概要
山椒魚戦争(Válka s mloky)とは、チェコの作家カレル・チャペックが、1935年9月23日から1936年1月12日まで新聞「リドヴェー・ノヴィニ」紙に連載していたSF小説で、人間に変わる労働力の叛乱という、1920年発表の戯曲『R.U.R.』のリメイク的な性質も持つ。
高度な知能を持ち人間の言葉を理解するばかりか、労働力としても有用なオオサンショウウオを家畜化した人類とその顛末を、新聞記事の切り抜きという体裁や山椒魚に対するレポートを交え、群像劇として描いた終末テーマのSF小説である。
あらすじ
オランダ船のヴァン・トフ船長は、インドネシアの先住民の伝承にあった、タナ・マサ島の「魔の入江」に棲む、人の言葉を理解するという二足歩行の未知の山椒魚を発見し、彼らを調教して海底の真珠を採取させることを思いつく。
そんな中、山椒魚の存在が一般にも知れわたりはじめ、真珠採取の協力者でもあった企業家のG.H.ボンディ氏は、山椒魚を用いた一大産業の設立を宣言する。
産業化されたことにより、あっという間に数百万匹も繁殖し、労働力として世界中に広まることになった山椒魚たちであるが、その利用法について様々な立場の人々により論争が行われる。
一方その頃、世界各国の海岸線が崩れて水没するという災害が起こり始め、山椒魚たちからこの災害は、自身たちの生存権を広めるために起こしたものであると宣戦布告されることになり・・・
メタフィクション
最終章は「人類が滅亡する小説をこれ以上続けたくない」と言い出す作者の良心が、「放り出さずに続けろ!」と言う作者自身と対立し、「もう放っておいても人類はダメだろ」「そうならないように希望を出すべきだ!」「だって作中キャラがみんなバカだし」とか、メタ発言丸出しで罵り合いながら自問自答し、結末の構想を語ったりする豪快なメタフィクションである。
余談
山椒魚を作中の知的生物としたのは、17世紀の博物学者ヨハン・ヤーコブ・ショイヒツァーが、ヨーロッパオオサンショウウオの化石を聖書の記述と照らし合わせて、ノアの方舟時代の人類の骨と考え紹介していたためであると言われる。
山椒魚を英語ではサラマンダー(Salamander)と表記するが、人間同士で「Sに関わる問題」「S法律」「S輸送船」「S保護団体」等が議論されていく中で当事者Sの意志が完全に無視され、如何なる会議にもSが出席していない/そもそも政治家達は一度もSを見た事がない、という状況は、欧米白人社会に於ける奴隷(Slave)問題への批判とも解釈出来る。
関連タグ
カレル・チャペック オオサンショウウオ 山椒魚 インドネシアの妖怪