概要
ZEOD RCは日産自動車が開発したハイブリッドのレーシングカー。
2014年、ル・マン24時間レースの革新的な技術を搭載したマシンのための特別エントリー枠「ガレージ56」にエントリーした。
そのボディはフロントノーズは車幅の約½、フロントタイヤの幅も約10cm程度という奇抜なものであったが、つまるところは2012年に「ガレージ56」にエントリーしたデルタウイングをクローズドボディにしたようなデザインだった。開発責任者も同車と同じベン・ボウルビーである。
それが原因で、デルタウィングの開発に関わったドン・パノスらとの知的財産権をめぐる訴訟に見舞われることとなった(2016年に和解)。
日産は①時速300km/h到達②ル・マン24時間の歴史上初の電力のみ1周走破という2つの目標を掲げ、それぞれ予選とウォームアップ走行で達成した。しかし肝心の電動技術と関係ない部分(ギアボックス)にトラブルが発生し、わずか5周・23分でリタイアとなった(このことから「ル・マン24分」と揶揄されることも)。
このレースの1ヶ月前に日産は2015年LMP1への参戦を発表しており、ZEODはその一環として位置づけられていた。
そして同じくボウルビーが設計したLMP1車両『GT-R LM NISMO』を投入して、LMP1クラスでトヨタ・アウディ・ポルシェの三巨頭と相まみえることになるが……。
メカニズム
フロントのエアロパーツとリアミラーを撤廃(代わりにリアカメラを設置)したことで、ドラッグは最小限に抑えている。ダウンフォースは全て床下で発生させる。じつは、F1でも用いられているDRS(ドラッグ削減システム)も搭載していた。
モノコックは専用設計である。
バッテリー容量はサルト・サーキットを走り切るのに必要な12kWh(当時の日産リーフのちょうど半分)。
米国の税関の問題で、最も開発の進んだバージョン3ではなくバージョン2で参戦せざるを得なかった。
MGUは高回転にするためと、トラブル時の予備として小型のものを2基搭載した。
誤解されやすいが最大400馬力/350Nmを発生し、46kgにまで軽量化された英国RML製の1.5リッター直列3気筒直噴ターボエンジンをリアミッドシップに横置きで搭載しており、完全なEV(BEV)ではない。
また2016年以降の日産の看板技術であるe-POWERと同じシリーズ式ハイブリッド(エンジンを発電だけに専念させるタイプ)とも誤解されるが、実はエンジンでも駆動することが可能で、どちらかというとホンダのe:HEVの方が近いといえる機構であった(車名のOD=オン・デマンドは、この駆動源の切り替えが任意に可能という意味である)。
トランスミッションは6速シーケンシャルを搭載する。
決勝では最初にフル充電していたバッテリーの電力のみで一周後、12周をエンジンで走りながらエネルギー回生を行い、バッテリーが満タンになったら再び電力のみで一周する、というサイクルを繰り返す予定だった。
参考文献
『ル・マン24時間 2014』(三栄書房)