概要
ステルス性に考慮した形状やアクティブフェーズドアレイレーダーの採用など、「今時の駆逐艦」としてのトレンドはほぼ押さえた船である。
…まあ、そのフェーズドアレイレーダーが色々とアレっぷり炸裂なんですが…(主に見た目)
開発の経緯
本艦の開発のきっかけはフランス、イタリアとのミサイル駆逐艦共同開発計画「ホライズン計画」にまで遡れる。
まあ共同開発というだけならヨーロッパに限らず結構あるものであるが、計画を進めていくうちに参加各国の思惑の違いが浮き彫りになっていった。
どういうことかと大雑把に言えば、
- フランス:主に空母を護衛するための駆逐艦を必要としている(空母の用心棒)
- イタリア:防空能力よりも海戦能力を重視したい(ある意味駆逐艦としては真っ当な考え、だが…)
- イギリス:単艦でも強力な防空能力を持った艦艇が欲しい(自分の身は自分で守るとばかりに、ガチで対艦攻撃機や哨戒機と殴り合える能力を持たせたい)
ってことである。そんなわけで結局まとまらずに独自開発に落ち着き、デアリング級の建造に至った。
ところでホライズン計画自体は「PAAMS」という艦隊防空システムの開発も含んでいたのだが、イギリスもそこには残留し、デアリング級に搭載することになった。
ここで「え、駆逐艦ってなんだっけ…やはり英国か」とかいう人もいるかもしれないが、イギリスというのは日本と同じ海洋国であり、しかもなんだかんだで世界中に「仲間」がいるために「外洋艦隊」としての性格が出てくるのは当たり前であり、そうなれば「長旅」に備えて強力な防空能力が必要とされるのはある意味当然とも言える。
ましてや今時の駆逐艦なんて、第二次世界大戦前で言えば巡洋艦に近い"何でも屋"的な性格が求められるので、デアリングがこのような船になるのはある意味当然といえば当然である。
仕様
船体そのものはステルス性に配慮した平面基調の外観のマストを備える(のと、あと後述のサンプソンレーダー)以外は比較的オーソドックスな「軍艦」の形状をしている。
本体がオーソドックスなのにマストはステルス対応という姿を英国面の一つと捉えるかどうかは皆様の解釈に任せるものとする。
主砲にはイギリス海軍の主力艦砲である55口径114mm単装砲を搭載。しかし価格低減を図ったのか、砲自体は前任の42型駆逐艦に装備されていたものを流用したものである。ただ単に流用したというだけではなく、砲盾はステルス形状のものに更新している。
艦対空ミサイルとしては先述したPAAMSのイギリス仕様であるシー・バイパー艦対空ミサイルシステムを搭載。主砲と艦橋構造物の間に48セルのシルヴァーA50VLSを搭載し、ここにアスター艦対空ミサイルを搭載する。2021年には新型の個艦防空ミサイルであるシーセプターミサイル用のVLS24セルを追加装備することが決定した。
また、船体にはファランクスCIWSやハープーン艦対艦ミサイル、短魚雷発射管の後日装備が可能なスペースが確保されている。後にファランクスは全艦に搭載されたほか、一部の艦ではハープーンが搭載された。
内部的な特徴としては、中枢システムにWindows2000をOSとして使用していること、海兵隊員のためのトレーニングルームを備えていること、あと乗組員のためのiPodのドックも備えていることなども挙げられそうである。
しかしデアリングがデアリングたる所以はこんなものではない…。
サンプソンレーダー
そう、本艦を特徴づける最大のポイントこそ、マストの頂上でひときわ存在感と異彩を放つサンプソンレーダーである。
サンプソンレーダーはデアリング級の高い防空能力を発揮するシー・バイパーシステムの要。いわゆるアクティブフェーズドアレイレーダーである。
…だがその姿はトゲの生えた球形のレドームが60rpm(つまり一秒間に一回転)という高速でぐるぐる廻るというものであり、その姿は腹筋崩壊モノ…もといインパクト満点。
これを笑わずに「カッコいい」と感じられるようになったら、あなたも立派な英国紳士。
…しかし外見はともかくとして性能まで英国面…とはならないどころか逆にヨーロッパでも屈指の高性能艦載レーダーであり、その性能たるや180キロ先にある鳩と同じくらいの大きさの反射源を見分けられるほどだとか。
一般的な航空機であれば250キロ先のものまで判別可能であり、同時捕捉数は500機以上、対艦ミサイルでも12発以上ロック可能という高性能っぷりなのだ。
で、問題は?
見た目はともかく「駆逐艦」としてはかなーり高性能なデアリングであるが、問題がないわけでもない。
お値段がとにかく高い。高すぎるのだ。
どんくらいお高いのかといえば、ミスターミサイル駆逐艦ことアーレイ・バーク級が日本円換算で大体1,200-1,300億円/隻くらいなのに対し、デアリングは大体2,400億円もするとか。
また2016年1月には電力不足が報道されている。搭載しているガスタービンエンジンWR-21の出力不足が原因だという。この問題は結構深刻で、最終的に交換が決定された。
ネーミング
デアリング以降の艦名は、「ドラゴン」「ダンカン」など、「D」で始まる名をつけられている。ただし「Dで始まる」とはいっても別に海上をものすごいドリフトで爆走することはしない…と思う、多分。
関連イラスト
関連タグ
Å:サンプソンレーダーの形状からこう表記されることがある。