mimsy were the borogoves,

And the mome raths outgrabe.


“Beware the Jabberwock, my son!

The jaws that bite, the claws that catch!

Beware the Jubjub bird, and shun

The frumious Bandersnatch!”


He took his vorpal sword in hand:

Long time the manxome foe he sought —

So rested he by the Tumtum tree,

And stood awhile in thought.


And as in uffish thought he stood,

The Jabberwock, with eyes of flame,

Came whiffling through the tulgey wood,

And burbled as it came!


One, two! One, two! And through and through

The vorpal blade went snicker-snack!

He left it dead, and with its head

He went galumphing back.


“And hast thou slain the Jabberwock?

Come to my arms, my beamish boy!

O frabjous day! Callooh! Callay!”

He chortled in his joy.


Twas brillig, and the slithy toves

Did gyre and gimble in the wabe;

All mimsy were the borogoves,

And the mome raths outgrabe.


解説、のようなもの編集


『ジャバウォックの詩』の中にある幾つかの英単語は、キャロル自身によって作成された、かばん語と呼ばれる造語である。


 作者は、後述する、この詩の原型である「アングロサクソン4連詩」で言葉の説明をつけているが、それは後の『鏡の国のアリス』の作中で、登場人物の一人ハンプティ・ダンプティが行う説明と若干異なる。

他、『鏡の国の~』発表後1877年、作者は小さなお友達モード・スタンデン(Maud Standen)へ、手紙の形で、幾つかの語の解説(と、「全部の説明は無理」という愚痴)を残している。

キャロルがこの詩で発案した

“chortled”(chuckle〈含み笑い〉とsnort〈鼾かく〉を合せた語。オックスフォード英語辞典以下OEDに書いてある)や

“galumphing”(GallopとTriumphantを組み合わせて作った言葉で、「不揃いな飛び跳ねを行い、勝ち誇ったように行進する」とOEDに)

等の幾つかの英単語は、現在の英語の中にも採用されている。

英単語“jabberwocky”は、しばしば「ナンセンスな言葉」を指すのに使用され、

BurbleはBubbleの異体語としてまた、「混乱する」の意で使われている。


 獲物を捕らえる顎を備えた俊敏な生物。首を自在に伸ばす事が出来る(と『スナーク狩り』に書いてある)。Bander(アカゲザル)だかBandog(猛犬)だか、Band(締めあげる)とWander(驚くべき)の合成語だかへSnatch(引っさらう 連れ去る)を付けたもの(『幻獣大全』健部伸明編 P621)。白の王が、「時を止めるのはバンダースナッチを止めるのに等しい」と言っているのでそのくらい強いらしい。


  • ボロゴーヴ (Borogove)

 ハンプティ・ダンプティによれば、羽毛を体中から突き出した貧弱で見栄えのしないで、モップのような外見。


  • 夕火(あぶり)(Brillig)

 ハンプティ・ダンプティは、午後4時。夕飯の支度に肉を火で炙り (broiling) 始める時刻と言っている。


  • 怒(ど)めきずる (Burbled)

 作者はモード・スタンデン宛書簡の中で、この語は「怒鳴る」(bleat) と「ざわめき」(murmur) と「さえずる」(warble)を繋げるとこうなるが、そうやって作ったかは、記憶にないといっている。マーチン・ガードナーによれば「どう見てもburstとbubbleの組み合わせ」。


  • 燻(いぶ)り狂(くる)う (Frumious)

 『スナーク狩り』序文によれば、息巻き (fuming) 怒り狂った (furious) 様子。この2語が「完全に平衡の取れた精神」という天稟を持った人の口から、同時に発せられる場合にこうなるそうである。


  • 錐穿(きりうが)つ (Gimble)

 ハンプティ・ダンプティの説で、ねじ錐 (gimlet) のように穴を穿つ。OEDによれば多用途の回転リング「Gimbal」の異形綴り。


  • 回儀(まわりふるま)う (Gyre)

 ハンプティ・ダンプティの説では、ジャイロスコープ(gyroscope)のようにくるくると回転する(“Gyre”「還流」は、特に海洋の表層潮流の巨大な環状や螺旋状運動を意味する、1566年頃の実在する英単語。OEDは「くるくる回る」の意として使用が1420年までさかのぼれるとしている)。


 『スナーク狩り』(中でビーバー専門のブッチャーがその齧歯類の娘に対し解説するところ)によれば、一年中発情しているやけっぱちな(その後に「種族も関係も超えた友愛」が)。


  • 弱(よわ)ぼらしい (Mimsy)

 ハンプティ・ダンプティの意見によると弱々しく(flimsy)みすぼらしい (miserable) 様子。なお作者はヴィクトリア朝当時には使われていた「Mimsey」(「すました」「気取った」「軽蔑すべき」の意)という語に取材してこの語を造った可能性がある。


  • 郷遠(さととお)し (Mome)

 ハンプティ・ダンプティは「よく知らん」としながら、恐らくは「故郷を離れて遠し」(From home) を略した言葉で、ラースが道に迷っている様子であろうとしている。ハハンプティ・ダンプティの説の根拠に、コックニー訛りあるいはアングロ・サクソン語の「H音が落ちる」という特徴があるらしい。そうするとFrom homeはMomeのように聞こえる。また、この語に本来あったMom(母親)、おどけ者、まぬけ、うるさ型などの意味は、この造語には関係がないらしい。


  • うずめき叫(さけ)ぶ (Outgrabe)

 ハンプティ・ダンプティの説よれば、Autgribeの過去形で、うめき (bellow) とさえずり (whistle) の中間にあたり、間にくしゃみ (sneeze) のような物が混じっている行為。


  • ラース (Rath)

 『鏡の国の~』中での説明によれば、緑色のブタの一種。ジョン・テニエルは若干口を長くしたそれを書いている。


  • 粘滑(ねばらか)(Slithy)

 『鏡の国の~』の中では、滑らか (lithe) で粘っこい (Slimy) 様子と説明されるが、OEDはSleathy(のらくらの意の古語)の異形としている。


 ハンプティ・ダンプティの説で、アナグマ(Badger)とトカゲとコルク栓抜き(corkscrew ヴィクトリア朝の瓶の蓋はコルク製なので栓抜きはワインオープナー状が基本である。なお螺旋状の物は『鏡の国の~』によく登場する)に似た形をしている。日時計の下に巣くう習性を持つ。チーズが主食。


  • 暴(ぼう)なる (Uffish)

 M・スタンデン宛書簡の中で、作者はこの語について乱暴 (gruffish) なる声と、粗暴 (roughish)なる態度と、横暴 (huffish) なる気分である時の精神状態であると、ふざけのめしている。


  • 遥場(はるば)(Wabe)

 『鏡の国の~』のアリスとハンプティ・ダンプティによれば、日時計の周りにある芝生。日時計の前 (Way before) と後 (Way behind) の両側を越えて (Way beyond) 遥ばると続いているので、「遥場」(Wabe) と呼ばれる。原語はSwab(濡れる)の筈。


 Snicker snack(大型ナイフ あるいはそれで決着をつける意の動詞Snickers'neeから)な。一応Verbal(言葉)とGospel(みおしえ)の合成語とされる(作者先生は「ヴォーパルソードとかタルジーウッドの説明は無理」と幼い友人へ言っている)


造語の発音編集

『鏡の国の~』1896年版の序文で、slithyは(slyとtheの)2語であるかのごとくに発音するよう、「Gyre」 と「gimble」は「G」(ガ行)音で発音するよう、rathは バアス(Bath)と韻を踏むように、と書いているキャロルは、『スナーク狩り』の序文でも以下のように述べている


 “slithy toves”とは一体どのように発音するのかと、しばしば私に問い掛けられる質問に対する回答の機会を与えてください。“slithy(スライシー)”の中にある“i”は、“writhe(ライス:ねじ曲げる)”の中の“i”の様に長く発音します。そして、“toves(トーヴ)”の発音は“groves(グローブ:木立ち)”と韻を踏みます。また、“borogoves(ボロゴーヴ)”の中の最初の“o”は、“borrow(ボロー:借りる)”の最初の“o”の様に発音します。私は人々が“worry(ウォリー:憂う)”の中の“o”の音を当てようとして試みていると聞きました。これは人間的な曲解というものでしょう。


原型と構成編集

『ジャバウォックの詩』の当初と末尾の部分は、本来はキャロル(が2人、弟妹が8人の合計で11人兄弟の長男)が大学生時代(1855年 キャロル23歳の時)、自分の家族のために定期的に制作していた肉筆回覧誌『ミッシュマッシュ』"Mischmasch"(ごったまぜ、の意)で発表された作品が一応の原型である。この1節は『古英語詩の断片』"Stanza of Anglo-Saxon Poetry."と題される、あたかも「発見された古詩の断片」のような詩、という設定で書かれている。その為、スペルが異様な形となる。


原詩編集


Twas Bryllyg,and the slythy toves

Did gyre and gymble in the wabe:

All mimsy were the borogoves,

And the mome raths outgrabe.


解説編集


 ここでは、

Mimsy miserableやmimserableの原語で、「困る」の意

Gymble Gimlet(ねじ錐)の原語 「何かにキリキリと穴をあける」

Gyre Giaour()から。「犬みたいにひっかく」

Wabe Swab(濡れる)とSoakの合成語で「丘の中腹」(濡れるとなかなか乾かないから)

Mome solemone、solemone、solemnの原語 「荘重なる」

outgrabe autgribe(の過去形) Grike shrikeと関連し、 この語からshrick creakが発生した。「キイキイいう」


 という解説が付くほか、

Rathは「サメの口を持ち、膝で歩く長い前脚を持つカメで、牡蛎ツバメを食べる」

Toveは「アナグマに似て、鹿の角のようなものが生えている」

Borogoveは「絶滅したオウムの一種で、毛がなく、嘴が曲がっていて日時計の下に巣を作る。子牛の肉を食する」

と、後のそれとは若干異なる説明がつく。

ハンプティダンプティさんの解説の方が深いよなっ!算数は苦手だけど!(という設定はオックスフォードの言語学者の揶揄らしい)

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