事故概要
豪雨の中での着陸進入
ソウル 金浦国際空港を出発した801便は、グアム国際空港を目指して飛行する定期旅客便であった。機長はパク・ヨンチョル(42歳)であり、9,000時間近くの飛行経験を有していた。彼は当初ドバイ行きのフライトを担当する予定であったが、休養日数不足によりグアム行きの801便に振り替えられた。他にも飛行時間4,000時間超えの40歳の副操縦士、飛行時間13,000時間超えの57歳の航空機関士がコックピットに乗り合わせていた。
午前1時11分(チャモロ標準時)、高度41,000フィート(12,000m)を水平飛行中、コックピットではアプローチや着陸に関するブリーフィングが行われた。2分後には航空管制から降下の許可が下り、高度2,600フィート(790m)への降下を開始した。当時のグアム上空は豪雨のおかげで視認性が悪くなっていたため、計器進入を試みることとなった。午前1時38分、高度2,800フィート(850m)を下回ったところでフラップを10度展開し、高度2,600フィートでの水平飛行に移った。この時クルーたちはILSのローカライザー信号とグライドスロープ信号を受信したと認識したのだが、当日グアム国際空港のグライドスロープを使用できないことは、当フライト以前から通知されていた。午前1時40分、滑走路6L端から約17kmの地点に到達したところで801便は高度2,640フィート(800m)からの降下を開始した。
ここで、正しい着陸手順は以下の通りである。
①高度2,000フィート(610m)まで降下して水平飛行に移り、滑走路6L端から約9km離れた位置にあるアウターマーカー(GUQQY)に向かう。
②アウターマーカー(GUQQY)上空を通過したら、高度1,440フィート(440m)へ降下して再び水平飛行に移り、滑走路端から約6km離れた位置にあるUNZ VORに向かう。
③UNZ VORを通過後、高度560フィート(170m)まで降下し、滑走路端から約900m離れた位置にあるミドルマーカーまで水平飛行、そこの通過確認後、最終降下して滑走路へ着陸する。
しかし、801便は高度2,000フィートに到達しても水平飛行に移らずに降下を続け、高度1,440フィートを下回ってもなお降下を継続した。午前1時41分40秒頃から地上接近警報装置(GPWS)が警報を鳴らし始め、42分17秒頃には「sink rate」と鳴り出した。その際、機関士は電波高度計の地表高度読取値「200フィート」をコールし、副操縦士が「進入復行」を進言したが、パク機長はそれに即座に反応しなかった。機関士の「ゴーアラウンド」コールにようやくパク機長も「ゴーアラウンド」とコールし、エンジン推力を増大させていったのだが、この時点で801便には高度を上げる余裕がすでに失われていた。最終的に801便は機首上げ3度の姿勢で滑走路端から約6km手前の丘陵地ニミッツヒルへと墜落してしまった。
遅れた救助
深夜且つ悪天候でよく見えなかったことやレーダー管制が他の機と交信したりして事故に気付くのが遅れたこと、救助車両の整備が不適切だったこと、墜落の衝撃でパイプラインが破損し、道を塞いでいたことなどが重なり合って、現場に最初の救助隊が到着するのに52分もかかっていた。最終的に乗員乗客254名中228名が帰らぬ人となり、26名が生還できた。もし現場への到着がもっと早かったら、何人か多く生還できただろうと見込まれている。
事故原因
NTSBは事故報告書で以下のように原因を結論づけた。
- 大韓航空のクルーに対する不十分なトレーニング
当時の大韓航空は、パイロットたちに対してトレーニングを満足に行っておらず、その結果後述の諸原因に影響を与えたといわれている。
- 不適切なブリーフィング
着陸アプローチ開始前、コックピットでは確かにブリーフィングが行われていたのだが、その内容は視認進入(ビジュアルアプローチ)によるものだけであり、視程不良にともなったILS進入の対応についてもブリーフィングを行うべきだった。もし適切なブリーフィングが行われていれば、パク機長が定められた高度を下回って降下しても、他のクルーがそれに気付いて適切な助言や修正を寄与できた可能性が高かっただろうとされている。
- パク機長のパイロットエラー
パク機長は、事故発生の数日前から連勤していてその間に蓄積された疲労を回復しきれないでいた。このことが判断能力を鈍らせ、機体の位置を正確に把握するのを妨げていたのではないかといわれている。たとえば、滑走路と機体の相対距離を参照する基準となるDMEが空港の敷地内に設置されている(実際は滑走路端から約6km手前に設置されている)と勘違いし、早い降下を降下を行ってしまったと仮定されている。
- 空港側の最低安全高度警報(MSAW)
最低安全高度警報(MSAW)とは、航空機が規定の最低高度を下回ったり、地上の障害物に接近したりした時、もしくはそれらが予測される状況に至った時に管制官に対して警報を発するシステムである。これにより管制官は当該機に対して注意喚起を促し、墜落を未然に防ぐことができるのである。ところがグアム国際空港のMSAWシステムは誤報が多く、業務の妨げになりやすいことから事故の数ヶ月前から航空連邦局(FAA)より例外的に使用停止状態にされていた。もしこれが機能していた場合、墜落の1分ほど前に警報が鳴り出し、管制官は801便に注意、警報を伝えることができ、墜落を防げてのではないかといわれている。
余談
この事故は、ボーイング747−300において唯一の人身事故となっている。
関連タグ
フィクションじゃないのかよ!騙された!←用語等はこちらに
日本航空123便墜落事故:事故機がボーイング747、山間部に墜落したこと、救助開始が遅れたおかげで犠牲者が増えてしまったことなどで共通点が見られる。
UPS航空1354便墜落事故:疲労からなるパイロットエラーにより、降下が早く行われ、滑走路手前に墜落した類似事故