鹿羽うらみ
しかばねうらみ
声:早見沙織(アニメ版)
『逆転裁判3』第3話『逆転のレシピ』に登場。年齢25歳。身長154cm。
金融会社『カリヨーゼ』の社長秘書。社長・芝九蔵虎ノ助を「トラ様」と呼んで好意を寄せている。彼とは4ヶ月前に訳あって知り合い、恋心が芽生えたうらみは自ら『カリヨーゼ』の社員となって以降、芝九蔵に健気に尽くしている。『カリヨーゼ』は社長と秘書の2人しかいない程の小企業であるが、2人の闇金融業者としての優れた手腕により順調に儲かっている模様。
鬱屈とした性格だが、惚れた相手にはとことん尽くすので意外と恋愛には積極的なタイプ。芝九蔵本人も含めた、他人全てに対しても彼への好意を隠さない。むしろ「恋心を明確にした言動に堂々と及ぶ形」でアプローチしている。「‥‥私達‥‥愛し合っていますから‥‥」とも語っている。
彼女の一途な思いとは裏腹に、芝九蔵はうらみの暗い性格や言動に苦手意識を持っている。彼女の恋心には気付いているが、大人しい性格に反して妙に色恋に積極的な姿勢にも戸惑っている。元々、芝九蔵は暗い人が気に入らないらしく、常に陰気なうらみに胸中では苛立ちを覚える事も多い。
しかし「芝九蔵は、うらみの祖父にして暴力団『鹿羽組』の組長・鹿羽権太とは絶対的な上下関係」にある。権太が町全体の闇金融を取り仕切る総元締めでもある為、芝九蔵も自分を配下とする彼には頭が上がらない。芝九蔵から見れば権太の溺愛する孫娘のうらみも「敵に回すのは厳禁の相手にとって最愛の存在」であるが故に、苦手なタイプでありながら無下に扱えずにいる。権太の手配した彼女の見張り役の組員も常にいる。こうした背景から芝九蔵は嫌々ながらも、うらみを丁重に扱わざるを得ないのが現状である。
絵に描いた様なヤクザの祖父や上司と違って、うらみ自身は「ホラーチックな恐怖感を漂わせる女性」として描かれている。暗い茶髪のロングヘアで、焦げ茶色のワンピースを着た非常に細身の女性。キャラデザイナーの岩元辰郎曰く「うらみのデザインは漫画家・松本零士のテイストを入れて儚い感じに仕上げた」との事。頭に巻かれた大きな包帯が特徴。頭の包帯は4ヶ月前ある出来事が起きてから巻いている。その理由はゲームを進行させると判明する。「恐ろしい、恨めしげ、湿っぽい」の三拍子揃った女性で、時々「‥‥‥ククッ」もしくは「‥‥‥クスッ」と不気味で意味深な笑い声を出す。
態度や言動もホラーテイストで、ヤクザの一族らしい物騒なものも顔を覗かせている。「来客に差し出すお茶や食べ物に何かを一服盛ったかの様な発言」を好む。彼女のサイコ・ロック解除に失敗する度、成歩堂龍一に多種多様な物騒な代物を勧めて来る。何これ怖い。
名前の由来は「屍」と「恨み」。開発中ではシナリオの変遷に伴い何度も名前が変わった。第一候補は「鹿金(しかがね)」で、これは「鹿」の下に「金」と書くと「鏖(皆殺し)」と読む漢字になる事が由来。だが「誰にも解らない」との理由で没にされた。初期設定では「関西人の芝九蔵の愛人だった事」から「ナンバミナミ」という仮名もあった。
『逆転検事』では、第3話『さらわれる逆転』で名前だけ登場している。この話でも『カリヨーゼ』から多額の借金を重ねた人物が問題行動に走っている。その人物へ送られた督促状に、うらみの名前が記述されていた。
虎ノ助と一緒に描かれているイラストが多い。→トラうら
今で言うヤンデレのハシリとして、他のヤンデレキャラのパロディをする絵も描かれている。
裁判の過程で、ある時『吐麗美庵』の制服を着ていた事が明らかになるが、本編では後ろ姿しか公開されなかった。その為GBA版の発売当時は『お絵かき掲示板』等に「ウェイトレス服のうらみ」が描かれた。Pixivでは現在の所は数枚しかない。
※以下ネタバレ注意。※
「‥‥信じていたかった‥‥。トラさまのコトバ‥‥」
悲恋に流した涙(『逆転裁判3』第3話『逆転のレシピ』)
実は第3話の事件の真犯人・芝九蔵虎ノ助の共犯者の1人。上述のウェイトレスの制服は、事件当時の共犯活動の一環として着用していた。
事の始まりは4ヶ月前 に遡る。うらみは組員が運転する車に乗って夜道を進んでいた。そこへ運悪く飛び出して来たスクーターと、彼女の車は衝突事故を起こし、うらみは頭に大怪我を負ってしまう。この時、彼女の多額の治療費を工面してくれたのが、交通事故を引き起こした張本人・芝九蔵だった。うらみの手術後、彼女の見舞いにやって来た芝九蔵は謝罪と共に「うらみちゃんだから助けた」という言葉を送った。この言葉に心打たれたうらみは彼に恋心を抱き「好きな人の側にいて尽くしたい」という一途な思いから、芝九蔵の経営する『カリヨーゼ』の社長秘書に就任した。「暴力団のお嬢様として悠々自適な生活を送れる環境」を投げ捨て、一般的な闇金社員とそう変わらない生活を選んだ所からも、彼女の恋が本気だった事が伝わって来る。頭の包帯は事故当時から巻いている。
うらみの『カリヨーゼ』の社員生活が始まってから3ヶ月後。芝九蔵は「緊急事態が起きたから助けに来て欲しい」と『吐麗美庵』に彼女を呼び出す。そして事故当時と同じ様に「うらみちゃんの為だから」という言葉を使って、彼女の惚れた弱味に付け込んで事件の偽造に荷担させた。この時点で被害者の岡高夫は既に死亡しており、彼の殺害を目の当たりにしたショックで、ウェイトレスの須々木マコは気絶していた。この状況に乗じて芝九蔵は岡を演じて、うらみはマコを演じて「ウェイトレスがコーヒーに毒を盛り、それを飲んだ岡が死亡する偽物の事件」を作り出して、常連客の五十嵐将兵を「都合の良い目撃者にして証人」となる様に仕組んだ。概要にもある通り彼女自身はヤクザの一族の出身者ではあるが、流石に殺人には忌避感を抱いていた様で、芝九蔵の為を思って協力はしたものの罪悪感も感じていた。
事件から1ヶ月後。岡殺人事件は再捜査される事となり、その結果うらみは成歩堂に「あなたは鹿羽権太の孫娘だったから、芝九蔵は仕方なく助けたに過ぎない」という真実を突き付けられてしまう。以前から薄々「うらみちゃんだから助けた」という言葉の真意は「鹿羽組長の孫娘だから、やむを得ず助けた」だと感じ取っていた、うらみは報われない思いから静かに涙を流して悲しんだ。冒頭の台詞から始まった彼女の告白は「本当は心の隅には疑念があったが、彼を信じていたい余り、あえて目を逸らし続けていた」という言葉が後に続いた。「落涙しながら悲痛な思いを切々と打ち明けるうらみの姿」は彼女に度々、恐怖を感じていた成歩堂と真宵も同情を覚える程、悲壮感に満ちていた。
そして『鹿羽組』組長の孫娘としても、うらみは「芝九蔵との関係に自分なりの落とし前を付ける為」彼の犯行動機を証明する決定的な証拠『うらみの診断書』を成歩堂に託した。彼女の元を去る時、成歩堂は芝九蔵への静かな怒りを見せながら真宵に持論を語った。「僕がこの世で最も許せないものが2つある。毒薬と裏切りだ。最も卑怯で、最も人の心を傷付ける」この思想は彼の過去に起因している。
それから暫くして『吐麗美庵』で成歩堂を待ち伏せしていた、芝九蔵は『うらみの診断書』を強奪しようとする。この時、成歩堂の口から「うらみが彼に診断書という決定的な証拠品を託した」と知るやいなや、芝九蔵は彼女を「あの馬鹿女!湿っぽいのは面だけにしとけ!組長の孫だからってデカイ面しおってからに‥‥」と罵倒した。この台詞からも一目瞭然だが、芝九蔵はうらみへの愛情は皆無で、むしろ嫌悪すらしていた。おまけに彼女に媚び諂う事を余儀なくされる上、陰気な性格のうらみに翻弄される生活には強烈なストレスも抱えていた。それでいて彼女の自分への好意に付け込み、犯行に荷担させる冷酷さも見せつけた。
芝九蔵ともう1人の共犯者・本土坊薫に襲撃された成歩堂と真宵は『うらみの診断書』を奪われかける。そこに惚れているマコの無罪立証を目指す刑事・糸鋸圭介が駆け付け、襲撃者達の相手を引き受けて2人を逃がしてくれた。翌日の法廷では無事に『うらみの診断書』は真相解明に有効活用される事となった。紆余曲折を経て真犯人・芝九蔵、共犯者・本土坊は逮捕される結末を迎えた。芝九蔵の逮捕後の動向は不明だが「組長の溺愛する孫娘に汚れ仕事を押し付けた罪」を償わせようと、収監先や出所後に『鹿羽組』から放たれた刺客に襲撃される危険性は高いだろう。
裁判の終盤では、犯行の手口と共にうらみも共犯者だった事が公表されたが、彼女は芝九蔵に惚れた弱味から利用され、不本意な形で共犯者にされた被害者として扱われ、司法界の人間をも恐怖させる暴力団組長の孫娘という立場から、罪の追求が難しいのもあってか、うらみだけは逮捕を免れた。
エンディングでは『カリヨーゼ』を乗っ取って新社長に就任し、1人で会社を切り盛りしている。4ヶ月間の社員生活を経験して、闇金融を経営する楽しさに目覚めたのだろうか。「トラさまを退治してくれて、ありがとう、リュウさま‥‥」と語っている辺り、今度は成歩堂に好意を持つ様になった様だ。そして「彼に強引にお茶を渡して5000万円を貸す契約を取り付けた事」にほくそ笑み「今頃はアレを飲んで‥‥。クスッ」と満足気に呟いていた。『4』以降も「生活に余裕の無い成歩堂の様子」を見るに何とか借金は完済されたと思われる。
御曹司との密約(『逆転検事』第3話『さらわれる逆転』)
概要の最後の記述にもある通り、この話で彼女は顧客に督促状を送り付けているのだが、その相手は何と『天野河コンツェルン』の御曹司・天野河光である。「うらみの優れた経営手腕」と「光の怖いもの知らず」が組み合わさったが故に起きたトラブルと言える。
光は父親・天野河丈一郎に溺愛されて育てられた結果、極度のファザコン道楽息子に成長してしまい、現在では放蕩三昧に耽っては多額の借金を重ねる日々を送っている。最初は父の愛情に付け込み遊興費を頂戴していたが、それも限度を越えてしまったばかりに丈一郎にも頼れなくなった光は、仕舞いには闇金融の利用者となって「人前で口に出すのも恐ろしい位の多額の借金」を抱えてしまう。その闇金融こそが『カリヨーゼ』だった訳である。
『うらみからの督促状』は万年筆で書かれたのか、紙全体に黒い血痕の様なインクの染みが点々と付着する、薄気味悪い様相を呈していた。肝心の文章は「天野河光様。また会いに行ってもいいですか?あなたのウラミより」とだけ書かれていた。
今も光は御曹司として周囲の人々に甘やかされている分、世間知らずの面があり「誰が相手であっても父の権力で言いなりにさせられる」と楽観視していた。光は本編での様子を見るに当初は「うらみと『カリヨーゼ』が如何に恐るべき実態の持ち主であるか」をよく知らなかったからこそ、安易に関わってしまったと思われる。『鹿羽組』の存在すら知らなかった可能性も高い。恐らく「『カリヨーゼ』は新米社長の若い女性が1人で切り盛りしている小さな会社に過ぎない。やろうと思えば『天野河コンツェルン』の力で簡単に捻り潰せる」と軽視していたのだろう。
豪遊天国と借金地獄を行き来する内、莫大な金額へと膨れ上がった借金の返済を迫られる窮地に陥った光は「現状を打開する強硬手段」として、ある問題行動を起こす事となった。作中で光が見せる切羽詰まった様子からして、彼も『カリヨーゼ』の顧客となってから暫くして、うらみによるホラー感満載の脅迫の連続を受けたり、彼女が『鹿羽組』組長の孫娘なのも知って「如何に自分が危険事態にいるか」を思い知らされたと見て良いだろう。作中の描写によって、うらみ自身は姿を見せないものの「彼女は光には隠然たる影響力を持っている」と示されていると言えよう。
アニメ版の声優
担当者の早見沙織は、過去に『逆転裁判6』のレイファ・パドマ・クラインを演じており「コラボやスピンオフを除いた、ゲーム本編の出演声優がアニメ版にも起用される」という珍しい例となった。
英語版の名前
「Viola・Cadaverini(ヴィオラ・カダヴェリニ)」という名前で、花のヴィオラが名前に用いられている。名前だけなら花の名前なので可愛らしいのだが、後に続く苗字がイタリア語の「解剖用の死体」に由来しているので、日本語版よりも恐ろしい苗字と化している。『鹿羽組』はイタリア系マフィアという設定に変更された為、苗字の由来がイタリア語になった。「うらみちゃん」という仇名は、ヴィオラの愛称として有名な「Violetta(ヴィオレッタ)」が当て嵌められた。
現実では世界規模で頻繁に「花の名前」が女性名に使用される事が多い。その反面『逆転』シリーズは奇抜な名前の持ち主だらけなので、日本版でも海外版でも「花と同じ名前の人物」は稀少な存在となっている。うらみの他に「英語版での名前が花に由来している女性キャラ」も「美柳ちなみ」=「Dahlia・Hawthorne(ダリア・ホーソーン)」「葉桜院あやめ」=「Iris(アイリス)」位しかいない。
ヴィオラの花言葉は「小さな幸せ」「慎み深さ」「恋の真実」「真実の恋」等がある。うらみの切ない恋心を思うと、特に「恋の真実」という言葉が胸に突き刺さる。おまけにヴィオラは有毒植物でもあるので、彼女の立場や事件当時の行動を思うと物悲しい気持ちにもなる。うらみが「真実の恋」と巡り会い、幸せな恋愛をする日は来るのだろうか。