前世の俺は社畜だった。
昼も夜も過労死ラインもなく働きながら、終業時間の2、3時間前に悠々と役員車に乗って帰っていく役員を羨望の目で見つめていたものだ。
今世の俺はドでかい商会のお坊ちゃんだ。
役員待遇で兄貴の下について楽できるかもしれないが、もしかしたら兄貴の気分次第では社畜並にコキ使われるかもしれない。
そんなのはごめんだ。
そして何より、張り詰めた社畜からぬるま湯のお坊ちゃまへと一気に生活が変わった俺は、もう自分で働くというのが嫌になっていた。
俺の持つ回復魔法の才能を使えば楽々で治療院なんかを経営して生きていけるのかもしれないが、回復魔法を使うことすら嫌なのだ。
できたら巨大な劇場を建てて、一番いい席で催し物を寝転びながら見続ける生活がしたい。
何もせずに出てきた飯を食って、涼しい所で微睡む生活をしたい。
猫かなんか飼って、一緒に日向ぼっこしてたら一日が終わるような生活をしたい。
そこで俺は考えたのだ。
『安く買った奴隷を冒険者にして、上前をはねて生きていこう』と。
概要
「異世界で上前はねて生きていく」とはハーメルンで岸若まみず氏より投稿されているウェブ小説作品。
カクヨムや小説家になろうでも「異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)」というタイトルで投稿されている。
双葉社Mノベルスより書籍化、モンスターコミックスよりコミカライズされており、イラストは三弥カズトモ氏、漫画はこばみそ氏が担当。
書籍化版の正式なタイトルは「異世界で 上前はねて 生きていく~再生魔法使いのゆるふわ人材派遣生活~」。
様々な種族が共存共栄している剣と魔法の中世ヨーロッパ風の異世界が舞台。日本人である前世の記憶を持ったまま異世界に転生した主人公が、不労所得を得るために様々な商売に手を出した結果、立身出世し大成していく様子を描いた、経営シミュレーションのようなサクセスストーリー。登場人物が多く、サブキャラクターらの普段の生活を描いた日常系としての一面もある。
あらすじ
裕福な商会の三男坊サワディ・シェンカーは、前世である日本人の記憶を持っていた。
前世ではブラック企業に勤めており社畜として大変な思いをしていたため、この世界では悠々自適な生活を送ろうと決意する。
その計画の第一歩として、奴隷を冒険者として育て、報酬の上前をはねるビジネスを始めることにした。
登場人物
- サワディ・シェンカー
本作の主人公。政商である商会の三男坊。前世である日本人の記憶を持つ。
幼少期から魔法学校に通っており、攻撃魔法は殆ど使えず、代わりに生物や物体を強化する支援魔法や回復魔法に優れた才能を見せたことから「身体の欠損や不具のある奴隷を安く買い、治療して健康体にして、冒険者を始めとした人材派遣に用いる」ビジネスを始めることにする。
また魔法生物を作り出す造魔技術に関して天賦の才をもち、王家すら注目するプロジェクトを担うことになる。
趣味は演劇であり、自分の劇場を構えるのが夢。
また身内思いな一面があり、家族や仲間、友人らには協力を惜しまない。
- ローラ・スレイラ
王都よりサワディの婚約者して送られてきた退役軍人。元陸軍少佐。
過去の戦いで魔法を使いすぎ、魔臓を失ったことから貴族家から出て、独立している。
彼より8歳年上であるが、色恋沙汰には疎い。
が、独占欲は強く愛が重いタイプ。
奴隷
サワディが購入した奴隷たち。元々は身体を欠損していたり病にかかっていたため、安く購入出来ている。見た目の華やかさを重視し女性が多い。
後に人材派遣業であるMSG(マジカル・シェンカー・グループ)を立ち上げる。
- ピクルス
ケンタウロスの女性。元農民。脊髄損傷により下半身不随になっていた。
サワディが最初に購入した奴隷であり、冒険者として働かされることになる。
サワディが雇った元冒険者に学んだ結果、様々な武器を背負い人間をはるかに超えた膂力を備えた傑物となったことから『七剣のピクルス』と呼ばれ、特に槍や弓を握らせると一騎当千の活躍を見せる。
普段は物腰柔らかだが、奴隷仲間など親しい相手には訛のある田舎言葉で話す。
「土竜の神の加護」を持ち、穴や塹壕を掘ることは得意な代わりに目が悪いため、特注の眼鏡をかけている。
- ボンゴ
鳥人の女性。元狩人。墜落して翼を失っていた。上手く言葉が話せない。
ピクルスとはコンビを組み、投槍や短剣などで戦う他、偵察を担う。
- ロース
魚人の女性。赤髪の槍遣い。元傭兵だったが魔法使いとの戦いで部隊が壊滅し、右腕と右目を失った。
粗暴な言動が目立つが腕っぷしは確かであり、副頭領の立場を担う。
- チキン
人間の女性。商家の丁稚をしていたが奴隷となり、サワディに買われる前に様々な内蔵を抜かれ命の危機に瀕していた。
文字の読み書きや数字の計算が出来たことから会計として抜擢され、以後は事務職として辣腕を振るう。知識のある奴隷は貴重なため、中々人員が追加されない苦労人。
お洒落とコーヒーが好き。
- メンチ
鱗人の女性。元軍人。火竜に焼かれ全身火傷を負い、左腕も失っていた。
脳筋であり、軍隊仕込みの規律と訓練を持ち込んだことで、奴隷たちの質が一気に向上したことから、奴隷たちの頭領の立場を担う。
サワディを深く尊敬しており、彼から褒美として贈られた銀の懐中時計を宝物にしている。
用語・設定
- 魔法
ファンタジーでお馴染みの、超常現象を引き起こす技術。
この世界では血統により魔法が使えるかどうかが決まる。
魔法学校で魔法の使い方を学び、攻撃魔法や支援魔法、回復魔法などに系統は分かれる。
魔法を利用した鉄道や上下水道などのインフラ技術や、料理や医療といった文明のレベルは高く、近代に近い。
- 魔法使い
前述の魔法を行使できる人間。戦闘能力は非常に高く、魔法使いでない人間が数十人束になっても敵わないモンスターであっても、魔法使いならば単騎で倒すことができるほど隔絶している。それ故、魔法使いとしての強さはそのまま国家においての立場に繋がり、序列上位の大貴族ほど魔法使いとしての能力に長けている。
魔法が使えるか否か、という目に見える形で能力の差があるため、魔法が使える貴族と魔法が使えない下民という形で住む世界が確立しており、良くも悪くも互いに過干渉はない。
- 魔臓
魔法を行使するために必要な魔素を溜める臓器。魔法を使いすぎるとこの臓器が潰れてしまい、二度と魔法が使えなくなる恐れがある。
この世界の人間にとって、魔臓は非常に重要な臓器であり、不調になると様々な臓器に悪影響を与える。
- 加護
時折、人間に備わる神様からの恩寵。神様が属する動物の長所と短所を与えられる。
例えば「土竜の神の加護」であれば「穴を掘るのが得意になる」代わりに「目が悪くなる」、「鳥の神の加護」であれば「どこにいても方角が解る」が「夜目が効かなくなる」。
これは本人の種族に関係なく、羊人に鳥の神の加護が備わることもある。
関連タグ
迷宮クソたわけ ・・・ 奴隷を冒険者にしてダンジョンで稼がせることがビジネスとして横行している。