概要
『機動警察パトレイバー』に登場するレイバーの内の一機種。
注)「機動警察パトレイバー」はメディアミックス作品の為、作中での描写、設定資料全集、ムック、雑誌によって設定の相違点が非常に多い事にご注意下さい。
データ
機体名 | ヘラクレス21 |
---|---|
制式名称 | 菱井HL-98 |
開発メーカー | 菱井インダストリー |
全高 | 7.45m |
全幅 | 5.12m |
全装備重量 | 8.22トン |
最大起重 | 2.9t |
最小回転半径 | 5.5m |
装甲材質 | FRP、アルミニウム |
装備 | 多数のオプションキット |
主な乗員 | 作業員 |
機体について
四菱グループ菱井インダストリー製造。1998年2月に発売開始された重量級作業用レイバー。(1997年11月発売の表記もある)
制式名称(型式番号)は<菱井HL-98>または<ヘラクレスH21>。
機体名は「ヘラクレス21」。「ヘラクレス」とはギリシャ神話に登場する半神半人の英雄。怪力なだけでなく、戦闘技量や頭脳にも長けた戦闘巧者でもあった。
名前につく21は21世紀にかけて活躍するように、という意味らしい。
菱井インダストリー開発、HLシリーズに連なるレイバー。
タイラント2000、ブルドッグの投入で大きくシェアを広げた菱井インダストリーだがブルドッグには冷却系のトラブル、クリアキャノピーの安全性の不足、水中活動時間の短さ、居住性が低いといった問題があった。それらの問題を解決すべくヘラクレス21は急ピッチで開発され、強力なパワーと軽快な運動性を兼ね備えた水陸両用のレイバーとして完成した。
画期的な新技術こそ使われてないが、タイラントとブルドッグで培った技術を発展・集大成させたと言える、菱井インダストリーの人気モデル。
キャッチコピーは「燃える男の汎用レイバー」
機体形状は首がなくて稼働式頭部がないものの、体格そのものはガタイのいい人間に近いものに仕上がっている。南雲しのぶが民間レイバーで人型に近い機種として真っ先に候補に挙げ、非公式ながら榊整備班長にも性能とスタイルを評価されている。
胴と腰回りを見るとブルドッグの操縦席の上に、カメラと突起のある丸い頭部をポンとのせたような構造をしていることが見て取れる。ブルドッグより脚部が長く、腕が短くなったことでより人型に近くなった。
肩にブチ穴がある。
コックピットは完全密閉式を採用したため、ブルドッグより安全性が上がっている。視覚はモニター型になり、頭部にカメラ、頭頂部にメインセンサーが備える。
他の菱井HLシリーズのオプションと互換性があり、高い汎用性も併せ持つ。(一部専用オプションを除く)
弱点はヘラクレス袋にスペシウム光線をぶち込む・・・ではない。
正しい弱点はメインカメラ。カメラは大きくて装甲化されてないためここを突かれると盛大に凹み、内部機構に大きな損傷を受ける。カメラ奥に何か重要部品があるようで、破損すると動かなくなる。
その特徴とは?
2脚レイバー共通にして最大の欠点は居住性の悪さである。歩行すると搭乗者は上下に揺さぶられ、激しい振動に見舞われる中、事故を起こさないように長時間の作業を求められる。ヘラクレスはそれを大きく改善した。
電子制御サスペンション、オート・スピード・コントロールを採用。これにより操作が簡単となり振動が軽減され、操縦者への負担が減少した。さらに周囲への振動や騒音もかなり軽減されている。
単純な起重力(物を持ち上げる力)はタイラントやブルドッグより劣っている。しかし、腕への衝撃を吸収するマルチリンク式マニピュレーターの採用によって動きが良くなり、指の動きも少し改善されたらしい。
専用オプションのオフロード・レッグ・アタッチメントによって不整地での移動の強化が可能。作業用としては軽快な運動性で小回りがよく利く。格闘戦となればブルドッグを圧倒するほど。
追加オプション無しで水中作業が可能。頭頂部に伸縮式のペリスコープシュノーケル機構を組み込んでいる。もっとも安全性の要求されるエアタンクを頭部周辺に分散装備したことで水中作業能力は格段に向上、水中作業専用機並みの能力を有する。
劇中における描写
初期OVA版
初期OVA版は二の腕のカバーが無く、フレームとパイプが剝き出しとなっている。
本編に登場しないが、OP場面にてイングラムと格闘、徹底的にボコられて千切られる破壊シーンが連続する。
劇場版
箱舟内の背景や暴走レイバーとして登場。
TVアニメ版
二の腕にカバーが装着されただけで通常と同じ。(何故かOPでは初期OVA版と同じくフレーム剥き出し)
OPでは相変わらずボコボコに破壊されるシーンがある。劇中では土木作業や犯罪に使用された。
漫画版
\軽快な運動性! 菱井インダストリーの新型レイバー「ヘラクレス21」!!/
出渕裕のデザインの中途段階からゆうきまさみが漫画の執筆に移行したためOVA版、アニメ版とも少し異なるデザインをしている。特徴は足が太く股間が曲面的、そして大きな違いは頭頂部の突起が無いこと。また二の腕のカバーは無い。
劇中放送されているテレビCMでは4トン程度のダンプトラックを軽々と持ち上げ、3年前の旧式機とはいえ95式3機を向こうに回しても善戦するというパワーと運動性能を両立した高性能機。
第1話以外に目立った活躍のエピソードはない。
第1話中、寮で寛ぐ野明が見るテレビで放映されていたテレビコマーシャルに登場。その後のシーンでは冒頭で爆弾テロを起こした実行犯によって奪取され、立てこもりに使用される。警察は菱井インダストリーの開発担当者に助言を求めるも、「ヘラクレス袋にスペシウム光線」「弱点などありません」「1対1なら(95式には)絶対に負けない」と豪語された小隊長・南雲しのぶは即座に第一小隊所属の全機投入を決断。47分にも及ぶ大立ち回りを演じたが、95式複数機に組み付かれメインカメラに特殊警棒を突き込まれ鎮圧される。
ゲーム版
カスタム化されたサラマンダーがSFC「機動警察パトレイバー」に登場。
鎌下石油の次男坊のレイバーマニアによってイングラム1号機とうり二つの赤い外装に1年がかりで改造されている。
レーダー遮断装置を取り付けた給油トレーラーに隠れてレイバー犯罪者に正義を振りかざしていたが、最終的に犯人が7人入院、周辺で12人のケガ人を出し、レイバー不法改造、傷害罪、騒乱罪などの罪で逮捕される。
事件ファイル07「赤きイングラム前編 サラマンダー登場」 では、暴走したブルドッグを第二小隊より先に打ちのめして突如消えてしまう。後日、別の現場でレイバー窃盗を阻止したことが報じられる。
事件ファイル08「赤きイングラム中編 忍者レイバー」 では、大将同士の乱闘を第二小隊が止めた後に出現し、消えてしまう。その後、給油トレーラーのタレコミ情報が野明に届けられる。
事件ファイル09「赤きイングラム後編 サラマンダーの最期」 では、特車二課不要論まで出るに至りサラマンダー逮捕作戦が展開され、石和巡査部長が操縦する大将によるおとりに誘き出されて逃走に失敗、太田機により逮捕される。
HLシリーズ
菱井インダストリーの主力商品「HLシリーズ」は豊富なオプションが揃っていて互換性があり、他社に比べて低価格なのが特徴。
1980年代から日本通産省主導で適温かつクリーンな場所に限定される「産業ロボット」の発展型、「極限作業ロボット」の開発が始まる。
篠原重工がいち早く「極限作業ロボット」の民生品「レイバー90」を1990年に発表、1992年から発売。レイバーが生まれる。
対抗すべく菱井インダストリーは94年4月に<HL-94>通称「ギガント1000」を発売。
ギガント(ギガス、ギガース)とはギリシア神話に登場する巨人族。山々すら簡単に投げ飛ばす怪力を持つ。
機体形状は四脚型で二本の腕がついていた。
篠原重工の「レイバー90」の模倣品ではあったが、工作機械技術に長ける四菱重工のノウハウを活用したため、使い勝手の良さ豊富なオプションによる汎用性など究めて優秀な機体であった。同時期にマナベ重工、シャフトエンタープライズが第一号レイバーを発売したがまったく普及しなかった程。
1995年に発生した東京湾中部大地震、それを契機に発足した国家的な計画「バビロンプロジェクト」が始まる。
これは高層ビル群の建て替え、東京湾埋め立て、東京湾を塞ぐ巨大堤防、湾岸部の再開発、地下数百m範囲40㎞に及ぶジオシティ(地下都市)の建設といった巨大土木事業だった。
<HL-96>「タイラント2000」大パワーと整備性の高さから記録的なセールスを上げて篠原重工のシェアを奪う。主に震災で破損した建築物の解体、瓦礫の除去と運搬、整地に活躍した。
<HL-97>「ブルドッグ」多様化した作業に対応するため汎用性を高めた。従来の作業だけでなく、大型施設の建築、地下掘削で活躍した。湾岸部の開発が始まったため水中作業能力を備えた。
<HL-98>「ヘラクレス21」運動性を上げつつ居住性を改善して長時間労働に対応できるようになった。
<HL-99>「レックス2500」センサー、精密作業能力を強化した高級機となった。
建築や施設設営といった都市部での精密作業に従事。
バビロンプロジェクト特需が落ち着いてきたためか、数より質の高さを重視した様子。
余談
出渕裕による初期の設定イラスト決定稿には、桜色のワンピースと帽子を被った少女が左の手の平に乗っている。少女は旧OVA第4話「Lの悲劇」に登場する後藤真帆子に似た髪形と服。根拠のない憶測でしかないがプロット段階では本編に登場予定だったのかもしれない。