「お名前は美柳ちなみと申しますわ。ふつつか者ですが‥‥。なにとぞ、よろしくお願いいたしますね」
声:佐藤利奈(アニメ版) /不明(CR逆転裁判)
概要
『逆転裁判3』第1話『思い出の逆転』に登場。年齢20歳。身長155cm。
『勇盟大学』の文学部に在籍する二年生。成歩堂龍一の大学時代の恋人で、彼からは「ちいちゃん」と呼ばれている。成歩堂とは半年前から交際していて、その前は呑田菊三という青年と恋人関係にあった。3人共『勇盟大学』の生徒で、学年と所属学部は「ちなみ→文学部の二年生」「成歩堂→芸術学部の三年生」「呑田→薬学部の四年生」となっている。大学構内にて現彼氏の成歩堂が「ちなみに関する話がある」と元彼氏の呑田に呼び出されて、会話に応じた先で成歩堂が呑田の発言に逆上し、垂れ下がっていた送電線に向かって彼を突き飛ばして、感電死させたと見られる事件が発生する。当時ちなみは偶然にも事件の一部始終を目撃しており、呑田殺害容疑で逮捕された「成歩堂が被告人となった裁判」では証人として出廷する。
浮世離れした雰囲気を纏い、清楚な色香で裁判長や担当検事・亜内武文を魅了する魔性の美女。如何にも「深窓の御令嬢」といった清楚で可憐な容姿とお淑やかな振る舞いをしているが、随所で風変わりな面を見せては周囲の戸惑いを誘う。法廷内であっても日傘を差す、周りを舞う3羽の蝶が主な特徴。公式の全身イラストでしか見られないが、サンダルは周りの蝶と同じデザインの飾り付きである。無闇矢鱈に言葉の先頭に「お」を付ける独特の敬語を用いるのが口癖で「お証拠品」「お動機」等といった珍妙な言葉の数々を生み出した。文学部で独自の研究に携わっているからか、これまた珍妙な川柳を詠み、代表作は「もの忘れ、忘れた事も忘れてる」という『サラリーマン川柳』の様な作品であった。
担当弁護士・綾里千尋は胸中で女子大生らしからぬ川柳に「中年のぼやきじゃないの!」とツッコミを入れていた。どうやら以前から千尋とちなみは面識がある様で、両者共に互いを快く思っていない言動を見せる。ちなみに至っては千尋に明確な敵意を示す嫌がらせとして、まだ24歳の彼女を「おばさま」と蔑称で呼ぶ。ちなみに惚れ込んだ裁判長と亜内は完全に彼女に肩入れして、積極的に千尋を攻撃する暴挙にも出た。『YouTube』で『逆転』シリーズの実況プレイ動画を投稿している、現役弁護士のお笑い芸人こたけ正義感も「こういう事はしてはいけない」と裁判長と亜内に苦言を呈していた。
名前の由来は、発言の付与を表す「ちなみに」から。苗字の「美柳」はイメージで付けられた。
関連タグ
※以下、本編の根幹に関わるネタバレがあります。閲覧にはご注意下さい。
美人令嬢、その本来の姿
「ほんっと、宇宙の果てまで頼りにならないオトコ。あれほど、あたしの事は黙っておけ、って言ったのに。‥‥クズがッ!」
本性
その正体は綾里キミ子の娘にして『逆転裁判』シリーズでも一二を争う悪女。キミ子の3人の娘の中では長女で、次女の葉桜院あやめは双子の妹、三女の綾里春美は異父妹に当たる。母親同士が姉妹である為、綾里千尋と綾里真宵の従姉妹でもある。
普段の清楚で可憐な振る舞いは、全て演技であり、その本性は冷酷非情にして、究極の自分本位な女性。目的の為なら平然と犯罪を犯し、他人の命を奪う事や、その罪を誰かに擦り付ける事にも、何ら躊躇しない。法廷でちなみと対峙した千尋は、彼女を「悪魔」と言い表していたが、正にその言葉が相応しい悪女である。
生い立ち
『倉院流霊媒道』家元の長女キミ子の娘として、双子の妹あやめと共に生を受けた。だが母と妹と同様、霊力には全く恵まれなかった。それ故に母からは冷遇され、綾里家の権力目当てに結婚しただけの、冷酷な宝石商の父にも愛されずに育った。「幼少期の劣悪な家庭環境が、ちなみの人格形成に大きな悪影響を与えてしまった」と妹のあやめは語っている。
DL6号事件によって『倉院流霊媒道』の権威が失墜した後、父親が綾里家に見切りを付けた事で両親が離婚し、彼にちなみとあやめは連れられて『倉院の里』を去って行った。父が再婚した際「子供は少ないに越した事はない」として、あやめは綾里家と所縁ある『葉桜院』に預けられた。しかし、あやめは『葉桜院』で母親同然の存在を得た事で、心優しい善良な女性へと成長した。反面、父の元に残ったちなみは冷え切った家庭の中で、荒んで行った末に酷薄な悪女へと変わり果てた。
最初の犯行・狂言誘拐
最初の犯行は14歳の時、父の再婚相手の連れ子で、婦人警官の義姉・美柳勇希、家庭教師の尾並田美散を巻き込んでの狂言誘拐。尾並田は誘拐犯、ちなみは人質、勇希は交渉人を演じ、宝石商の父親を脅迫し、身代金代わりとして時価2億円の宝石を騙し取った。宝石を手に入れた後、ちなみは土壇場で尾並田を裏切って、川に飛び込むという手段を取り、そのまま死を装って、5年間も蒸発。尾並田は勇希に全ての罪を着せられて、単独犯として逮捕された。裁判では勇希の「尾並田は、ちなみを川に突き落とした」という証言が決め手となり、彼は有罪となった末に死刑判決を受ける。
作中終盤にて、この狂言誘拐の動機は、姉ちなみと妹あやめは共に「娘である私達を愛さない、父への復讐だった」と語っている。この発言や犯行内容からして、ちなみ個人の目的は「憎悪している父親に復讐を遂げた上で絶縁し、今後の人生では父とは遠く離れた環境で裕福な生活を送る為、騙し取った宝石を換金して生活費に充て、警察官の義姉に協力させて別人となって生きて行ける様、戸籍を改竄させる事」であったと窺える。最後の暗殺計画を除いては、ちなみの犯行は全て「狂言誘拐事件の証拠隠滅や、事件隠蔽を邪魔する者達の排除」を目的として行われている。
2度目の犯行・狂言誘拐の共犯者達の口封じ
2度目の犯行は19歳の時で、5年前の事件の真相を公表しようとした勇希の殺害。「護送中に逃走した、尾並田から呼び出された事で、真相を公表する決意をした」と勇希から連絡を受け、口封じの為に彼女を殺害。再び尾並田に罪を着せ、自分は事件の目撃者「無久井里子(むくいさとこ)」と名乗り、法廷に出廷し偽証も犯した。当時、新人だった千尋によって真実が露呈したが、尾並田は最後まで彼女を敵に回す事が出来ず、無実が立証される一歩手前の所で、裁判中に服毒自殺。被告人死亡により、判決が下る事は無かった。
3度目の犯行・弁護士毒殺未遂
3度目は尾並田の裁判から半年後。事情聴取に来た神乃木荘龍の毒殺未遂。神乃木が会話の場所に指定した、裁判所のカフェテリアが現場となった。ちなみは隙を突いて、彼のコーヒーに致死量の毒を盛り、それを飲んだ神乃木は緊急搬送された。この毒は同じ大学の薬学部に通う、当時の恋人の呑田菊三が所属する、研究室から盗んだ物である。
4度目の犯行・毒薬の容器を巡る逃走劇
神乃木が毒で倒れた直後、資料室へと逃げ込み、法律の勉強に来ていた成歩堂に「一目惚れした」と騙して接近。彼に「毒薬の容器に用いた証拠品、ガラスの小瓶付きのペンダント」を「思い出の記念品」だと押し付け、後々の回収目的で恋仲となった。なお神乃木は昏睡状態に陥るも、5年後に意識を取り戻し、検事ゴドーに生まれ変わった。
5度目の犯行・元恋人殺害
5度目は更にその半年後。神乃木殺害未遂の証拠品のペンダントを、いつまで経っても成歩堂から回収出来ず、業を煮やして彼を殺害しようと企み、再び薬学部の研究室から毒を盗む。ところが、またしても毒が盗まれている事に気付いた、元彼の呑田菊三が「ちなみが再び毒を盗んで、誰かを殺そうとしている」と察し、成歩堂を呼び出して「彼女の悪事」を明かして忠告した。
その光景を偶然、見かけたちなみは「このまま成歩堂を殺しても、自分が疑われる」と急遽、計画を変更して呑田を殺害。その際に成歩堂の持ち物を使って、彼を犯人に仕立て上げようとした。一連の行動を鑑みれば、下手をすると成歩堂は、この時に死亡していた可能性も有り得る。
しかし、この裁判で千尋が、ようやく彼女の犯行を立証する事に成功し、緊急逮捕される。 その後の裁判で、ちなみは死刑判決を受け、5年後に刑が執行された。ここまで4人の人間の殺人及び殺人未遂、狂言誘拐に窃盗。これだけの犯行を重ねていれば、死刑というのも当然の報いであろう。享年25歳。
「美柳ちなみよ。今は‥‥死者やってるわ」
最後の犯行・次期家元の暗殺計画
これで終わりかと思いきや、何と死後に悪霊として、この世に呼び戻された。ちなみと黒幕であるキミ子の「綾里真宵の殺害という狙い」が一致していたが故の犯行である。この異例の形で再登場したのは、第5話にして『3』の最終話に当たる『華麗なる逆転』である。
振り返るに5年前、一連の犯行が立証された時も、ちなみは一瞬だけ憤怒を露わにして、成歩堂曰く「悪魔の様な形相」で千尋を睨み付けたものの、すぐさま怒りを抑えて、狼狽える事なく「今日の所は‥‥花を持たせてあげますわ」と語り、余裕の表情を浮かべていた。正式に死刑判決を受ける際もやはり美しく微笑んでおり、明らかに死刑囚となる人物の態度とは思えず、あるいは死刑すらも想定の範囲内の様に見受けられるが、最初から霊媒によって現世に蘇る事を見越していたのかもしれない。
キミ子の犯行計画とは「ちなみの死刑執行後、真宵と春美を『葉桜院』に修行に行かせて、春美が霊媒したちなみに真宵を暗殺させ、その罪をあやめに着せる」という残忍極まりない内容であった。
三女の春美を家元の座に就けたいキミ子と違い、ちなみは妹や家元の座に興味は無かった。むしろ「長女である自分の死刑執行が前提の上に、何も知らない三女に殺人の引き金を引かせて、次女に罪を擦り付ける計画」を目論む、娘達の事を只の駒としか思っていない、母親のキミ子を心の底から軽蔑していた。
成歩堂に「計画をどう思っていたのか」と問われた際には「キミ子のくだらない、この世で最低の計画」とまで言い放った。それでも、ちなみが真宵の殺害に加担したのは「全ては自分に初めての屈辱を与えた、従姉妹の千尋への復讐心から」であり、あくまでキミ子には利害関係の一致から協力していた。
もっとも、生前の逆恨みから無関係の人間を巻き込んだあまりにも自己中心的な理由で幼い子供を殺害しようとした点は当然裁判の参加者達にも指摘されており、成歩堂には「やったことはキミ子と同じ」、裁判長に至っては「母親も母親なら娘も娘」とまで呆れ果てる始末であった(流石に本人もこの点は自覚していたのか、両者のキミ子と何も変わらない悪人であるという指摘には特に反論していない)。
そして事件当日。「真宵暗殺計画の妨害者」の1人である真宵の母・綾里舞子はやむを得ず「真宵と春美を守り抜く為、身代わりとなる」と覚悟した上で春美よりも先にちなみを霊媒する。こうして現世に戻って来たちなみは物置きで拾った小刀を手にして真宵に襲いかかるが、背後から暗殺計画妨害の首謀者に刺されて一旦、冥界へと戻った。
再び霊媒された後『葉桜院』で地震が発生したのに乗じて、ちなみは成歩堂達の目を盗んで妹あやめと入れ替わると、法廷で偽証を行って舞子殺害の罪を着せようと図るが、成歩堂に犯行と正体を暴かれた。しかし、ちなみは「死者である自分を法律で裁く事は出来ない」と開き直り、更に「真宵は誤って、母を殺したショックで投身自殺した」と主張して勝ち誇る。だが「崖の下の岩場から、真宵の遺体が発見されていない事」から、その可能性は否定される。そして「春美がちなみを霊媒しようとしたが出来なかった事」を知る成歩堂から「現在、自分を霊媒しているのは真宵である」という真実を突き付けられる。ちなみは舞子の遺体発見を知って「事件当時、自分を霊媒していたのは舞子」だと気付いていた反面、春美が自分を霊媒するのが必須条件となる犯行計画から「舞子の死亡以降、現在に至るまで自分を霊媒しているのは春美」と勘違いしていた。それに加えて「一見成功したかに見えた真宵殺害計画は失敗し、実はずっと目の前にいた獲物を取り逃がしていた事」にも今まで気付いていなかったのだ。
こうして、ちなみは殺害の標的だった真宵に計画を逆手に取られて、彼女の身を守る為に利用されてしまい、この奇策を霊媒を通じて妹に入れ知恵した上、自分を死刑台送りにした宿敵の千尋には更なる屈辱を与えられ、今まで散々馬鹿にして来た、成歩堂からは引導を渡されるに至った。最後は成歩堂には「君の犯行は今まで1度も成功した試しが無い」と嘲笑され、春美に霊媒されて現世に戻って来た千尋には「あなたは死んでも私には勝てない」と華麗に引導を叩き付けられた。宿敵・千尋への復讐を果たせなかった上に、唯一の心の拠り所だったプライドを粉々に破壊されたちなみの魂は、断末魔の叫びを上げながら真宵の体から抜け出し、己の犯行を走馬灯の様に思い出しながら「まだ消えたくない」という未練を残したまま、悪霊は完全に消滅した。消滅後かつては亜内と揃って彼女に魅了されていた裁判長ですら「あの霊は、もう二度と呼ばない方が良いでしょうな」とバッサリと切り捨て、最早ちなみに味方する者は誰一人としていなかった。その一方で妹あやめだけは、姉に対する同情の念を寄せる姿勢を終始一貫していた。
成歩堂龍一との関係
なお上記の通り、成歩堂と交際していたが、あくまでも致命的な証拠品のペンダントを一時的に押し付ける為に接触し、その後はペンダントを取り戻す機会を確保する為に、関係を継続しただけである。よって成歩堂への愛情は皆無であった。それどころか作中で、彼に「鬱陶しい奴」「初めて会った時から大っ嫌いだった」と断言すらしており、会うのも嫌だったらしい。これには尾並田や神乃木が犠牲になった事件以降、ちなみが警察にマークされて、自由に動けずにいた背景も影響している。
実際に成歩堂と会っていたのは「姉に命じられて、彼女になりすました妹のあやめ」であり、ちなみ本人が『思い出の逆転』での裁判以前に成歩堂と顔を合わせたのは「ペンダントを押し付けた時と、それを強硬手段によって奪還すべく、事件を起こした時の2回だけ」である。その事は、判決が下される直前にあやめ本人の成歩堂への告白により判明した。
『思い出の逆転』にて成歩堂が言っていた「彼女は殺人を犯すような人間ではない、よく出来たニセモノ」という呆れた主張が実は真実だったことが最終話で明らかとなった。あやめから真実を聞かされるまでずっと疑問に思っていたようで、成歩堂の「彼女は殺人を犯すような人間ではないと、それだけは信じていた」と本心を聞かされ、「ありがとう」と返した。
アニメ版
第1期と第2期に分割して『123』のみを映像化したアニメ版では、ちなみは第2期及びシリーズ全体のラスボスを担った。第1期は『1』と『2』のみで構成されたので、彼女の出番は第2期に限られている。ちなみの存在が視聴者に忘れられて印象が薄くなるのを回避する為、第2期では原作とはエピソードの順番が大いに差し替えられ、ちなみ関連の話は後半に一纏めにされて、それ以外の『3』の話は前半に放送された。
第2期・第13話『思い出の逆転』
今回は1時間スペシャルとして放送され、事件の発端から解決まで一気に描かれる構成となった。原作では成歩堂が「呑田の忠告の詳細、事件当時ちなみが呑田の遺体の側にいた事実」を自白するまで本性を見せていなかったが、アニメ版では裁判の後半から既に「清楚で可憐なお嬢様の仮面」が剥がれ始め、しばしば成歩堂の軽率な発言や浮わついた態度への苛立ちを見せていた。ブレイクシーンとは異なり、美しい顔立ちを保ってはいたものの、密かに成歩堂を睨み付けたり、冷淡な表情と態度と口調で「リュウちゃん、そのお話はお止めにしましょう」と言い放って彼の発言を遮ったりもした。
閉廷後、千尋はそのまま神乃木が入院している病院に訪れ、ちなみの犯行の最大の犠牲者の1人である恋人に「やっと決着を付けました、先輩」と報告した。当時の神乃木は昏睡状態に陥ってから、まだ半年しか経過していなかったが、既に髪は総白髪に変わり果てていた。ラストシーンでは「ベッドの上にある彼の名札」が映されて今回は締め括られた。
続く第14話はオリジナルストーリー『逆転の潮騒が聞こえる』で「ちなみとの戦いが凝縮された終盤に向けての前日譚」として、第13話と第15話の間に挿入された。そして第15話からは、いよいよ物語は佳境へと突入する事となる。
第2期・第15話~第16話『始まりの逆転』
「野草の観察や撮影をしていた」と偽証するのは原作通りだが、この証言中の嘘の回想シーンが完全にギャグシーンとして描かれた。回想でのちなみは「微笑んで軽やかに野原を歩きながら、野草や蝶々と戯れている可憐な自分を被写体とした自撮り」を楽しんでいた。彼女にも現代の女子大生らしい一面、自分の美貌への愛着があった事が窺える。尾並田が勇希を殺害する所を目撃した時には、昭和の少女漫画を彷彿とさせるモノクロと化した世界でショックの余り、顔面蒼白で白目となって「まぁぁーっ!!」と、わざとらしい悲鳴を上げた。
本当の回想シーンでは「暗い私室の机に座ったちなみが、父親の宝石商へと宛てた脅迫状を書いているシーン」も追加されている。この時の彼女は顔が影に覆われて、表情がうかがい知れない姿となっていた。
尾並田に自殺教唆するシーンも、原作では遠方にいる彼に向かって、右側に顔を背けた不気味な姿で行っていたのに対し、アニメ版では尾並田の目の前に歩み寄り、台詞は変わらないものの「これは彼が騙されてしまうのも頷ける」といった具合に、柔和な笑顔で穏やかに語りかける形に変更された。
原作では尾並田の証言を通じて説明されるだけだった「彼との心中を誓った時の光景」もシルエット状態ではあるが、具体的に描かれて回想シーンに追加された。影に包まれた当時の2人は『葉桜院』の境内に生えた枝垂れ桜の木の下に立って向き合い、日傘を差すちなみは尾並田に例のペンダントを手渡した。この枝垂れ桜は日本各地の観光名所にある様な巨木である。彼は原作の時点で「ペンダントは境内の木の根元に埋めた」と説明していたので、それを捕捉した上で「舞い散る桜の花弁によって、尾並田の末路を暗示しているかの様に見えるシーン」に仕上がっている。
尾並田の最期にも改変が加えられ、証言台にもたれ掛かって息絶えた原作と違って、床に仰向けで倒れてしまった彼を千尋が抱き止め、その腕の中で尾並田は生涯の幕を閉じた。彼の死に慟哭する千尋が自分の様子に気付いていないのを良い事に、一連の流れを見ていたちなみは無言のまま「してやったり」と言いたげな顔でほくそ笑むのだった。
第2期・第17話~第23話『華麗なる逆転』
ちなみ自身が正真正銘の悪霊と化した上で、成歩堂陣営との最終決戦を迎えただけに、最終日の法廷では本性を現して以降、原作以上にホラーチックな表情と姿の数々を披露した。楳図かずおのホラー漫画キャラの様な邪悪な笑顔、正に悪霊と言える怒りの形相で紫の炎を身に纏った姿までもが描かれた。
冷酷な表情と口調だった原作とは対照的に、アニメ版では成歩堂に「大っ嫌いだったわ、初めて会った時から」と告げるシーンでは、積年の恨みと皮肉を込めてか、満面の笑みと柔和な態度で同じ台詞を言い放った。ちなみは成歩堂、ゴドー、裁判長との会話に夢中で知らなかったが、傍聴席にいた春美が裁判を通じて「異父姉と母の悪行と本性」を初めて目の当たりにした事で大きなショックを受けて、悲哀と苦悩が入り混じった表情を浮かべる様子も描写された。
証言中の回想シーンでは、説明のみだった原作とは違い「犯罪者の収容施設内で母キミ子と再会し、彼女から真宵暗殺計画の協力者となる様に促されるシーン」が明確に描かれた。誰よりもキミ子の冷酷さと狡猾さを理解していると言っても過言ではない、ちなみでも流石に「実の娘である自分の死刑すらも利用する犯行計画」を初めて聞かされた時には若干動揺して冷や汗を流した。証言台にて母との密約を振り返り「はっ!呆れるでしょう?あの女の計画には、最初からアタシの死が組み込まれていた。‥‥自分の娘だってのにね」と自嘲して語るのは変わらない。
弁護士師弟から「暗殺計画は完全に失敗した真実」を思い知らされてからの2人との応酬は原作通りであったが、冥界へと逃げ戻った後で裁判長が発した「あの霊はもう呼ばない方が良いでしょうな」という台詞はカットされた。恐らくは、さしもの裁判長も「絶句した」という演出と思われる。その代わりに成歩堂に「さっさと真宵ちゃんから出て行って貰おうか!」と喝破されるシーンでは、彼と千尋の2人から指を突き付けられて引導を渡されるという、原作以上に勝利の爽快感が味わえる決着シーンが追加されている。
第2期の後期OPとEDは第13話『思い出の逆転』から導入された。このEDでは「ちなみが成歩堂のセーターを編んでいるシーン」が描かれているが、善意が感じられる優しい微笑を浮かべている所から「このちなみは姉に成り済ましたあやめ」だと示唆している。最終回となる第23話では、あやめの成歩堂への告白の際に挿入された回想シーンには「これこそが正解と言わんばかりの、普段着のあやめが『葉桜院』にてセーターを編んでいるシーン」が描かれた。
余談
制作秘話
脚本家兼プロデューサー巧舟は『3』の攻略本にて「ちなみのキャラ付けには苦労したので、苦肉の策として川柳を詠ませたり、無闇矢鱈に言葉の先頭に「お」を付けるのを口癖にした」と語っている。同時に「無久井里子という偽名には、里子に出されて里に報いてやりたいという意味が込められている」とも説明していた。
またキャラデザイナーの岩元辰郎は『逆転裁判ファンブック』にて「最も難産だったキャラは誰か?」との質問に「群を抜いて美柳ちなみ。お嬢様、主人公の恋人、ラスボス等、複雑な要素が幾つも配合されたキャラを表現するデザイン制作に難航し、彼女のキャラデザインを完成させる為だけに、初めて数日間ホテルに缶詰めにされる体験までした」と苦労が偲ばれる回答を述べた。
漫画版でのカメオ出演
『講談社』から発売された漫画版では、遊園地のキャラクターショーを見に来た成歩堂がキャストの女性の1人に反応し、胸中で「かっ、可愛い!昔、付き合っていた恋人に少し似てるかも」と語り、ちなみの姿を思い浮かべていた。なお漫画版は基本的に原作のエピソードの再現はせずに、オリジナルストーリーでの事件を解決して行く筋書きの為、ちなみの出番はこの1コマのみである。
現実の弁護士からの反応
概要にて名前を挙げられた、お笑い芸人にして現役弁護士こたけ正義感からは「ちなみは現時点で最も恐怖を感じた犯人」として扱われており、彼は実況プレイ中に「うわああ、怖い!怖い!怖い!」「見たくないっ」「また出て来るの、この人ぉぉ」「嫌なんですけどっ」等々、悲鳴の数々を上げていた。
英語版の名前
双子の妹のあやめ=「Iris(アイリス)」と合わせて、花の名前に変更され「Dahlia・Hawthorne(ダリア・ホーソーン)」という名前になっている。ダリアは英語圏では一般的な名前で「Dollie(ドリー)」という愛称が用いられる。なので「ちいちゃん」は「ドリー」に置き換えられている。苗字はイギリス系の実在するもので、同じ綴りで「ホーソン」と読む人もいる。
英語版のローカリゼーション・ディレクター(事実上の翻訳者)曰く「名前のダリアの由来は『X JAPAN』のCDアルバム『DAHLIA』が気に入ったので流用し、苗字のホーソーンの由来は短編小説『ラッパチーニの娘』の著者ナサニエル・ホーソーン」との事。『ラッパチーニの娘』は「毒に対する免疫が構成される過程で、自分自身が有毒になる」という物語であり、ちなみのイメージに相応しいと言える。ナサニエル・ホーソーンは小説『緋文字』の著者でもあり、こちらには英語版での春美の名前「Pearl・Fey(パール・フェイ)」の由来となった、少女パールがキーパーソンとして登場する。
ダリアの花言葉は「華麗」「優雅」「気品」「裏切り」「移り気」「不安定」等が並ぶ。ここで挙げた花言葉は皆シンクロしているが、よりによって「華麗」と「裏切り」が入っているのに強烈な因果を感じる。
偽名の無久井里子は「Melissa・Foster(メリッサ・フォスター)」に変更されている。こちらも名前が花に由来していて、メリッサの花言葉は「思いやり」「同情」「共感」で、ちなみの協力者となった人々の心境を連想させる。苗字の「フォスター」は英語で里子を意味する「fosterchild(フォスターチャイルド)」から取られている。
これら英語版での名前に反し『逆転裁判ファンブック』では「美しい薔薇には棘ありまくり」と紹介されていた。この紹介文も「言い得て妙」と言える、美貌と魔性の持ち主であった。
その境遇と情状酌量の余地
彼女が行ったことはどうしようもないほど悪辣であり、利己的な理由から多くの人間の人生を狂わせてしまっているためその末路は因果応報であったといえる。
一方で妹のあやめを見れば分かるように、親に捨てられたとしても、誰かから愛情が正しく注がれれば彼女同様の善良な人間となっていたことは想像に難くない。
そしてまた少しでも運命が違えば、あやめがキミ子と宝石商の義父に引き取られちなみのように過酷で歪んだ生を送っていた可能性もある。
それを理解しているためか、あやめは姉の所業を知っていながらも最後まで後悔と罪悪感を抱きつつ想い慕い、犯罪にも加担しかけた。
あやめが言っていたように共に葉桜院に入院していれば仲睦まじい双子として暮らしていただろう。
しかし運命が彼女にそれを許さなかったと考えれば同情の余地もあるのではないだろうか。
関連イラスト
関連タグ
逆転シリーズ豹変美女の系譜