概要
1994年に汐文社より発行された中沢啓治による描き下ろし漫画(全2巻)。
中沢は熱心なカープファンであり、焼け野原となった戦後の広島に誕生した広島東洋カープの史実を交えつつカープに熱狂する当時の市民、そして25年後の初優勝までを描いた。
はだしのゲンでもカープのエピソードはあったが、こちらは本格的にカープの歴史を描いた漫画である。
登場人物は球団関係者を除いて架空だが、カープの資金難に対し選手達の苦境を何とかしたい球団の後援要請活動と市民による「樽募金」、「熱狂ゆえのファンの暴走(縄ホームランやポール引っこ抜き事件など)」は概ね史実に則って描かれている(ただし、その張本人が全て主人公の進たちによるもの、ということになっている。とはいえ、その中でも悪質だった事件は物語でも進は関与していない)。
現在、マツダスタジアムにはこの広島カープ誕生物語の登場人物の銅像が建立されている。
ストーリー
原爆投下で壊滅的被害を受けた広島市だが、高校野球の強豪校があるなど戦前から野球ファンが多かった地域故に戦後は草野球が復活して盛んに行われていた。戦災孤児となった主人公・「大地進」も親友達と共に呉市の進駐軍相手に物資を賭けた野球に明け暮れる日々を送っていた。
ある日、広島にプロ野球チームが誕生する事を知り進はじめ野球ファン達は狂喜する。しかし、設立早々資金難で球団は解散の危機に直面し、ファンが支援を行う。カープはその後もファンと共に苦難の道を歩んでいく。
進は豆腐屋のおっちゃんの養子になるが、カープが勝つ度に豆腐を無料にするなどで経営はピンチ。あまりのカープ狂いにおっちゃんの娘の光子も腹を立ててばかりだったが、やがて理解を示して進との愛を育んでいき2人は籍をいれることに。ところが「結婚式はカープが優勝した年に」と誓ったため、いつまで経っても結婚式を挙げられないのであった。
発足から25年目の1975年。カープファンが固唾を呑んで見守るここ一番の大勝負でカープはついに初優勝を掴み取り、広島の街はかつてない熱狂と興奮と感動に包まれる。進も42歳にして光子との結婚式をあげることができた。
登場人物
- 大地進:原爆で家族を失った孤児で野球が大好き。カープ立ち上げに熱狂し様々な騒動を巻き起こす。のちに太田家の養子となる。物語開始時の1947年で14歳とされ、1975年のプロ野球開幕時に光子に対し「わしもお前ももう42歳じゃ」と言っている事から1933年生まれ(1945年の被爆した年に12歳)であることが判る。孤児時代からの愛犬のゴンがいたが、流石にカープの初優勝を見る事は叶わず、1975年時点では既に亡くなっている(とはいえ20年近くも生きていたようである)。
- 太田伝造:豆腐屋の主人で、進同様に野球に目がなく熱狂的なカープ・ファン。かつて広島商業の野球部員で、補欠だが甲子園で優勝に立ち会ったと称している。妻は原爆で亡くした。ヤクザにグローブを奪われそうになって喧嘩になった進を庇った際、刺された足(左足)が不自由になってしまった。これに責任を感じた進は養子になって豆腐店を手伝うことを決めた。カープの優勝と娘夫婦の披露宴は生きている内に見ることは出来ないと覚悟していたが(進には「お前が爺さんになっても無理かも」と言っている)、見届ける事が出来た。
- 太田光子:伝浩の娘。進と同い歳。当初は野球キチ過ぎて店の経営にも影響を及ぼす父や進に呆れはてていたが、あるきっかけで熱狂的なカープファンヘと転向。進と入籍するが「カープが優勝した時に結婚式をする」と言う誓いを二人で立てたため20年間以上も式はあげられないまま四十路を迎えてしまった。
※作者の中沢は常軌を逸する程のカープファンだったが奥さんはカープに興味がなく、中沢の影響で段々とカープに染まった。そのため光子は奥さんがモデルではないのか?という説がある。ちなみに登場人物のうち史実に則ってるのは球団関係者だが、進の友人達のうち特に2人(スポーツ記者と実況アナウンサーとなった)は実在の人物がモデルだったりする。
反響
この作品は1994年に発行されたが売れ行きが良くなく絶版となっていた。ただし、学校の図書室にはだしのゲンを含む作品集を収蔵しているケースが多い為、目にした人によってそれなりの知名度があったと推測される。
2014年に上下巻だったこの作品を一冊にした形で復刊している。
そんな中で2016年にカープが25年ぶりのセ・リーグ優勝。
広島市内でカープファンの度を越した狂喜乱舞っぷりが発生、野球ファン以外をも驚かせた。
- 優勝決定直後の深夜、繁華街に繰り出した大勢の市民によるエンドレスハイタッチが発生し新井貴浩に似ていると問答無用で胴上げされ、注意する警官も思わずハイタッチ
- スーパーやデパート、飲食店や個人商店で投げ売りのようなセールが多発
- 居酒屋で酒をタダで振舞ったり、店内のビールかけや鏡割りはもちろん、窓の外にもビールを噴射し街頭でもビールの掛け合いが発生
- ローカルラジオ局やTV局が揃って特番、広島ホームテレビに至っては優勝が見えた時点でキー局の深夜番組を潰しまくり朝まで特番を発表
挙句の果て
- 広島弁護士会が半月間無料相談会を開催
という珍事も発生。
これらが報道されると「カープの初優勝時に豆腐屋がタダで商品を配る」といった本作のシーンを思い出しネットで本作を紹介する読者が相次ぎ、再びこの作品が脚光を浴びる事となった。奇しくも初優勝と同じく25年ぶりの優勝で、対戦相手が巨人(しかも優勝を決めたのが東京)というなんとも不思議な一致である。
2017年もカープがリーグ優勝したため、やはり同じような広島市内での狂喜乱舞が発生。
繁華街に群衆が繰り出し、ハイタッチをかわしたり「それ行けカープ」や各選手の応援歌を一斉に大声で歌うなど混沌とした模様の動画が次々とSNSや各動画サイトにアップされた。
この日は試合時間が前年よりも早く18時までには試合が終了したため、ショッピングモールでは当日中に投げ売りセールが開始される有様であり、広島ホームテレビはまたも深夜番組を潰して朝までの特番を敢行。
本作で描かれるカープファンの暴走はネット上でネタにされることが多く、中沢の漫画作品としては『はだしのゲン』に次いで知られている作品であると言っていいだろう。
映像化
この作品を原案としたアニメ作品が「かっ飛ばせ!ドリーマーズ」として発表されている。