概要
1970年代に月刊別冊少年マガジンで連載された日本版スパイダーマン。
作者は池上遼一。
東映版スパイダーマンと同じく舞台が日本であり、主人公が日本人という設定である。
本家のピーター・パーカーに近い経緯でスパイダーマンになるのだが、ベン・パーカーに相当するキャラクターが居ないので、心の支えになるポリシーが無い。
初期はリザード、エレクトロ、ミステリオなどアメコミでのヴィランが出てきていたが、漫画構成に平井和正が参加してオリジナル要素が増え、スパイダーマンの登場も少なくなっていく(登場しない話もある)。
本作では、守るべき民衆の醜さが強調されており、中にはヴィラン以上にタチが悪い一般人も登場している。それと同時にストーリーもハードで重苦しい内容となっており、作中でスパイダーマンが社会の不条理に苦しめられる場面も多かった。
「輸血されて超能力に目覚める」「潜在意識の超能力が人々を襲う」等のアイデアは、後に平井和正の小説「ウルフガイ」にも転用されている。
主な登場人物
主人公。本作におけるスパイダーマンでピーターと同じく高校生。
詳細はリンク先参照
- 白石ルミ子
ユウのペンフレンドで、行方不明の兄を探して北海道から上京。ユウに兄の探索を依頼した。しかし怪人エレクトロの正体が彼女の兄だった為、兄を殺したスパイダーマンを良く思っていない。
スパイダーマンの正体がユウとは知らず、ユウの事を好きになり、ユウも彼女に尽くそうとする。が、ユウに対してのその想いから「(ユウには)立派な科学者になってほしい」と考え、その身を引く。後に母親にも先立たれ、ゴーゴー喫茶でバイトを始める。
そして輪姦された後、『狂魔』により殺された。バッドエンドに至るグウェン・ステイシー的なキャラかもしれない。
- 北野雪子
ルミ子を失ったユウの前に現れた美少女。
元はある中小企業の社長令嬢だったのだが、会社が倒産、両親の死亡という不幸が重なり、今は弟の光夫と二人きり生活している。
事故で重傷を負った光夫にユウが輸血し、それを機に光夫がユウを「兄貴」と慕うようになり、交際しはじめた。
しかし、光夫に暴力を振るわれており、売春して金を稼ぐよう強要させられていた。
さらに光夫の悪事を糾弾した事の意趣返しに、ユウに売春の事実を暴露されていた事を明かされ、ショックのあまり発狂してしまう。
こちらはメリー・ジェーン・ワトソン的なキャラと言える。
- 荒木
ユウの親友で、父親は製薬会社の社長(つまりハリー・オズボーン的なキャラ)。
いわゆるお坊ちゃまだが、父親からは競争社会を押し付けてられており、それにうんざりして反発。不良となっている。
当初はユウをガリ勉野郎として見下していた節があったが、スパイダーマンのファンであり、父の会社がリザードに襲われた事件をきっかけにユウと親しくしていく(つまりフラッシュ・トンプソンの役割も有している)。
ユウの正体がスパイダーマンとは知らず、ユウが悩み孤立していくにつれ、理解できず、彼とも疎遠に。
後に金色の目の魔女によって操られ、実の妹をレイプしようとしてしまう。学園の暴動にも参加し、ユウの学園の日常は完全に崩壊してしまった。
- 編集長
怪人エレクトロが街で暴れている時、情報新聞社は怪人退治に1000万円の賞金をかける。これは「三流ゴシップ誌が注目を集めたいだけだ」と世間から冷笑されていたが、スパイダーマンが呆気なく賞金を持って行ったので、逆恨みしてスパイダーマンのネガティブキャンペーンを始める。
登場ヴィラン
- エレクトロ
オリジナルと同じようなコスチューム姿。全身から放電し、銀行強盗を繰り返していた。
超能力ではなく、人為的に帯電装置を埋め込まれている。つまり、改造人間。
正体はルミ子の兄で、元は勤勉な自動車整備工。しかし過去に子供を車ではねてしまい、500万の賠償金を支払う必要があった。低収入であるため、一獲千金を狙って職を転々とするなかで、売上を盗む事もあった。
しかし、はねた子供の父親が長年認められてこなかった電子工学の博士であり、大金を稼がせるためにと電気人間に改造されてしまった。初戦時にスパイダーマンを退けはするも、再戦時に博士に電撃を当ててしまう。肉体の帯電装置は博士以外には外せず、思わず博士に縋り付いたところ追い打ちとなり感電死させてしまった。
普通の人間に戻れなくなったことをさとり、自暴自棄でスパイダーマンに向かっていくが、返り討ちにされ敗北。ユウに正体を知られ、恨み言を残し息を引き取る。
なお能力を得るきっかけになった博士だが、強盗を繰り返すうちに殺人をいとわなくなってきたエレクトロに後悔しだし止めようとしていた。またエレクトロがはねた子供だが、身体に障害を負ってしまったが死んでしまったわけでは無い。
- リザード
- カンガルー男
- ミステリオ/にせスパイダーマン
偽のスパイダーマン。コスチュームもそのまま本物のコピー。ミステリオとしての姿もまた、原作と同じ。ウェブを溶かし、スパイダーセンスを鈍らせる霧を放ち、ユウを追い詰める。
また、ユウと同じウェブとスパイダーセンスを有し、それをもちいて悪事を働いてスパイダーマンに罪をなすりつけ、ミステリオの姿で「正義の超能力者」を名乗り、大衆の前で対決を挑む。
当初カンガルー男の一件からスパイダーマンを引退したユウは、無視していた。が、にせスパイダーマンがルミ子を襲った事に激怒、ミステリオと対決するが、初戦で敗北。戦いの中で子供に怪我をさせてしまう。
その治療費を稼ぐため、スタントマンのアルバイトで大金を稼ぐも、にせスパイダーマンが強盗したため、その濡れ衣も着せられてしまう。
正体は、スタントマンの職場の先輩である北川。
スターの影武者に甘んじていたが、それにコンプレックスを抱き、偶然スパイダーマンのコスチュームを手に入れたため、犯罪に走っていた。
能力が霧にあると見破られ、走る列車上に呼び出され霧を封じられる。そのまま一方的に殴られ、命乞いする様を大衆の前に見せつけ、敗北。ミステリオのヘルメットの中には、スパイダーマンのマスクを付けた顔があり、そのマスクも剥がされ、正体を大衆の前にさらけ出す事に。「俺はあんたみたいなヒーローになりたかったんだ」と号泣する彼を前に、スパイダーマンは呆然とするしか無かった。
- 冬の女
喪服姿の謎の女。局所的にブリザードを起こす超能力を持つ。当人もそれを制御できないため、彼女に関わった男たちは次々と死を迎える。
- 金色の眼の魔女
ユウの学校に赴任した女教師。あらゆる男性を魅了し、性的な衝動を暴走させる超能力を持つが、当人もそれを制御できないため、彼女の周囲では次々と暴力的な事件が起こる。
- スパイダーマン2
ヒロイン北野雪子の弟の光夫。大事故で負傷して小森ユウの血液を輸血され、スパイダーマンと同じ能力の持ち主になった少年。ユウからスパイダーマンの装備一式を盗んだうえで、スパイダーマンになりすまして「公害ゲリラ」として大企業を次々と攻撃し、民衆の人気を集める。その真の目的は、実家の没落を招いた大手鉄鋼会社の経営陣に対する復讐だった。最後は本家のスパイダーマンと死闘を演じ、本人も予想していなかった壮絶な最期を迎える。公害問題が深刻だった1970年代前後の世相が反映されている。
- 狂魔(くるま)
ハイウェイに出没する武装改造車。並走する自動車を次々に襲って破壊、乗っていた人間を血祭りにあげて走り去る。運転者の正体は狂気にとりつかれたレーサー。
- ストレンジャーズ
警視総監を誘拐して、その身柄と引き換えに、逮捕されて獄中にいる左翼過激派メンバーを釈放させたうえ、キューバへの渡航をはかる3人組。じつは、過激派組織とは何ら関係なく、自己表現としての社会変革を夢見たローンウルフ型の犯罪者。赤軍派によるハイジャック事件などが起こった1970年代前後の世相が反映されている。
余談
本作は、1969年、『週刊少年マガジン』の当時の編集長である内田勝が『月刊別冊少年マガジン』の編集長を兼ねる事になった時、雑誌の独自性を出すためにとアメコミに目を付けたのがきっかけ。
内田は小野耕世に相談し、スパイダーマンを推薦され、その際に「単なる翻訳ではなく、舞台や人物を日本に移す」という基本路線が提案された。
その後、内田が池上遼一を小野に引き合わせ、作画担当に。
また、小野はオリジナルのアメコミ版を翻訳する一方、自分の解釈を文章としてまとめた。更にはスタン・リーに手紙を書き、資料を求めてもいる。
しかし、作品そのものの方向性と作風は、池上と編集部に任せていた。
こうして実現した本作だが、いわゆる鬱展開や後味の悪い結果に終わる事が多く、暗く重々しい作風となった。後に平井和正が参加してからは、よりその傾向が顕著となる。
後にスタン・リーは「このマンガは、我々のスパイダーマンとは違う。どう評価していいかわからない」と感想を述べている。
なお、ユウが初めてスパイダーマンの衣装を作成した際のセリフから、この作品世界では『スーパーマン』が出版されている様子。
関連タグ
スパイダーマンJ、スパイダーマン/偽りの赤…同じく日本のスパイダーマンの漫画。後者は池上遼一版と同じくユウという名前の高校生が主人公である。