グリフォン(レイバー)
ぐりふぉん
シャフト・エンター・プライズ・ジャパン(以下SEJ)が開発したレイバー。開発と製造はSEJ土浦研究所のチームが手掛けている。型式番号は「TYPE-J9」。
『最強のレイバーを目指して製造された実験戦闘用レイバー』とうたっているが、その実態は量産や採算を度外視して作り出された「趣味の産物」であり、SEJの技術アピールの為のデモンストレーションという名目の元、内海課長の犯罪劇場に駆り出されることとなった。
メインパイロットは内海課長の秘蔵っ子であるバドリナート・ハルチャンド。
犯罪に使用するため出自は隠蔽されており、軍用機との接触もあった関係で、パイロットが悪ふざけで公表した機体名も世間一般には伏せられていた。
そのため、警察側関係者や報道の中では『黒いレイバー』と呼ばれている。
全高:8.55m
全幅:4.60m
本体重量:7.15t
全備重量:7.60t
最大起重:3.50t
OS:ASURA
「現在の技術的に考えられる最高の性能」を実現するために莫大な研究・開発費が投入され、運動性能やパワーはイングラムを始めとしたあらゆるレイバーを凌駕している。機体スペックだけなら劇中最強と目されており、奇襲したとはいえ武装した米軍機にすら圧勝している。
公式サイトによれば外装の一部にはチタン合金も採用しており、コミック版では前腕部でリボルバーカノンの銃撃を弾くなど、要所の装甲も厚い模様。
機体の汎用性も高いが、概要で述べたように「戦闘用」「趣味の産物」「技術アピール」という側面から、作業用レイバーには不必要な機能も数多く備えている。
直接攻撃用火器の類は内蔵していないものの、マニピュレーターの先端には警察用レイバーの盾を抉るほど鋭利な爪を備え、前腕には目潰し用フラッシュライトとジャミング発煙弾ランチャー、民間の陸上用レイバーなら無意味な完全防水による潜水能力を備えた本体に加えて、背部にはオプションユニットの装着が可能。
劇中では短時間のジェットエンジン飛行を可能にした「フライトユニット」や、水中での航行を可能にした「アクアユニット」が確認されている。このユニットは切り離して囮に使うこともできる。
グリフォン本体もトカゲの尻尾切りのごとく腕を自切して逃走するなど、そのSFロボットの如く仕掛け満載の様子に、対峙した第2小隊長の後藤も「なんとまあカラクリの多い機械だ」と呆れ気味だった。
そもそも劇中で言及がある通り「産業機械としてのレイバー」が厳密に人間の形を模している必要はなく、頭身の高いヒト型のシルエット、精密な五指を備えたマニピュレーターなど、機体のスタイルそのものが技術力アピールの様相となっている。
これはライバルであり主人公機である篠原重工98式AVイングラムと同じ発想で、劇中で内海は「イングラムを捕獲して成長済みの学習型OSを奪う目的もあってグリフォンを開発した」とも発言しているため、最初からイングラムとの決闘を意識して建造されたという面もある。
グリフォン自身のOSには現行のレイバー用フォーマットと互換性がない【ASURA】と呼ばれる特殊なシステムを採用しており、これが本機に「生物のような動き」を可能とさせている。
一方で、ASURAはコンピュータシステムそのものまで独自規格となっていて、レイバー制御用サイズに収めてもコクピットの大半を機器で埋め尽くすほど巨大なユニットとなる。そのため機体内部は極めて狭く、ASURA搭載時には小柄な者か子供くらいしか搭乗出来ない。
開発チーム自身、犯罪に用いる前提で作られ互換性も無いグリフォンが表立って採用や販売される可能性は無いと考えていたが、内海は「デモンストレーション計画がうまくいったら基礎理論や技術者を売り込み、奪った篠原製OSも売り捌けば良い」と企んでいたようだ。
【コミック版】
初出撃
テロリストに供与した軍用レイバー「ブロッケン」から動作学習パターンを得た上で機体を完成させ、小笠原で極秘の合同演習中だった米軍と自衛隊を襲撃。
奇襲とはいえ機体の運動性のみを武器に米軍の新型多脚レイバーEX-13を2機、自衛隊の97式1機を一方的に撃破し、特に97式に対しては、搭乗ハッチの開閉ノブを回してパイロットを傷つけず引きずり出した上で内部の機材を破壊するというマニピュレーター動作のパフォーマンスまでやってみせた。
さらに調子に乗ったパイロットが演習場の砂浜に「ぐりふぉん参上!」と書き残すイタズラまでやらかしたが、演習自体が極秘だったこともあり事件は秘匿された。
2戦目
運送トラックに偽装したコンテナに潜んで晴海のレイバーショウ会場に出現。
特車二課第二小隊、太田の駆るイングラム2号機を奇襲し、遊馬が乗って援護に現れた展示用の簡易量産版イングラム「エコノミー」もろとも、やすやすと撃破する。
起動ディスクを外していたため初動の遅れた泉野明の1号機とは、顔を合わせたものの戦闘には入らず、煙幕が切れる前にフライトユニットを起動させまんまと逃走に成功する。「レイバーが空を飛ぶ」という前代未聞の出来事で周囲を驚かせた。
3戦目
隠れ家にしていた輸送船から堂々と東京湾岸に上陸し、秘密保持のため数機がかりで取り押さえにかかったシャフト社の警備レイバー「キュマイラ」を貨物埠頭で撃破する。
この事件で出動した野明機とは初の交戦。序盤こそ有利に運んでいたが、太田の援護射撃によりメインカメラが破壊される。さらにグリフォンの証拠隠滅を図ったシャフト社の私兵SSSの爆弾で機体にダメージが加わり、不完全な状態で野明機ともつれあってのドツキ合いを繰り広げる泥仕合に陥った。
そこへ第一小隊の96式が援護に入った事で不利は決定的となり、掴まれた腕を切り離して再びフライトユニットで逃走する。しかし、大きく損傷した機体は制御を失い海に墜落。海中に沈んだASURAは予想外のトラブルがあったものの、最終的に二番機によって無事回収された。
4戦目
九十九里浜の建設予定地で、グループ企業SEアメリカのレイバー「M5」と秘密裏に戦闘試験を行い圧勝している。
SEジャパンはこの結果をもとにM5のライセンス生産を拒否し、レイバー自社開発に関わる社内駆け引きがあった様子も描かれている。
5戦目
今回は環境テロリストをけしかけた騒ぎに乗じてバビロン大堤防に上陸。AVS-98に機種更新した第一小隊に挑む。
ジャミング煙幕でAVS2号機を不意打ちしてリボルバーカノンを奪い活動停止に追い込むも、ベテラン石和のAVS1号機には逮捕術よろしく腕をとられて制圧されかかり、持ち前のパワーで強引に引きはがしてなお食い下がる石和によって海中に転落。またしても泥仕合状態となり、駆け付けた野明のイングラムに銃を突きつけられたところで煙幕を放ち撤退した。
イングラムの改良版かつ高級機種とはいえAVS-98は製造ラインの確立された工業製品であり、それに採算度外視な特注品のグリフォンが「いい勝負」をされてしまった時点で技術デモとしてはほぼ失敗が確定したのだが、「万全の状態で宿敵イングラムと決着をつけたい」という技術陣の意向もあって再戦を図った。
最終戦
パイロット逃亡という大トラブルに見舞われるも、最後の一体である三番機を合流させ、嵐と道路遮断で孤立させた特車2課の本丸を襲撃する。
別動隊の小型レイバーと戦闘になっていた太田の2号機、石和のAVSは人質を取られて戦闘不能だったものの、偶然に2課棟を離れていた野明が篠原重工の提供したAVR-0を持ち込んで立ち塞がり、その性能と衛星支援OSによる半自律機動に苦戦を強いられる。しかし内海の手の者がAVR-0の管制車両を制圧するという盤外戦法で動きを止め、コクピットをこじ開け行動不能にする。
ここでようやく本命のライバル「野明が駆るイングラム」との決闘が実現したが、ワイヤーウインチを絡められて動きを限定された上、挙動を読んで紙一重の回避を繰り返すイングラムには全く決定打を与えられない。感情的になったバドがリミッターである「Bシステム」を切ってなお追い詰めることはできないまま、投げ技を食らって満身創痍となり、さらに動きの要である腰を電磁警棒で貫かれたグリフォンは崩れ落ちた。
この襲撃事件ではグリフォン用のオートマチック拳銃型火器も持ち込まれていたが、格闘にこだわった結果、コンテナに積まれたままで出番がなかった。
【アニメ版】
- 晴海レイバー見本市にて特車二課第二小隊のイングラムと交戦。しかし、相手をしたのは太田機とエコノミータイプだけで野明機とは交戦せず、コミック版同様そのままフライトユニットで空を飛び逃走した。
- バビロンの城門にて野明機と交戦。序盤こそ有利に展開していたが、ひろみの支えによる太田の援護射撃によりメインカメラが破壊される。やはりSSSの爆弾で損傷したあとは、野明機に組み付かれて子供の喧嘩に例えられた格闘戦を繰り広げる。第一小隊の介入もあって腕や脚を切り離し、またも飛行による撤退を計るものの、十分な揚力を得られず海に墜落。脱出したバドは内海の依頼でシャフト極東グループのマネージャーが回収している。機体の一部は警視庁が海中から引き上げて検証にかけられ、既製品の使われていない機体を榊整備班長は「相当妙なシロモノ」と評した。
- 後期OVAでは、第一小隊の新鋭機ピースメーカーと交戦。「周辺への被害を避ける」というピースメーカーの管制システムを突いて大破させ、メーカー修理送りにした。後にやってきた第二小隊の太田機と野明機を同時に相手して圧倒し続けたが、増援の香貫花が駆る三号機にECMで視界を奪われた隙に、野明機が急ピッチで部品交換を済ませて戦線復帰。格闘戦に敗北して、機密保持のために機体は爆破された。
コミック版の描写が顕著だが、グリフォンの決定的な敗因は機体の能力値ではなく良きパートナーに巡り合えなかった事だった。
搭乗者であるバドはシミュレーターによるトレーニングや何度かの実戦を経験こそしているものの、それは奇襲などの優位を整えた状況や、機体性能で上回れる相手を一方的に圧倒するような内容のものばかりで、互角以上の相手と動きや戦法を練りながらやりあった事はほとんど無い。
平時はTVゲームやラジコンに興じていたように、グリフォンのことも使っただけで対戦相手を圧倒できる凄いオモチャのようにしか見ていなかったのである。
ほとんどセンスだけでバドがグリフォンを使いこなしたのは確かに凄まじいことだが、戦闘においてはダメージを与えて叩きのめせばステージクリアのような感覚で戦っているせいか、新しい相手が現れるとすぐに目移りし、それまで戦っていた相手レイバーへ実際の機械構造に基づくとどめを刺し忘れるパターンも目立った。これが原因で、2戦目と5戦目では損傷させた太田や石和の機体に背を向けてしまい「まだ動くんか!?」と不意を突かれている。
精神面でも、ひとたび追い込まれると機転を利かせる余裕も失い、窮地で踏ん張れるような根性も信念も無いため、思い通りの成果に繋がらなかった最終戦ではコクピットで感情的に泣き喚きながら操縦するような有様だったのである。
機体性能への過信も問題ではあった。そもそもAVS-98との戦闘では、ベテランパイロットとはいえ機種転換直後でテロリストと一戦交えたばかりの石和機に立ちの格闘で腕を極められ、そのまま壁に叩きつけられているのである。
これは野明のイングラムにもできなかったことだが、AVS-98はレイバーショウ襲撃事件で目撃されたグリフォンの性能を前提に設計を練り直したイングラムの改良版なので、むしろ性能的優位を縮められてしまうことは起きても不思議のない結果だった。
専用の制御システムを採用し採算度外視で作られた特注機のグリフォンが、市販OSで制御され公的機関に導入可能な価格で製造された工業製品のAVSに圧勝できず…言わば「レース用バイクのつもりでいたら白バイに追いつかれた」ようなもので、内海は観戦に招待したスポンサーからも「我々に見せたかったのは、あの程度の性能なのかね?」と言われてしまっている。本来ならこの時点でグリフォン計画全体の見直しすら考えるべきだったのである。
それでも内海は技術陣を煽る形で「前世代機でも実践経験が豊富なイングラムに勝てばいい」と都合のいい決闘遊びに走り、「正面からグリフォンと戦ってイングラムが勝てる訳が無い」と高をくくって、野明が駆るイングラムを倒すための策などは一切考えていなかった。その結果、「ちょっと運動神経の良いチンピラが玩具を手に入れて調子に乗り、装備との相性を研ぎ澄ませた百戦錬磨の警官にケンカを売る」という愚行を犯すことになったわけである。
開発チームはイングラムとの戦いでグリフォンが安全装置のBシステムを解除する可能性、さらにそのダメージを危惧していたが、イングラムに対して「甘く見ていないから、本来のシステムからBシステムを切り離した」とも発言しており、イングラムと戦うために敢えてリミッターを切れるようにする対策を施していたようだが、結局はそれでも経験の差を埋めるには至らなかった。
内海に拉致されていた熊耳も「ずいぶんと泉さんのイングラムを甘く見たものね」と呆れていたが、その言葉通り、突進のカウンターでイングラムにがっちりと捕らえられたグリフォンは、野明の
『あたしのイングラムはなぁ……あたしが毎日乗って……少しづつ動きを覚えさせて……ここまで鍛え上げたんだ……。あんたが気まぐれで遊ぶ玩具とはなあ……違うんだっ!』
の言霊とともに地面に打ち据えられ、手足や首が見る影もなく損傷したまま電磁警棒に貫かれて敗北した。
イングラムも外装や頭部が酷く破損していたものの、この結果を後藤隊長は「泉の圧勝」と評している。
最後の戦闘は現場に突入したテレビクルーに撮影されており、ニュース番組にコメンテーターとして呼ばれていたASURAの基礎開発者、古柳も、野明の戦い方を「素晴らしい」「性能差を覆すにはあれしかなかっただろう」と称賛。逃走先で結果を知った内海は開き直るほかになく、最後には全てを失うこととなった。
レイバー計画としてのグリフォンも、カタログスペックやかかった予算に対してまともに勝利したシーンはことごとく証拠映像が無く、逃走や敗北ばかりが知れ渡った結果「SEJの技術アピール」「篠原重工製OSの強奪」どちらも果たせないまま終わっている。
グループ企業からも優位性に不信を持たれ、各社重鎮の視線は冷ややかでさえあった。
仮に内海が逃亡に成功し再起を図れたとしても、莫大な予算をかけ愉快犯的テロ行為までやってみせた実証品がなんの成果も残すこともできず敗北、パイロットごと警察に押さえられるという大失点が帳消しになるとは考えづらい。結局の所、グリフォンは内海課長の玩具で終わったのである。
バンダイから「1/60 TYPE-J9グリフォンレイバー」という製品名でフライトユニット装備がプラモデルとして販売されたが 後にMGシリーズで「TYPE-J9 グリフォン(アクアタイプ)」も販売された。コミック版に登場したハンドガンは付属しない。
ロボットフィギュアシリーズであるROBOT魂レーベルからも商品化されているが、こちらはフライトタイプのみである。
デフォルメ体型にアレンジするコトブキヤの「Dスタイル」にもラインアップされ、こちらはフライトユニットとアクアユニットの両方がパーツ交換式で付属。リボルバーカノンも付属している。
同シリーズのイングラム一号機が同梱され「イングラム&グリフォン対決セット」も販売されこちらにはスタンドが付属する。
海洋堂のリボルテックシリーズからもアクアタイプ、フライトタイプ両方が発売されている。
グッドスマイルカンパニーのプラモデルブランド『MODEROID』にもラインアップされたが、一般販売はフライトタイプのみ、アクアタイプは交換パーツとのセット商品がグッスマオンライン限定で販売となった。これも専用ハンドガンが付属していない。