テンペスト(戯曲)とは、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲である。
概説
シェイクスピアを代表する喜劇とされ、シェイクスピア単独で執筆した最後の作品。
晩年期に執筆された「ロマンス劇」の連絡の一つであり、代表作とされる。
ここで言う「ロマンス」とは“恋愛劇”という意味ではなく、いわゆるファンタジー作品を指す。
また「時間」「場所」「筋(≒目的)」を統一する、いわゆる【三一致の法則】が守られた唯一のシェイクスピア作品ともいわれる。
あらすじ
ナポリ王アロンゾーとミラノ大公アントーニオの一団を乗せた船が大嵐に遭い、船の難破によって絶海の孤島へと二人は流された。
その島には、12年前にアントーニオが政略で追放した兄・プロスペローと彼の娘・ミランダが暮らしており、大嵐はプロスペローが従える風の精霊エアリアルがプロスペローの命令で起こしたものだった。
プロスペローはアントーニオへの復讐の傍ら、ナポリ王子ファーディナンドと娘を恋心を試すため、ファーディナンドに試練を課して、それを乗り越えた彼を婚約者として迎えた。
一方でアントーニオも更なる出世のためにアロンゾーを亡き者にせんと謀略を巡らせ、王弟セバスティアンを唆す。
さらにプロスペローへ復讐を誓う島の怪物キャリバンも、ナポリ王の近臣を巻き込んでプロスペロー抹殺を計画する。
しかしエアリアルの機転により、キャリバンの復讐やアントーニオの野心は打ち砕かれ、アロンゾーとアントーニオたちは窮地に立たされる。同時にこの状況を省みたプロスペローは「復讐は空しいものだ」と覚り、王たち過去の罪を悔い改めさせることで赦すことを決意。
ナポリ大公の姿で現れ一同をナポリへと送り、娘と王子の結婚を見届ける。そしてエアリアルを従僕の身分から解き放ち、最後は観客に向かって語り掛ける。
「自分を島にとどめるのもナポリに帰すのも観客の気持ち次第。どうか拍手によっていましめを解き、自由にしてくれ」
登場人物
プロスペロー
主人公である元ミラノ大公。
早くに妻を亡くし、心の隙間を埋めるように魔術の研究に没頭するが、その隙を突いた弟の野心により娘と共に絶海の孤島へと流され、そこでエアリアルと出会い復讐の機会を待っていた。
本来は慈悲深く思慮のある人物だが、弟の仕打ちと王の掌返しに怒りが頂点に達しており、エアリアルと魔術で彼らを追い詰めていく。
ミランダ
プロスペローの娘。
父と共に孤島へと流され、厳しい環境で育っていく。
それでも純真で教養深い美少女へと育ち、やがてファーディナンドと恋に落ちていく。
プロスペローの従える風の精霊。
プロスペローの右腕的な存在であり、魔女の幽閉から解放された恩で彼の命令に従い、様々な現象を巻き起こす。
またプロスペローの復讐劇の裏で巻き起こった、キャリバンによる復讐とも相対していく。
一方で自分を酷使するプロスペローにはうんざりしている。
アントーニオ
プロスペローの弟であり、現ミラノ大公。
欲深い野心家であり、かつて兄をナポリ王に取り入って追放し、大公の地位を簒奪した。
プロスペローの策略で島に流れ着くが、そこでもこの緊急時を利用してナポリ王を抹殺して成り上がろうと思いつき、王弟セバスティアンを焚きつける。
アロンゾー
ナポリ王。
かつてアントーニオの口車に乗せられ、プロスペローを追放しアントーニオをミラノ大公に任じた。
その地位も自らの信じたアントーニオに狙われ、またプロスペローの復讐対象にもされている。
ファーディナンド
ナポリ王の息子。父王とは反対に誠実な青年。
父王や大公らと共に島に漂着し、そこでプロスペローの計略と知らずミランダに恋をする。
やがてプロスペローから試練与えられてそれを突破し、ミランダと婚約する。
島に住む怪物。
かつてこの島を支配していた魔女シコラクスの息子であるが、母は既に亡くなっている。
初めはプロスペローも親切に接していたが、ミランダに襲い掛かろうとしたため、母から受け継いだ島の支配権と魔術を奪われ、洞窟に住みながら魔術で束縛され下働きする身分に堕とされた。
プロスペローへ復讐を誓っていたが、酒の味を教えたステファノーを崇敬して共謀を持ちかけるも、それもエアリアルによって未然に防がれてしまった。
シコラクス
プロスペローたちが漂着する以前、絶海の孤島を支配していた魔女。
物語の開始時点ですでに故人であり、遅くともプロスペローたちが島に辿り着く前には亡くなっていた。
彼女の魔術は息子であるキャリバンに継承されたが、キャリバンは人語を解せず才能もなかったのか使うことが出来ずにいた。
結局、彼女の魔術はプロスペローに受け継がれ、長きに亘る研究の末に彼の復讐劇のために利用されることになる。
セバスティアン
王弟。
アントーニオに唆され、兄アロンゾーからの王位簒奪の野心を抱いてしまう。
ステファノー
トリンキュロー
共にキャリバンと出会い、それぞれの思惑からキャリバンの復讐に加担する。
ゴンザーロ
アントーニオの顧問官。
プロスペロー親子の島流しに際し、アントーニオに隠れて出来るだけの物資をプロスペローに融通した。
親子にとっては唯一、王公側にいる恩人といえる人物。
TIPS
シェイクスピアの演劇だけに、幾度となく映画化もされている。
近年では2010年に映画化されたが、こちらはプロスペローが女性に変わり「プロスペラ」に変更されている。
なお魔術ありきの荒唐無稽な筋書きゆえに、「四大悲劇のようなリアリティーに欠ける」としてシェイクスピア評論家の間でも評価が分かれる作品である。
特に全ての登場人物が赦しや祝福を得る中で、キャリバンだけは何の救いもなく終幕するため、そこにシナリオの欠陥を指摘する声も少なくない。他方、「キャリバンは奴隷化された現地民の暗喩」という分析をする評論家もおり、「少なくとも厄介者が居なくなってようやくキャリバンに島の支配権が復権したことが唯一の慰め」という見方もある。
関連タグ
- 絶園のテンペスト:原作:城平京・構成:左有秀・作画:彩崎廉による漫画。作品のモチーフとなっている。
- 機動戦士ガンダム水星の魔女:令和初のガンダムシリーズTV作品。1話時点多数の要素が本作と符合している。
- 禁断の惑星:1950年代に公開されたSF映画の金字塔。今作の宇宙版ともいうべきもの。