「あンた、背中が煤けてるぜ」
概要
タイトルのフルネームは『麻雀飛翔伝 哭きの竜』で、能條純一の麻雀漫画作品。あるいは、同作品に登場する主人公の異名。1985年から1990年まで『別冊近代麻雀』で連載された。
2005年まさかの続編、『哭きの竜・外伝』が連載。さらに2016年、外伝のその後を描いた『哭きの竜〜Genesis〜』が連載された。
内容
牌を鳴く度に手が高くなっていく雀士・通称『哭きの竜』。
竜と対局しその強運に魅せられ、彼を追い求める関東・関西の大物極道達と、数々の戦いを勝ち進んでいく竜の人間模様が描かれる。
第1話では関東最大の極道組織・桜道会直系川地組組長の川地幸一と同若頭・室田栄を相手にオーラスで字一色をツモり上がって逆転勝利するが、
字一色───まさにそれからの竜の人生は文字一色にぬりかえられる
──その文字“義”と“情”
というナレーションの通り、様々な極道達が竜の麻雀人生に関わっていく。
上記の「〇〇(桜道会組員が多い)、のちに追懐する」というナレーションを含めた独特のテンポと、
- 「己れ(おのれ)は他人のためには生きられない。悲しいほどに己れのために生きるもの」
- 「命の深さを卑下する者に………真の勝負は語れない」
- 「あンた、それ以上話すと……言葉が白けるぜ」
- 「〇〇(対局者の名)と言ったな…お前に一つだけ教えてやろう」
等、麻雀漫画史上に残る竜の名言の数々で、今もファンが多い。
それまでの麻雀漫画の主人公は古い年代のスポ根漫画のように太眉で熱血タイプが多かったが、竜は細美眉で無口(むしろ脇役の方が台詞が多いほど)で表情をほぼ変えずクールという、麻雀漫画の主人公像を一変させた作品でもある。
哭きの竜以前の麻雀漫画は賭博がバックボーンなため「手積み卓でイカサマなどの不正で勝つ」描写が当たり前だったが、竜は全自動卓でも対局者がぐうの音も出ない勝ち方をする。
特に「カンをしたらイカサマ無しでもドラが次々とモロ乗りしていく」「カンをしたら必ず嶺上開花で和了(アガ)る」という超能力レベルの剛運は『むこうぶち』『咲-Saki-』などの後発の作品にも多大な影響を与えた。
竜
CV:池田秀一
通称「哭きの竜」。本名も年齢も不明(であったが小学館文庫版2巻収録の特別対談では、竜の本名は「山田竜」であると明かされている)。
とにかく門前では打たないという異色の雀士。
「外伝」で登場する日本の黒幕こと白根獅子丸が竜を「息子」と呼んでいたので「本名は白根竜ではないか?」という推測もあったが、これは獅子丸が竜を死んだ長男と勘違いしていたため。
初登場時は桜道会の末端組織、梅宮組で代打ちをしていた。この時の川地・室田との対局ではピンフのみで親を蹴ったこともあった。別の裏賭場での対局では立直をかけるなど最終局まで門前で打つこともあった。その時は同卓した人物が今まで鳴かなかったことを尋ねた際に「おれは哭きを入れるたびに命を縮める思いがする…あんた達には一回の哭きで充分さ」と答えている。(外伝では当初記憶を無くした状態で登場しており、この時も門前で打っている)
麻雀では鳴くと点数が少なくなることが多いのだが、竜は「鳴いて高い手を作る」タイプで、相手のアタリ牌をピタリと止めた裸単騎待ちであがる等も日常茶飯事。無謀と思われる手順で三倍満や数え役満などもあがり切ってしまうその剛運に魅せられる極道は数知れず。物語終盤に登場する、のちに桜道会二代目会長に就任する三上信也曰く「人間の力をはるかに超えている」。
作中では竜が麻雀牌がラシャ面を噴煙のような閃光をあげながら滑走するシーンが度々あるが、対戦者は『は…牌が閃(ひか)って見えた!?』と驚くのがお約束である。
竜が対局中に発する
「あンた、背中が煤(すす)けてるぜ」
は、むこうぶちの傀の「御無礼」と共に麻雀漫画の二大決め台詞と言っていい。
単に運任せでもなく、前述のように面前で打ってもそこらの三下など全く寄せ付けぬ強さを持ち、第1巻では(俺が最後に入れた二萬、対面の山に必ず積まれる)と全自動卓がどう積まれるかも完全に把握している描写もある。
また、上記のように相手のアタリ牌をピタリと止める超能力じみた洞察力があり、さらに「外伝」では第一作最終回から15年、「Genesis」ではさらに11年(合計26年)経過しているにもかかわらず全く老けていないという、人間とは思えない描かれ方をされている。(他のキャラは白髪になっていたり顔のシワが増えていたりと明らかに加齢している)
ネット等でも「麻雀漫画における最強雀士は誰か?」がよく議論になるが、傀、早見明菜(スーパーヅガン)、フランケン(根こそぎフランケン)、D・D(兎-野生の闘牌-)達と共に、竜も必ずと言っていいほど最強候補に名前が出る一人である。
OVA化
1988年から1990年にかけてバンダイビジュアル製作のもとGAINAX制作でOVAが製作された。全3回。
因みにその際は、麻雀牌を描くのが死ぬほど面倒なので、当時の社員一同「麻雀関係の仕事はやめよう」と当時は固く心に誓ったそうである。(結局、1998年に麻雀ゲーム『エヴァと愉快な仲間たち』を出している)
原作の麻雀牌がラシャ面を噴煙のような閃光をあげながら滑走するシーンは、アニメでも再現されている。
1991年には東芝からもOVAが出された。
ゲーム化
1990年9月にウルフチームがPC-9801版、91年2月にX68000版『RYU 〜哭きの竜より〜』をリリース。
1992年12月にアイジーエスが『麻雀飛翔伝 哭きの竜』を、1995年10月にベックが『麻雀飛翔伝 真 哭きの竜』をリリースしている。
実写化
1995年から1996年にかけて発売された実写版(川本淳一主演)がある。全3作。
2011年に『麻雀飛翔伝 哭きの竜 外伝』(松田賢二主演)が実写映画化。全2作。
余談
当初作者の能條氏は山口組から反竹中派が独立して一和会を結成した事に端を発した「戦後最大のヤクザ抗争」と言われた山一抗争をモデルにしたヤクザ漫画を描きたかったそうだが、竹書房の編集から「麻雀要素が少ないなら掲載はしない」と言われ、苦肉の策で竜を登場させたという。
しかし結果として、竜の剛運に極道達が魅了されていくというストーリー展開は見事にプラスに作用し大ヒット。片山まさゆきの『ぎゅわんぶらあ自己中心派』と共に若者が麻雀に興味を持つようになる、記念碑的作品となった。
ただ、当初の予定通り物語の前半では桜道会直系甲斐組二代目組長の石川喬(いしかわたかし)がいずれは桜道会二代目会長に就任するのを良しとしない、前述の川地幸一が友好団体を率いて桜道会から独立し「幸友会」を結成して石川と抗争を開始するという、明らかに山一抗争をモデルにしたストーリー展開がある。
第1巻での門前で打つ描写については能條氏曰く「最初の設定ではここ一番で鳴くので哭きの竜だったが、描いてる内にどんどん鳴くのが当たり前になっていった」(復刻文庫版の後書きより)。
なお、竜のモデルは後書きの対談に登場した、竹書房で初代編集担当だった宇佐美和徳氏。「ネームとかの打ち合わせでも必要最低限の事しか言わない人だったけど、そのクールさが格好良くて」。