概要
〈ダンウィッチの怪(The Dunwich Horror)〉とは、H.P.ラヴクラフトが1928年に執筆したホラー小説。『ダン=ウィッチの怪』『ダニッチの怪』『悪魔の落し子』とも
邪神、魔導書、退廃した一族、そして世間から隔離された土地 等々、クトゥルー神話を形成する重要な要素が全て盛り込まれている作品。1962年に漫画家水木しげるによって舞台を島根県に置き換えた上で、タイトルを『地底の足音』に改題して翻案され、1970年にダニエル・ハラーによって映画化されている。
ストーリー
1910年代の米国北部、狂乱の20年代を迎える前夜のマサチューセッツ州。
目覚しい発展を続ける工業と流入し続ける大量の移民の前に混乱を極めた時代。それに逆行するかのように、農村部では未だ貧困と迷信とが蔓延っていた。
そんな農村部の中でも一際、異彩を放っていたのが、無口なカトリック信者が多く住まうダンウィッチ村であった。
1913年、事件の始まりを告げるように夜鷹が夜通し鳴き続け、犬という犬が吠え続ける、2月2日の聖燭節の夜に生まれた『ウィルバー・ウェイトリー』も、父の知られぬ身でありながら、カトリックの教えに従い堕胎される事無く産み落とされた───
登場人物
ミスカトニック大学
ヘンリー・アーミティッジ
1928年当時のミスカトニック大学図書館長。73歳。
ミスカトニック大学文学修士、プリンストン大学哲学博士、ジョンズ・ホプキンス大学文学博士の学位を持つ。幅広い言語学の素養を習得し、古代や中世の密儀の式文に通じている。
ウィルバーの没後、彼の日記を解読して恐ろしい怪物の存在を知り、同僚のライスとモーガンを連れてダニッチを訪れる。
ウォーラン・ライス
アーミティッジ博士と共に怪物退治に来た教授。
フランシス・モーガン
アーミティッジ博士、ライス教授と共に怪物退治に来た博士。
ダンウィッチの住民
フライ・エルマー
1928年の収穫祭から秋分にかけてダンウィッチで起きた一連の事件で、最初に犠牲になった人物。ウィルバーの双子の兄弟に襲われたのは、9月13日(木)の午前3時頃の模様。
ホードリイ・アバイジャ
1747年にダンウィッチの会衆派教会に赴任してきた牧師。
説教の中で、ダンウィッチの山中で聞こえる音について語り、その後間もなくして行方不明
Dr.ホートン
アイルズベリイの医師。
1924年の収穫祭の夜、ウィルバー・ウェイトリーの祖父である老ウェイトリーの臨終に立ち会った。
ディー・ジョン
16世紀イギリスに実在した数学者にして魔術師。
ダンウィッチの怪ではネクロノミコンの英訳を行ったとされる。
ウェイトリー一族
この物語の主人公的存在。2月2日の聖燭祭の夜に異様な風貌で生まれた双子の兄。
ネクロノミコンを借りるべくアーミティッジ教授と面会するが、例えようもない違和感を覚えたアーミティッジ教授は面会終了後、ミスカトニック大学以外の全ての大学に対し「ウィルバー・ウェイトリーにネクロノミコンを貸し出さぬように」と厳命する結果に終わった。
そのためウィルバーは『ネクロノミコンの強奪』を目論み実行したが、ミスカトニック大学の番犬によって咬み殺されてしまった。
ウィルバーの名もなき兄弟
ウィルバーの双子の兄弟。
顔つきはウィルバーよりも老ウェイトリーに似ているが、それ以外の全ては父親に近似し、無理矢理に例えるなら無数のロープが絡まったような肉塊と異形そのものである。
最終的にイブン・グハジの粉をかけられた後に上記の姿を現し、呪文を唱えられた末に父の名を呼びつつ消滅している。
基本的に名無しで通っているが、後述の後日譚では〈デーモンの弟〉と表記されている。
ウィルバーの祖父で、ラヴィニアの父。1924年に孫に忠告を残して亡くなる
ウィルバーの母親で、老ウェイトリーの娘。12歳のころに母親が変死
やや体に障害のあるアルビノで、ウェイトリー家に遺伝する貧弱な顎をのぞいては、色黒な息子達とは似ていない。
ゼブロン・ウェイトリー
ウェイトリー一族の中では、堕落しきっていないが真っ当ではない分家 生まれの老人。
ウィルバーの名もなき兄弟が起こした事件にて、アーミティッジ教授達に「儀式は山頂で執り行うべき」と進言した。
ゼカライア・ウェイトリー
ウェイトリー一族のの中では、まだ堕落していない分家の老人。
老ウェイトリーが生存していた時分に、ウィルバーの名もなき兄弟の餌となる牛を売っていた。
カーティス・ウェイトリー
ウェイトリー一族の中では、まだ堕落するに至っていない分家の者。
アーミティッジ教授達が行った儀式を望遠鏡で見守るが、最終的に気絶してしまう。
ソーヤー・ウェイトリー
ダンウィッチの地主。
1917年、アメリカが第1次世界大戦に参戦する折に、徴兵選抜委員会の委員長を務めていた。
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ウィルバー達双子の父親。
上記の通り人間との間に子供を儲ける場合があり、本作ではラヴィニア・ウェイトリーに双子を産ませている。
後日譚
2006年に青心社にて出版された小説アンソロジー『ラブクラフトの世界』に収録されたエピソードで、本作の後日譚に相当する『ダンウィッチの破滅』が収録されている。
時代は1990年代で、主役に当たる人物はダンウィッチから離れ、堕落を免れたウェイトリー一族の分家生まれの女性のコーディーリア・ウェイトリー。
彼女自身ダンウィッチに向かった理由は、109歳で没した曾祖父ケイン・ウェイトリーから半世紀以上前に死去した親族ウィルバー・ウェイトリーの話を聞き、1928年に起こった事件の真相を調査するためである。
本編に携わった3人の教授にも触れられているが、3人とも事件終結直後に行われたダンウィッチの再建計画『ダンウィッチ・リサーチ・プロジェクト』 に携わるべくダンウィッチに移住するも、引っ切り無しに起こる怪現象に何時しか心病んでしまい、ダンウィッチから離れられなくなった。
この内ライス教授とモーガン教授は既に死去した後に、両者は共に「ダンウィッチの地で土葬されたくない」として前者は水葬、後者は火葬された。
唯一存命しているアーミティッジ教授(齢140歳)は、例の事件を「神の子であるウェイトリー兄弟に対する理解を怠った愚挙であった」「後に相応の報いを受けるだろう」(何れも要約)と後悔している。
余談
上述の通り水木しげるによってコミカライズされているのだが、『ゲゲゲの鬼太郎』の『朝鮮魔法』のエピソードも『ダンウィッチの怪』が基になったと思われる要素を含んでいる。