「──わたしはまだ、探している」
概要
CV:若山詩音
進路を決める大事な時期に差しかかっているにもかかわらず、卒業後は東京に出てミュージシャンになることを夢見ており、大好きなベースを弾いて音楽漬けの日々を送っている。
13年前に両親を交通事故で失い、姉の相生あかねとふたりきりで暮らしてきた過去を持つ。また、自身にとってのたったひとりの家族であるあかねと離れ離れになるのが嫌で、上京を決めていたあかねの恋人・金室慎之介を彼女と別れさせるなど、姉の人生から夢や将来を奪ってしまったことに負い目を感じている。
過去にも未来にもやるせない想いを抱えていたある日、あおいはベースの練習場所として使っていたお堂のなかで18歳の姿のままの慎之介“しんの”と出会う。時を同じくして、市の企画で開催された音楽フェスティバルに招かれた大物演歌歌手のバックバンドのメンバーという形で、31歳の慎之介もあおいの住む街に帰ってきた。
13年の時を隔てたふたりの慎之介の存在に驚きを隠せずにいながらも、あおいはあるときは若きベーシストとして、またあるときは元恋人との再会に動揺する姉を見守る妹として、不思議な運命の巡り合わせに真っ向から立ち向かうことになる。
人物
容姿
短めの黒髪と意志の強そうなはっきりとした太い眉が目を引く、不機嫌ながらも整った顔立ちをした少女。(映画公式パンフレット、10〜11ページ、27ページ、スピンオフ小説版、22ページ、38ページ、191〜192ページ)
また、その左目のなかには小さなほくろがぽつんと浮かんでおり、彼女は幼いころからそのほくろを『大物の証し』として誇りに思っている。(ノベライズ版、32ページ、スピンオフ小説版、43〜44ページ)
普段の学生生活では、紺と白を基調とした高校の制服の上に大仏をあしらったグレーのパーカーを羽織って着崩しており、そこに学生鞄とベースケースを提げている。(ノベライズ版、7ページ、79ページ、スピンオフ小説版、23ページ)
性格
クールで取っつきづらい振る舞いのなかに、前を向いて進もうとする熱い意志を宿した、不器用でまっすぐな気質の持ち主。(映画公式パンフレット、18ページ、スピンオフ小説版、29〜30ページ、48ページ、244ページ)
理想と現実がつり合わない思春期の葛藤のさなかにある彼女は、自身を取り巻く環境や周囲からの評価に対して生意気に毒づくことも少なくない(ノベライズ版、10ページ、17〜18ページ、31ページ)。
また、彼女のことをあからさまに過小評価してあざ笑う大人や、卑怯な手を使って他人を陥れようとする思惑を前にした際には、敢然(かんぜん)と真正面からぶつかっていこうとする度胸の強さも示している。(ノベライズ版、90ページ、138〜139ページ)
その他
- 自宅から高校までは徒歩で1時間以上かかるため、あかねの運転するジムニーに送り迎えしてもらって登下校しており、その様子はしばしば同級生たちの噂の種になっている。(ノベライズ版、8〜9ページ、83ページ、133ページ)
- 好きなおにぎりの具は昆布(昆布の佃煮)。味の濃い昆布と胡麻の香ばしい食感が好きで、あおいは小さいころからあかねの恋人の好みそっちのけで昆布入りのおにぎりばかりを作らせていた。(ノベライズ版、22ページ、141ページ)
- 好きなおかずはメンチカツ。あかねお手製の余計な調味料を使わない素材の味を活かしたものが大好物で、小さいころには台所に忍び寄って揚げたてのメンチカツをよくつまみ食いしていた。(ノベライズ版、38ページ、156〜158ページ)
演奏技術
概要
東京に出てバンドで天下を取ることを夢見ており、大好きなベースを弾くことに没頭する毎日を過ごしている。(ノベライズ版、6〜7ページ、117ページ、スピンオフ小説版、138ページ)
そんなあおいは、リズムを担うベースを弾いている身であるにもかかわらず「自分より下手なやつと組んでも時間の無駄だから」というスタンスから校内のバンド活動には参加しようとせず、ひとりで気ままに演奏することを常としている。(ノベライズ版、81〜82ページ)
そのせいもあり、不安定なアタックやピッチ、基準のテンポに対してあからさまに走りすぎるリズムなど、自身の演奏を形成するテクニックは我流による荒削りなものになってしまっている。(ノベライズ版、35ページ、スピンオフ小説版、20〜21ページ、29ページ)
しかし、彼女が生み出す音楽にはそのテクニックの拙(つたな)さを補って余りある“熱さ”がにじんでおり、聴く者の心を強く引きつけるような不思議な魅力を内包していると評されてもいる。(ノベライズ版、92ページ、94ページ、スピンオフ小説版、29ページ、87〜88ページ、90ページ)
あおいの弾くベースのモデルは、Epiphone Thunderbird。細身なあおいとは不釣り合いなごつい形のモデルで、作中においても「音も荒々しくてハードなロックミュージシャンに人気の型」という紹介がなされている。(スピンオフ小説版、22ページ)
経歴
あおいは幼いころから、姉のあかねに連れられる形で彼女の恋人・慎之介たちのバンドの練習に顔を出しており、彼らの日々の練習風景やライブハウスでの公演などを通して音楽に興味を抱いていた。
そんなある日、不意に沸き立った「慎之介たちと一緒に音楽がやりたい」という想いにかられたあおいは、慎之介と同じギターではなく、彼とは違うベースを指差して一緒に演奏したいと意気込みを示した。
そして、その心意気を受け取った慎之介が「じゃあ、でっかくなったらお前、うちのベースな!」と快く歓迎したことを受けて、あおいは強い喜びのもとにベーシストとしての第一歩を踏み出している。(ノベライズ版、24〜25ページ、スピンオフ小説版、94〜95ページ)
13年の時を経て一人前の女子高生ベーシストに育ったあおいは、あるとき市の企画で開催される音楽フェスティバルに招かれた大物演歌歌手のバックバンドに、食中毒で入院したベース担当の代役として急遽抜擢される。練習参加に先立ってプレイヤーとしての実力を見極めてもらった際には、その演奏に対する熱意を高く評してもらったあおいだったが、日頃からバンド活動に参加していなかったことが災いし、その後の練習ではベーシストとして果たすべき役割をまったく理解していない独りよがりの演奏を見せつけてしまう。
その演奏がバックバンドに参加していた慎之介をはじめとするミュージシャンたちを呆れさせてしまったことにより、あおいは自己満足な演奏を披露した自身に対していたたまれない想いを抱くことになる。(ノベライズ版、106ページ、111〜112ページ、スピンオフ小説版、111ページ)
その練習後、プライベートな練習場所であるお堂のなかで沈み込んでいたあおいは、大人になった自らの醜態に憤慨する18歳の慎之介“しんの”から、現在の慎之介の慢心を粉砕するためにあおいの演奏で彼を見返すことを企てられる。それによってしんのとのマンツーマンの練習を始めることになったあおいは、生粋のバンドマンであるしんのから「ベースはよ、どんなに場がぐちゃぐちゃになっても、正しくリズム刻んで皆をフォローしなきゃならないんだかんな」などといった的確なアドバイスを授かることになる。そして、それらの練習の成果とあおい自身の真剣な取り組みによって、彼女の演奏はバンド全体を支えるに足るどっしりと落ち着いたものに様変わりを果たしている。(スピンオフ小説版、159ページ)
主要キャラクターとの関係
相生あかね
あおいの14歳年上の姉で、彼女にとってのただひとりの家族でもある。
あおいはあかねのことを「あか姉」と呼んでおり、対するあかねは「あおい」と呼んでいる。
まだあおいが幼いころに両親が交通事故で亡くなって以降、いまに至るまで親代わりとなって世話を受けながら過ごしてきた過去を持つ。あおいはそのようなあかねの献身ぶりに深い感謝を寄せる一方で、まだ幼かったあおいのために夢や将来を諦めざるを得なかったあかねの境遇を意識し、「この気持ちに、あおいは名前をつけられない」「あたしが、あか姉を一人にした」などと複雑な心境を抱いている。(ノベライズ版、12〜14ページ、101ページ、119ページ)
また、高校2年生という進路を決める時期に差しかかった現在、あおいは将来の指針として東京に出ることを挙げているが、それにはミュージシャンになるという自身の夢以上に、自身のせいで故郷に縛られたままであったあかねを解放し、彼女に好きに生きてほしいという願望も込められている。(ノベライズ版、118〜119ページ)
金室慎之介
あおいの姉・あかねの元彼氏で、仕事のために13年ぶりに故郷に帰ってきたプロのミュージシャン。
あおいは慎之介のことを「慎之介さん」と呼んでおり、対する慎之介は「あおいちゃん」と呼んでいる。
あおいの幼いころの思い出のなかにある高校生当時の姿から何もかもが一変し、やさぐれた表情やあからさまな嫌味しか見せなくなってしまった彼に対して、あおいはショックと強い怒り、そしてそこから生じた「ろくでなし」という軽蔑と失望をあらわにしている。(ノベライズ版、47〜48ページ、90ページ、94ページ、124ページ)
しかし、そのような人間性とは別にプロのミュージシャンとしての慎之介の技量はあおいの遠く及ばない別次元の域にあり、その高みから下される酷評はあおいの熱意を消失させる冷たさをもって突き刺さるものとなっている。(ノベライズ版、106〜107ページ、111〜112ページ、116ページ、スピンオフ小説版、121〜122ページ、124ページ)
しんの
お堂で練習をしていたあおいの前に突然現れた、13年前の姿のままの慎之介。
あおいはしんののことを「しんの」と呼んでおり、対するしんのは「あお」と呼んでいる。
13年前の当時、幼いあおいは高校生だったしんのからベースの弾き方を教わったり、目のなかにほくろがあるのを見つけてもらって「俺ら、目玉スターだな!」とお揃いのほくろを見せてもらったりと、嬉しさを実感できる特別な存在として接していた(ノベライズ版、32〜34ページ、スピンオフ小説版、43ページ)。
その一方で、しんのが高校卒業後にあかねを東京に連れて行こうとしたことを知った際には、「あか姉連れてくな! あか姉とあおいは、ずっといっしょなんだから!」と力いっぱい叫びながら彼に殴りかかり、彼とあかねが離れ離れになる要因を作っている。(ノベライズ版、53〜55ページ、スピンオフ小説版、42ページ)
あかねと別れたその翌日にいきなり13年後の世界に飛ばされてきたしんのを前にして、あおいは当初、彼を幽霊なのではないかと察してその場から逃げ出し、その直後に31歳の慎之介を見たことによってその認識を確信へと変える。(ノベライズ版、35〜39ページ、48〜49ページ)
しかし、彼の正体を探るべく改めてお堂を訪れたあおいは、当のしんのが実体を持っていることと不思議な結界によってお堂の外から出られないことを知り、彼の存在を「生霊」や「地縛霊」のようなものであると認識するようになる。(ノベライズ版、57ページ、61ページ、73〜74ページ)
しんのを無事に成仏させるために、彼の頼みを受けてあかねと慎之介を寄り添わせることを決めたあおいは、折しも慎之介の参加するバックバンドのベーシストが食中毒で倒れたことを知り、その代役として急遽バンドの演奏に加わることになる。
彼らとの練習の過程で厳しい指摘を貰ったあおいは塞ぎ込んでしまうが、しんのによる的確なアドバイスや彼自身の明るく前向きな性格に助けられる形で立ち直りを見せている。(ノベライズ版、112〜113ページ)
これらの触れ合いを通してしんのの持つ野心や純粋さを改めて知ることになったあおいは、彼の振る舞いに魅力を感じて次第に惹かれていくようになり、そのような自身の本心をごまかすために「ちょっ! 気安く頭触んな!」とムキになってスキンシップをはね除けたり、逆に「おでこ! デコピン、お願い!」としんのに全力のデコピンを要求し、痛みによって浮ついた気持ちを正すなどといった彼女なりの照れ隠しをとるようになっている。(ノベライズ版、102ページ、114ページ、122〜124ページ)
中村正道
姉・あかねの幼馴染で、市役所の観光課に勤務している31歳の男性。
あおいは正道のことを「みちんこ」と呼んでおり、対する正道は「あおい」と呼んでいる。
正道はかつて慎之介と同じバンドでドラムを叩いていたことから、あかねに連れられて練習の見物に来ていたあおいとは昔から面識があり、あおいは彼の性格や身上などをよく把握している。(ノベライズ版、15ページ)
また、現在バツイチの身である正道があかねとの再婚を検討しているという話を持ちかけてきた際には、「バツイチにはさすがに渡せない」と素っ気ない態度で否定しながら立ち去っている。(ノベライズ版、20〜21ページ)
中村正嗣
正道のひとり息子である、小学5年生の男の子。
あおいは正嗣のことを「ツグ」と呼んでおり、対する正嗣は「あおちゃん」と呼んでいる。
彼の父親である正道とも昔からの知り合いだったこともあり、あおいはしばしば生意気な口をきく正嗣の頭を拳で挟んでぐりぐりしたり、彼の自宅の部屋に勝手に上がり込んで自分の部屋のようにくつろぐというような気心の知れた様子を見せている。(ノベライズ版、17〜18ページ、136ページ)
また、お堂に突然現れたしんのの存在を知る数少ないひとりでもあり、あおいと一緒にしんのと立ち会った際には、持ち前の冷静さと頭の回転の速さを活かした状況分析によってあおいたちを助けている。(ノベライズ版、56〜57ページ、スピンオフ小説版、46〜49ページ)
大滝千佳
あおいの通う高校のクラスメイト。
あおいは千佳のことを「あんた」「お前」と呼んでおり、対する千佳は「相生さん」と呼んでいる。
あおいにとっての千佳はクラスメイトのなかでも特段親しいわけでもなく、普段の甘ったるい素振りから「溶けたアイスクリームみたいな奴」というような印象のもとに認識していた。(ノベライズ版、82〜83ページ)
あるとき、「年上の彼氏に車で送り迎えしてもらっている」という噂を信じた千佳からまとわりつかれることになったあおいは、含みを持たせた受け応えで千佳を誘ったまま姉・あかねの車を迎えた。
あおいの千佳への冷やかしはこの時点で終わるはずだったのだが、運転してきたあかねが緊急の連絡を受けたことによって千佳も車に同乗する流れとなり、向かった先の病院内で音楽フェスティバルに出場するミュージシャンやその関係者たちと関わるきっかけを与えてしまうことになる。(ノベライズ版、82〜84ページ、86ページ)
そしてそれ以降は、食中毒で倒れたメンバーの代わりに音楽フェスティバルに出演することになったあおいの練習風景を見守ったり、バンドメンバーである慎之介と「不純な交遊」をした疑いをあおいから抱かれたりと、音楽フェスティバルの開催に向けた流れのなかで互いに交流を持ち始めるようになっていく。(ノベライズ版、93ページ、104ページ、130ページ)
関連イラスト
制服&パーカー
関連タグ
参考文献
- 額賀澪『小説 空の青さを知る人よ』 角川文庫 2019年8月25日初版発行 ISBN 978-4–04-108655-1
- 岬鷺宮『空の青さを知る人よ Alternative Melodies』 電撃文庫 2019年10月10日初版発行 ISBN 978-4-04-912801-7
- 映画公式パンフレット『空の青さを知る人よ』 東宝 2019年10月11日発行