本土坊薫
ほんどぼうかおる
声:落合福嗣(アニメ版)
『逆転裁判3』第3話『逆転のレシピ』に登場。年齢39歳。身長169cm。
須々木マコがウエイトレスとして働く、フランス料理店『吐麗美庵(とれびあん)』のオーナー兼シェフ。本土坊自身が考案した店名は、フランス語の「とても良い」「素晴らしい」を意味する「トレビアン」の当て字である。使用された漢字には「吐息が漏れる程、美味しい」という意味が込められている。彼の名前もフランス料理の「フォンドボーが香る」に由来する。
会話にフランス語を交えて喋る、見た目はむさ苦しい筋肉質のオッサンで、トランプのキングの様な髪型と顔立ちの持ち主。しかし性格や口調や態度は女性的で、所謂オネエである。趣味嗜好も女性的であり、レストランの内装が「ピンクのロリータ・ファッションを彷彿とさせるデザイン」なのにも、彼の嗜好が色濃く表れている。趣味はアロマテラピーとポエム作り。ポエムを書く時は、ペンネーム「クラリス・ホンドボー」を用い、乙女チックな内容となっている。
シェフなのだが、料理の腕前は最悪で、完全に「下手の横好き」と言っても過言ではない。皮肉にも、店長の彼の意図に反して、前述の店名が「嘔吐してしまう程、不味いという別の意味」を連想させてしまうのが現状である。フランス語版では「流石にシェフなのに、母国の料理に疎いのは如何なものか」と考慮されてか、店がイタリア料理店に変更されたが、だからと言って、料理の腕前まで変更された訳ではない。法廷記録には「想像を絶するマズさ」と記録されている程で、コーヒーすら、まともに淹れられない。試しに注文したゴドーにも「あんなに、すっぱいコーヒーは初めて飲んだ。一口飲む価値はあるが、それ以上の価値は無い」と酷評された。
一応パリで5年間、料理の修行は積んでいるのだが、師匠からは「あと10年、修行が必要だ」と言われたのを切っ掛けに、修行を投げ出して帰国してしまい、2年前に「これからは自己流で料理に励む」と決意し、自分の店を開くに至った。
味は最悪なのに、やたらと値段は高く、ランチは2980円(ドリンクやデザート、お土産も付けると6400円)、コーヒーは980円と、ぼったくりも良い所である。『ニクハチセット(2980円)』『ムシレセット(6400円)』といった「語呂合わせで決められた、メニューの名前と価格」に悪意すら感じてしまう程である。余りにも不味い上に高価過ぎるので、語呂合わせも笑うに笑えず、「適正価格を考慮する、思考力も持ち合わせていない」と言われても文句は言えない。
薄給故に素麺が主食の糸鋸刑事ですら、ランチを口にして「何と言うか‥‥珍味ッス」と評価した直後に、成歩堂らの指摘を得て、ようやく「やっぱり不味いッス」と素直に認めた。本土坊はというと「本格的に変化球な味を目指した」と言い張っている。
とんでもない事に、料理の食材には本物の高級品は使用せず、模造品で偽称する暴挙にまで出ている。「オマール海老を始めとした、高級食材を使用しているという宣伝」に反して、実際には「オマール海老風の何か等、正体不明の模造品まで調理に用いている」のである。この事は料理について聞き込みをすると、本土坊自身が雄弁に語るのだから手に負えない。悪質な事に一例を挙げると、メニューでは一見『オマール海老とアワビのフリカッセ・バルサミコ酢』と読めるが、よく見ると『オマール海老とアワビのフリカッセ・バルサミコ酢“風味の何か”』と書かれている。終盤の都合の悪い文字は小文字で書かれているので、本物だと間違えて注文してしまう人が後を絶たない。
更に成歩堂がキッチンを調べた所、中華料理に用いられるオイスターソースを使用していたことも発覚する。
しかもメニューの大半に、この様な細工が施されている。本土坊曰く「風味や何かといった、言葉を付けるのがミソ」との事だが、ここまで来ると「まともな料理を作れないが故の負け惜しみ」にも聞こえる。「借金の一因になるから、高級食材の利用を控える為の苦肉の策」なのだろうが、客からの通報や訴訟、警察による逮捕や書類送検、消費者センターや保健所からの指摘が入る危険性、いずれも視野に入れていないのも救い様が無い。
アニメ版では「彼の料理を真宵に促され、成歩堂が頼んで食べるシーン」があり「見た目は良い」と誉めたものの、いざ食すと、やはり味は最悪だった模様。不味さに顔色を悪くする成歩堂を見た、真宵の反応と発言を見るに、彼女も口にした様である。原作通り「見た目は良いが、味は悪い点」は再現されたと言える。
当然、店には客が来ず、閑古鳥が鳴き、多額の借金を抱えている。これが原因か、他人の小物を盗む悪癖があり、作中でも成歩堂龍一が持っていた勾玉や、岡高夫の宝くじ1枚を失敬している。ちなみに、その宝くじで100円が当たった。唯一の常連客である五十嵐将兵にも窃盗癖を看破されており、彼の聞き込みに来た成歩堂達も忠告を受けた。レストランに勤務している人物が、本土坊とマコの2人しかいない環境も、窃盗の難易度の低下に一役買っている。
料理とは正反対に、アロマテラピーの腕は「好きこそ物の上手なれ」と言って良い位、優れている。勧め方は強引だが、客となる各人に合わせて、良質のハーブを調合出来る。おまけにタダでくれる事も多い。糸鋸刑事も、貰ったアロマオイルを「疲れが癒やされた」と高評価した。だが愛用するアロマオイルは、海外製の高級品である。使用、調合、収集、いずれにも大金を注ぎ込んでいる為、アロマ趣味も借金の一因となっている。調理場にも大量のアロマオイルを保管する等、衛生観念にも問題がある。ちなみに脚本家によると、アロマ趣味の設定は「毒薬を隠すのに、都合が良い場所が作れるから」という理由で追加された。
またウェイトレスの制服デザインも手掛けており、それだけを目当てに訪れる客がいる程、秀逸な出来栄えである。「色々と職業選択を間違えていると言わざるを得ない人物」である。『3』の攻略本では「いっそアロマテラピーの店を経営したら、成功するかも?」とコメントされていたが、同意見の人は多いだろう。
第3話では『吐麗美庵』が岡高夫殺害事件の現場となり、事件の目撃者の1人である証人として出廷する。裁判中は、裁判長とフランス語を交えて会話する一幕も見せた。
ちなみに『蘇る逆転』では『吐麗美庵』のオープン予告チラシが登場し、糸鋸刑事がチラシの裏に、捜査報告書を書いていた。このチラシを見た御剣怜侍は「美味いフランス料理のレストラン」と思っていたが、後々に来店した時は何を思ったのか気になる所。
開発中は物凄い服装だったり、非常に気持ち悪いデザインもあったが、流石に不味いという事で却下された。デザイナーが行き詰まった所、脚本家が「トランプのキング風」というアイデアを授けた事で、現在の姿に決定した。
英語版の名前は「Jean・Armstrong(ジーン・アームストロング)」。オネエ系である彼に配慮してか、男女共に使用される名前が付与された。苗字は見るからに、腕っぷしが強そうな事から着想したのだろう。
第3話の事件の真犯人の共犯者の1人。真犯人から「高額の借金という弱味」に付け込まれ、脅迫に屈した為、犯行に荷担する羽目になった。事件発生から自身も共犯者として逮捕されるまで、ずっと真犯人の言いなりになって行動している。
ただし唯一の店員として、店長の自分を慕ってくれる「マコを犯人に仕立て上げる事」には罪悪感を感じており、彼女のいない場所での一人言ではあるが、マコへの謝罪も口にしている。そうは思っていても、真犯人への服従を選び、自分は「只の目撃者」を演じて逃げ切ろうとしたので、彼の罪悪感は褒められたものではない。
殺人は犯していないが、店を犯行現場として提供する事を始めとして、多くの現場工作に及んでいる。店内で死亡した、被害者の岡の遺体をキッチンに移動させて隠す。本物の事件を目撃して気絶した、マコのポケットに岡の宝くじを入れて、容疑者となる様に仕向ける。真犯人ともう1人の共犯者と協力して、偽物の事件を演じて、五十嵐を「都合の良い目撃者」に仕立て上げる。これらが事件当時、本土坊が行った現場工作である。
この他にも真犯人と組んで、成歩堂から重要な証拠を強奪しようともしたが、糸鋸の妨害で失敗に終わった。法廷では偽証も行うが、成歩堂の追求の前に降参し「共犯者の1人であった」と自供して緊急逮捕された。実は前述の窃盗癖が原因で、文字通りの前科持ちなので2度目の刑務所送りとなった。
エンディングでは、最後の事件の解決を祝して、糸鋸が予約を入れた為、成歩堂と仲間達は『吐麗美庵』でパーティーを開催する事になる。この頃はマコが1人で調理も配膳もこなして、店を切り盛りしていた。流石に「10人近くいる、パーティーの参加者全員分の料理」を彼女1人で作るのは無理があるので、この時ばかりは仲間達で協力し合って料理したと思われる。糸鋸はマコに惚れているので、レストランの味よりも、彼女との会話目当てなのは明白である。
過去には「真犯人からの脅迫を受けて、仕方なく現場工作と偽証に手を貸したものの、すぐに釈放された人物」も多数いる。この為に「エンディングでは、既に本土坊が釈放されて復職した」と誤解される事も多い。しかし第3話からエンディングまでは、僅か1ヶ月しか経過していないので、幾ら罪は軽いと判断されたとしても、有り得ない早さである。短期間で釈放された人物の多くは「前科は無く、同情に値する深刻な事情を抱えていて、罪状も現場工作と偽証に限られる」という条件を満たしている。
それに反して本土坊は「前科持ちで未だに現役の窃盗犯、レストランの営業にも幾多の問題点を含む、殺人事件の犯人の共犯者に加わるといった罪状」からして、真面目に考察すると「10年以上は刑務所行き」となっても、おかしくない。一応、凶悪な真犯人に圧力を掛けられて、嫌々ながら犯行に及んでいるという背景の持ち主ではあるが「脅迫された原因も、料理やアロマといった金の掛かる趣味にのめり込んで、経営難に陥っても生活態度を改めず、多額の借金を重ねた結果」なので「情状酌量の余地は少ない」と判断されるのは間違いない。
第3話から2ヶ月後の物語である『検事1』では、マコが警備員に転職している。流石に彼女1人で、いつまでもレストランの営業続行は不可能の上、事件後は「殺人事件の現場、しかも真犯人の共犯者が店長の店」として悪名高いレストランとなってしまった為、マコは限界を感じて店を畳んでしまったと思われる。「元はと言えば才能が無いのに、借金してまで無理矢理、料理店の経営を続行して来たのが不幸の元凶」だと本土坊も事件を経て痛感したであろう。それ故に出所後に営業再開を考える程、彼も愚かではないだろう。
アニメ版は全体的にストーリーが簡略化されて、非常にスムーズに進行させる為、多くの登場人物の問題行動が削除されているのだが、本土坊もその1人に含まれる。彼の悪事は、事件の隠蔽工作と偽証のみに変更された。それでも料理が下手の横好きなのも、レストランが殺人現場となった事も、芝九蔵の共犯者となった事も変わっていないので、具体的な描写は無いが、やはり後に店は畳んでしまった可能性が高い。